ナ ラ 枯 れ 等 の 萎 凋病 感 受 性 の 熱流 束 計に よ る 予 測 神 戸 大学 農学部 資 源 生命 科 学 科 井上 和也 ナ ラ 枯 れ( ブ ナ 科 樹木 萎 凋 病 )は 、現在 日 本 で 問 題 と なっ て い る 伝 染性 樹 木病 害 で あ る 。 本 州 や 九 州 で は 、ナ ラ 枯 れ に よる コ ナラ ・ ミ ズ ナ ラ な どの ブ ナ 科 樹 木の 大 量枯 死 が 起 こ っ て い る 。 ナ ラ 枯 れに よ っ て 枯 死に 至 る原 因 は 、 樹 冠 木 部に お け る 水 分通 導 の停 止 で あ る こ と が わ か っ て い る。 こ の こ と から 、 水分 通 導 の 変 化 の 過程 に 注 目 す るこ と で ナ ラ 枯 れ の 進 展 を 把 握 す る こ と、 お よ び 病 害の 診 断・ 予 防 ・ 対 策 に 役立 て る こ と を目 的 とし て 本 研 究 を 行 っ た 。 樹 冠 内 の 水 分 通 導 機 能 を サ ッ プ ロ ー メ ー タ ー ( SFM)お よ び 熱 流 束 計 を 用 い て 、 継 続 的 に 記 録 す ると と も に 、 その 他 周囲 の 環 境 条 件 を 調べ る た め に 温度 計 、土 壌 水 分 計 な ど の セ ン サ ー を 用い て 測 定 を 行っ た 。 調査地 本 研 究 に 当 た り、 以 下 の 地 域で 調 査を 行 っ た 。 ナ ラ 枯れ が 蔓 延 し てい る 地域 と し て 篠 山 市 矢 代 地 区 の 集 落裏 の 民 有 林 を選 定 し、 こ の 民 有 林 の 南側 斜 面 下 部 、斜 面 中腹 、 尾 根 部 を そ れ ぞ れ 調 査 地 とし た 。 こ の うち 尾 根部 は 、 昨 年 か ら ナラ 枯 れ の 被 害を 受 けて い る 。 林 内 の 植 生 と し て は 、コ ナ ラ ・ ア ベマ キ が中 心 と な っ て お り、 斜 面 下 部 ・中 部 は林 間 閉 鎖 に よ っ て 林 内 が 暗 く 、林 内 全 体 で シカ の 食害 に よ り 、 下 層 植生 は 乏 し く なっ て いる 。 一 方 、 尾 根 部 は 、 比 較 的 明る く コ バ ノ ミツ バ ツツ ジ な ど の 落 葉 広葉 樹 の 低 木 種な ど も見 ら れ た が 、 高 木 層 で は コ ナ ラ・ ア ベ マ キ が優 先 して い る 。 加 え て 、昨 年 尾 根 部 調査 地 のや や 南 側 の 地 点 で 伐 採 が 行 わ れた の で 、 尾 根部 付 近は 明 る く な っ て いる 。 こ の 調 査区 よ り、 カ シ ノ ナ ガ キ ク イ ム シ の 穿 入を 受 け た 個 体を 1 0個 体 選 ん だ 。 ま た、 比 較 対 象 とし て 篠山 市 東 木 之 部 地 区 の 民 有 林 を 調査 地 と し た 。こ の 地域 は 、 現 時 点 で はナ ラ 枯 れ が 蔓延 し てい な い 。 し か し 、 林 内 に ナ ラ 枯れ に よ っ て 枯死 し た個 体 が 確 認 さ れ てお り 、 来 年 度よ り 、ナ ラ 枯 れ が 増 加 す る と 考 え ら れる 。 こ の 調 査地 よ り、 カ シ ノ ナ ガ キ クイ ム シ の 穿 入を 受 けて い な い 健 全 木 2 個 体 を 選 ん だ。 そ の 他 に 加東 市 東条 湖 周 辺 を 調 査 地域 と し 、 ま た、 予 備実 験 と し て 神 戸 大 学 構 内 の 樹 木を 対 象 に 調 査を 行 った 。 調査対象木 ○ 篠 山 市 よ り 以 下の 1 0 個 体 を選 ん だ。 ・矢代地区 斜面下部 今 年度 新 た に 穿 入を 受 けた コ ナ ラ 1 個 体 ・ア ベ マ キ 2 個体 斜面中部 今 年度 新 た に 穿 入を 受 けた コ ナ ラ 2 個 体 ・ア ベ マ キ 1 個体 尾根部 昨 年度 に も 穿 入 を受 け てい る コ ナ ラ ・ ア ベマ キ 各 1 個 体 ・東木之部地区 穿 入 を 受 け てい な コナ ラ ・ ア ベ マ キ 各1 個 体 加 東 市 東 条 湖 周 辺よ り コ ナ ラ 6 個 体( 内 1 個 体 は枯 死 )・ ソ ヨ ゴ 1 個 体 神戸大学構内 コナラ1個体 方法 対 象 地 域 お よ び対 象 個 体 に 対し て 、以 下 の 項 目 の 測 定を 以 下 の セ ンサ ー を用 い て 行 っ た。 ・樹 液 流 速:対 象 個 体に Sap Flow Meter( 以 降 SFM)を 設 置 し 継続 的 に記 録 を 行 っ た 。 ・ 土 壌 水 分 : 各 調査 地 の 各 調 査個 体 から お よ そ 等 距 離 の地 点 に 土 壌 水分 計 を設 置 し た 。 ・ 温 度 : 篠 山 市 およ び 東 木 之 部の 調 査地 ご と の 調 査 個 体の 内 1 個 体 に 熱 流 束計 と と も に 温 度 セ ン サ ー を 設 置し 、 外 気 温 を測 定 した 。 ・ 熱 流 束 密 度 : 調査 個 体 ご と に 熱 流 束セ ン サ ー を 設 置 し、 測 定 を 行 った 。 セン サ ー の 固 定 に は 、 ガ ン タ ッ カー を 用 い て 、セ ン サー を 挟 み 込 ん だ 。 調 査 地 ご と の 各 セン サ ー を 設 置期 間 はそ れ ぞ れ 以 下 の 通り で あ る 。 ・ SFM: 矢 代 斜 面 下 部 8 月 28日 ~ 1 1 月 6 日 斜 面中 腹 9月 1 1日 ~ 1 0 月 1 6 日 尾 根部 9月 1 1日 ~ 1 1 月 6 日 東木之部 9月 1 1日 ~ 1 1 月 6 日 加 東 市 東条 湖 周 辺 6月 2 8日 ~ 8 月 1 3 日 ・ 土 壌 水 分 計 : 矢代 斜 面 下 部 8 月 12 日 ~ 1 0 月 1 5日 斜面中腹 8 月 12 日 ~ 1 0 月 1 5日 尾根部 8 月 6日 ~ 1 1 月 6 日 東木 之 部 ・ 温 度 計 : 篠 山 市各 調 査 地 加 東 市東 条 湖 周 辺 ・ 熱 流 束 計 : 篠 山市 各 調 査 地 8 月 12 日 ~ 1 1 月 6 日 8月 1 2 日 ~ 1 1 月6 日 8月 6 日 ~ 1 0 月 11 日 8 月 12 日 ~ 1 1 月 6 日 加 東市 東 条 湖 8 月 12 日 ~ 1 0 月 1 1日 神 戸大 学 構 内 5 月 15 日 ~ 8 月 4 日 こ れ ら の デ ー タ の測 定 は 、 15 分 お き に 行 わ れ 、 継 続 的 に記 録 さ れ る 。 お よ そ 2 週 間 ~ 3 週 間 ご と に 調 査地 に 赴 き 、 観 察 と デ ータ の 回 収 を 行っ た 。 結果 ( 1 ) SFM に よ る 樹 液 流 測 定 とその 比 較 は じ め に、矢 代 地 域の ナ ラ 枯 れの 被 害 状 況 に つ い て述 べ る。8 月 初 め ご ろ の 時 点 で は 、 尾 根 部 の 個 体 は 、昨 年 度 に マ スア タ ック を 受 け て い た ので 、 少 な い もの の 穿入 を 受 け て い た 。 斜 面 中 腹 の個 体 は カ シ ノナ ガ キク イ ム シ の マ ス アタ ッ ク を 受 けて い た。 一 方 、 斜 面 下 の 個 体 は 、 多少 の 穿 入 は 受け て いる が 、 ま だ マ ス アタ ッ ク を 受 けて は いな か っ た 。 8 月 末 か ら 9 月 初 め ご ろ に は 、 斜面 下の 個 体 も マ ス ア タッ ク を 受 け てい た 。 篠 山 市 矢 代 地区 に お い て 、 今 年 度の カ シ ノ ナ ガ キ クイ ム シ の 穿 入 を 受 けた 個 体 の 水 分 通 導 を 測 定 す る に当 た り 、 ま ず、 従 来の 方 法 で あ る SFM を 用 い た 測定 結 果を 示 す 。 以 下 の グ ラ フ 1 は 、9 月 1 7 日 ~2 3 日の 東 木 之 部 の コ ナラ 健 全 木 と 矢代 斜 面中 腹 の コ ナ ラ 被 害 木 の 樹 液 流速 を そ の 期 間中 の それ ぞ れ の 日 中 の 最高 値 を 1.00、 夜 間 の 最 低 値 を 0 と し た 相 対 値 で 表し た グ ラ フ であ る 。 