国労東日本本部 法対部長

国労東日本本部 法対部長
今年の賃上げ闘争は、昨年を上回る大幅な賃上げを
しもかなわない現実に直面することになったのである。
期待する職場の声が一段と強まる中でたたかわれた。
JR東日本は、3月18日の回答指定日から約二週間
アベノミクスによる「異次元の金融緩和」や景気対
遅れの4月1日にようやく回答を示してきた。前述した
策は、国民の消費拡大に影響を与えたとは到底言えな
とおり、2,229円、基準内賃金のわずか1.
97%であ
いというのがこの2年間の実感である。安倍首相が考
る。この水準で本当に「経済の好循環」が実現できる
えた、資金を大量に市場へ廻し、国民にたくさんお金
のか、安倍首相に伺ってみたいものである。
を使わせて消費を増やして景気回復を図ろうなどという
今の社会の現状は、一握りの人間に富が集中し、圧
作戦は、絵に描いた餅でしかなかったのだ。それもそ
倒的多数の人間が貧困にあえぐという状況だ。国家の
のはずで、昨年4月に消費税率が5%から8%に引き上
経済政策はグローバル化しており、コントロールするの
げられたことに加え、食料品をはじめとしたモノの値段
は容易ではないだろうが、少なくとも、一握りの人間に
が上がり、財布のひもは閉まったままになってしまった。 富が集中するシステムを見直し、格差を是正させること
さすがの政府も、政策的に労働者の賃上げをしなけれ
によって経済の好循環の展望を見出すことが必要なの
ばアベノミクスそのものが成り立たないとして、
「政労使
ではないか。もっとも、一握りの富を代表する自民党
会議」での賃金引き上げ要請を行ってきたことは周知
政権では、本気でそんなことは考えないのだろう。
のとおりである。しかし、昨年のJR東日本のベースアッ
今世間では、フランスのトマ・ピケティ教授の『21
プはわずか1,635円にとどまり、今年も2,229円と
世紀の資本』という600ページに及ぶ専門書がベスト
昨年をいくらか上回った額にすぎず、低いレベルの回答
セラーだという。解説文の紹介によると、ピケティ教授
となった。
の唱える「格差論」には興味深い点が多い。日本の現
「官制春闘」などと揶揄されているが、そのレベルに
状を「典型的な格差社会だ」と断言、正規雇用と非正
も達しているとは思えない。曲がりなりにも政府がめざ
規雇用の格差を指摘していることだ。そのうえで教授
したのは、
「経済の好循環実現をめざす」ことであり、 は、格差是正の処方箋として富裕層への課税を提唱し
そのために「経済界は賃金の引き上げに向けた最大限
ている。格差是正には、一握りの富裕層から負担を求
の努力を図る」と確認したのである。
「政労使会議」の
めることが必要だとの提唱は、我々労働組合の主張と
確認はまったくのまやかしであり、
「看板に偽りあり」と
も合致するのではないか。こうした議論が世界中で湧
はまさにこのことである。
き起っている背景には、労働者、国民の不平・不満の
大手電機メーカー6社の3,000円の賃上げは、 拡大がある。
1998年以来、過去最高の賃上げと言われているし、 日本においても、格差是正、まともに生活できる賃
トヨタ自動車の4,000円の回答に対し、組合側も驚い
金を求める声はいっそう大きくなっている。私たち労働
たと報道されている。電機や自動車の労働組合が求め
組合としても、要求を高く掲げ、たたかう時だと思う。
た賃上げ要求は、平均賃金の2%である。過去最高や
私たちの要求には正当性があり、大義もある。
「官制春
驚くような回答も2%には届かない。このような低水準
闘」を乗り越え、
『彼我の力関係』によって賃上げを勝
の賃上げによって相場がつくられた結果、物価上昇分
ち取り、格差是正で安心して暮らせる社会をつくるため
にも追いつかず、消費増税で落ち込んだ生活の立て直
にできうることをしっかりやり抜こう。