てんかん疑にて救急搬送された一症例

症候性てんかん疑いにて
救急搬送された1症例
県立大島病院
研修医 堀之内 駿
搬送時現症
【患者】
【身長】
86歳, 女性
150cm
【体重】
【意識】
52kg
JCSⅢ-300、GCS3(E1, V1, M1)
【体温】
40.1℃
【血圧】
100~120 mmHg
【心拍数】
60 bpm(ペースメーカー調律)
【呼吸】
SpO2 96% (room air)
【瞳孔】
5mm/5mm 対光反射+/+
【胸部】
自発呼吸(+)、搬送中に呼吸停止あり
【経過】
18:13 当院到着
自発呼吸あるが呼吸状態不安定のため気管挿管
BVMで補助換気
18:26 Torsade de pointes(TdP)出現→橈骨動脈触知せず
10secで自然に戻る
右大腿動脈よりA line確保
右内頚静脈よりCV挿入
DOA 10γで開始
【経過】
各種検査提出、レントゲン、CT施行
検査、処置施行中にも3回のTdP
18:46 自然に戻る
18:52 自然に戻る
18:58 DC 120J 施行→ペーシング波形
【現病歴】
-第4病日:転倒、右肩負傷あり
-第3病日:Kクリニック受診
BT37.6℃、頭痛あり
-第2病日:BT37.3℃、嘔気、嘔吐あり
Aクリニック受診し、検査目的に入院
-第1病日:16:40痙攣発作あり、JCSⅢ-300
呼吸停止15~20secあり、レベル自然回復
フェノバルビタール10mg+ソルラクト500ml div
第1病日:17:30痙攣発作あり、JCSⅢ-300、SpO2 50%台
O2 12L開始、一時呼吸停止あり
レベル回復せず当院救急搬送
【既往歴】 完全房室ブロック
ペースメーカー植え込み術
(2002年 当院、2008年 交換)
甲状腺機能低下症
【薬剤歴】 チラージン、ポララミン、タリオン
ユニシアHD、、ガスモチン、リセドロン
ラックビー、トコフェロールニコチン酸エステル
入院時検査所見
WBC
8800
RBC
406
Hb
12.3
Htc
37.2
Plt
9.6
PT
90.2%
APTT
27.0
AT-Ⅲ
48.9
FDP
24.5
D-dimer 9.9
AST
189
ALT
103
LDH 647
ALP
204
γGTP 43
T-Bil 0.8
CK
255
TP
6.0
Alb
2.9
CRP
8.5
BUN 10.5
Cr
0.7
Na 130
K
4.3
Cl
93
Ca
7.6
BNP 347.4
トロポニンT (+)
入院時検査所見
【尿検査】
混濁(-) ,白血球(-) ,細菌(-)
【髄液検査】 髄液糖量 88 ,髄液蛋白量 27.1
【胸腹部Xp】 CTR 61.1% ,CPA sharp ,肺うっ血(-)
free air(-)
【頭部CT】
頭蓋内出血なし、その他特記所見なし
【胸腹部CT】 両側軽度胸水、心肥大あり
その他特記所見なし
【心エコー】
壁運動低下、重度AS、肺高血圧、IVC拡大
胸部Xp
【経過】
20:27 呼吸器装着(SIMV10、FiO2 60%、PEEP7
PC12、PS17)
21:55 アミオダロン33ml/H(急速飽和)開始
23:20 CTRX2g/day開始
【経過】
第2病日
02:35 TdP(10sec)×2回
04:00 アミオダロン17ml/H(維持投与)
06:34 TdP(10sec以内)が1回/分で頻発
(吸引や体位変換等でも30sec以内のTdP)
07:00 アミオダロンoff
07:14 TdP(50sec)→自然に戻る
08:01 TdP→Vf→DC施行→ペーシング波形
アミオダロン17ml/Hで再開
【経過】
その後も一過性TdP頻発
16:36~20:42
TdP(30sec)→DC150J→ペーシング波形 ×5
22:00 硫酸マグネシウム20ml、カリウム補正
第3病日
06:44~07:38
TdP×6
10:15 ペースメーカーをHR60→80に設定変更
以後TdP、VPC等不整脈なし
痙攣の鑑別診断
神経疾患
脳出血
くも膜下出血
慢性硬膜下血腫
脳梗塞
脳腫瘍
ヘルペス脳炎
細菌性髄膜炎
外傷性痙攣
膠原病(SLE)
結節性硬化症
全身性疾患
心疾患
VF,VT
代謝性
高Na,低Na,低Ca,低Mg
肝性脳症,尿毒症
内分泌
甲状腺機能異常,低血糖
血液
多血症,TTP,HUS
薬物中毒
アルコール離脱
ベンゾジアゼピン離脱
QT延長症候群
先天性(遺伝子異常)と二次性(薬剤etc)
疫学:日本に2万人程度
成因:遺伝子異常による心筋細胞イオンチャネルの異常
→心室性不整脈の原因
(Torsade de pointes)
QT延長症候群
二次性の原因
薬剤:抗不整脈薬、向精神病薬、三環系抗うつ薬
抗生剤、抗真菌薬、抗アレルギー薬
H2受容体拮抗薬、抗癌剤、高脂血症薬
徐脈性不整脈:高度AVblock、洞不全
電解質異常:低K、低Ca、低Mg
中枢神経疾患:くも膜下出血、脳出血、脳梗塞
うっ血性心不全
急性心筋梗塞
たこつぼ型心筋症
甲状腺機能低下
急性膵炎
etc
QT延長症候群
治療
TdPの停止と急性再発予防⇒硫酸マグネシウム
(抗不整脈薬:リドカイン)
徐脈がTdP発症を助長する場合
⇒一時ペーシングでHRを上げる
TdPが持続する場合⇒除細動
慢性期再発予防⇒β遮断薬
二次性の場合⇒イソプロテレノールでHRを上げる
薬剤性の場合⇒薬剤の中止
原因疾患等がある場合⇒原因疾患の治療
結語
今回TdPからの痙攣発作の1症例を経験した。
痙攣発作の原因としてQT延長からくるTdPも可能
性の1つとして考えられる。
QTSのほとんどが二次性であり、TdPの発生に薬
剤やペーシングで対処しながら原因検索し、取り
除くことが重要。
参考文献
Guidelines for Diagnosis and Management of Patients with Long
QT Syndrome and Brugada Syndrome(JCS2012)
JRC蘇生ガイドライン2010
救急医学 第37巻第2号
日本化学療法学会雑誌 VOL.54 NO.4
小児内科 Vol.40 No.2,2008-2
四国医誌 61巻5,6号 135~139
Therapeutic Research vol.28 no.2 2007