斜 面 中 腹 の 個 体 は、 8 月 前 半 の 時 点 です で に カ シ ノ ナ ガ キ ク イ ム シの マ ス ア タ ック を 受け て お り 、 そ れ から 、 1 か 月 半 程 度 たっ た 時 点 で の 値 と な っ て い る。 1.00 0.90 0.80 相対値 0.70 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 0.00 9/17 9/18 東木之部 グラフ 1 SFM 9/19 コナラ健全木 9/20 9/21 矢代斜面中腹 コナラ 9/22 9/23 被害木 被 害 木 ( 斜 面 中 腹 )と 健 全 木 の 比 較 グ ラ フ よ り 18 日 ~ 20 日 に は 、樹 液 流速 に 異 常 が み ら れる 。18 日 に は 、日 中に 大 き く 低 下 し て お り 、 19 日 ・ 20 日 に は 、 健全 木 の 値 と 比 べ て低 い 値 を 示 して い る。 同 様 に 、 下 のグ ラ フ 2 は 、 9 月 15 日 ~ 9 月 21 日 の 東 木 之 部 の コ ナラ 健全 木 と 矢 代 斜 面 下 の ア ベ マ キ 被害 木 の 樹 液 流速 に 関し て 同 様 に 示 し たグ ラ フ で あ る。 斜 面下 に 位 置 し て い た こ の ア ベ マキ は 、 8 月 初 め の 時点 で 、 多 少 の 穿 入を 受 け て は いた も のの 、 マ ス ア タ ッ ク を 受 け て はい な か っ た 。 8 月 末か ら 9 月 初 め ご ろ に マ ス ア タッ ク を 受け て い る の が 確 認 で き た 。 それ か ら 2 週 間 程 度 の時 期 の 値 と な る 。 相対値 1.00 0.90 0.80 0.70 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 0.00 9/15 9/16 9/17 9/18 東木之部コナラ健全木 グラフ2 SFM 9/19 9/20 9/21 9/22 矢代斜面下部アベマキ 被害木 被 害 木 ( 斜 面 下 )と健 全 木 の 比 較 グ ラ フ よ り 、こ ち ら の個 体 で も 、9 月 16 日 に 日 中 突 如 樹 液流 速 が 低 下 する とい っ た 現 象 が 確 認 で き る 。し か し 、 こ ちら の 場合 は 健 全 木 の 値 と重 な っ て い ると こ ろも 多 く 、 グ ラ フ 1 と 比 べ る と 値 の 外 れ 方は 小 さ かっ た 。 斜 面 下 部 と 斜 面 中腹 の 個 体 は とも に カシ ノ ナ ガ キ ク イ ムシ の マ ス ア タッ ク を受 け て い る が 、 そ の 時 期 が異 な る 。 マ スア タ ック を 受 け た 個 体 では 、 樹 体 内 に水 分 通導 機 能 が 停 止 し た 部 分 が 存 在す る 。 そ う いっ た 部分 を 迂 回 し な が ら水 分 通 導 が 行わ れ るこ と に な る の で 、 そ の 他 の 環境 要 因 が 加 わっ た 際に 、 水 分 通 導 が 低下 し や す く なる と 考え ら れ る 。 早 く か ら マ ス ア タッ ク を 受 け てい た 斜面 中 腹 の 個 体 で は、 よ り 多 く の部 位 で水 分 通 導 の 停 止 が 起 こ っ て いた と 考 え ら れる 。 ( 2 ) 熱 流 束 密度 の 測 定 結 果 次 に 熱 流 束 計に よ っ て 熱 流束 密 度を 測 定 す る こ と に よ り 、 非 破 壊的 に 樹液 流 を 測 定 す る 方 法 で の 測 定 結果 に つ い て 述べ る 。SFM の 測 定 結 果 際 に比 較 し た 個 体の内 、よ り 差 の 大 き か っ た 17 日 ~ 22 日 の 東 木 之 部 コナ ラ 健 全 木 と 矢 代斜 面 中 腹 コ ナラ 被 害木 の 測 定 結 果 を 同 様 に そ の 期間 中 の 相 対 比の グ ラフ に し た も の が 以下 の グ ラフ 3 で あ る 。 