1 3 神経細胞の初代培養法の改良 石 井 一 宏 京大 ・ウイルス研 ・細胞生物学部 門 1.は じ め に 子活性 を示 した。 しか し, この酵素 は液状 で市販 されてお り,その溶媒 の中に 2MEが入 っていた 神経細胞の初代培養 を用 いた研究 は,神経科学 ので,コン トロール実験 として 2MEの影響 を調 の一研究分野 として重要 な役割 を果 た して きた。 べ た ところ,2MEも顕著 な栄養 因子活性 を示 し た とえば,神経栄養 因子やベー ター ・ア ミロイ ド たOそこで,本格的に 2MEの栄養 因子活性 を研 タンパ ク質 な ど生体機能分子のバ イオア ッセイ, 究 した。 神経細胞の分化の研究, シナプス形成や神経 回路 形成機構の研究 などである。 しか し, この培養法には大 きな困難点が一つ あ ところで,2MEが免疫細胞の増殖や免疫機能 の高進に効果のあ るこ とは,免疫学研究者の間で は周知 の こ とであ り, その作用機構 も詳 しく研究 る。 培養後数 日以内に大半の細胞が死滅す ること されて きた。す なわち, 2MEは培養液 中の シス である。 この神経細胞死 を防 ぐ手段 はいろいろ と チンと結合 してシスチンの細胞内取 り込み を促進 工夫 されて きた。培養液に神経栄養 因子 を添加す す ること,つ いで,細胞内シスチン含量の増加 に ること, グ リア細胞 をフィー ダー として用 いるこ ともないグルタチオン合成がすすみ, その含量 も と,サ ン ドイッチ法,すなわち,低酸素下 で培養 増加す る。 グル タチオンは細胞内の酸化還元の調 す ることな どである。 これ らの方法 はそれぞれ一 節に重要 な働 きのあるこ とが知 られている。 応の効果 をあげて きたが,やは り一長一短がある。 その理 由は神経細胞死の メカニズム とも関係 して お り, この点につ いてはまたの機会 に論 じたい。 さて,私 たちは, 2-メルカプ トエ タノール (2 ME)が極めて顕著に神経細胞死 を抑制 し,細胞 3.神経細胞の生存 と分化 に対する 2-MEの効果 6日目の 培養 は次の ように行 った。妊娠マウス1 胎児脳か ら大脳皮質 と線条体 を取 り出 し,二価 イ オンを含 まない PBS 中で加温処理 した後,細胞 生存率 を高め ることを見つけたので, ここに紹介 を単離 した。つ いで, ポ リリジンで コー トした培 したい( I s hi ie tal . Ne u r o s c i . Le t t . 1 6 3:1 5 9 1 6 2 , 養皿に まいて,培養 した。培養液は特別 に調製 し 1 9 9 3 ) 0 た無血清培地 である。 2.研究の発端 私 たちは,神経細胞の初代培養 を用 いて新規の 神経栄養 因子の探索 とい う研究 を行 って釆たが, この ような培養条件下 で培養 を開始す ると,棉 経細胞の生存率 は 3,4日後 に急激に減少す る( 図 1)。 ところが,無血清培地に BI M 細胞や VR- 2g細胞の培養上清液 ( 神経栄養 因子が分泌 され 幾つかの酵素が神経栄養 因子活性 をもっているこ ている) を添加 して細胞 を培養す ると,神経細胞 とに も興味 を持 っていた。 た とえば,エ ノラーゼ の生存率 は 3, 4倍 ( 図 1) ,場合 によっては1 0 倍 や カタラーゼなどである。 グル コー ス-6-リン酸 以上 も増加す る。 神経栄養 因子の判定 は,神経細 イソメラーゼ も栄養 因子活性 が あ る とい う報告 胞の生存の支持, な らびに分化 の促進 ( 神経突起 ( Mi z r a c hi ,∫ .Ne u r o s c i .Re s .2 3:2 1 7 -2 2 4 , 1 9 8 9 )を見て,私 たちは, ある必要性か らその追 の伸展) とい う二つのカテゴ リーによ り行 われ る が,確かに,上述の培養上清液は細胞分化 に対 し 試実験 を始めた。 この酵素 は市販の を用 いた。早 て も顕著 な効果 を示 した。 しか し,培養上清液 を 逮,追試 を行 った ところ確かにこの酵素 は栄養 因 加 えた培養液 を用 いて も,培養 開始後 7日日頃に 1 4 a p l O ! ll e 3! t o d \slI 8 ^ n ! ^ S - r 1, + 0 10 C・ M・ ・ VR・ 2g 0 1 = ■ 〇 日 ニ S( ) I.'' Lt ' ㌢ 0 2 3 4 d a y 2 5 6 ・ L u ノ′ 1 J .i [ J t ! S( ) 十2ME "一 食 H vR C. M. ・ 馴M 0 1 a ! Il E ! 9 t ! d o\S HO3 18^!N n S PI r T T . T " 100 -・ ⑳- . こ r 図 2 線条体 の神 経細胞 におけ る神経突起伸 展の誘導 1 6日目のマ ウス胎児か ら線条体 を取 り出 し,細胞 を a ) 無血清培地 ,( b)2ME を 単離 した後,培養 した。