2 - 宮崎大学 情報基盤センター

「宇宙地球科学 E」例題と解答例
問題1 ほとんどの神話では,世界(宇宙)の始まりがあり,原初的な世界が発展し,現世界が形づくられたという
内容になっており,その意味では神話の世界観は現代の宇宙観と符合する.「未来永劫,永遠の宇宙」という「宇
宙観」が人間の感性に馴染まないとすれば,なぜなのか,考えるところを述べよ(正解はないので自由に).
[解答例]
出題の意図が「永遠の宇宙」なのか,それとも「宇宙の始まり」なのか,よく分からないが,前者についての常識
的な意見としては,「永遠の宇宙」が人間の感性に馴染まない理由は第一に生命が有限であることにあるのでは
ないかと思われる.
昔の人が時間についてどういう捉え方をしていたかは神話を含む様々な著作に窺える.例えば,世相の移り変
わりは,同じ水が同じ場所に一時として留まることがない川の流れのようであり,身の周りの出来事は生成・消滅を
繰り返す水渦のようだ,という意味のことを,鴨長明は方丈記に記している.人間はまず事象の系列として「時間」
を認識してきたと考えられる.
「事象の系列」とは,事象 E1 の次に事象 E2 であり,逆にならないこと,事象 E1,E2 の間の事象 E‘があれば系列
(時間)がさらに細分できる,ということである.例えば,春→夏→秋→冬と季節が変わり,その逆にはならないので,
人は間違いなく春に種を蒔き,秋に刈り入れし,さらに注意深い人は,太陽の高さ,月の満ち欠け,星座をもとに
農作業の段取りを細分することができた.
時間には「始まり」,「終わり」,「向き」があるのだろうか? 冬の次は春であり,春が「始まり」で冬が「終わり」とは
言えない.しかし冬から秋には戻らないので,「時間の向き」は確かに感じられる.もっとも四季が明確でない土地
では春と秋の区別がなく,「時間の向き」についての印象がやや薄れるかもしれない.生命には「誕生と死」があり,
老人が少年に若返ることはあり得ないので,「始まり」,「終わり」,「向き」があるように見える.しかし「誕生と死」は
見かけであり,「輪廻転生」が真相であるという思想(仏教)が広まった.他方,現代社会ではやや希薄になってい
るものの,宗教観(世界観)が社会の倫理的な基盤であるのは昔も今も変わらない.仏教界が信奉する「永遠なる
世界-曼荼羅」では,結局,誰も精進しない恐れが生じることから,世界に「始まり」と「終わり」があり,「終わり」で
は「最後の審判」が下されるという思想(キリスト教)が広まった.
ニュートン力学の成立(17世紀)は近代社会の時間観,世界観に大きな影響を与えた.惑星の運行を説明する
運動方程式に採用された「時間」は観測者と全ての物体と無関係に規則正しく一様に流れ,過去・未来について
対称である(時間を反転すると惑星は逆向きに公転するが,いずれの向きの公転も物理的に同等であり,区別で
きない).ニュートン力学の時間概念はカントにより哲学的に補強され,宇宙は観測者とは全く関わりがない「絶対
時間」により支配されている(宇宙の属性)ということになった.この考え方は,「初期条件の概念」を付け加えると,
キリスト教の時間観と調和的である.[初期条件+運動方程式]で事象の時間発展が決定することから,神が究極
の初期条件を選択したとすればよい.しかし,この論理には穴があり,神がお決めになったのなら,人間の努力は
無駄ではないか,という反論もなされた.
20世紀に入り,アインシュタインにより相対性理論が提唱され,またハッブルにより宇宙の膨張が発見される共
に物質進化の理論が確立され,われわれの宇宙に始まりがあったことが明らかにされた.アインシュタインは,ニュ
ートンやカントの宇宙観の影響を受けていたためか,当初,「始まりのある宇宙」には思い至らず,宇宙の時間発
展を示唆する自身の理論の修正を試みたということである.相対性理論における時間は観測者の運動状態およ
び物質の存在に影響されるので宇宙に無数の時計が存在することになるが,時計相互の読み替えができる.光
速度が有限でかつ観測者によらない定数であることを前提とすると,可能な限り遠方の天体を観測することで宇宙
の年齢が推定できる.言い換えれば観測し得る時間以前の時間すなわち宇宙は存在しないことになった.観測者
の立場に立つとき,科学的方法としてはそうするほかはないが,ニュートンやカントの時間概念が成立しないことが
明らかにされ, 高度な抽象概念と言える「絶対時間」は無用であり,「宇宙の始まり」=「事象の始まり」=「時間の
始まり」という古代神話の世界観に復帰したと言える.しかし,相対性理論は無益な問いと退けるものの,「宇宙の
始まり」が持ち出されれば,「ではその前は?」という疑問が自然に湧くであろう.このように「宇宙の始まり」は自己
言及型(*)の論理的矛盾を孕んだ概念である.この矛盾に我慢できない人は,問題で言うところの「人間の感性に
馴染まない」高度の抽象世界に回帰せざるを得ないかも知れない.
(*)
自己言及型論述「①床屋は自分のひげを剃らない.②床屋は村人である.③床屋は全ての村人のひげを剃
る.」の真偽を確かめることができない.①,③を真とすると②は偽であり,②,③を真とすると①は偽である.
1
問題2 宇宙の体積が有限の場合,その「外側」はどうなっているか?
[解答例]有限体積の3次元空間で,かつ境界のない空間もあり得る.正曲率をもつ3次元空間は4次元空間の球
面に対応する.
(1) 3次元球の表面積 S3,体積 V3
ρ 2 = x2 + y2 + z2 = r 2 + z2
S 3 = 2 × ∫ 2πr ⋅ dl =
ς =ρ
V3 =
∫ 4πς
ς
2
⋅ dς =
=0
z= ρ
∫
4πr ⋅
z =0
ρ
r
z=ρ
dz =
∫ 4πρ ⋅ dz =4πρ
2
z =0
4π 3
ρ
3
(2) 4 次元球の表面積 S4 ⇔ 3次元球の体積 V3
ρ 2 = x2 + y2 + z2 + w2 = r 2 + w2
S 4 = 2 × ∫ 4πr ⋅ dl =
2
w=ρ
=
∫
w =0
w=ρ
∫
8πr ⋅
2
w =0
ρ
r
w=ρ
dw =
∫ 8πρ ⋅ r ⋅ dw
w =0
2
8πρ
3
⎛ w ⎞ dw
1 − ⎜⎜ ⎟⎟
= 2π 2 ρ 3
⎝ρ⎠ ρ
(3) 3次元球(半径 r)の体積=4 次元球の表面積と置いたときの 4 次元球の等価半径ρ → 3次元空間の曲率
半径
1
4π 3
⎛ 2 ⎞3
V3 =
r = 2π 2 ρ 3 = S 4 , ρ = ⎜
⎟ r ≈ 0.596 × r
3
⎝ 3π ⎠
θ
図1 4 次元球面の表面積の求め方.w-r 面の円弧
図2 円弧の長さ l と3次元球面の表面積 S3 の関係.曲
(w =0,r=ρからの長さを l とする)に沿って3次元球面 線と l 軸で囲まれた面積が4次元球面の表面積 S4 にな
の表面積を積分する.角度θは4次元球面緯度に相当 る.
する.
(4) 正曲率をもつ3次元空間の距離
現実の宇宙空間は3次元であり,4次元空間の曲面に相当する.この曲面が閉じている場合は一周すると元に
戻る.この曲面上の位置を示すのに座標 w を持ち出すと,3次元空間に住んでいることを信じて疑わない人には
意味が通じないので,例えば,座標 w の変化分Δw を3次元距離 r の変化分Δr により置き換えることにしよう.
2
⎛
Δw = − cot θ ⋅ Δr = − cot ⎜⎜ cos −1
⎝
r⎞
⎟ Δr
ρ ⎟⎠
これにより,3次元空間の3方向への移動距離(Δx,Δy,Δz)のみを測定し,移動距離Δs を次のように計算す
る.
Δs 2 = Δx 2 + Δy 2 + Δz 2 + Δw 2
Δx 2 + Δy 2 + Δz 2 = Δr 2 + r 2 (Δϕ 2 + cos 2 ϕ ⋅ Δλ 2 )
⎛
⎛
r ⎞⎞
Δs 2 = ⎜⎜ 1 + cot 2 ⎜⎜ cos −1 ⎟⎟ ⎟⎟ Δr 2 + r 2 (Δϕ 2 + cos 2 ϕ ⋅ Δλ 2 )
ρ ⎠⎠
⎝
⎝
ここで,r は地球中心からの距離,φは緯度,λは経度であるが,移動距離を表すには,直交座標(x,y,z),直交
曲線座標(r,φ,λ)のいずれを用いても同等である.
上の式から,曲率半径ρが無限大(曲率 0)の平坦な3次元空間に比べ,曲がった空間では回り道をするため
に移動距離Δs が長くなることが分かる.緯度・経度を固定して,3次元距離 r を 0 →ρ とすると曲面を4分の1周
したことになり,そのときの距離はπρ/2 である.これより,正曲率をもつ3次元空間の一周の長さは 2πρ とな
り,不思議にも円の半径と円周の関係を満たしている.ただし,3次元距離 r と経度λを固定し,経線に沿って一
周したときの移動距離は 2πr (r <ρ )であるが,この移動は,3次元球面の大円に沿った移動ではあるが,4
次元球の大円に沿っての移動ではない[3次元球面(地球)の場合,経線に沿っての一周は大円を構成するが,
緯線に沿っての一周は,赤道を除き,大円になっていない].3次元距離 r に比べて曲率半径ρが十分大きいとき,
すなわち曲率が十分小さいとき,移動距離Δs は平坦な3次元空間の移動距離Δr に近づくが,一周の距離は当
然,長くなる.
曲がった3次元空間(4次元球面)の距離は,図 1 の4次元球面緯度θを用いて,次のように書くことができる.
Δs 2 = ρ 2 Δθ 2 + ρ 2 cos 2 θ (Δϕ 2 + cos 2 ϕ ⋅ Δλ 2 )
これにより,緯度φ・経度λを固定して(Δφ=0,Δλ=0),一周したときの移動距離は 2πρであることが,より明
白となる.移動する人が地球中心から遠ざかる方向への移動を常に主観的に心がけても客観的には4次元球面
の上を移動し続けて出発点に戻る.
次に,経度λを固定して,4次元球面緯度θと緯度φの変化分の比率が一定となる経路を移動したときの移動
距離はどうなるだろうか? 4次元球面緯度θの変化分をπ/2(4分の1周)とする.この場合,移動距離 s は次の
ように書ける.
s=ρ
π 2
∫
1 + ε 2 cos 2 θ ⋅ dθ , ε =
0
dϕ
dθ
しかし,この積分の結果は簡単な関数では表せないので,ε<<1 として,近似的な計算を行うと,
s=ρ
π 2
∫
1 + ε 2 cos 2 θ ⋅ dθ ≈ ρ
0
=ρ
π 2
∫
0
π 2
∫
0
⎛
⎞
ε2
⎜⎜ 1 +
cos 2 θ ⎟⎟ ⋅ dθ
2
⎝
⎠
2
⎛
⎞
⎛
⎞
ε2
⎜⎜ 1 +
(cos 2θ + 1)⎟⎟ ⋅ dθ = π ρ ⎜⎜ 1 + ε ⎟⎟
4
2 ⎝
4 ⎠
⎝
⎠
となり,大円に沿って 4 分の1周したときの移動距離πρ/2 より長くなる.寄り道している(地球中心から遠ざかり
つつ北上する)ため,こうなるのは当然である.この経路を移動し続けても出発点に戻らず,ら旋のような経路をた
どることになる. 4次元球面上の最短距離を進むには,4次元球面の経線(緯度φ・経度λを固定,Δφ=0,Δ
λ=0)に沿って移動しなければならない.ただし緯度φ・経度λを地球のそれと一致させる必然性はなく,またこ
の4次元球面上の全ての位置は同等であるので任意の位置(例えばあなたが居る場所)を北極とする4次元球面
経線を定めることができる.従って4次元球面上の任意の2点を通る大円を定めることが可能であり,その大円の
円弧は2点間を最短距離で結ぶ.
3
(5) 宇宙空間の広がり:宇宙空間の体積は空間が正曲率なら曲率半径ρで決まるが,空間が平坦ということもあ
り得るので,この場合空間の大きさ(体積)に言及するには別の基準を導入しなければならない.例えば宇宙の地
平線距離(=宇宙年齢×光速度)を基準とすることができる.宇宙空間が平坦な場合は,それが地平線のはるか
彼方に広がっていることになるが,コロンブスの考えた地球のように直接的に調べる手段が無いのは残念である.
