異型狭心症/不安定狭心症

特集
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基礎から分かる! 初療における心臓系疾患
“トリアージ”とその先の展開と看護
異型狭心症/不安定狭心症
∼迷いやすい徴候,症状からのアセスメントとトリアージ∼
キーワード
MONA
さるも聴診器(OMI)
マジックナンバー“6”と“12”
狭心症とは
狭心症(angina pectoris:AP)とは,冠動脈
の動脈硬化による器質的狭窄,もしくは冠攣縮
ふる
げん
たけし
古 堅 健
社会医療法人敬愛会 中頭病院
救急診療部 救急看護認定看護師
2002年那覇看護専門学校准看護学科卒業,2006年那覇看護
専門学校看護学科卒業。2006年より社会医療法人敬愛会中頭
病院に就職。2013年日本赤十字九州国際大学看護継続教育セ
ンター救急看護認定看護師教育課程修了。
など機能的狭窄により心筋の虚血が一過性かつ
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可逆性に起こり,心筋の酸素不足から胸痛が発
ST上昇を伴うものを冠攣縮性狭心症(coronary
生する状態を言います。心筋梗塞とは違い,不
vasospasm)
,中でも異型狭心症(variant angi-
可逆的な心筋壊死にまでは至っていないことが
na)と言います。
特徴です1)。
臨床経過による分類
狭心症は,発症誘因や臨床症状などにより次
安定性狭心症(stable angina)
のように分類されます。
最近3週間で症状や発作がある程度周期的に
発症の誘因による分類
起こる安定化した狭心症です。症状は比較的軽
労作性狭心症(exertional angina)
度で,狭心痛の強さ,持続時間,頻度が減少も
労作・運動・興奮・寒冷などの身体的なスト
増加もせず症状に変化がないのが特徴です。
レスが加わった時に起こる狭心症です。冠動脈
不安定狭心症(unstable angina pectoris)
の硬化に基づく器質的狭窄により,狭窄末梢部
症状が最近3週間以内に発症した場合で,発
において酸素需要に見合うだけの冠血流の増加
作が増悪しているものです。発作の起こり方や
がなく,酸素が心筋へ十分に供給されないため
痛みの出る場所などが一定しないのが特徴です。
に心筋虚血状態となることが原因です。一定以
例えば,心筋虚血にとどまり心筋壊死を免れた
上の労作になると狭心痛が出現するという再現
状態で硝酸薬の効果が悪くなる,症状が軽く
性があります。
なったかと思えば突然悪化するなどの激しいも
安静時狭心症(angina at rest)
のです。心筋障害マーカー(トロポニンTまた
心筋の酸素需要の増加とは明らかに関連がな
はI)は2回以上の経時的観察(6~12時間
く起こる狭心症です。安静時狭心症の中には,
間隔)で基準値内の陰性にあります。約30%
高度な器質的狭窄があり,安静時のわずかな血
が急性心筋梗塞に移行しやすく,突然死を生じ
圧・心拍数の変化でも容易に狭心症発作が出現
る危険性が高いため注意が必要です。
するものから,器質的狭窄がなく,狭心症発作
このことから,急性冠症候群(acute coronary
が睡眠や安静時に限られるものまであります。
syndrome:ACS)
(図1)の1つに含まれ,
また,発作が安静時,特に夜間から早朝に生じ,
1989年にBraunwaldにより分類(表1)され
救急看護 ケア・アセスメントとトリアージ vol.5 no.3
図1 ACSの分類
表1 不安定狭心症の分類(Braunwald, 1989)
【重症度】
急性冠症候群(ACS)
不安定狭心症
(UAP)
心筋虚血のみ
心筋壊死なし
急性心筋梗塞
(AMI)
心筋虚血と
心筋壊死
非ST上昇型急性心筋梗塞
(NSTEMI)
虚血性
突然心停止
心室細動:VF
ST上昇型急性心筋梗塞
(STEMI)
ClassⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症
最近2カ月以内に発症した狭心症
1日に3回以上発作が頻発するか,軽労作でも発
作が起きる増悪型労作狭心症。安静狭心症は認め
ない
ClassⅡ:亜急性安静狭心症
最近1カ月以内に1回以上安静狭心症があるが,
48時間以内に発作を認めない
ClassⅢ:急性安静狭心症
48時間以内に1回以上の安静時発作を認める
【臨床症状】
ています。臨床場面において,安定性狭心症か
不安定狭心症かが鑑別のポイントとなります。
発症機序による分類
器質性狭心症(organic angina)
冠動脈の狭窄による冠血流量減少で虚血を起
こす狭心症です。
微小血管狭心症(microvascular angina)
ClassA:二次性不安定狭心症(貧血,発熱,低血圧,
頻脈などの心外因子により出現)
ClassB:一次性不安定狭心症(ClassAに示すよう
な心外因子のないもの)
ClassC:梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後2週
間以内の不安定狭心症)
【治療状況】
1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中
2)一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬,
長時間持続硝酸薬,Ca拮抗薬)
3)ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬
による治療中
心筋内に分枝していて,冠動脈造影検査では
Braunwald E:Unstable angina. A classification.
Circulation 1989;80:410-414.
