官邸が日銀に送り込むリフレ派の論客

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官邸が日銀に送り込むリフレ派の論客
逸早く脱デフレで緩和の有効性を主張した原田泰氏
政府は 5 日午後の衆参両院の議院運営委員会理事
会で、日銀の宮尾龍蔵審議委員の後任に早大教授の
原田泰氏を充てる国会同意人事案を提示、与党等の
賛成多数で同意を得られる見通しだ。原田氏は 2003
年上梓の著書『日本の「大停滞」が終わる日』で「日
本停滞の原因は金融政策の失敗」と断言、逸早く脱
デフレで金融政策の有効性を主張してきた「リフレ
派」の代表的論客で、
「QQ3」(量的・質的緩和 3 弾)
追加緩和期待を高めそうだ。
03 年著書で「大停滞は金融政策の失敗」と断言
後任候補の原田氏は、日本がデフレに身を沈めた
2000 年初頭から逸早く日銀による積極緩和を主張
してきた「リフレ派」の代表的論客であり、かつ重
厚な歴史考証により石橋湛山賞を受賞した自著『日
本国の原則』
(日本経済新聞)に凝縮された歴史家・
経済思想家の顔を持つ異色多才のエコノミストだ。
「昭和恐慌研究会」を通じて政策理念が一致する
日銀の岩田規久男副総裁と安倍首相のブレーン浜田
宏一内閣参与との共著『リフレが日本経済を復活さ
せる』(中央経済社)を安倍政権発足と共に 2013 年
春に上梓、名実ともにデフレ脱却へ号砲を鳴らした。
昨年 11 月に上梓された近著『日本を救ったリフレ
派経済学』 (日経プレミア新書)では、アベノミク
ス「一の矢」異次元緩和により劇的に回復した日本
経済だが、
「現実」を疑う人々が俗説を流し、国民の
不安を煽り続ける現実に警鐘を鳴らした。
むろん、アベノミクス(安倍経済政策)がリフレ
政策を採用して以来、日本経済は劇的に好転したこ
とは言を待たない。20 年来デフレに苦しんできたが、
株価は急上昇し、企業業績も大幅に改善した。何よ
り、通貨安(円安)が実現し、生産も増加、失業率
や有効求人倍率の改善も著しい。同書はその基本理
論であるリフレ派経済学を一般向けに明快・平易に
解説した希望の書である。
さらに、原田氏を「リフレ派」の代表的論客に昇
華させた良書として『昭和恐慌と金融政策』
(日本評
論社)がある。昭和恐慌はなぜ起こったのか、どの
ように終息していったのか、議論が分かれる難解な
昭和経済史を計量経済学の手法を駆使して分析かつ
考証した専門書である。
特に、第 5 章「戦前期と昭和恐慌脱却時の金融政
策」をテーラー・ルールとマッカラム・ルールによ
って解釈し、金融政策によって昭和恐慌を避けるこ
とができた、あるいは恐慌をより和らげることがで
きたと結論付けている。
一方、デフレに身を焦がし始めた 2003 年に上梓さ
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2015/2/9
れた『日本の「大停滞」が終わる日』
(日本評論社)
を読めば、原田氏が反マネタリズムの日本経済学会
にあって逸早く大胆な金融緩和によるデフレ脱却と
日本経済再生を主張していたことが分かる。
1990 年代以降の日本経済の長期停滞がなぜ起こ
ったかを解明し、バブル崩壊の影響、構造改革の遅
延、不良債権による金融仲介機能の喪失など一般的
な理由でなく、
「日本経済大停滞の原因は、金融政策
の失敗にある」と断言した点で画期的である。
同書の特徴は、検証方法こそオーソドックスだが、
主張の裏付けとなる根拠を数字で明示し、現実デー
タを丹念に読み解き経済理論に当てはめてデータが
語る意味を解釈している点だ。
その上で、マクロ経済モデルによって政策効果の
有効性を検証している。経済理論はフィリップス曲
線、オーカン法則、フィッシャー効果、貨幣数量説
など教科書的だが、逸早くデフレ対策としての金融
政策の有効性を説いた点で出色である。
当時、プリンストン大学教授であったバーナンキ
前 FRB 議長が、
「流動性の罠」に陥った日本経済再生
法として「ヘリコプター・マネー」論を主張してい