問題3 自然界を支配する基本的な相互作用(力)について,またそれぞれ主にどのような事象と関わっている
か,説明せよ.
「解答例」 自然界を支配する基本的な相互作用(力)とは,発見された順に上げると,(1)重力,(2)電磁力,(3)弱
い力,(4)強い力,の4つである.力の発見がこのような順になった理由としては,人間にとって主としてその力が関
わる現象が身近で目につく度合い,観察の結果を客観的に記述できるかどうか,あるいはその時代に必要とされ
た生産技術に関与する度合い,にあったと考えられる.
有史以来,人間の一大関心事は太陽系天体の運動の解明であり,ようやく17世紀に重力の発見に繋がったが,
ついでに地球の形状,海の潮汐,地形,流体現象など森羅万象が重力の法則により説明された.古代社会では,
ピラミッド,万里の長城の建設など大規模な土木工事が行われたが,「物体の重さ」をいかに処理するかという,人
間の不断の欲求が,「てこ」,「そり」,「滑車」を発明するに至った.
油断すると摩擦で生じた電気が体内を流れてショックを感じるように電磁力は重力に次いで身近な力である.光,
物質の化学に直接関わり,現代工業製品のほとんどは「電磁力の法則」を応用したものである.古典物理学の完
成をみた19世紀には,ほとんどの自然現象が重力と電磁力の法則により説明できたため,「物理学はまもなく,や
ることがなくなる!」と宣言する物理学者も現われた.
20世紀に入り,3種類の放射線:α線(正電気を持つ),β線(負電気を持つ),γ線(中性)を放射する物質-
放射性元素が発見された.α線,β線,γ線がそれぞれヘリウム核,電子,電磁波であることがラザフォード
(1871-1937)により明らかにされた.放射線が強い透過力(高いエネルギー)を持つことから重力では到底説明
できない.また窒素原子がα線を吸収して酸素原子に変わる現象(ラザフォードの実験,1919)は,電気力では説
明できなかった.さらに電子と「中性の何か」-「ニュートリノ」が放出され,放射性元素が改変する現象(β崩壊)
に関わる力は,ニュートリノが中性であることから,「電磁力」とは異なる力-電子とニュートリノが共に感じる「弱い
力」であるとの結論が得られた.
原子核が陽子と中性子から構成されることが明らかになった段階で陽子・中性子の間に働く核力について研究
され(湯川中間子理論),20世紀の70年代までには,クォーク間に働く力(色力)が核力の正体であることが明ら
かにされた.色力,核力を総称して「強い力」という.
20世紀に発見された「弱い力」,「強い力」は原子核を破壊するほどの高いエネルギーの現象に関わる力であり,
この種の力の存在が日常生活で意識されることは少ない. しかし,この2つの力は地球の生態系を育む太陽エ
ネルギーの生成要因であり,軽元素から融合し,われわれの体を構成する重元素を生成した力である.他方,原
子爆弾,原子力発電は,重くて不安定な元素 235U が中性子を吸収して崩壊(核分裂)するときに開放されるエネ
ルギーを制御・利用するものである.20世紀は象徴的に「原子力の世紀」と呼ばれている.
[解説1:力の強さとは?]
(1) 物質粒子に働く全ての力は,力を伝達する粒子(ゲージ粒子)の交換で生じ,物質粒子とゲージ粒子の結合
の強さ(「荷」による)を,そもそもの「力の強さ」と解釈する.重力,電磁気力,弱い力,強い力の「荷」をそれぞ
れ重力荷(質量),電荷,弱荷,色荷とすると,それぞれ物理量なので単位が付随するが,光速度 c,プランク
定数 h により数値(無次元)に置き換えたものを「結合定数(coupling constant)」と呼ぶ.
(2) 現象に関わる力の強さは,結合定数の大小のほか,ゲージ粒子の質量を考慮する必要がある.ゲージ粒子
の静止質量が 0 のとき長距離力,0 でないとき短距離力となる.短距離力は結合定数が大きくても見かけ上弱
い力に映る.重力,電磁気力,強い力のゲージ粒子の静止質量は 0 であるが,弱い力のゲージ粒子,W ボゾ
ンは陽子の 100 倍の質量を持つことから,「弱い力」は際立った短距離力となる.また弱い力と重力は粒子の
質量に関与する.
(3) 媒質(例えば水)の中の電荷は,分極した媒質の分子が電荷を取り囲むため,真空中のもともとの電荷より小
さく映る.マックスウェルの電磁気学では真空中の分極は起こらないとされたが,実際には真空中でも分極が
起こることが確かめられた.「真空分極」という.弱荷・色荷も電荷と同様に真空分極の影響を受ける.ただし,
弱荷・色荷の分極の性質は電荷のそれと反対で,荷から離れるにつれて荷が増大する.光が「電荷」を待た
4
ないのに対し,グルーオン,Wボゾンがそれぞれ「色荷」,「弱荷」を帯びている違いによる.荷を測定する距
離はテスト粒子のエネルギーに関わり,そのエネルギーが増加するに従って測定距離が小さくなる.まとめる
と,テスト粒子のエネルギーが高くなるに従い,電荷は増大し,弱荷・色荷は減少する.
[解説2:力の強さの相対値]
測定エネルギー,100GeV における,(1)重力,(2)電磁力,(3)弱い力,(4)強い力の結合定数(α1,α2,
α3,α4 とする)は,
α4=1.2×10-1,α3=3.33×10-2,α2=1.67×10-2,α1=6.71×10-35
(1.0,0.28,0.14,5.59×10-35)
となり,( )は相対値を示す.結合定数で比較すると,力の強さは,(1) 強い力,(2) 弱い力,(3) 電磁力,(4) 重
力の順になり,「重力」は他の3つの力と比較にならないほど弱く,「弱い力」はむしろ「電磁力」よりも強いことが分
かる.電子あるいは陽子を電圧1ボルトで加速したときのエネルギーが「1eV」であり,「100GeV」は,「弱い力」と
「電磁力」の結合定数がほぼ同じ大きさになるエネルギーである.しかし自然環境で起こるβ崩壊に関わるエネル
ギーはこれよりずっと低く,500MeV(0.5GeV)くらいだと考えられる.500MeV における結合定数を理論式で計算
すると,
α4=1.35,α3=3.50×10-2,α2=1.64×10-2
となり,100GeV における値と比べ,「強い力」・「弱い力」,「電磁力」の結合定数は,それぞれ若干増加,減少する.
次に,長距離力・短距離力という力の性質を考慮し,500MeV(距離~2.5×10-15m)における,(1)「重力」,(2)「電
磁力」,(3)「弱い力」,(4)「強い力」の強さ(β1,β2,β3,β4 とする)を結合定数から見積もると,
β4=1.35,β2=1.64×10-2,β3=1.87×10-13,β1=8.07×10-39 (1.0,1.21×10-2,1.38×10-13,5.98×10-39)
となる.ここで,長距離力である「強い力」・「電磁力」・「重力」の強さを結合定数α4,α2,α1 で表し,短距離力
である「弱い力」を,W ボゾン,電子,d クォークの質量 mW,me,md により,β3=α3×me md/mW2 とする.このた
め,結合定数と力の強さでは,「弱い力」・「電磁力」の順位が逆転し,力の強さは,(1) 「強い力」,(2) 「電磁力」,
(3)「弱い力」,(4) 「重力」の順になる.「電磁力」の強さは「弱い力」の 1000 億倍,「強い力」の約 100 分の 1 である.
「重力」はやはり他の3つの力と比較にならないほど弱い.化学反応エネルギー(~1eV)と核反応エネルギー(~
1MeV)の大きさから言うと,「電磁力」の強さが過大に見積もられているように思えるが, 2.5×10-15m(~原子核
のサイズ)の極短距離で「強い力」・「電磁力」を比較した結果であることを思い起こす必要がある.放射性元素
235
U が核分裂を起こす原因は,核子同士(陽子・中性子)が核力によって引き合う一方で陽子同士が電磁力で反
発し合うことにあるので,ウラン原子核の内部では「電磁力」が「強い力」と拮抗する.
問題4 ジオイド面の凹凸を波と考えよう.その場合,波長の長い凹凸ほど,地球内部のより深いところの密度分
布を反映することについて,図 2-1 により,推測せよ.
問題5 人工衛星の軌道を精確に測定することで,ジオイド面の形が推定できることを説明せよ.
[解答例]
ある場所の「重力ポテンシャル」U を,地球の重力に抗して 1kg の物体をその場所から遠方に持ち去るときの仕
事量を W として,U=-W とする.この定め方では,地球の中心から外側に向かって「重力ポテンシャル U」が増
加することになり,等ポテンシャル線を地形図の等高線のように解釈できる.
人工衛星の力学的エネルギー,K を一定とする(K=[運動エネルギー]T+[重力ポテンシャル]U).一般に物
体の運動エネルギー,T は,[質量]×[速度]2/2 に等しい.これより,人工衛星が地球中心から外に移動すると
き,斜面を登ることになり,それだけの仕事量を必要とするため,その運動エネルギーおよび速度が減少すること
になる.一般に,ジオイド面が外側に凸,凹になっている場所(重力ポテンシャルの谷,尾根)を人工衛星が通過
するときにその運動エネルギーおよび速度がそれぞれ増加,減少するので,衛星の速度の変化を観測することに
よりジオイド面の形が推定できる.
5
問題6 地動説の観点から,惑星の周転円周期が惑星・地球・太陽の会合周期になることを説明せよ.
[解答例]
地動説の観点から地球と他の惑星の公転軌道を黄道面上の円軌道とすると,天道説でいう周転円の中心と地
球の距離は太陽と地球の距離に相当する(ただし,天動説では地球と太陽の距離,従って地球と惑星の距離は問
題にされなかった).従って,惑星の周転円周期とは太陽,地球,惑星が直線上に並ぶ周期である.会合周期 T
は地球,惑星の公転周期をそれぞれ E,P とし,惑星を外惑星とすると,周転円の角速度(360°/T)は地球,惑
星の角速度の差に等しいので,1/T=1/E-1/P となる.内惑星については,1/T=1/P-1/E としなけ
ればならないが,その理由は,ケプラーの第三法則により,惑星の公転周期 P が平均軌道半径の 2 分の 3 乗に比
例し,外惑星の公転周期が地球のそれより大きくなるからである.
問題7 地動説の観点から,ヒッパルコスが発見した春分点の歳差が起こることを説明せよ.
[解答例]太陽高度は地球の季節変化(気候変化)に直結するので,春分点(黄道・赤道面の交点)から春分点を
一年とするのが合理的であり,この考え方は現在の太陽暦にも受け継がれている.春分点と星座の位置関係がい
つも同じであれば,天文学者ヒッパルコスを悩ませることはなかったが,詳細な観測結果から春分点が一年で約
100 分の 1°星座に対し西に移動すること,春分点の歳差があることにヒッパルコスは気が着いた.地動説の観点
からは,太陽高度の変化は地球の自転軸が黄道面に対し傾いていることで生じるので,自転軸の方向が恒星系
に対し時間的に不変であれば,春分点と星の位置関係は変わらないはずである.従って春分点の移動は自転軸
の方向が変化することを意味する.春分点が西向きに移動するという事実から,自転軸をコマの回転軸に例えたと
き,回転軸の先端が地球の公転とは反対方向に回転していることになる.なぜなら地球の自転と公転方向は一致
しているので,春分点が西に移動するということは,春分点から春分点までの一年が恒星系を基準とした公転周
期より若干短くなること,すなわち春分点を基準としたとき,あるいは回転する自転軸を基準としたとき,地球と太陽
の相対角速度が若干大きくなることを意味するが,このことは反対方向に走行する2台の車の相対速度が,地表
に対する先行車の速度より大きくなるのと同じ理由による.
[解説1:歳差と春分点の移動] 地球の自転軸が地球の公転と反対方向に回転することで春分点が西に移動す
る.この証明は次のようになる.地球の自転軸の方向を e,地球から見た太陽の方向を s とする.自転軸歳差の回
転角速度をω,黄道面上の太陽の公転角速度をΩとする.ω,Ωはともに黄道面に垂直である.太陽の視赤緯を
δとすると,sinδ= e・s,である.また s はωあるいはΩと直交する.ω,Ωの時間変化は無視する.e,s の時間変
化は次のようになる.
r
r
r r
de r r
ds
=ω ×e,
=Ω ×s
dt
dt
r
2r
r
r r r
r r
r r r
d e r de r r r
=ω×
= ω × (ω × e ) = (ω ⋅ e )ω − (ω ⋅ ω )e = (ω ⋅ e )ω − ω 2 e
2
dt
dt
2r
r dsr
r
r r
r r
r r
r
d s
=
Ω
×
= Ω × Ω × s = Ω ⋅ s − Ω ⋅ Ω s = −Ω 2 s
2
dt
dt
r
r
v
s (t ) = a ⋅ cos(Ωt ) + b ⋅ sin(Ωt )
(
) (
) (
これより太陽の視赤緯δの時間変化は次のようになる.
