補正予算は成長率を0.3%押し上げ

みずほインサイト
日本経済
2016 年 1 月 12 日
補正予算は成長率を 0.3%押し上げ
経済調査部
配分方法に課題が残る低年金生活者への給付
03-3591-1243
川口亮
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○ 昨年の12月18日に閣議決定された補正予算案は、2016年度の成長率を約0.3%押し上げると試算
(2017年度以降も含む累計では約0.5%のGDP押し上げ効果)
○ 企業の設備投資支援を通じた国内経済の活性化や、育児・介護環境の整備などを目標とする政府の
方向性は評価
○ 低年金生活者への給付(年金生活者等支援臨時福祉給付金)については、①年間収入の少ない子育
て世帯に配られないこと、②給付を受ける高齢者の中に高貯蓄者が含まれるなど、配分方法に課題
1.2015 年度補正予算案を閣議決定、一億総活躍社会の実現に向けての第一弾
政府は昨年の12月18日に2015年度補正予算案を閣議決定した。依然足踏みしている景気を浮揚させ
るとともに、一億総活躍社会の実現、及びTPP大筋合意を受けた農林水産業の体質強化などのため、
総額3.3兆円規模の補正予算案となった。このうち、既定経費の減額による財源の捻出(約1.5兆円)
と税収増等に伴う地方交付税交付金の増額(約1.3兆円)を調整すると、実質的な追加歳出額は約3.5
兆円となる(図表1)。
図表 1
2015 年度補正予算の概要と規模(追加歳出部分)
国費(億円)
Ⅰ.一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策等
「希望出生率1.8」及び「介護離職ゼロ」に直結する緊急対策等
アベノミクスの果実の均てんによる消費喚起・安心の社会保障(年金生活者等支援臨時福祉給付金)
投資促進・生産性革命
地方創生の本格展開等
Ⅱ.TPP関連政策大綱実現に向けた施策
11,646
3,951
3,624
2,401
1,670
3,403
攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)
TPPの活用促進・TPPを通じた「強い経済」の実現(対日直接投資促進等)
Ⅲ.その他
3,122
280
19,981
災害復旧・防災・減災事業
復興の加速化等
その他喫緊の課題への対応(テロ対策等)
その他追加財政需要
5,169
8,215
3,037
3,560
合計
3.5兆円
(資料)財務省より、みずほ総合研究所作成
1
追加歳出の中身としては、①「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策等」に約1.2
兆円、②「TPP関連政策大綱実現に向けた施策」に約0.3兆円、その他にも、「災害復旧・防災・減
災事業」に約0.5兆円、また東日本大震災からの復興の加速化等の事業(約0.8兆円)や、今年5月の伊
勢志摩サミット開催などを踏まえたテロ対策強化のための経費を含むその他喫緊の課題への対応(約
0.3兆円)も計上された。
今回の補正予算案に盛り込まれた施策のうち、注目されているものの一つに「年金生活者等支援臨
時福祉給付金」がある。具体的には、賃上げの効果が及びにくい低年金受給者に対して、1人3万円の
臨時給付金の支給を実施し、低迷する国内消費を刺激しようとするものである。2014年度の補正予算
においても、個人消費の喚起策としてプレミアム付き商品券の発行などが行われ、大きな話題を呼ん
だ。なお、今回の給付金がプレミアム付き商品券と異なる点としては、対象が住民税非課税となって
いる65歳以上の高齢者(約1,100万人)に限定されていることが挙げられる。また、補正予算ではない
ものの、2016年度当初予算においては、65歳未満でも障害基礎年金や遺族基礎年金の受給者(約150
万人)に給付がされる模様だ。
2.2015 年度補正予算の経済効果試算~2016 年度成長率を約 0.3%押し上げ
現時点で明らかになっている情報を基に、今回の補正予算による経済効果を試算すると、2016年度
の成長率が約0.3%押し上げられ、2017年度以降を含む累計ではGDPの水準が約0.5%(累計約2.5
兆円)押し上げられる計算結果となった(図表2)
