エル・エス・コーチ九州 社労士試験判例キーワード

エル・エス・コーチ九州 社労士試験判例キーワード
今回は就業規則の不利益変更の「ノイズ研究所事件」を取り上げます。その中のキーワードは就
業規則の不利益変更要件ですね。さっそくみてみましょう。
東京高判 平 18.6.22(労働判例 920 号5頁)
上告審 最三小決平 20.3.28
一審 横浜地川崎支判平 16.2.26
1.概要
(1)新賃金制度導入当時 39 歳と 47 歳である主任と係長の地位にあった者らが、就業規則の変
更により賃金制度を年功序列型(職能給)から成果主義型(職務給)に変更されたことを不
服として、本件就業規則変更前の基本給および役職手当等を受領する地位にあることの確認
等を求めた事案である。
一審は、本件就業規則及び給与規程の改定は経過措置、代償措置ないし緩和措置としては不
十分であり、したがって就業規則の変更は無効であるとした(請求認容)。なお、上告審は、
上告不受理の決定を下している。
(2)事実関係
①新賃金制度の下では、職務の格付けや人事考課査定の運用の仕方により、旧賃金制度の下
で支給されていた賃金額より顕著に減少した賃金額が支給される可能性があった。
②Y会社は、主力商品の競争の激化により、売上げや営業利益が減少し、税引き前損益が損
失に転じていた。
③新賃金制度は、Y会社にとって重要な職務により有能な人材を投入するために従業員に対
して従事する職務の重要性の程度に応じた処遇を行うという目的で行われたもので、従業
員に対して支給する賃金原資総額を減少させるものではなかった。
④本件賃金制度の変更に当たり、事前の従業員への周知ならびに一部の従業員(X らを含む)
の所属する組合との団体交渉が行われており、組合との間では合意に至らなかったものの、
その経過においてY会社に不誠実な態度はなかった。
⑤Y会社は、経過措置として、制度変更の1年目は差額相当分全額の、2年目は 50%相当分
の調整手当を支払うとしていたが、その他は特別な緩和措置を設けていなかった。
2 判旨:請求棄却(原判決取消)
(1)①「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な
労働条件を一方的に課することは、原則として許されない」
。
しかし、
②「労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質か
らいって、当該規則条項が合理的なものである限り」、
③「個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許さ
れない」
。
④「当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及
び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、
なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を
有するものであることをいい」
、
⑤「特に、賃金、退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を
及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的
に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容の
ものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」。
⑥「上記の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、
使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置そ
の他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の
従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべ
きである」
。
(2)①本件認定事実によれば、
「旧賃金制度の下で支給されていた賃金額より賃金額が顕著に減
少することとなる可能性があり、この点において不利益性がある」が、
②「Y 会社は・・・高度の必要性があったのであり」、
③「新賃金制度は・・・賃金原資配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものであ
って、
・・・上記の必要性に見合ったものとして相当であり」
、
「労使の交渉の経過」や「経
過措置が採られたこと」など諸事情を総合考慮するならば、
④「上記のとおり不利益性があり、現実に取られた経過措置が2年間に限って賃金減額分の
一部を補てんするにとどまるものであっていささか性急で柔軟性にかける嫌いがないと
はいえない点を考慮しても、なお、上記の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない
程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるといわざるを得ない」。
(3)「したがって、本件給与規程等の変更は、Xらに対しても効力を生ずるというべきである」。
結論:労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、そのような不
利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合
理的な内容のものであればその効力を生ずるものとされました。具体的には、就業規則の変更によ
って労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容
自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他
の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮
して判断すべきであるとされました。