6
)
(1)
r
r
r
d
d r r de r r ds
(sinδ ) = (e ⋅ s ) = ⋅ s + e ⋅ = (ωr × er ) ⋅ sr + er ⋅ Ω × sr
dt
dt
dt
dt
r r
2
2r
2r
d
d e r r d s
de ds
(sinδ ) = 2 ⋅ s + e ⋅ 2 + 2 ⋅ = (ωr ⋅ er )(ωr ⋅ sr )
2
dt dt
dt
dt
dt
r r
r r
2
2 r r
− Ω + ω (e ⋅ s ) + 2(ω × e ) ⋅ Ω × s
(ωr ⋅ sr ) = 0 ,
r
r
r
(ωr × er ) ⋅ Ω × sr = ωr ⋅ Ω (er ⋅ sr − e z s z ) = ωr ⋅ Ω (er ⋅ sr ) = ωΩ ⋅ sinδ
(
(
(
(
)
) (
)
)
)
(
)
(2)
d2
(sinδ ) = −(Ω − ω )2 sinδ , sinδ (t ) = A ⋅ cos((Ω − ω )t ) + B ⋅ sin((Ω − ω )t )
2
dt
δ (t ) = sin −1
tan φ =
[A
2
]
+ B 2 sin((Ω − ω )t + φ )
A
, sin −1 A 2 + B 2 = δ 0 = 23.5 o
B
(2)は自転軸の歳差(周期:2π/ω)があると,太陽赤緯δの変動周期(1太陽年)が変化することを意味する.
周期:2π/(Ω-ω) は1太陽年,また周期:2π/Ωは1恒星年に相当する.ω>0,すなわち自転軸の歳差が
地球の公転方向と一致するとき,1太陽年は1恒星年より永くなるが,実際には春分点が西に移動し,1太陽年は1
恒星年より短いので,ω<0,すなわち自転軸の歳差の方向は地球の公転方向と反対である.
[解説2:自転軸の歳差] 地球自転軸の歳差の原因は,コマの軸が回転する原因と同じであり,地球に何らかの
回転力が働くことによる.コマの場合はコマの重心に働く重力が回転力として働き,地球の場合は太陽・月による
潮汐力が回転力として働く.地球が広がりを持たなければ地球に働く重力と遠心力がつりあい,公転運動以外何
も生じない.地球に広がりがあることで地球の表面に働く重力と遠心力に差が生じ,この差が潮汐力となる.潮汐
力は太陽あるいは月の方向に働き,潮汐力を自転軸方向および垂直な成分に分けると,前者の成分(F とする)
が回転力として働く.回転力による自転軸歳差の回転角速度の大きさ・方向を含め,Ωとする.Ωは対称性から黄
道面(あるいは白道面)に垂直である.同様に,地球の自転にともなう角運動量をLとする.地球を基準にするとL
は北向きである.潮汐力による回転力 M は,自転軸から測った軸に垂直な距離を r として,M=r×F と表す.運
動の第2法則によれば,角運動量の時間変化率は回転力に等しいが,今の場合,時間変化率はΩ×Lと表される.
よって,
Ω×L=M=r×F
であるが,Lと F は同方向に向いているので,F=αLとおける.これより,
(Ω-αr )×L=0, Ω=αr+βL
となる(L×L=0 によりβLが加わる.Ωが黄道面に垂直という条件からβが決まる).自転軸が太陽方向に傾い
ている場合,α>0 であるので,Ωは南向きでなければならない.自転軸が太陽の反対方向に傾いている場合,
α<0 となるが,r が反対方向に向くので,やはりΩは南向きである.すなわち,歳差の方向は自転方向と反対に
なる. αの符号,すなわち潮汐力と自転の方向によって歳差の方向が決まることから,自転方向が逆転すると歳
差の方向も逆転する.
問題8 ケプラーは,チコブラーエがおよそ 30 年間に亘って観 測したデータをもとに,火星の軌道が太陽を焦点
とする楕円軌道であることをつきとめたが,観測データ自体は地球・火星の相対位置の変化を示すに過ぎない.
ケプラーはどのような方法を用いて火星の軌道を割り出したと考えられるか.
[解答例]ケプラーは惑星の運動が周期的運動であることを利用した.地球,火星の公転周期を 1 年,M 年とする
と,地球,火星はそれぞれ,1 年,M 年毎に同じ場所に戻る.地球から 1 年毎に観測した火星の位置は同じ場所
から見た火星の位置である.地球と火星の軌道面が交差しているとしても計算が複雑になるだけで方法としては
同じなので,同一軌道面にあるとする.例えば地球と火星が会合する時期を 0 年とし,0 年と 1 年の火星位置のず
れ(観測値)を角度θで表し,太陽から火星を見込む仮の角をθ’とすると,太陽,地球,火星を頂点とする三角形
について,次の正弦定理が適用できる.
7
r0
r′
r ′′
=
=
sin θ sin θ ′ sin(θ − θ ′)
(3)
ここで,r0,r’,r’’は太陽と地球,太陽と火星,地球と火星の距離である.(3)において,r0 を一定として,(3)より,r’’,
θ’を消去すると,r0 をパラメータとして太陽・火星の距離 r’と観測角度θの関係が得られる.2 年目以降のデータ
にも同じ計算を適用すれば,1年毎に同じ場所から観測した太陽と火星の位置関係(距離と角度),すなわち太陽
を中心とする火星の軌道が決定される.計算の出発年をαだけずらし,n+mα (n = 0,1,2 ・・・, m = 0 ,1,2 ・・・)
年の地球の位置(太陽・地球の距離を rm とする)を基準とする場合も火星の軌道は変わらないはずであり,このこ
とから,r0 と r1 の関係が定まり,同じことを繰り返すと地球の軌道(r0,r1,r2,・・・・)が定まる.ただし r0 はチコブラー
エのデータからは決定できないパラメータして残る.あるいは M 年毎に火星が同じ位置に戻るので,M 年毎の地
球の位置を追跡することで地球の軌道が定まる.
問題9 惑星が,万有引力の法則に従い太陽の周りを公転運動(簡単に円運動としてよい)しているとして,ケプ
ラーの第三法則が導かれることを説明せよ.
[解答例] 円運動する惑星の加速度は,軌道半径を r,惑星の速度を v とすると,v2/r となる.運動の第二法則に
よれば,惑星に働く力は加速度に惑星の質量 m を掛けたものである.太陽の質量を M◎として,惑星に働く万有
引力と加速度の関係は次のようになる.
mv 2 GM ◎ m
=
r
r2
(4)
(2)から,惑星の公転周期 T と軌道半径の関係は次のようになる.
v=
GM ◎
r
→ T=
3
2
2πr
2π r
=
v
GM ◎
(5)
r 3 GM ◎
=
T2
4π 2
太陽質量は各惑星に共通であるので,惑星の公転周期 T は軌道半径 r の 2 分の 3 乗に比例する.あるいは軌道
半径の3乗と公転周期の2乗の比は各惑星について共通である.(5)はケプラーの第三法則に他ならない.
問題 10
恒星系に対する惑星の回転角速度を1平均太陽日(24 時間)あたりの角度(″)で表したもの.例えば,
地球の場合,1太陽年(365.2422 平均太陽日)で1回転(360×3600″)とすると,地球の対恒星平均運動は,
360×3600/365.2422 = 3548.33 (″/平均太陽日)となる.前記の計算による地球の「対恒星平均運動」と惑星表
のデータを比べると,小数点以下の2桁が一致しないが,その理由を考察せよ.
[解答例]1太陽年は春分点から春分点までの時間であり,問題 8 で述べたように,春分点歳差があるため,地球
が恒星系に対して1公転する周期とは若干異なる.地球が恒星系に対し1公転する時間を1恒星年といい,その
永さは約 365.25636 日(2000 年での値)であり,春分点を基準とする太陽年よりも 20 分 24 秒ほど長い.従って,
地球の対恒星平均運動は,360×3600/365.25636=3548.19(″/平均太陽日)と計算すべきであり,小数点以下
の2桁を含め,惑星表のデータと一致することが分かる.ただし,ここで「2000 年での値」としたのは,恒星年の永さ
自体が,他の惑星が地球に及ぼす摂動によって,1 万年に 1 秒の割合で長くなっているからである.
問題 11 太陽・惑星の平均距離と惑星の公転周期についてケプラーの第三法則が成り立つことを計算で示せ.
[解答例]惑星は楕円軌道を描いているので太陽と惑星の距離が変化する.楕円の長半径を a,離心率を e とする
と,最小,最大距離は(1-e)a,(1+e)a であり,平均半径を長半径 a とする.短半径 b,長半径 a の平均
(a+b)/2 = a [1+√(1-e2)]/2 とは若干異なる.惑星表のデータにより次のようになる.
8
対恒星公
転周期
太陽からの距離 108km
最小
長半径
最大
P
a(1-e)
a
a(1+e)
(太陽年)
平均軌道
公転周期
半径の 3 乗
の2乗
a3
P2
誤差
a3/P2
%
0.46
0.579
0.698
0.24085 1.941E-01
水星
5.80E-02 3.35E+00 -5.01E-02
1.075
1.082
1.089
0.61521 1.267E+00
金星
3.78E-01 3.35E+00 -2.88E-02
1.471
1.496
1.521
1.00004 3.348E+00
地球
1.00E+00 3.35E+00
0.00E+00
2.066
2.279
2.492
1.88089 1.184E+01
火星
3.54E+00 3.35E+00 -5.84E-02
7.405
7.783
8.161
11.8622 4.715E+02
木星
1.41E+02 3.35E+00
8.08E-02
13.501 14.294 15.087
29.4578 2.921E+03
土星
8.68E+02 3.37E+00
5.31E-01
27.419
28.75 30.081
84.0223 2.376E+04
天王星
7.06E+03 3.37E+00
5.46E-01
44.64 45.044 45.449
164.774 9.139E+04
海王星
2.72E+04 3.37E+00
5.48E-01
地球の値からのずれは内惑星より外惑星が大きく,内惑星で-0.05%,外惑星で+0.5%のずれが生じるが,ケ
プラーの第三法則はあくまで,2つの天体,太陽と惑星の重力から導かれる法則であり,第3の天体,例えば木星
の重力が無視できないとき,ずれが生じる.木星重力の影響は内側の水星~火星よりも外側の土星~海王星に
対して効く.仮に問題 11 の(5)式において太陽質量 M◎が木星質量により実効的に大きくなったとすると,
比:a3/P2 の値は大きくなる.土星~海王星のずれが全てプラスになるのはこのためである.
問題 12 金星の見える時刻が早朝と夕方に限られることを図1,図2により説明せよ.
[解答例]図1,図 2 により,金星・太陽の赤経・赤緯がどの季節もほぼ一致することから,金星の出入りと日の出・
日の入りはどの季節もほぼ同じ時刻になる.従って,昼間は見にくいので,金星が見える時刻は早朝と夕方に限
られる.太陽と地球の間に位置するため,月と同様,満ち欠けが生じる.なお,図1,図3から2009年の3月半ば
から4月にかけて金星の逆行が現われたことが読み取れる.
問題 13 次の星座の略符を図2の該当する位置に書き込み,図2,図3により,その星座が宮崎市で見えるかど
うか,見えるとすれば最も見やすい月日を推定せよ.宮崎市の緯度(31°50′)をφ,星座の視赤緯をδとしたと
き,星座が南中するときの高度(地平線からの角度)H は, sin H = sinφ・sinδ+ cosφ・cosδ = cos (φ - δ)
で与えられる.星座は昼間に見えにくいし,H<0°あるいは H>180°なら全く見えない.
[解答例]宮崎市(緯度 31°50′)で見える星座の赤緯はおよそ-58°~+90°の範囲である.従って表の星座
の中で,インディアン(Ind)を除いた全ての星座が見える.次に時刻的には夜半前に南中する星座が見やすく,
太陽と星座の赤経が 12+α時間ほどずれる必要がある.αを 3.5 時間とし,図3より対応する太陽赤緯の日付を
調べることができる.表右端の時期は理科年表掲載の「見やすい時期」の日付とおよそ一致する.