1 相対比 0.8 0.6 0.4 0.2 0 9/17 9/18 9/19 東木之部 コナラ 健全木 グラフ 3 熱流束計 9/20 9/21 9/22 9/23 矢代斜面中腹 コナラ 被害木 被 害 木 ( 斜面 中腹 ) と 健 全 木 の 比較 グ ラ フ 1 に お い て 樹 液流 速 の 値 に大 き な 差 が み ら れた 両 個 体 で すが 、 グラ フ 3 で は 、 あ ま り 大 き な 差 は見 ら れ な か った 。 グラ フ 1 で 特 に 大 き な 差 が あ った 18 日 ~ 20 日 の 波 形 に も 、 大 き な 違い は な く 、 19 日 、 20 日 の 値 が そ れ 以 降の 日 よ り も 小さ いこ と や 、 18 日 の 日 中 に 下 が って い る な ど グラ フ 1 の 斜 面 中 腹 被 害 木に 似 た 特 徴 が両 個 体に 見 ら れ た 。 夜 間 の 値 に は 、 多少 の 差 は 見 られ た が、 基 本 的 に 被 害 木と 健 全 木 で 測定 結 果に 差 は 見 ら れ な か っ た 。 ま た、 今 回 の 測 定で は 、セ ン サ ー の 設 置 の際 に 外 樹 皮 の削 り 方が 甘 か っ た か ら か 、 計 測 さ れた 値 は 、 非 常に 小 さく 計 器 の 測 定 で きる 範 囲 よ り も小 さ な範 囲 で の 値 の 変 化 が あ っ た と思 わ れ る 結 果で あ った 。 そ の た め 、 設置 そ の も の がう ま く出 来 て い な か っ た 可 能 性 が ある 。 まとめ 本 研 究 に お い て、SFM を 用 い る こ とに よ り 、樹 木 が カシ ノ ナ ガ キク イ ム シの 穿 入 を 受 け た 後 、 樹 液 流 速 の値 が 不 安 定 にな り 、健 全 木 を 下 回 る 値を 示 す よ う にな っ てい る こ と を 非 破 壊 的 に 確 認 す るこ と が 出 来 た。 今 回の 篠 山 市 の 調 査 個体 は 、 測 定 を終 了 した 11 月 6 日 の 時 点 で は 、 い ずれ の 個 体 も 枯死 に は、 至 ら な か っ た が、 カ シ ノ ナ ガキ ク イム シ の マ ス ア タ ッ ク を 受 け て から 長 く な る 程、 計 測結 果 に 表 れ る 差 も大 き く な り 、水 分 通導 が 低 下 し て い る こ と も 確 認 でき た 。 も ち ろん 、 樹液 流 の 低 下 が カ シノ ナ ガ キ ク イム シ の穿 入 だ け で 決 ま る わ け で は な い。 周 囲 の 水 分状 態 など の 環 境 要 因 の 影響 も 考 え ら れる 。 ナラ 枯 れ の 被 害 を 予 測 し 対 策 を 立て て ゆ く 上 で、 そ のよ う な 要 因 も 考 慮に 入 れ る 必 要が あ るが 、 ひ と ま ず SFM に よ る 樹 液 流 速 の 測 定 は ナ ラ 枯 れ が ど の 程 度 進 行 し て い る の か を 知 る 指 標 と し て 使 え る の で は な い かと 考 え ら れ る。 今 後は 、 環 境 要 因 な どと も 関 連 づ けた 解 析を 行 っ て ゆ く 必要がある。 今 回 、 熱 流 束 計を 用 い た 方 法で は 、樹 液 流 の 変 化 を とら え る こ と が出 来 なか っ た 。 し か し 、 樹 木 と 外 気 の間 で の 熱 の 移動 の 日変 化 を と ら え る こと は で き て いた 。 外樹 皮 を ど の 程 度 削 る べ き か 、 設置 方 法 と し ては 、 どの よ う に す る の が最 適 か な ど 方法 と して 突 き 詰 め て い か な け れ ば な らな い と こ ろ は多 数 ある 。し か し 、SFM も 簡 単 に 設 置で き ると い う も の で は な い の で 、 非 破壊 的 な 方 法 とし て 利用 で き る よ う に なれ ば 、 樹 木 病害 の 診断 ・ 対 策 に 役 立つだろう。
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