造影されない冠動脈の微小な部分を微小血管と
言い,この部位の拡張障害があるために起こる
作が起こっている時に検査しない限り異常が診
狭心症です。発作の時,あるいはマスター,エ
断できないため,発作が起こった時の心電図や
ルゴメーター,トレッドミルなどの運動負荷試
心エコーを施行するか,24時間Holter心電図で
験や心臓ペーシング負荷試験で心筋虚血の存在
の監視,カテーテル検査でのアセチルコリン負
が証明されているのに,冠動脈造影検査では狭
荷試験などが必要となります。
窄がなく,冠動脈攣縮も存在しない場合に考え
異型狭心症
られる病態です。患者の男女比が大きく,中で
冠動脈の一部が発作的に攣縮を起こし,完全
も更年期の女性に多く見られます。女性の場合
またはほぼ完全に閉塞されると,その灌流領域
は,閉経により血管拡張作用を持つエストロゲ
(心内膜側だけではST波が低下,心外膜側まで
ンが減少することにより引き起こされます。
に至るとST波が上昇する)に貫壁性の虚血が生
冠攣縮性狭心症
じ,心電図でST波が上昇します。この場合を異
早朝や夜間の安静時に,心外膜側にある太い
型狭心症と言います。心電図のST変化も急性心
冠動脈が痙攣性に収縮(攣縮)したために心臓
筋梗塞と全く同じですが,急性心筋梗塞と違う
の血管そのものが極度に狭くなり,虚血によっ
ところは発作が数分で治まるため,心筋が壊死
て起こる狭心症です。攣縮は,運動とは無関係
に陥らないことです。そのため,ST上昇があっ
に起こるために,安静時狭心症の大部分は冠攣
ても異常Q波が認められることはありません。
縮性狭心症と言われています。狭心痛は5~
また,心電図以外に,硝酸薬が有効かどうか,
15分間,長くても30分以内に消失します。発
心筋酵素の上昇の有無からも診断します。ただ
救急看護 ケア・アセスメントとトリアージ vol.5 no.3
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表2 狭心症の重症度分類(CCSC, 1972)
表3 MONA
クラスⅠ
歩くことや階段を昇るなど通常の身体活動により狭心
症が起きない。仕事やレクリエーション時の高度,急
速,または長時間の労作により狭心症が起こる。
クラスⅡ
通常の活動が少し制限される。速く歩く,階段を昇る,
上り坂を歩く,食後・寒中・風の中を歩く,などを行っ
た時,情動ストレス時,あるいは目覚め後数時間以内
に狭心症が起こる。平地を2ブロック(200m)以
上歩いたり,正常時に普通のペースで階段を2階分以
上まで昇った時に狭心症が起こる。
クラスⅢ
通常の活動が著しく制限される。平地を1または2ブ
ロック(100 ∼ 200m)歩いたり,正常時に普通の
ペースで階段を1階から2階まで昇ったりした時に狭
心症が起こる。
クラスⅣ
いかなる動作でも,安静時にも狭心症が生じる。
表4 さるも聴診器(OMI)
さ:酸素投与(O)
る:ルート確保(I)
も:モニタリング(M)
聴:超音波エコー
診:心電図
器:胸部X線
し,異型狭心症でも攣縮が長時間続けば急性心
そこで,救急看護師はトリアージの際,胸痛
筋梗塞に移行することも当然あります。さらに,
の原因を決定することだけに専念するのではな
異型狭心症は運動負荷心電図では診断できませ
く,患者が訴えている胸痛は緊急性があるのか
ん。もともと冠動脈は狭くないので,いくら運
ないのかを即座に判断できるように対応するこ
動しても心電図に変化は出ないからです。Holter
とが大切です。そして,緊急性が高いと判断し
心電図をつけている時に発作があれば診断は可
た時に迅速で適切な対応ができる技術が必要不
能となります。
可欠となります。
狭心症における重症度分類は,
「労作性狭心
迅速に適切な対応をするために覚えていただ
症におけるカナダ心臓血管学会分類クラス
きたいのは,MONA(表3)と さるも聴診
(Canadian Cardiovascular Society Criteria:
12
M(Morphine)
:モルヒネ
O(Oxygen)
:酸素
N(Nitroglycerin)
:硝酸薬
A(Aspirin)
:アスピリン
(表4)です。
器(OMI)
CCSC,1972)(表2)が用いられることが多
また,糖尿病や認知症,脳卒中の後遺症を有
いです。
する患者は,胸痛を訴えなかったり,非典型的
本稿では,これらの狭心症の中から,異型狭
な症状(表5)を呈したりすることがあります。
心症・不安定狭心症の2つに絞って概説します。
さらに,胸痛は痛みで表現する以外に,圧迫
危険性の高い疾患・非典型的な
症状を見つけるアセスメント
感や不快感,絞扼感,重圧感などと表現され
救急領域において,胸痛はメジャーな主訴の
を聞きながら,ほかの症状も観察する必要があ
一つで,胸部から腹部のさまざまな臓器によっ
ります。
て引き起こされます。同時に,疼痛コントロー
救急外来で胸痛の疾患頻度は,不安定狭心症
ルのみで問題のない疾患から,迅速な対応を行
が21 ~27%,急性心筋梗塞が12 ~20%,安
わなければ生命にかかわる疾患まで,鑑別は幅
定性狭心症が5.6 ~12%など,心血管系が約半
広くあります。狭心症においても大半は胸痛が
数以上を占めています。胸痛からはさまざまな
主訴となっています。
疾患を思い浮かべることができると思います
救急看護 ケア・アセスメントとトリアージ vol.5 no.3
る場合があります。
「痛みを訴えない=緊急性
が低い」とは判断できませんので,患者の訴え