星座名
略符
概略位置
見やすい時期
赤緯
赤経(1)
太陽赤経(2)
太陽赤経(3) (地方時 20 時 30
分に南中する)
度
時
And
38
0.7
12.7
36.7
11/26
Mon
-3
7.0
19.0
43.0
2/24
いて(射手)
Sgr
-25
19.0
31.0
55.0
8/28
いるか(海豚)
Del
12
20.6
32.6
56.6
9/24
アンドロメダ
いっかくじゅう
(一角獣)
赤経(1)+12 時 赤経(1)+36 時
9
月/日
インディアン
Ind
-58
21.3
33.3
57.3
10/6
うお(魚)
Psc
10
0.3
12.3
36.3
11/21
うさぎ(兎)
Lep
-20
5.4
17.4
41.4
1/31
うしかい(牛飼)
Boo
30
14.6
26.6
50.6
6/22
うみへび(海蛇)
Hya
-20
10.5
22.5
46.5
4/22
エリダヌス
Eri
-30
3.8
15.8
39.8
1/ 8
おうし(牡牛)
Tau
18
4.5
16.5
40.5
1/17
CMa
-24
6.7
18.7
42.7
2/18
Lup
-40
15.0
27.0
51.0
6/28
おおぐま(大熊) UMa
58
11.0
23.0
47.0
4/30
Vir
-2
13.3
25.3
49.3
6/4
Ari
20
2.5
14.5
38.5
12/21
Ori
3
5.3
17.3
41.3
1/29
おおいぬ(大
犬)
おおかみ(狼)
おとめ(乙女)
おひつじ(牡
羊)
オリオン
問題 14 太陽系形成のシナリオと次の事実はどのように関わるか,説明せよ.
(1)隕石の年代測定から太陽系の年代が約 46 億年であるが,アルゴン同位体(40Ar/36Ar)から推定した地球大気
の年代は約 40 億年であり,太陽系が相対的に短期間に星雲から誕生した.
(2) 惑星・衛星軌道は円軌道に近く,ほぼ同一軌道面(不変面)を公転している.
(3) 揮発性元素を除き,太陽大気と隕石の組成が類似している.
(4) 惑星の内部構造の違い(地球では中心部に金属鉄が集中し,その外側を珪酸塩岩石 MgSiO3 がとりまいてい
る.木星・土星では金属水素・液体水素が質量の大部分を占め,天王星・海王星では中心部に氷が多いと推
測される)
[解答例]
(1) 現在の大気のアルゴン同位体比(40Ar/36Ar)は約 300 である.地球形成と共に地球マントルに取り込まれ
たカリウム 40 はマントル中で逆β崩壊(p+e→n+νe)によりアルゴン 40(不活性ガス)に変わり,他の大気成分と
共に次第にマントルから脱ガスし,大気成分として蓄積された可能性がある(連続脱ガス説).他方,大規模かつ
急激な脱ガスにより,大気が一辺に形成された可能性もある(急激脱ガス説).①大気とマントルのアルゴン同位
体比の差,②アルゴン 40 がマントルで生成される速度,③連続的脱ガスの速度等を考えあわせると大規模脱ガス
の時期および脱ガス量が推定できる.なぜなら,もし大規模脱ガスが最近起きたとすれば大気とマントルの同位体
比の差は小さく,初期に起きたとすれば同位体比の差は大きくなるからである.様々なデータを付き合わせると,
大規模脱ガスが地球形成から 5 億年内に起こり,その時,ほとんどのアルゴンすなわち一般の大気成分(炭酸塩
岩石など地表にある揮発性物質を含む)が脱ガスしたと推定される.地球形成時に大規模脱ガスが起きたとすれ
ば,マントルが完全に溶解するほどの高温状態が実現しなければならないが,その要因は原始地球に頻繁に衝
突したと考えられる天体(微惑星)の重力エネルギーに求めるほかはない.太陽系の始原的物質(隕石),地球の
推定年代は共に約 46 億年であり,太陽系は比較的短期間(1 億年内)に星雲ガスから誕生したことになる.
(2) 星雲ガスが収縮し,その中心に原始太陽が形成される.収縮の原因は星雲が冷却し,ガスの圧力よりも重力
が優ることによる.星雲全体の角運動量はそのまま維持されるので,原始太陽に集積したガスの角運動量の分は
周囲のガス(原始太陽系星雲)へ移動しなければならない.単位体積のガスの角運動量はρvr であり,ρ,v,r は
10
ガスの密度,回転速度,太陽からの距離である.周囲のガスは太陽の重力と回転にともなう遠心力を受け,現在の
黄道面(あるいは不変面)に近い円盤面に集積し,このガスから微惑星そして原始惑星その他の天体が誕生し,
ガスの角運動量はほとんど現在の惑星・衛星に引き継がれることになる.惑星の公転軌道が例外を除き,円軌道
に近いことは,太陽系の諸天体が偶然,太陽に捕獲されたものではなく,太陽と共に星雲から誕生したことを意味
する.なぜなら,太陽周囲の星雲は,台風の渦にみられるように,太陽方向の圧力差と遠心力のバランスによって
円形回転になるからである.
(3) 隕石(特に炭素質コンドライト)の元素組成比が揮発性成分を除いて太陽大気のそれに類似することは,その
形成年代と形態(真空に近い状態で凝集)からみて,原始太陽系星雲(太陽大気と類似の元素組成と考えるのが
自然)から析出した物質と考えるほかなく,太陽系諸天体が同一の星雲から誕生したことを裏付ける.しかし,隕石
と地球の(推定)元素組成比は少し異なるので,現在見つかる隕石から地球が形成されたのか,それとも,現在,
太陽系に残存しない小天体から地球が形成されたのかは,確定していない.
(4) 地球は平均密度からみて,中心核に比重の大きい金属鉄があり,その周囲(マントル)を比重の小さい岩石が
とりまくような構造になっている.星雲から析出した始原物質-隕石は,鉄は酸化鉄で,様々な鉱物が入り組んだ
組織となっており,比重ごとに分離した状態になっていない.重力の下で,物質が比重ごとに分離するには完全
に溶けて液体になる必要がある.従って原始地球が完全に溶けた状態にあったことを意味するが,(1)でも述べた
ように,その熱は原始地球に頻繁に衝突した小天体の重力エネルギーによるものと考えられる.
原始惑星を形成した微惑星の成分は原始太陽系の温度環境で異なるはずである.小惑星帯を境として,太陽
に近い地球型惑星(岩石惑星)領域で氷(水・アンモニア・メタン)が形成されず,太陽から遠い木星型惑星(氷あ
るいはガス惑星)の領域で氷が形成されたとする.(岩石+氷)の微惑星から質量の大きい原始惑星が形成され,
その重力により低温環境下のガス(水素・ヘリウム)を集めて誕生したのが,ガス惑星(木星・土星)である.一方,
原始惑星の成長速度は,微惑星間の距離が開くため,太陽から離れるにつれて遅くなる.このため,ガス惑星に
成長し得なかったのが,氷惑星(海王星・天王星)であると考えられる.
問題 15 金星・火星に生物がいないのはなぜか.地球と金星・火星の環境を対比しつつ,説明せよ.
[解答例] 地球型惑星(金星・地球・火星)は誕生初期に似たような状態にあり,その後,異なる方向に変遷したと
すれば,次のような原因が考えられる.
① 惑星と太陽の距離 ②惑星のサイズ ③公転・自転の安定性(気候の安定性)
① は惑星表面に液体の水が存在し得るかという条件に密接に関わる.現在の金星・火星は液体の水が存在し
得ない環境にあるが,火星には洪水の後が確認されており,かつて火星に温暖な時期があったことになる.従っ
て太陽からの距離は決定的ではなく,大気の量が適当であれば温室効果により温暖な気候が実現することを示
すが,問題はそれが長期に亘って維持されるか否である.
金星がどのような過程を経て現在になったかは不明である.金星をつくった材料に水分が不足していたか,あ
るいは初期の高温状態が持続し,表面温度が水の凝結温度にまで低下しなかったために,そもそも金星には海
ができなかったか,もしくは海はできたが太陽に近いため「暴走温室効果」で結局,海が消失したという,2つの考
え方ができる.
② は惑星の冷却速度,重力の強さに関係する.惑星のサイズが小さいと内部の冷却速度が大きい.実際,火
星内部は固化しており,地球のような流動状態(マントル対流)になく,地殻活動が停止している.地球の地殻活
動は,CO2 の長期的循環(geo-chemical cycle,1億年単位)を維持する上で重要な役割を果たしている.CO2 の循
環とは,海洋に溶け込んだ CO2 が CaCO3 として沈殿し,それが海洋プレートと共に地球内部に引きずりこまれると
き,CaCO3 が熱で分解され,再び CO2 として大気中に戻る過程であり,これにより大気の CO2 量が調節され,地球
の気候が長期に見れば安定である要因となっている.また惑星内部が固化すると惑星磁場が消滅し,惑星は太
陽風に直接曝されることになる.さらに,重力が小さいと長期には温室効果をもたらす大気を十分維持することが
できない.大気が薄く気圧が低いと液体の水が存在し得る温度幅が限られ,その存在は気候変動により大きく左
右される.
③については,火星は公転軌道の離心率が大きいため寒暖の差が大きい.長期に見ると離心率の変動による公
転軌道の変動が大きく,地球で言えば氷期・間氷期の気候変動が激しくなり,生命誕生に必要と思われる長期に
亘って安定な気候が維持されにくい.さらに金星は衛星をもたず火星は2個の衛星を持っている.地球の衛星-
月は地球自転軸の傾斜の変動を一定範囲に抑える役割を果たしているが,それは衛星が1個だからである.衛星
11
を持たない金星や2個の衛星を持つ火星は自転軸の傾斜の変動が大きく,気候が不安定になる要因となる.
惑星に生命が誕生するには液体の水がその表面に存在する必要があったが,金星は太陽に近すぎてその条
件からはずれ,火星はサイズが小さくて初期の温暖な状態を長期に亘って維持できなかった.偶然にも地球はサ
イズが適当で内部の熱が保たれ,そのため地殻活動が維持され,太陽風を防御する強い磁場を有している.また
重力の強さが適当であるために大気が維持されて海水の蒸発が抑えられ,さらに1個の衛星により自転軸が安定
に保たれるために気候の変動が小さいなど,生命誕生に好都合な条件を満たしている.
問題 16 (1)地球の磁気モーメントを 0.312(G・Rp3)としたとき,地表の磁極および磁気赤道における磁場(水平
/垂直)の強さはいくらか? CGS ガウス単位およびSI単位で答えよ.透磁率μは真空と同じとする. (2)地表磁
場の強さに等価な直線電流の値はいくらか.磁場の測定位置と電流の距離を 1 m として,アンペア単位で答え
よ.
[解答例]
(1) 地球の磁気モーメント m が CGS ガウス単位を地球半径の3乗で除した値で与えられているので,(33-1)式に
より磁場の強さを求める場合は,r=1 としてよい.また透磁率はμ=1 とする.
水平成分 Hθ(G,Oe)
垂直成分 Hr(G,Oe)
0
磁極(θ=0°)
2m=2×0.312=0.624
0
磁気赤道(θ=90°)
m=0.312
3
SI単位(A/m)での磁場の強さは上表の値に係数 10 /4πを掛けた値になる.
(2)磁場の強さ H の単位を CGS ガウス単位(G,Oe)からSI単位(A/m)に変更し,アンペアの法則を用いる.磁気
赤道における磁場の強さ(水平成分)は,0.312(G,Oe)=0.312×103/4π(A/m)であるので,これに等価な直線
電流の大きさ I は,磁場と電流の距離を 1 m とすると,
I = 0.312×103/4π×2π=0.156×103(A)= 156(A)
となる.この場合,アンペアの法則は,半径 1m の円筒断面を流れる単位面積あたりの電流の強さが 49.6(A/m2)
であることを意味する,と考えてもよい.仮に地球磁場が地球中心(半径を 6370km とする)を流れる直線電流によ
るとした場合,等価電流の大きさは,I =156×6.37×106 =9.93×108 (A) であり,外核断面(半径を 3500km とす
る)の単位面積あたりの電流の強さは約 4.5×10-5 (A/m2) となる.円筒電流の例に比べ,約 100 万分の1という
微弱な電流により地球磁場が維持されている.このように地球発電機の効率は低いものの,規模がそれなりに大
きいため,地球環境に影響を及ぼすほどの磁場エネルギーがつくり出されている.