。
経済効果の試算結果が補正予算による追加歳出額の約3.5兆円よりも小幅となったのは、①国費投入
額のうち復興債の償還財源に充てられる金額(債権者への元本の支払い部分)など、GDPを直接押
し上げる効果を持たないものについては除外したこと、及び②家計向け・企業向けの政策については
国費投入分がそのまま新規需要の創出につながるわけではないこと(年金生活者等支援臨時福祉給付
金などの給付金事業は政府消費と異なり、貯蓄されてしまう部分が生じるため、経済効果が政府消費
と比べて控え目になる)が要因である。
図表 2
需要項目別にみた経済効果(GDP押し上げ効果)の試算結果
経済効果
累計
国費投入額
( 兆円)
合計
金額
( 兆円)
2 0 1 6 年度の押し上げ
GDPへの寄与度
( %Pt)
GDPへの寄与度
( %Pt)
2 .6 2
2 .5 1
0 .4 9
0 .3 2
個人消費+住宅投資
0.54
0.14
0.03
0.03
設備投資
0.70
0.50
0.10
0.05
公的需要
1.38
1.87
0.37
0.25
政府消費
0.66
0.66
0.13
0.13
公共投資
0.72
1.22
0.24
0.12
(注)1.補正予算の歳出額との違いについては、GDPに影響を与えないものについては当該計算から除外している。
2.執筆時点で入手可能な情報に基づき、みずほ総合研究所が試算。試算結果は幅をもってみる必要がある。
3.四捨五入の関係で数値が一致しない部分がある。
(資料)平成27年度補正予算に関する各省庁の資料より、みずほ総合研究所作成
2
需要項目別にみると、GDPへの寄与度全体のなかで、公共投資が大きな割合を占めている。公共
投資については、2015年に発生した台風や豪雨等からの災害復旧工事、及び昨年9月の関東・東北豪雨
等により発生した水害・土砂災害を踏まえ、人命被害や国民の生活に大きな支障が生じるおそれのあ
る地域について、安全・安心を確保するため緊急的に対策が実施される。このほかにも、東日本復興
特別会計に計上された関連事業の一部についても、公共事業費の増分と想定した。これに地方の負担
も含めた総事業規模のGDPベースの公共投資の増加額は約1.2兆円となるだろう。
3.2015 年度補正予算に対する評価と課題
(1)政府の目標とする一億総活躍社会の実現に期待
企業の設備投資支援などを通じた国内経済の活性化や、育児・介護環境の整備などを目標とする政
府の方向性は評価できよう。途切れかけた景気拡大の好循環を再び勢いづけるためには、設備投資の
増加や賃上げによる消費回復が必要不可欠なものだからである。また、少子高齢化により人手不足が
徐々に深刻化しており、子育て環境の整備や介護離職対策が、マクロ的な供給制約の緩和につながっ
ていくと期待できる。
(2)年金生活者等支援臨時福祉給付金の対象については工夫が必要
注目施策の1つである低年金生活者への給付については、賃上げの効果が及びにくい高齢者に対して
給付を実施するという趣旨は、一定の理解ができる。ただ、その給付対象に疑問が残るのも事実だ。
①65歳以上の低年金生活者に対してのみ1人3万円の給付がなされ、年間収入の少ない子育て世帯に給
付されないことにやはり不公平感は拭えない。また、②給付を受ける高齢者の中に高貯蓄世帯が含ま
れており、世代間格差の助長につながりかねないためだ。
具体的にみると、低年金世帯(公的年金・恩給を受給している年間収入200万円未満の世帯) 1にお
いては、900万円以上の金融資産を保有している世帯が約4割を占める(図表3左)。こうした高貯蓄世
帯は、必ずしも政策的支援を必要としているとはいえないだろう。実際、政府による経済財政白書で
の分析をみると、低所得世帯の中でも高齢者層は貯蓄水準が平均的に高いため、消費増税後の消費落
図表 3
50%
低所得(年間収入 200 万円未満)の年金受給世帯・子育て世帯が保有する金融資産の分布
50%
年金受給世帯
40%
40%
30%
30%
20%
20%
10%
10%
0%
子育て世帯
0%
150万円未満
150~450万円 450~900万円 900~2000万円 2000万円~
150万円未満
(注)1.二人以上の世帯。
2.年金受給世帯とは、公的年金・恩給を受給している世帯を指す。
