第15章 「空間情報の取得と利用」 3次元空間と、それをカメラでとらえた2次元画像平面との関係の 記述のしかたや、その関係を考慮したさまざまな処理について解 説する。 カメラを使った空間情報の利用 AR(Augmented Reality, 拡張現実感)を使えば、カメラで撮影した実 写映像にCG映像を重畳表示し、CG映像とインタラクションすることが 可能になる。 ゲーム機のインタフェースデバイスKinectは人体形状を測定し、そこか ら推定した動作をゲーム機に伝えている。 これらを可能にしているカメラによる空間情報の取得技術を学ぶ。 ソニー SmartAR http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201105/11-058/ マイクロソフト Kinect http://www.xbox.com/ja-JP/kinect 標準ピンホールカメラ カメラは3次元空間を2次元平面に投影する装置である。 現実のカメラを精度良く近似するモデルとしてピンホールカ メラによる透視投影モデルが利用される。 焦点距離1の標準ピンホールカメラによって、カメラ中心の 3次元座標(X,Y,Z)が2次元座標(x,y)に投影されるとき、 x=X/Z、y=Y/Zの関係がある。これを同次座標を用いて表現 すると次式のようになる。 ! x $ ! 1 0 0 $! X $ # & # &# & # y & ' # 0 1 0 &# Y & # 1 & # 0 0 1 &# Z & % " % " %" この2次元座標を 正規化画像座標とよぶ。 正規化画像座標 カメラの内部パラメータ 実際のカメラをピンホールカメラでモデル化する場合、焦点 距離、画素サイズ、画像中心を導入する。これらは、カメラ 固有のパラメータという意味で、内部パラメータとよぶ。 焦点距離をf、画素サイズをδu,δv,、画像中心を(cu,cv)とする と、3次元座標から2次元座標(画像座標)への変換は次式 のようになる。 ! u $ ! f / !u # & # # v &'# 0 # 1 & ## 0 " % " 0 f / !v 0 cu $! X &# cv &# Y & 1 &%#" Z $ & & & % 焦点距離:投影中心と画像面の距離 画素サイズ:画素の縦横の長さ 画像中心:光軸と画像座標の交点 (X,Y,Z) 画像中心 焦点距離 3次元ワールド座標から 画像座標への投影 3次元ワールド座標(Xw,Yw,Zw)とカメラ中心の3次元座標 (X,Y,Z)の関係は[X,Y,Z]t=R[Xw,Yw,Zw] t+tである。ここでRは 回転行列、tは並進ベクトル、tは転置を意味する。したがっ て、(Xw,Yw,Zw)から画像座標への投影は次式になる。Aを内 部パラメータ行列とよぶ。 ! u $ ! f / !u # & # # v &'# 0 # 1 & ## 0 " % " 0 f / !v 0 cu $!# ! XW & # cv &# R # YW &# # 1 &%# #" ZW " ! $ $ # & & # & + t & ' A( R t )# && & # & # % % " XW $ & YW & & ZW & 1 &% この式を展開し、通常の等号で表すと次のようになる。 f "u f v= "v u= r11 X w + r12Yw + r13 Z w + t1 + cu r31 X w + r32Yw + r33 Z w + t 3 r21 X w + r22Yw + r33 Z w + t 2 + cv r31 X w + r32Yw + r33 Z w + t 3 透視投影行列 画像座標、3次元ワールド座標に次の同次座標を用いる。 ! u $ # & ! m = # v &, # 1 & " % ! # # X! w = # # # " Xw $ & Yw & & Zw & 1 &% 3次元ワールド座標から画像座標への投影は次式になる m˜ " A( R | t ) X˜ w ・・・(15.11) この式におけるA(R|t)の部分は3×4行列になり、透視投影 行列と呼ぶ。 ! カメラキャリブレーション 位置が既知の空間点とその画像上への投影点を用いて (次ページ参照)、透視投影行列(式(15.11)のA(R|t)に 該当する3×4行列)やカメラの内部パラメータ(式(15.1 1)のA)、外部パラメータ(式(15.11)のR、t)を求めること をカメラキャリブレーションとよぶ。 このような方法で3次元座標と画像座標を関係づける式を 明らかにし、これを用いることで、画像情報を空間情報に変 換することが可能になる。 キャリブレーションパターン 下図のようなキャリブレーションパターンを用いる。左図の 白丸の中心位置や、右図の四角のコーナー位置を、既知 の3次元座標として用いる。これをカメラで撮影し、画像処 理で、白丸の中心座標や四角のコーナー座標を計算する。 これで、3次元座標と2次元の画像座標を対応づける。 