問題 17 太陽風の動圧と地球磁場の圧力が磁気圏界面でつり合っているとして,磁気圏界面と地球中心の距
離(地球半径 RE を単位とする)を求めよ.
ただし,地球の磁気モーメント:0.312(G・Rp3),太陽風の陽子数密度: 5 個/cm3,陽子の質量:1.67×10-24g,
太陽風の速度:300km/s = 3×107 cm/s とする.
[解答例]太陽風粒子が磁気圏界面で跳ね返され,粒子の運動方向が反転する場合,[運動量の変化分]=[力]
×[時間]の関係(運動の第 2 法則)により,太陽風粒子はローレンツ力に原因する力を地球磁場から受けているこ
とになるが,[作用]=[反作用](運動の第 3 法則)であるので,太陽風が地球磁場に力を及ぼすと考えてもよい.
これが太陽風の動圧である.太陽風の速度,陽子の質量(質量が小さい電子を無視する),陽子の数密度,境界
断面積,磁場の圧力を U,mp,N,S,Pm とすると,粒子1個の運動量の変化分は 2mpU なので,圏界面での力の
つり合いは次のように表せる.
(2m U )NUSΔt = P
p
m
SΔ t
→ 2 Nm pU 2 = Pm
(6)
ここで,(NUSΔt)はΔt 時間内に圏界面に衝突する陽子数である.地球磁場の圧力 Pm は次のような理由で生じ
る.太陽風の電子・陽子が地球磁場から受ける(一次)ローレンツ力は互いに逆方向であるので圏界面で電流が
生じる.この電流と地球磁場は垂直であり,電流と磁場により生じる(二次)ローレンツ力が太陽風に抗して働くこと
になる.電流の強さは磁場 H に比例するので,(二次)ローレンツ力[=電流×磁場の強さ H]は H 2 に比例し,単
位面積当たりの力 F/S が磁場の圧力 Pm となる.従って磁場の圧力 Pm は磁場の「エネルギー密度」εm と等価で
12
あり,磁場の強さ H,磁場のエネルギー密度εm は CGS ガウス系では次のようになる.
Pm = ε m
H2
⎛R ⎞
=
, H = 2m ⎜ E ⎟
8π
⎝ r ⎠
3
(7)
ただし,磁場の強さ H を磁気赤道面でとり,また磁気モーメント m を2倍している(地球磁場により太陽風内に渦電
流が生じ,その結果,地球磁場の「鏡像」が太陽風内に形成されるとする).磁気圏界面において太陽風の動圧と
地球地場の圧力が平衡していることを改めて式で表すと次のようになる.
m2
2 Nm P U =
2π
2
⎛ RE ⎞
⎟
⎜
⎝ r ⎠
6
⎛ r
→ ⎜⎜
⎝ RE
6
⎞
m2
⎟⎟ =
4πNm P U 2
⎠
(8)
(8)より,
r/RE =[ 0.3122/(4π×5×(1.67×10-24)×(3×107)2) ]1/6 ≒ 13.1
となり,昼側の磁気圏界面は地球半径の約 13 倍の距離に位置する.因みに赤道上空の静止衛星は地球半径の
6.6 倍の距離にある.
問題 18 惑星が吸収する太陽放射量と惑星が放射する赤外線量がつり合っているとして,各惑星の有効温度
Te(大気外から観測した惑星の温度)を求め,有効温度と観測された放射温度 Tm の一致が良くない惑星について
は,その原因について考察せよ.ただし,惑星と太陽の距離,惑星のアルベド,観測放射温度は次表の通りとす
る.また,ステファン・ボルツマン定数をσ=56.7×10-9 W/m2K4,地球軌道での太陽定数を S0 = 1.37×103 W
/m2 とする.
[解答例]惑星が放射する表面積あたりの赤外線量は,[惑星の温度(有効温度 Te)の 4 乗]×[惑星表面積]に比
例し,比例定数はステファン・ボルツマン定数σである.また惑星が吸収する太陽エネルギー量は,A を惑星のア
ルベドとして,[惑星軌道の太陽定数]×「惑星の断面積」×(1-A)である.惑星が吸収・放射するエネルギーが
平衡しているので,次のようになる.
4πR σTe
2
4
S
= πR (1 − A) 20
r
2
⎛ (1 − A)S 0 ⎞
⎟⎟
→ Te = ⎜⎜
2
⎝ 4σ r ⎠
0.25
(9)
ここで,S0 は地球軌道での太陽定数,r は天文単位(AU)で表した太陽・惑星の距離である.表のデータにより,惑
星の有効温度 Te を計算すると次のようになる.
金星
地球
火星
木星
太陽と惑星の距離(AU)
惑星のアルベド
0.72
0.77
1.00
0.30
1.52
0.15
5.20
0.58
観測放射温度 Tm(K)
有効温度 Te(K)
放射・有効温度の放射量差(W/m2)
放射・有効温度の放射量差(%)
230
227.5
6.7
4.4
250
255.0
-18.3
-7.6
220
217.1
6.8
5.4
130
98.4
10.9
204.4
金星,地球,火星については放射・有効温度がほぼ一致する.それに対して木星の放射温度は有効温度より
32 度も高い.上表の6行目は,ステファン・ボルツマン定数σにより放射・有効温度差を放射量(σT4)の差に換算
したものであるが,放射量差の絶対値はどの惑星についてもあまり違いがないことが分かる.それに対し,(Tm/
Te)4-1 により計算した放射量差の相対値(7行目)は木星の場合,圧倒的に大きいことも分かる.すなわち木星の
放射量差はアルベドなど観測データの精度では説明できず,木星自身が熱源を持つことを意味するが,10.9
W/m2 の放射量差は,地球の地殻熱流量 0.08 W/m2 の 100 倍であり,木星内部の放射性元素などで放射量差を
説明することも難しい.なぜなら惑星サイズに違いがあっても,各惑星が類似の物質から形成されたとすれば,単
位面積あたりの熱流量は似たような値になるべきだからである.もう一つの熱源は惑星の重力収縮であり,木星が
収縮することで重力位置エネルギーが熱になると考えられる.
13
問題 19 地球軌道における太陽放射量は現在 1.37×103 W/m2 であるが,過去 45 億年間に約 25%増加した
と推定される.太陽放射量の増加率を単純に計算すると,0.55%/億年となる.
(1) 現在の地球大気の状態が維持されたとして(大気の主成分,アルベド,対流圏の気温減率γ,対流圏の厚さ
H は変らない),何億年過去に遡ったとき,地球が全面凍結していたことになるか.ただし,現在の対流圏の
気温減率をγ=0.0065℃/m,平均の地表温度を TS=15℃(288K)とする.
(2) 太陽放射量が増加し続けた場合,地表温度が1気圧での水の沸点 100℃(373K)に達するのは何億年後に
なるか.ただし,この場合は,海水の蒸発により湿度が増加するので対流圏の気温減率は湿潤断熱減率に近
くなり,γ=0.0060℃/m,また大気の厚さ(m)は H=( 8.314×103/M )×TS/g,M=0.5×(29+18)により,
与えられるものとする(g,M,TS は重力加速度,平均分子量,地表温度).アルベドは,雲量の増加が見込ま
れるので,0.5 とする.
[解答例]
(1) 太陽定数の変化を S( t ) = S0 (1-αt ) と表す.ここでα=0.0055/億年である.地球大気の厚さ H は,
問題 33 で計算した有効温度 255K により,H=(288-255)/0.0065=5077m となるが,地球大気の厚さ H も気温
減率γも変わらないので,地表面温度 TS と有効温度 Te の差は不変であり,TS=Te+33 (K)の関係になる.アル
ベドAの変化があるものとする.地球の全面凍結は表面温度が 0℃(273K)に達したときに起こる.そのときの有効
温度 Te は 240K である.問題 35 の(9)により,凍結時の太陽定数,そして凍結の年代 tf が推定できる.
4
4
4⎛ 1− A ⎞
⎟⎟(1 − αt )
4πR 2σTe = πR 2 (1 − A)S 0 (1 − αt ) → Te = T0 ⎜⎜
⎝ 1 − A0 ⎠
4
4
4
γH ⎞ ⎤
1 ⎡ ⎛ 1 − A0 ⎞⎛ Te ⎞ ⎤ 1 ⎡ ⎛ 1 − A0 ⎞⎛ 273 ⎞ ⎛
t f = ⎢1 − ⎜
⎟⎜
⎟⎜ ⎟ ⎥ = ⎢1 − ⎜
⎟ ⎜1 −
⎟ ⎥
α ⎢ ⎝ 1 − A ⎠⎜⎝ T0 ⎟⎠ ⎥ α ⎣⎢ ⎝ 1 − A ⎠⎝ 255 ⎠ ⎝ 273 ⎠ ⎦⎥
⎣
⎦
(10)
ここで,T0 は現在の有効温度 255K である.ここで A0,A を現在および地球凍結時のアルベドとする.A0=A=0.3
(アルベドは変わらない),Te=240K として,(10)により,
t f =[1-(240/255)4]/0.0055=39.2 億年
となるが,アルベド A が(10)式に逆数で入っていることから,凍結の推定年代 t f はアルベドに大きく依存する.地
球表面の凍結が進むと,おそらくアルベドは増加する.A=0.40 とすると 15.3 億年前,A=0.42 とすると 9.6 億年
前である.
他方,推定年代は大気の温室効果γH にも大きく左右される.過去の太陽光量は現在より小さかったが,同時
に過去の地球大気が CO2 を現在より豊富に含んでいたため,その温室効果により,地球は全面凍結を免れたと考
えられている(一時的な全面凍結は起きたが,その後温暖化したということ).
(2) 海水の蒸発により大気の厚さ H は地表温度 TS に依存する.地表温度と有効温度の関係は
TS=Te +γH=Te +γβTS(β=8.314×103/M/g)であり,Te=TS(1-γβ)となる.TS=373K,γβ=0.216
とすると Te=292.2K である.海水沸騰の推定年代 t b は次のようになる.
4
⎤ 1 ⎡⎛ 1 − A ⎞⎛ 373 ⎞ 4
⎤
1 ⎡⎛ 1 − A0 ⎞⎛ Te ⎞
4
0
t b = ⎢⎜
⎟⎜⎜ ⎟⎟ − 1⎥ = ⎢⎜
⎟⎜
⎟ (1 − βγ ) − 1⎥
α ⎢⎝ 1 − A ⎠⎝ T0 ⎠
⎥⎦ α ⎢⎣⎝ 1 − A ⎠⎝ 255 ⎠
⎥⎦
⎣
(11)
ここで,T0 は現在の有効温度 255K であり,A0=0.3,A=0.5,γβ=0.216 とすると,t b=257 億年となるが,この
値は太陽の推定寿命(100 億年)より大きく,大き過ぎるので,推定年代が係数γβに依存する度合いを調べてみ
よう.表面温度 TS の上昇がより加速されるとして,γβ=0.35 とすると 26.2 億年後,γβ=0.37 とすると 1.8 億
年後となる.推定年代は温室効果の係数γβに極めて敏感である.温室効果を約 5%低く見積もると,推定年代
は約 2 億年後から約 25 億年後に延びる.
問題 20 (地球から見た惑星の見かけの動きを説明するために導入された)周転円の半径が太陽・地球間距離
になることを説明せよ.
[解答例]火星を例にとる.太陽(S)から地球(E),太陽(S)から火星(M),地球(E)から火星(M)に引いたベクトル,
14
→
→
→
をそれぞれ, SE , SM , EM とする.また地球(E)から周転円中心(C),周転円中心(C)から火星(M)に引いた
→
→
ベクトルをそれぞれ, EC , CM とする.定義により,これらは,
→
→
→
→
→
→
SM = SE+ EM , EM = EC+ CM
(1)
の関係を満たす.太陽が地球を中心とする円軌道を公転しているのか,それとも地球が太陽を中心とする円軌道
を公転しているのか,見かけ上の区別はなく,仮に火星から太陽の動きを観察した場合も同様である.太陽を中
心とする火星の公転運動(地動説)と地球を中心とする火星の公転運動(従円に沿うものとする)を一致させる必要
があるが,そのためには両説における太陽と地球の位置を交換すればよい.すなわち,
→
→
→
→
→
→
→
→
EC = SM として, CM = EM − EC = EM − SM = − SE
→
(2)
→
であり,周転円の半径 CM は太陽・地球間の距離 SE に等しい.