3.子育て世帯とは、夫婦と未婚の子供のみの世帯で世帯主のみが有業者の世帯を指す。
(資料)総務省「平成26年全国消費実態調査」より、みずほ総合研究所作成
3
150~450万円 450~900万円 900~2000万円 2000万円~
ち込みからの回復が、他の世代よりも進んでいることが示されている(平成27年版経済財政白書1-1
-7図(2)参照) 2。
もっとも、各世帯の貯蓄把握が難しい現時点においては、低所得世帯のうち高貯蓄世帯への給付を
行わないことは難しい。ならば、せめて年齢間の不公平をもたらさないためにも、高齢者への給付額
を抑制した上で、その財源を低収入の子育て世帯への給付に回すべきではないだろうか(低収入の子
育て世帯は貯蓄も少ない場合が大半であり、真に支援が必要な世帯に給付が届きやすい 3、図表3右)。
また、より長い視点からは、次回以降の給付実施に備えて、マイナンバーを用いた貯蓄の把握を進め
る必要がある。
(3)消費再増税に耐えうる経済環境づくりには官民双方の行動が必要
2017年4月には消費再増税が予定されている。2014年4月に5%から8%へ増税した際には、実質賃金
の低下などにより個人消費は大幅に落ち込み、その後も低調な推移が続いている。それゆえ、2017年4
月に再増税を実施するためには、増税に耐え得る経済環境を整えることが急務の課題である。2015年
度補正予算の着実な執行に加え、規制緩和などによる成長基盤の強化、さらには民間企業における賃
上げなど、官民双方の一段の取組みがとなってくるであろう。
4
(補論)需要項目ごとにおける経済効果の算定方法
(1)個人消費+住宅投資
国費投入額については、個人消費として年金生活者等支援臨時福祉給付金(3,390億円)やひとり親
家庭等の支援(117億円)
、また住宅投資としてすまい給付金(200億円)などを積み上げた。これにみ
ずほ総合研究所作成のマクロモデル乗数を使用し、経済効果の算出を行っている。
(2)設備投資
国費投入額については、ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金(1,021億円)などの企業へ
の補助金、及び農産クラスター事業(610億円)などの第一次産業従事者への支援などを積み上げた。
これにみずほ総合研究所作成のマクロモデル乗数を使用し、経済効果の算出を行っている。
(3)政府消費
国費投入額については、年金生活者等支援臨時福祉給付金の実施にかかる事務費(234億円)、軽減
税率の相談窓口等の経費(170億円)、自衛隊の災害対処能力・安定的な運用体制の確保 4(979億円)
などを積み上げて算出している。
(4)公共投資
国費投入額については、自然災害リスク回避等のための防災・減災対策(2,642億円)
、公共土木施
設等の災害復旧等(1,032億円)の公共事業関係費 5のなかで、事業規模のわかる部分については当該
金額(7,229億円)
、それ以外の公共事業関係費及び、公共事業関係費に該当しない公共投資(公立学
校等施設整備など)については、2/3を国、1/3を地方で負担すると仮定して事業規模を試算した。な
お、公共事業については、近年建設現場における人手不足や資材価格の高騰が常態化しており、進捗
が後ずれする可能性がある。
給付金の対象範囲は夫婦二人の場合、所得水準 211 万円程度が目安となるが、統計の制約から年間収入 200 万円未
満とした。
1
2
なお、経済財政白書の分析では、低所得者層は年間収入 200~400 万円未満と定義されている。
先ほど引用した平成 27 年版経済財政白書では、60 歳未満の低所得世帯において、増税後の消費回復が遅れているこ
とが示されている。
3
4
自衛隊の装備品・資機材の整備など民間転用不可能な事業は政府消費(中間投入)に分類される。
5
「公共事業関係費」とは、9 分野(①治山治水対策事業費、②道路整備事業費、③港湾空港鉄道等整備事業費、④住
宅都市環境整備事業費、⑤公園水道廃棄物処理等施設整備費、⑥農林水産基盤整備事業費、⑦社会資本総合整備事業費、
⑧推進費等、⑨公共土木施設等の災害復旧等事業費)に大別される。
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