ステレオビジョン 空間位置の計算 カメラキャリブレーションを行うと、3次元座標(X,Y,Z)を画像座標 (u,v)に変換する透視投影行列が決まる。 画像上の位置(u,v)が与えられた時、(X,Y,Z)は一本の直線に拘 束される。この直線は、(u,v)に対応する画像センサの位置とカメ ラの投影中心を結ぶ直線で、視線とよぶ。図15.3 3次元空間の一点を、カメラの位置を変えて撮影した2枚の画像 があり、画像中での位置がわかっておれば、その視線の交点と して3次元座標を求めることができる。図15.4 結局、2つの透視投影行列の係数、対応点の2つの座標から3 次元座標を計算することができる。 平行ステレオ 前ページは、一般的なステレオカメラを説明したが、より簡 単な平行ステレオがよく利用される。これは、内部パラメー タが等しい2台のカメラを、互いの光軸が平行で画像面が ずれないように設置したものである。 平行ステレオでは、被写体が無限遠 にあれば、2画像におけるそれらの 像は同じ位置になる。被写体が近づ くにつれ、像の位置がずれる。ずれ 量を視差とよび、被写体までの距離 に反比例する。 平行ステレオの計算式 平行ステレオでは、3次元位置を求める計算が簡単になる。 f をカメラの焦点距離、bをカメラ間の距離(基線長とよぶ)、 2台のカメラによる観察位置を(u,v)、(u’,v’)とするとき、3次 元空間の位置(X,Y,Z)は次のようになる。(u軸とu’軸が同一 直線上で同じ向きの場合) bu bv bf X= ,Y= ,Z= u " u# u " u# u " u# ステレオマッチング 同一被写体を観察した2画像から、対応する2点を探索する処理 をステレオマッチングとよぶ。 一方の画像の点(u,v)に対して、他方の対応点は直線に拘束さ れる。この直線は、点(u,v)に対する視線を他方のカメラに投影し た像である。この直線をエピポーラ線とよぶ。 平行ステレオの場合、点(u,v)に対するエピポーラ線は同じ高さ (v)にある水平線になる。 ステレオマッチング・アルゴリズム ステレオマチングアルゴリズムの一例 一方の画像で観察位置を中心とする小領域Aを設定する。 エピポーラ線上でAと最も類似度が高い領域Bを求める。 AとBの中心位置が対応すると判断する。 2眼ステレオの拡張として多眼ステレオが利用される。 A B アクティブステレオ ステレオビジョンは、2台(または多数)のカメラを用いて距 離情報を得る手法である。1台のカメラに代えて光パターン を投影する手法をアクティブステレオとよぶ。 光パターンにはさまざまな工夫があり、スポット光投影法、 スリット光投影法(光切断法)、コード化パターンの投影法 が知られてる。 モーション推定と形状復元 (Shape from Motion: SfM) ステレオビジョンとSfMの違い ステレオビジョンは、カメラ間の位置関係が既知の条件で、 シーンの空間位置を計算するもの。 モーション推定と形状復元(SfM)では、カメラ間の位置関 係が未知の条件で、シーンの空間位置を計算する。モー ションとはカメラ間の位置関係で、回転と平行移動を意味す る。 まず、同じ被写体を撮影した2枚の画像を用いて、それらを撮 影したカメラ間の位置関係(回転と平行移動)を計算し、 その後、ステレオビジョンの考え方を用いて、シーンの空間位 置を計算する。 基本行列 3次元空間の点を、位置関係がR、t=(tx,ty,tz)で表される2つ のカメラ観察し、その正規化画像座標をx=(x,y), x’=(x’,y’)と すると、これらの間には下式の関係がある。ここで3×3の 行列Eを基本行列と呼ぶ。 # 0 % E = % tz % "t $ y "t z 0 tx ty & ( "t x ( R 0 (' # x& % ( ( x) y) 1)E% y ( = 0 % ( $ 1' 基礎行列とエピポーラ拘束 画像座標(u,v)と正規化画像座標(x,y) 、カメラの内部パラ メータは下式の関係がある。 " u% " f /) u $ ' $ $v ' ( $ 0 $ ' $ # 1& # 0 0 c u %" x % '$ ' f /) u c u '$ y ' '$ ' 0 1 &# 1 & これと前ページの関係から、対応する画像座標(u,v), (u’,v’) の間に下式の関係を導くことができる。ここでFは3×3の行 列で基礎行列とよび、この関係をエピポーラ拘束という。 ! # u& % ( (u" v" 1)F% v ( = 0 % ( $ 1' モーションと形状の推定 エピポーラ拘束を使ってカメラ間のモーションを推定する。 基礎行列Fの実質的な未知数は8個。1組の対応点から一 つの式を得るので、8組以上の対応点からFを求める。 カメラの内部パラメータを用いて、FからEを求める。Eを歪 対称行列と直交行列の積に分解することで、カメラ間の位 置関係を示すR、tを求める。 カメラ間の位置関係が得られれば、ステレオビジョンの手法 を用いて、被写体の位置情報を得ることができる。
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