[補足1] (2)の考え方に従えば太陽の周転円・従円の半径は等しくなる.太陽の逆行は観測されないので,辻
褄を合わせるには,太陽の周転円上の回転周期(以後,周転円周期と呼ぶ)が無限大であり,実際には太陽は従
円上を公転するとすればよい.水星・金星については,その従円半径よりも周転円半径の方が大きくなる.ただし,
(2)の別解として,周転円半径→太陽・惑星の距離,従円半径→太陽・地球の距離,とすることが可能であり,火星・
木星・土星と同様に惑星の周転円半径を従円半径より小さく選ぶことができる.この場合,水星・金星・太陽は同じ
半径の従円上に位置することになるが,もともと天動説では地球・太陽の距離を任意にとれるようになっている.な
ぜなら天球上の太陽の動きは1年周期の公転として観測されるが,その事実だけからは地球・太陽の距離を特定
することができないからである.従って地球-水星-金星-太陽の代わりに地球-金星-水星-太陽の配置を
採用しても観測上の矛盾は生じない.しかし後者の配置を採用しなかった理由は地球から見た水星の周転円周
期が金星のそれより短いからであろう.(1)周転円周期,(2)周転円・従円の半径比を考慮すると(表 1),水星-金
星-太陽-火星の配置となることが推理される.
われわれは,天動説が流布した時代の人々と異なり,「ケプラーの第3法則」を知っている.それによれば太陽
を中心とする惑星の公転周期 TP は太陽・惑星の距離 RP の 3/2 乗に比例する.従って地球から見た惑星の周転円
周期は,地球の公転周期を TE として
T = TP・TE/| TP – TE | = TE ・(RP/RE)3/2/| (RP/RE)3/2 -1 | (3)
となり,水星-金星-太陽の順に永くなり,太陽-火星-木星-土星の順に短くなることが自然に導ける.太陽の
周転円周期は上で述べたように無限大である.このような点から,太陽系の中でやはり太陽は特別だということに,
コペルニクスは気がついたのであろうか.いずれにしても,ケプラーの第3法則は,隠された形で天動説にも反映
されていたことになり,科学史上の事実として大変興味深い.周転円・従円の半径比は RP/RE に相当する.
表 1 天動説における各惑星の従円・周転円の回転周期(ケプラーの第 3 法則により計算)
惑星
水星
金星
地球(太陽) 火星
木星
土星
太陽・惑星間
距離(AU)
周転円半径
/従円半径
従円回転周
期(年)
周転円回転
周期(年)
0.387
0.723
1.000
1.524
5.203
9.555
0.387
0.723
1.000
0.656
0.192
0.105
1.00
1.00
1.00
1.88
11.9
29.5
0.317
1.60
∞
2.135
1.092
1.035
[補足2] もともとプトレマイオス太陽系(天動説)では太陽・地球間距離(太陽従円の半径)が特定されておらず
(特定の必要がない),天球に投影した惑星の位置及び周転円・従円半径比,周転円周期は太陽の従円半径の
縮尺に依存しないモデルとなっている.図2,図 3 は周転円・従円の半径比を固定し従円半径の縮尺を変更したと
15
Y HAUL
きの惑星配置を示す.図2は太陽中心のコペルニクス太陽系(地動説)をそのままプトレマイオス系(天動説)に置
き換えたときの惑星配置(水星・金星・太陽・火星)であり,従円半径を太陽・惑星間の実距離にとっている.図 3 は
水星および金星の従円半径の縮尺をそれぞれ 0.5,0.25 にしたときの配置であり,天球上の惑星の相対位置は縮
尺により変わらない.しかし以下のような点で天動説と地動説に違いが生じる.図2では金星・太陽の軌道が交差
しており,金星が地球から最遠方にあるとき太陽の背後に位置し,地球に最接近したとき太陽と地球の間に位置
するので金星の満ち欠けが起きる(地動説なら自然に説明できる).金星が太陽の背後にあるときに“満金星”とな
り,地球に近づく(視直径が大きくなる)につれ金星の食が大きくなる.一方,図 3 では金星・太陽の軌道は交差し
ないので,図2とは金星の満ち欠けの様相が異なり,金星が地球から最遠方にあるか,もしくは最接近したとき,
“新金星”となる.ガリレオは望遠鏡を用いて金星の満ち欠けを観測し地動説が正しいこと直感した.もしプトレマイ
オスが図2のような配置を偶然,採用していたなら,金星の満ち欠けの観測から直ちに天動説と地動説の真偽は
明らかにならなかったであろうが,地動説の方が金星の満ち欠けの様相をより明快に説明できることには変わりが
ない.図2では火星・太陽の軌道がやはり交差しているので,火星の満ち欠けが起こりそうだが,そうはならない.
図1の地動説に立てば火星が地球に最接近したとき火星は太陽の反対側,火星が地球から最遠方にあるとき火
星は太陽の背後に位置することが容易に理解され,火星が太陽と地球の間に位置することはないので,火星の満
ち欠けは生じない.金星・火星の満ち欠けの違いも地動説により明快に説明できる.
図1(左上) コペルニクス系太陽系(地動説)
図2(左下) 地動説を天動説に置き換えたときの水星・
1.5
金星・太陽・火星の従円・周転円. 水星・金星の周転
1
円中心に太陽があり,惑星の周転円は太陽従円と交差
している.地動説(図1)の観点からは惑星と太陽の衝突
0.5
が起こらないことは簡単に理解できるが,天動説の観点
0
からは容易に理解し難く,太陽従円と惑星周転円の交
差がないように修正し,地球を中心に惑星が回転すると
- 0.5
いう宇宙観に調和させようとする動機が生じる.
-1
図3(右下) 水星・金星の従円半径の縮尺をそれぞれ
- 1.5
0.5,0.25 とすると金星周転円と太陽従円の交差が解消
- 1.5 - 1 - 0.5 0 0.5 1 1.5
される.火星従円の縮尺を 2 以上にとれば,火星・太陽
X HAUL
軌道の交差も解消できる.天球上の惑星の相対位置は
従円の縮尺に依存しない.
0
0
Y HAUL
1
Y HAUL
1
-1
-1
-2
-2
0 0.5
X HAUL
- 1.5 - 1 - 0.5
1
0 0.5
X HAU L
- 1.5 - 1 - 0.5
1.5
1
1.5
問題 28 距離 1 パーセクは何光年に相当するか,求めよ.また距離 100 パーセクの星の年周視差はいくらにな
るか,求めよ.
16
[解答例]1 パーセクは年周視差が角度1秒の距離である.角度1秒をラジアンで表すと,π/(180×3600) となる
ので,1 パーセクは (180×3600)/π×1 (AU) の距離になる.1 AU は地球―太陽の距離であり,1AU=1.496×
1011m とすると,1 パーセクは (180×3600)/π×1.496×1011 (m) となる.1光年は,光速×1年=9.45×1015 (m)
であるので,1 パーセクは 3.26 光年となる.定義により,100 パーセク(=326 光年)の年周視差は 1/100 秒である.
問題 21 火星にあったとされる水が失われたのはなぜか.根拠もそれなりに示せ.
ア) 太陽に近すぎた イ)太陽から遠すぎた ウ)もともと水が少なすぎた エ)惑星の質量が小さく,引き止められ
なかった
[解答例]金星については,大気の状態から,太陽により近く高温となったために大気からほとんどの水が消失した
か,もしくは,もともと少なかったと推測される. 一方,火星については,表面の状態(大量の CO2 あるいは H2O の
氷が堆積した極冠,凍土層があること,また洪水が起きた地形があり,堆積物など海洋が存在した証拠もある)から,
現在より厚い大気と液体の水がかつて表面にあったことは間違いなく,太陽からより遠く,結果的に低温となった
ため,大気・水の一部が凍結した状態にあると推測される.しかし,太陽から遠くても,大気が厚く,温室効果が十
分であれば,表面に液体の水を保持することは可能である.惑星が長期に渡って厚い大気を保持するには,惑星
の質量が十分大きく,重力が強くなければならない.同時に惑星の質量は惑星磁場の強さと関係する.惑星が小
さいと内部が急速に冷えて固化して惑星磁場・磁気圏が消失し,大気が太陽風に直接曝され,散逸しやすくなる.
ただし惑星が大きすぎると木星型のガス惑星に成長し,惑星内部と大気の区別はなくなる.地球型惑星(金星・地
球・火星)に的を絞れば,火星表面の水が失われた第一の原因は,ア),イ),ウ)ではなく,エ)と考えるべきであ
る.
問題 22 エネルギー的に見て,太陽風(電子・陽子)が地表に直射した場合,どのくらいの波長(赤外線,可視光,
紫外線,X 線あるいはガンマ線)の放射が直射したことに相当するか? 次の数値と物理式により推測せよ.
太陽風の速度 U :3×105m/s,陽子の質量 mp :1.67×10-27 kg,電子の質量 me: 9.11×10-31 kg
紫外線の波長:2×10-7m~9×10-10 m,X 線の波長:9×10-10 m~5×10-12m,ガンマ線の波長:5×10-12m 以下,
プランク定数 h:6.63×10-34 J・s,光速度 c:3.00×108 m/s
質量 m 速度 U の粒子の運動エネルギー:K = mU 2/2,光子(波長λ)のエネルギー:E = ch/λ
[解答例]等価な光子の波長λは, K = E により,λ= 2ch/(mU 2)であり,m は陽子または電子の質量である.
電子・陽子のエネルギーに等価な光子の波長をλe・λp とすると,λe/λp =mp/me である.上記の数値を代入
すると,電子のエネルギーに等価な光子の波長は
λe= 2×3.00×108×6.63×10-34/(9.11×10-31×(3×105)2)=2×3.00×6.63/(9.11×9)×10-5
= 4.86×10-6 m = 4.86 μm → 赤外線に相当
となる.また陽子のエネルギーに等価な光子の波長は,
λp =λe me /mp = 4.86×10-6 ×9.11×10-31/(1.67×10-27) = 4.86×9.11/1.67×10-10
= 2.65×10-9 m = 2.65 nm → 紫外線と軟X線の境界波長に相当
となる.
[補足]太陽風(陽子の流れとする)のエネルギー・フラックス(1 秒間に断面 1m2 を通過するエネルギー量 F,単位
W/m2)は,陽子の個数密度を n として,F = n ・mp・U 3/2 である.n = 5 個/cm3 とすると,
F = 5×106×1.67×10-27×(3×105)3 /2 = 5×1.67×27×10-6/2 = 1.12×10-4 W/m2
であり,太陽定数 1.37 kW/m2 に比べれば圧倒的に小さいが,波長 5nm~10nm の太陽放射の強さ:1.1×10-4
W/m2 と同等である.太陽フレアの発生に伴い,エネルギー・フラックスは一時的に増加する.
問題 23 太陽定数(地球軌道で 1m2 の断面を 1 秒間に通過する太陽放射量)を用い,太陽が 1 秒間に放出エ
ネルギー(単位:ワット,W)を求めよ.ただし太陽定数を 1370W/m2,地球・太陽の平均距離を 1.496×1011m と
する.
[解答例] 太陽定数を S,太陽・地球の距離を R とすれば,太陽が 1 秒間に放出エネルギーL は,
L = 4πR 2・S であり,これより,
L = 4×3.14×(1.496×1011)2×1.37×103 = 4×3.14×1.4962×1025 = 2.81×1026 W
17
となる.
問題 24 太陽内部で1秒間にヘリウムに変換される水素の質量(トン単位,1 トン=1000kg)を概算せよ.ただし水
素原子核(陽子)4 個とヘリウム原子核 1 個の質量差(質量欠損)Δm を 26.7MeV/c2,1MeV=1.60×10-13 J と
する.また陽子の質量を mp = 1.67×10-27 kg とする.
[解説]問題 7 で求めた 1 秒間当たりの太陽放射エネルギーを E (W) とする.これにともない 1 秒間に合成される
ヘリウムの個数を n とすると,E = n・Δm・c2 が成り立つ.1 秒間にヘリウムに変換される水素の質量は 4n×mp で
ある.
[解答例] L = E により,n = L/Δm・c2 であるので,1 秒間にヘリウムに変換される水素の質量 MH は
MH = 4 L mp/Δm・c2 = 4×2.81×1026×1.67×10-27/(26.7×1.60×10-13)
= 4×2.81×1.67/(26.7×1.60) ×1022 = 4.39×1021 kg = 4.39×1018 トン
であり,地球の質量の 0.073%に相当する.
問題 25 水素核融合の仕組み(図 5-1)の通り,ヘリウム原子核 1 個の合成につき,2 個の陽電子が生成するとし
た場合,いずれ太陽内部は陽電子が充満した状態になってしまうが,実際にはそうなっていないとすれば,生成
した陽電子の運命について,どのように考えればよいか.