( C )BI M 細胞の培養上清液 と 2ME 添加 した培地 ,( S( 一 ) S( ) +2ME H・ 亡ト・ BI M = - BI M+2ME 2 1 2 3 4 d a y 5 を添加 した培地 ,( d)VR-2g細胞の培養上清液 と 2 ME を加 えた培地。 2MEは神経細 胞の生存率 に は効果が あ るが,神経突起の伸展 には誘導効果が な いこ とに注意。 6 MEの 図 1 神 経細胞の生存に対す る培養上清液および 2効果 1 6日目マ ウス胎児脳か ら大脳皮質 と線条体 を摘 出 し, PBSで洗 った後,ピベ ッチ ングに よ り細胞 を単馳 し た。細胞は種 々の培養液 中で培養 した。特別 に調製 した無血清培養液 をベー スに,そこ- VR-2g細胞 M. VR-2g) ( a ) , あ るいは BI M細 の培養上清液 ( C. 胞 の培養上清液 ( C. M. BI M) ( b) を単独 で, あ るいは 2ME (2-メルカプ トエ タノー ル) ( 1 0J J M) と同 時 に加 えた。培養後 日数 を追 って,生存細胞数 をか ぞえた。 図 3 大脳皮質の神 経細胞の突起伸展に対する 2MEの効 果 1 8日目のマ ウス胎 児脳 の大脳皮質細胞 を培養 した。 ( a) 無血清培地 ,( b)2ME を添加 した培地。神経突起 は神経細胞の生存率 は急激 に減少す る ( 図 1) 0 の形成が誘 導 されてい る。 ところが,無血清培地 に 2ME を添加す る と, 驚 いた こ とに,培養 開始後 4日た って も神 経細胞 調べ た ところ,線条体神 経細胞に対 しては,2ME の生存率 は減少 しなか った ( 図 1)。 さ らに,無血 は単独 では分化促 進効 果 はなか ったが ( 図 2b) , ME とを同時 に加 え る 清培地 に培養上清液 と 2- 2MEを培養上清液 ( 神経栄養 因子)と同時 に加 と,培養 開始後 6日たって も神経細胞の生存率 は える と神経細胞 の分化 に対 して相乗効果 を示 した 大 して減少 しなか った ( 図 1) 以上 の実験 は,大 ( 図 2C,d) これに反 して,大脳皮質神経細胞 に 脳皮質 と線条体 の細胞 を混合 して行 ったが, それ 対 しては 2MEは単独 で分化促進効 果 を示 し( 図 。 。 ぞれ単独 で行 って も同 じような実験結果が得 られ 3b) , ここへ神 経栄養 因子 を加 える と細胞分化 は 0 た ( 図 2, 3) 加算的に増加 した. 2ME単独 の時,細胞分化促 次に,神経細胞の分化 に対 す る 2MEの効果 を 進効果が線条体神 経細胞 と大脳皮質神経細胞 とで 1 5 異な るこ とは, たい- ん興 味深 い。 この理 由は ま で細胞 を培養 したが,私 たちは低 い細胞密度 で培 だ不 明であ るが, 両神経組織 の発生分化 時期 の相 養 したため に,個 々の細胞の形態変化 を感度 も精 違が関係 してい るか も知 れ ない。 度 も高 く測定 で きたのであ る。 それでは,2MEの作用 の分 子機構 は どんな も 4.今後の展望 のか。免疫細胞 に対す る効果 と同 じよ うな仕組み 2MEの神 経細胞の生存 と分化 に対す る極めて 顕著 な効果 は,予想 もしていなか った出来事 であ で働 いてい るのだ ろ うか。 この問題 は今 後の研究 課題 であ る 。 ここで強調 したいこ とは,従来 は, この よ うな効 果が脳 の各部域 におけ る神経細 神経細胞の初代培養 法 の改善 は半 ば経験主義 的に 胞において も普遍的に見 られ るこ とは,私 たち と 行 われて きたが,今後 は,神経細胞の細胞生物学 ほぼ同時に他 の研 究室か らも同 じよ うな研究結果 的特質 を解 明 しなが ら,研 究 目的に応 じて培養法 が発表 された こ とか らも明 らか であ る。もっ とも, を改良 してい くこ とが可能 であ るとい うこ とであ る 。 彼 らは,2MEは神経細 胞の生存 を支持 す るだけ る 逆 に言 えば,従来 は,神 経細胞の初代培養 の で,細胞の形態変化,す なわち,細胞分化 には効 用途 は限 られていたが,今後 は,神経科学 におけ 果が なか った と報告 してい る。 この点 は私 たちの る多 くの問題 を初代培養 系 で細胞生物学的 ・分子 実験結果 と異な るが, その理 由は, 彼 らの論文 を 生物学 的に研 究す るこ とが可能 になった と言 えよ 見た限 りでは,実験 に もちいた培養 条件 の相違 の ため である とお もわれ る 彼 らは, 高 い細胞密度 。 。 う 。
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