たが、それに耳を傾けていた数少ないエコノミスト
であり、
「実は当時、膨大なマネタリーベース増額の
異次元緩和でデフレ脱却の陣頭指揮を執る黒田総裁
もバーナンキ理論に耳を傾けた一人だった」
(ある政
府筋)
歴史家と経済思想家の顔を持つ多才な経済学者
原田泰氏は、東大卒後に経企庁に入省、国民生活
調査課長や海外調査課長、財務省の財務総合政策研
究所次長、そして大和総研専務理事チーフエコノミ
ストを経て早大教授に就く。
筆者は、財務総合研究所次長時代からの付き合い
だが、取り分け感銘を受けたのが、大々的に「自由
と民主主義を問い直す」と副題を付けて「明治以来
の日本の発展は人々の自由の拡大によってもたらさ
れたもので官僚的統制によってなされたものではな
い」と断じて「石橋湛山賞」を受賞した『日本国の
原則』(日本経済新聞社)だ。
同書は、自由と民主主義こそが経済発展と国民の
幸福をもたらすとの歴史観に基づき日本の近代史を
考証し、その原則を踏み外したことが日本を戦争へ
と追いやったと思推する。
重厚かつ壮大な歴史考証本であり、本来の保守主
義とはこうした歴史考証に裏打ちされるべきであり、
冷静に日本の近代史を紐解いた稀に見る良書である。
出色は、第 5 章「自由、民主主義、平和の一体性」
であり、「富の幻想に熱中していた軍」では、「青年
将校は、
『権門上に奢れども 国を憂うる誠なし、財
閥富を誇れども 社稷を思う心なし』(昭和維新の
歌)と謳ったが、それは嫉妬にすぎなかった」と喝
破している。
その上で、
「『ゆたかな社会』や新しい『産業国家』
などの著作で高名なハーバード大学の故 J ケネス・
ガルブレイス教授も参加したアメリカ戦略爆撃調査
団は、『日本戦争経済の崩壊』(米戦略爆撃調査団
1950 年)において、
『世界恐慌によって引き起こさ
れた激しい経済的困難は、日本の中産階級とくに田
舎から徴募された陸軍士官たちをして、この経済危
機から脱出すべき何等か急進的な行動の必須につい
て眼ざめさせた。急激な貧窮化の危険に直面して、
しかも日本の経済的社会的秩序の基本的問題の積極
的解決の見込みのないことを知るや、この若く勢力
的な階層は凡ゆる国内病弊の伝統的万能薬たる対外
的冒険に身を投じたのである』と述べている」と軍
の与えた幻想を論駁する。
一方、2011 年に上梓された『なぜ日本経済はうま
くいかないのか』 (新潮選書)は、バラマキ政策は本
当に悪い政策か?と疑問を呈し、子ども手当よりも問
題なのは年金、つまり「老人手当」ではないのか?
と喝破。さらに、財政政策と金融緩和を併用すべき
など社会保障を維持するためにも経済成長が必要で
あり、そのために政府と政治家は何をすべきかを提
示、民間インセンティブが高まる構造を明らかにし
た良書だ。
さらに、2009 年には「
『意外な事実』の経済学」
と副題を付けた『日本はなぜ貧しい人が多いのか』
(新潮選書)を上梓、どのコラムにも必ずデータを
付録、過去と現在の分析で何に注目するかを説明し
てデータを示し、そこから確実に推論できることを
峻別しつつ解説した。
一例を挙げると、地方における給与の官民格差を
「優秀な人材を確保するため」と正当化する言説は
真っ赤な嘘とし、
「民間から人材を奪う結果に陥って
しまう」と切り捨てた。
日本はハイパーインフレを恐れて日銀は円高無策
を続け、円高が産業「空洞化」を招き、デフレ日本
は世界で「独り負け」を余儀なくされた。今でこそ、
バブル崩壊後の大停滞と経済失政は、金融政策の失
敗に依るところ大きいことは周知の事実だが、2000
年初頭から日銀の金融政策の失敗を断罪していたエ
コノミストは少ない。
なぜ、黒田総裁の異次元緩和をもっと早く打ち出
せなかったのか。
「強力な量的緩和はハイパーインフ
レを招く、との思い込みと間違った認識に依った」
(原田氏)と断じる。デフレ脱却と日本経済再生に
奮闘する黒田・岩田正副総裁にとって、原田審議委
員は強力な援軍になること間違いない。
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