[解答例] 水素核融合における第一段階の反応は,p(陽子)+p → 2H(重水素)+e+(陽電子)+νe(ニュートリ
ノ) と説明されている. 理論的には p+e(電子)+p→ 2H+νe も考えられ,この場合は電子が消滅し,陽電子
は生成しない. しかし,3体衝突反応となるので反応確率が低く,前者の2体衝突反応(陽電子が生成する)が卓
越することになる. ヘリウム合成において中性子に崩壊した陽子の数に等しい数の電子が存在し,電子・陽電子
の対消滅(e+ + e → 2γ)が起こると考えるのがよさそうである.この場合,核融合反応により放出されるエネル
ギー[主に陽子(p)と重水素(2H)からヘリウム 3(3He)が合成されるときに放出されるγ線]に加え,電子・陽電子の対
消滅によるエネルギー(γ線)が放出される. 他に,陽電子の消滅過程として,陽電子が反ニュートリノに崩壊す
る反応:e+ → W+ +
ν e ( W+: 弱い力を伝えるゲージ粒子)も考えられる. しかし,この反応の確率は太陽
内部では低い.なぜなら,もし,この反応が頻繁に起これば,太陽起源の反ニュートリノが観測されるはずである
が,実際に観測されるのはニュートリノだからである.
問題 26 皆既日食が起こるときの地球-太陽,地球-月の「距離比」を求めよ.ただし,太陽,月の半径をそれ
ぞれ,6.96×105 km,1740 km とする.
[解答例] [月の半径]/[地球-月の距離]=[太陽の半径]/[地球-太陽の距離]の関係になる.これより,
[地球-太陽の距離]/[地球-月の距離]=[太陽の半径]/[月の半径] = 6.96×105 /1740 = 400
となる.
問題 27 地球,月の公転軌道が共に円軌道であり,公転周期(月の場合は地球のまわりを一回転する周期)を
それぞれ,365 日,28 日とした場合,日食が起こる周期(年単位,精度を2桁及び3桁とする)を求めよ.
[解説]もし地球,月の公転軌道面が一致しているなら,日食の周期は太陽・月の会合周期(=新月の周期)と一
致する.しかし,月の軌道面(白道)が地球の軌道面(黄道)に対し約 5°傾いているため,太陽-月-地球が一
直線に並ぶ周期は新月の周期及び月の公転周期(=黄道・白道が交差する周期)の整数倍になる.m,n を,約数
を持たない最小整数とすると,[新月の周期]/[月の公転周期]≒m/n の関係を満たす.一般に2つの惑星 A,B
の会合周期 T は,2つの惑星の公転周期を TA,TB(TA<TB)として,1/T = 1/TA - 1/TB である.
[解答例]新月の周期は,地球を中心に月,太陽がそれぞれ,28 日,365 日で公転しているとして,
(28×365)/( 365-28) = 30.33 (日) となる.これより,
[新月の周期]/[月の公転周期] = 30.33/28 ≒1.083 = 1083/1000,小数点以下を2桁とすると,
108/100 = 27/25 となる.従って日食の周期は2桁精度で,28×25 = 700 (日) ≒ 1.9 (年),3桁精度で,
28×1000 = 2800 (日) ≒ 76.7 (年) となる.1 桁精度では,28×10 = 280 (日) ≒ 0.8 (年) である.平均すれ
ば日食は 1 年ごとに起こるが,日食が観測されるゾーンは限定され,毎年移動する.皆既日食は,問題 10 で述べ
るように,距離比が関係してくるので,より稀にしか起こらない.
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問題 29 見かけの等級が 5 等級の星は 8 等級の星の何倍の明るさを持つか,求めよ.
[解答例]星の等級は1等星が6等星より 100 倍明るいとして定義されている.これにより1等級明るいと約 2.5 倍明
るい(光量が多い)ことになる(2.55 = 97.65).正確には,a5 = 100 → a = 100.2 = 2.512 であるから,1等級明
るいと 2.512 倍明るいことになる.これより,5 等級の星は 8 等級の星より,2.5123 = 15.8 倍明るい.
問題 30 見かけの等級が 10 等級で,300 光年の距離にある星の絶対等級を求めよ.
[解答例]問題 16,18 により,絶対等級 ma=10 – 5×log10(300/(3.26×10)) ≒ 5.18 となり,絶対等級はおよそ,5
等級となる.
問題 31 星の色から星の表面温度が推定できる原理について説明し,星のスペクトル型と表面温度が対応関係
にあることを説明せよ.
問題 32 太陽の表面温度を 5800K,地球の有効温度(吸収太陽放射量に等しい赤外放射量を放射する大気温
度)を 255K として,太陽放射が最大となる波長を 0.5μm としたとき,地球放射の最大となる波長を求めよ.
問題 33 太陽の表面温度を 5800K,太陽定数を 1.37kW/m2 として,これらのデータにより太陽の視半径(km)を
求めよ.ただし太陽・地球間の距離を 1.50×1011m とする.
問題 34 HR 図では,表面温度が低い割に明るい星ほど右上に位置することが想定されているが,その理由を
推測せよ.
問題 35
HR 図から星のライフサイクルについてどのようなことが推定できるか,説明せよ.
問題 36 惑星の探索において,「ドップラー法」と比べたときの「トランジット法」の長所・短所を述べよ.
[解答例]太陽系の惑星が地球から見えるのは太陽光を反射するからであるが,仮に太陽系を 10 パーセク(32.6
光年)の距離から見る場合は圧倒的な太陽光に邪魔され,惑星を直接見ることは難しい.見えるとすれば惑星が
太陽面を横切る(食が起こる)ことで太陽光が遮られることによる.この方法は系外惑星の観測方法として使われて
おり,「トランジット法」という.木星および地球による太陽の光度変化は約 1%及び 0.01%である.これを実行する
には,微小な光度変化を検出できる観測装置と長時間観測(惑星の公転周期ほどの時間を要する)が必要となる.
「トランジット法」は,恒星のふらつきによる星の光の波長偏移を捉える「ドップラー法」と比べ確率的に稀な現象
(公転周期に比べ地球から見た通過時間が短い)を対象とすることや,微小な光度変化を検出するなどで,技術
的により難しいと思われる.しかし,もしこの現象(惑星通過による星の食)が観測できれば,惑星大気を通過する
光を捉えたことになるので,通過光のスペクトル分析により惑星大気の組成・温度・濃度が推定できるなど,惑星に
ついてより具体的な情報が得られる.
問題 37 地球軌道に木星があったとして,ドップラー効果により太陽系の彼方から,この木星の存在をつきとめ
るには,太陽光の波長の偏移をどのくらいの精度で検出する必要があるか.ただし太陽・木星の軌道面上で観測
するものとし,太陽,木星の質量をそれぞれ 1.99×1030kg,1.90×1027kg,太陽・地球の距離を 1.50×1011m,太陽
光の波長を 0.5μm,また光速度を 3.00×108 m/s とする.
[解説]太陽は,太陽・木星の共通重心を回転する.そのときの回転半径 r は,木星・太陽の距離(いまの場合は地
球・太陽の距離)を RE とすると,r = MJ ・RE /( MJ + MS ) ~ MJ ・RE/ MS である.ここで MJ ,MS は木星,太陽の
質量である.ケプラーの第3法則により,共通重心のまわりの太陽の回転周期 T は,T ~ TE となる.TE は地球
の公転周期(1 年=24×365×3600s)である.太陽は半径 r の円周を周期 T で回転するので,回転速度 v は
v = 2πr/T となる.ドップラー効果による太陽光の波長偏移は,太陽光の波長をλ0 として,およそ,
±λ0×v/c である.
[解答例] 恒星の回転速度 v は,v = 2πr/T = 2π(MJ ・RE/ MS)/TE である.上記の数値を代入すると
v = 2×3.14×1.90×1027/(1.99×1030)×1.50×1011/(24×365×3600)
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= 2×3.14×1.90×1.50/(1.99×2.4×3.65×3.6) ×102 = 28.5 m/s
これより,ドップラー効果による波長偏移は,±0.5×9.5×10-8 =±4.75×10-8μm であり,
波長 0.5μm の可視光で測定する場合の精度はおよそ±10-5 %,10 万分の1%である.この精度で波長偏移を
検出しなければならい.
問題 38 太陽の表面温度を 5800K,地球の有効温度(吸収太陽放射量に等しい赤外放射量を放射する大気温
度)を 255K として,太陽放射が最大となる波長を 0.5μm としたとき,地球放射の最大となる波長を求めよ.
[解答例]全ての光を完全に吸収する物体を「黒体」という.黒体が放射する光(X線,紫外線,赤外線,電波)のス
ペクトル(波長別の強度)は黒体の温度に関係し,ウィーンの法則(放射強度が最大となる波長λmax×黒体表面の
絶対温度 T=普遍定数)が成立する.「普遍定数」というのは,気体定数と同じように,物質の種類,温度,圧力に
よらない定数である.太陽表面,地球表面はそれぞれ,可視光線,赤外線に対する近似的黒体と見做せる.
[解答例]λSmax×TS=λEmax×TE の関係になる.ここで,λSmax,λEmax は太陽放射,地球放射が最大となる波長,
また,TS,TE は太陽表面,外から見たときの地球の温度である.これより,
λEmax =( TS/TE ) λSmax となる.λSmax = 0.5 (μm),TS = 5800 (K),TE = 254 (K) を代入すると
λEmax = 11.4 (μm) となる.
問題 39 太陽の表面温度を 5800K,太陽定数を 1.37kW/m2 として,これらのデータにより太陽の視半径(km)を
求めよ.ただし太陽・地球間の距離を 1.50×1011m とする.
[解答例]ステファン・ボルツマンの法則を適用すると,太陽定数 S,地球・太陽間の距離 r,太陽の視半径 R を用
い, 4πr2 S=4πR2σT4 の関係が得られ,これより太陽の視半径は
R = r (S/σ)1/2 /T2 =1.50×1011×(1370/(5.67×10-8))1/2/(5.802×106)
=1.50×(13.7/5.67) 1/2/3.364×109 =6.93×108 m=6.93×105 km
となる.
問題 40 距離 1 パーセクは何光年に相当するか,求めよ.また距離 100 パーセクの星の年周視差はいくらにな
るか,求めよ.
[解答例]1 パーセクは年周視差が角度1秒の距離である.角度1秒をラジアンで表すと,π/(180×3600) となる
ので,1 パーセクは (180×3600)/π×1 (AU) の距離になる.1 AU は地球―太陽の距離であり,1AU=1.496×
1011m とすると,1 パーセクは (180×3600)/π×1.496×1011 (m) となる.1光年は,光速×1年=9.45×1015 (m)
であるので,1 パーセクは 3.26 光年となる.定義により,100 パーセク(=326 光年)の年周視差は 1/100 秒である.
問題 41 見かけの等級が 10 等級で,300 光年の距離にある星の絶対等級を求めよ.
[解説]地球から距離 R 離れている星の明るさ S(W/m2)は,S = S0(R0/R)2 と表せる.この式は星の明るさが距離の
2 乗に反比例して減少することを表している.ここで距離 R0 における星の明るさを S0 とする.星が明るいほど等級
が小さくなるので,見かけの等級 m は,m = C - loga S = C - logaS0 - 2 ×loga(R0/R) と表せる. ここで C
は実際の等級と合わ せるために調整する定数とする.
星の絶対等級はその星を距離 10 パーセクから見たときの等級である.R0=10 パーセクとして,距離 R パーセク
の星の絶対等級Mと見かけの等級 m の差は, M-m= -loga(S/S0) = -2× loga(R/R0) ≒ -5 ×log10(R
/R0) となる( a = 2.512 ). 例えば,見かけの等級が8等級で,距離 100 パーセクにある星の絶対等級は,
M= m – 5× log10(100/10)= 8-5×1=3 ,すなわち3等級になる.まとめると,1等級増えると明るさはおよそ 4
分の1になり,距離が 10 倍になると 5 等級増えて明るさは 100 分の1になる.
問題 42 星の色から星の表面温度が推定できる原理について説明し,星のスペクトル型と表面温度が対応関係
にあることを説明せよ.
[解答例]星のスペクル型は,もともと,星の光をプリズムで分解し,スペクトルにとったときに現れる吸収線の強さ
や波長の違いを意味していた.吸収線は星の大気に含まれる種々の元素が星表面からの光を吸収することで現
れる.吸収線の波長は表面温度による原子の電離状態によって異なる.スペクル型をどのように整理すれば,星
について有用な情報が得られるか,試行錯誤の結果,スペクル型を表面温度の順に並べることに落ち着いた(テ
20
キスト,p.313).従って星の絶対光量が不明でも,スペクル型が分かれば星の表面温度が推定できることになる.
他方,全ての波長の光を完全に吸収する黒体(black body)が放射する光のスペクトルは,黒体の温度だけで決ま
ることが実験的,理論的に確証されている.ただし,「全ての波長の光を完全に吸収する」というのは,理想化され
た物体であり,実際にはそれに近いものということになる.例えば,太陽光は約 5800K,地球赤外放射は約 250K
の黒体のスペクトルに近いが,地球が太陽光を反射することから分かるように,地球は可視光線に対して黒体では
ない.また太陽スペクトルの紫外線部は 5800K の黒体のスペクトルからずれている.
黒体の放射強度が最大となる波長と黒体温度の積は一定である(ウィーンの法則).星の表面が黒体に近いこ
とが分かっているので,星の色(放射強度が最大となる波長が色に対応する)から,星の表面温度が推定できる.
このことは星のスペクトル型から表面温度を決定する方法に他ならない.
問題 43 HR 図では,表面温度が低い割に明るい星ほど右上に位置することが想定されているが,その理由を
推測せよ.
[解答例]HR 図では,横軸にスペクトル型(あるいは表面温度),縦軸に絶対等級がとられている.星の絶対等級
は星の絶対光量(単位時間に星から放射される光エネルギーの総量)の対数に対応する.HR 図の横軸の温度は
左側ほど高くなる.ステファン・ボルツマンの法則を星に適用すると,星の絶対光量 L は,L=4πR 2σT 4 と表せる.
σはステファン・ボルツマン定数,R は星の半径,T は星の表面温度である.対数で表すと
log L = 4 log T + 2 log R + log(4πσ)
となる.これより,温度が低い星(右側)でも半径がそれを打ち消すほど大きければ,HR 図において上部に位置す
る(明るい,等級が小さい)ことになる.赤色巨星は,「赤みがかった大きな星」という意味だが,HR 図における位置
からして,そのように解釈できる.
問題 44 HR 図から星のライフサイクルについてどのようなことが推定できるか,説明せよ.
[解答例]HR 図上の恒星の分布は星の状態についての統計則を示している.自動車の渋滞の仕組みから分かる
ように,HR 図上での星の移動(状態変化)が速ければ,その領域ではまばらになること,逆に,HR図上で星が集
まっている領域は,その状態(温度,絶対光量)が比較的安定で星が比較的長時間その状態に止まることを意味
する.斜め帯状の集団は主系列星と称され,帯状に広がることから,温度と絶対光量の間にベキ乗で表されるよう
な関数関係があると解釈される.水素の核融合で輝いている状態が主系列星である.右上の集団は,問題 32 で
述べたように,赤色巨星の集団であり,膨張し表面温度が低くなっている.また左下の集団は白色矮星の集団で
あり,温度が高いが,サイズは小さいと考えられる.星団ごとに HR 図を作成すると細部の違いが見られ,一般に恒
星は,原始星→主系列星→赤色巨星→白色矮星の順に変遷することが読み取れる.
問題 45 白色矮星では核融合による熱の生成がないと考えられる.それにもかかわらず,主系列星よりも,むし
ろ表面温度が高くなる理由を推測せよ.
[解説]物質の最小単位-原子は核子(陽子・中性子)と電子から構成され,通常の圧力状態では,電子は陽子の
電気力に捕捉され,原子核の周囲を運動している.しかし,圧力がずっと高くなると,核間の距離が縮み,電子は
特定の核からの電気力を受けなくなるので気体のように振舞う.このような状態になる密度はおよそ,104 g/cm3 で
ある.電子ガスの圧力・温度・密度の関係は,希薄な原子・分子の気体と同じように,理想気体の法則(圧力 ∝
密度×温度)に従うが,密度ρの下限は絶対温度 T の2分の3乗に比例する(ρ> 8.1×10-9T3/2,密度の単位:
g/cm3).
[解答例]白色矮星の密度が上に述べたような理由で決まるとして,密度・温度の関係から白色矮星の温度が推定
できる.T < [ρ/(8.1×10-9)]2/3 として,ρ=104 (g/cm3)を代入すると,T < 1.15×108 K となり,この温度の上限は
図 8-6/HR 図の横軸の値(星の表面温度)からするとかなり大きく,太陽中心部の温度,約 1.5×107 K より高い.
この温度が白色矮星中心部の温度であり,白色矮星の表面温度はそれよりずっと低いこと示している.中心部と
表面の温度差により熱が表面に運ばれ白色矮星が光る.矮星内部での熱の生成はないので表面から光を放射
すると中心部の温度が下がり,やがて光らなくなる.例えば,太陽質量の 0.7 倍の白色矮星(炭素を主成分とする)
の光度が太陽光度の 1 万分の 1 になるのに要する時間は約 30 億年である.白色矮星の質量が小さいほど冷却
時間は短く,質量の 5/7 乗に比例する(岩波講座現代物理学「宇宙物理学」p. 251).
21
問題 46 太陽質量程度の主系列星の放射エネルギーは,およそ質量の3乗に比例することが知られている.星
が誕生から終焉までに燃焼させる水素量と星の質量の比率が変らないとして,星の寿命と質量の関係を導け.質
量が太陽の 10 倍の星の寿命を求めよ.ただし,主系列星としての太陽の寿命を 100 億年とする.
[解答例]星が誕生から終焉までに燃焼させる水素量と質量の比率を b,星の質量を M とする.恒星が一生の大部
分を主系列星として過ごすとすると,主系列星の放射エネルギー,L(W)と質量の関係 L = aM3 (a は比例定数)
を用い,星の寿命τは,Lτ = b M により定まる.τ= b M/aM3 = (b/a) M-2 となる.すなわち,質量の大きい
星ほど寿命が短い.質量による寿命の比は,τ/τ0 = (M0/M)2 であるので,太陽の 10 倍の質量を持つ星の寿
命は太陽の 100 分の1(1億年)と推定される.
問題 48 超新星爆発に2つのタイプがあることについて説明せよ.
[解答例]
爆燃型(太陽質量の数倍から十数倍):太陽より相当大きな星では,ヘリウムでできた中心部が収縮を続け,温度
が1億 K に達する.するとヘリウム同士が核融合を始め,炭素や酸素が形成される.このとき,核融合反応が起き
る場所が球殻から再び中心部に戻ること.星の中心部には炭素と酸素の塊ができ,その周りを残ったヘリウム,外
層に水素が包む「たまねぎ状」の構造になる.ここまでくると,中心部の温度は猛烈な高温になる.中心部は炭素
と酸素がぎっしり詰まった状態にまで収縮して,膨張による温度の調節ができなくなる.この状態で核融合が進む
と,温度が急激に上昇して,反応が暴走し,星全体が爆発する(テキスト,p.320).
重力崩壊型(太陽質量の十数倍以上の星):中心部の核融合がさらに進み,炭素や酸素からさらに重い元素(マグ
ネシウム,珪素,鉄)がつくられる.星は極端に大きく膨張する.鉄の原子核はあらゆる元素の中で最も安定である
ので,鉄が中心部にたまり,鉄が核融合してもエネルギーを生産することができない.星は自らの重力を支える力
(熱による圧力)を失い,中心部が収縮し続ける.中心部の温度が 40 億K を超えると鉄は分解してしまう.この分解
反応は中心部の熱を奪うので,一気に収縮する.これを重力崩壊という(テキスト,p.322).
問題 47 パルサー(中性子星)のパルス周期が 0.033 秒のとき,パルサーの物質密度(g/cm3)の下限値を推定
せよ.
[解説]パルサーが力学的平衡を保つためには,少なくともパルサー内部の物質の自由落下時間 Tf-内部の圧
力勾配による抵抗力がないとして中心まで落下するのに要する時間-がパルス周期(=自転周期)Trot より,短くな
ければならない.パルサーの半径,質量を R,M とすると,R/Tf 2~GM/R 2 ( M=4πR 3ρ/3) となる.ここで,G
(=6.27×10-11 Nm2/kg2)は重力定数,ρは物質密度である.あるいは,[遠心力]<「重力」の関係が満たされなけ
ればならない.自転角速度をΩ(rad/s)=2π/Trot (Trot=自転周期)とすると,Ω2R < GM /R 2 でなければなら
ない.
[解答例]Ω2R<GM /R 2 より,質量の下限値は,M=Ω2R 3/G= (2π/Trot)2 R 3/G となる.さらに密度ρの下限
値はρ=3/(4πR3) ×(2π/Trot)2 R 3/G = 3π/(Trot 2 G) = 1.38×1014 (kg/m3) = 1.38×1011 (g/cm3) となる.
問題 48 超新星爆発(SN1987A)におけるカミオカンデ(Kamioka Nucleon Decay Experiment)の結果から推定さ
れる反電子ニュートリノの密度は 5×1013 個/m2, また反電子ニュートリノのエネルギーは 1.3×107eV である.超新
星爆発で開放されたエネルギーを GM 2/R とした場合,爆発で発生したニュートリノはおよそ,6種類であることを
導け.ここで M は超新星爆発により形成された中性子星の質量(=太陽質量とする),R は半径, eV (エレクトロ
ン・ボルト)はエネルギーの単位で,電位差 1 ボルトで加速されたときの電子の運動エネルギーを意味する.1 eV =
1.602×10-19J. SN1987A までの距離を 17 万光年とする.
[解説]星の内部で元素合成が進行するため,超新星爆発直前の星の内部では,内側から順に,鉄,珪素,酸素,
炭素,ヘリウム,水素の層 がタマネギ状に分布している.鉄のコアは約 1.5M○(M○;太陽質量)の質量を持つ.
コアの重力収縮が進み温度が 5×109K を越えると,鉄がヘリウムに分解する吸熱反応によって不安定となり,超新
星爆発を起こす.爆発の圧力で原子核内外の陽子の中性子化:e- + p →νe + n が進み,中性子星の形成へと
進む.爆発で解放されるエネルギー,Eb は,エネルギー保存則により,中性子星の重力エネルギー,Ug =
- GM 2/R の大きさに等しく( Eb + Ug = 0 ),解放されるエネルギーのほとんどはニュートリノが持ち去るとして
よい(「シリーズ現代の天文学」No.8,日本評論社 p.184).膨大なニュートリノ数の割に実際に捉えたニュートリノが
ごく僅かである理由は,ニュートリノ-陽子の相互作用が極めて弱く,反応断面積が 10-41 cm2 程度であることによ
る. この反応断面積は,ニュートリノ1個が密度 1g/cm3~6×1023 核子/cm3 の物質中を 1017cm(1012km)以上
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通過し,はじめて核子との衝突が起きることを意味する.発見されているニュートリノは3種類あり,反粒子を含める
とその倍になる.
[解答例]ニュートリノの種類を m 種類とする.超新星爆発に開放されたエネルギーは,Eb =4πr2×mn×K と表せ
る.ここで,r は SN1987A と地球の距離(m),n はニュートリノの個数面密度(個数/m2),K はニュートリノのエネルギ
ー( J )である.Eb = GM 2/R ということなので,m = GM 2/(4πR r 2 n K) となるが,これに最も近い整数がニュート
リノの種類の数と考えられる.m=6.3 となり,ニュートリノの種類は6種類と推定される.
問題 49 粒子が天体の重力を振り切って星から脱出するには,粒子の運動エネルギーが位置エネルギーを上
回る必要がある.光が一種の粒子であり,ニュートンの重力理論が光にもあてはまるとした場合,光が脱出できな
い天体中心からの距離 RS(シュワルツシルト半径)を重力定数 G,天体質量 M,光速度 c により表せ.天体質量が
太陽質量に等しいとした場合,シュワルツシルト半径は実際,何 km になるか.
[解答例]質量 m の粒子が天体中心からの距離 R の位置から脱出するのに要するエネルギー,U は,
U = GmM/R である.粒子が脱出するには粒子の初速度を v として,初期運動エネルギー,K = mv2/2 は最低
限 U と等しくなければならないので,K = U とすると,脱出可能な距離は R = 2GM/v2 となる(R は粒子の質量 m
には依存しない).v → c (光速) とすれば,光の粒子が脱出可能な距離は RS= 2GM/c2 となり,M を太陽質量と
すると,RS = 2.78 (km) となる.これ以下の距離からは光が脱出できない.太陽質量に等しい中性子星の半径
は 11.7km であるが,これ以下に圧縮されると際限なく潰れ,ブラックホールになる.
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