銀行の国債保有に係る規制の強化

みずほインサイト
グローバル
2016 年 2 月 12 日
銀行の国債保有に係る規制の強化
金融調査部主任研究員
欧州債務危機の経験を踏まえドイツ等が主導
03-3591-1417
佐原雄次郎
yujiro.sahara @mizuho-ri.co.jp
○ バーゼル銀行監督委員会は、ソブリンリスク(国債の保有をはじめ、政府や中央銀行、政府関係機
関等に対する信用供与に係るリスク)の規制上の取り扱いについての見直しを行っている。
○ 先行して議論が行われているユーロ圏では、銀行のソブリンに対する信用供与について、リスクウ
ェイトを引き上げることや、国ごとに上限を設けること、等の規制強化案が検討されている。
○ 「完全なソブリン」と「副次的なソブリン」とでは、発行する国債の性質が大きく異なるほか、規
制が強化された場合には、経済や財政にも幅広く影響が及ぶことから、慎重な検討が求められる。
1.はじめに
2008年9月のリーマンショックから7年が経過し、バーゼルⅢをはじめとする金融危機後の国際的な
金融規制改革は最終段階に入っている。銀行に対する規制の国際基準を策定するバーゼル銀行監督委
員会(以下、バーゼル委)では、現在、自己資本比率の分母(リスクアセット)の計算方法の見直し
やレバレッジ比率の定義・水準の調整が検討されているが、これらの項目は2016年末までに目処がつ
く予定となっている(図表1)。
一方、バーゼル委では、ソブリンリスク(国債の保有をはじめ、政府や中央銀行、政府関係機関等
図表 1
国際的な金融規制改革の主な項目の検討状況
金融安定理事会やバーゼル委等
における検討状況
項目
分野
自己資本比率の分子(自己資本)の質・量の強化
ー
バ
健全性規制
ゼ レバレッジ比率
ル
流動性カバレッジ比率(LCR)
Ⅲ
安定調達比率(NSFR)
検討中。2016年中に最終化、2018年から実施
検討完了。2015年から段階実施
検討完了。2018年から実施
大口エクスポージャー規制
検討完了。2019年から実施
ソブリンリスクの規制上の取り扱いの見直し
検討中
Too-Big-To- G-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)バッファー
Fail対策
TLAC(破綻時に備えた損失吸収力の確保)
店頭デリバ
ティブ規制
シャドーバン
キング規制
検討完了。2013年から段階実施
自己資本比率の分母(リスクアセット)の計算方法の見直し 検討中。2016年末までに作業完了
検討完了。2016年から段階実施
検討完了。2019年から段階実施
清算集中義務
検討完了。2012年から段階実施
中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制
検討完了。2016年から段階実施
MMF規制改革
検討完了
証券化リスクリテンション
検討完了
資産運用業に対する規制
検討中
(資料)みずほ総合研究所作成
1
に対する信用供与に係るリスク)の規制上の取り扱いについても見直しを行っているが、この項目に
ついては、他の項目と異なり、見直しの方向性やスケジュール感がいまだに示されていない。ソブリ
ンリスクの規制上の取り扱いの見直しは、当初、2010年~2012年に深刻化した欧州債務危機を契機と
して、ユーロ圏において活発に議論されるようになったテーマであるが、先般バーゼル委の見直し項
目となったことにより、今後世界的に議論が深められていくことが見込まれる。そこで本稿では、ユ
ーロ圏における議論を確認しながら、規制が見直されることとなった背景や論点、今後の見通しにつ
いて整理したい。
2.背景
(1)欧州債務危機で問題となった財政政策の「裁量と責任の不一致」
ギリシャの財政問題に端を発し、2010年~2012年に深刻化した欧州債務危機は、各国の財政政策を
決めるのは各国自身であるにもかかわらず、財政が悪化し債務の履行が困難になった場合には、その
国をユーロ圏全体で支援・救済せざるをえないというユーロ圏特有の問題を表面化させた。危機の収
束後は、この財政政策の「裁量と責任の不一致」をいかに解消するかが金融システムの安定に向けた
中心的な課題となっている。
一つの解決策は、ユーロ圏各国の財政政策の権限をユーロ圏レベルの当局に移管する「財政同盟」
である。ユーロ圏レベルで財政政策を決定できるようになれば、「裁量と責任の不一致」は解消され
る。しかし、各国の政府や有権者は自国の財政政策を他者に委ねることに消極的であり、「財政同盟」
を直ちに実現できる状況ではない。
(2)国家財政と銀行財務の「負の連鎖」を断ち切るための取り組み
そこで、もう一つの解決策として、国家財政と銀行財務の「負の連鎖」を断ち切るための取り組み
が進められるようになった。「負の連鎖」とは、国家財政が悪化すれば国債の価値の下落を通じて銀
行財務が悪化し、銀行財務が悪化すれば国家による銀行救済を通じて国家財政が悪化するという悪循
環を指す(図表2)。欧州債務危機において、財政が悪化した国家をユーロ圏全体で支援・救済した理
由は、国家がデフォルト(債務不履行)した場合に、当該国の国債を大量に保有している銀行の財務
が悪化したり、他国の国債もつられて価値が下落したりすることにより、ユーロ圏全体に危機が拡大
するためである。「負の連鎖」を断ち切ることができれば、財政が悪化した国家をユーロ圏全体で支
図表 2
ユーロ圏
国家財政と銀行財務の「負の連鎖」のイメージ
財政の悪化した
加盟国を支援・
救済
財政政策の
「裁量と責任の
不一致」
各国が国内の
財政政策を決定
銀行救済費用の負担
ユーロ圏首脳会議
ユーログループ
支援・救済
国家財政の
悪化
負の
連鎖
銀行財務の
悪化
欧州中央銀行(ECB)
欧州金融安定ファシリティ(EFSF)
/欧州安定メカニズム(ESM)
保有国債の価値下落
(資料)みずほ総合研究所作成
2
援・救済する必要がなくなり、「裁量と責任の不一致」の解消につながる。
(3)銀行財務から国家財政への悪影響に対処するための取り組みは着実に進展
「負の連鎖」を断ち切るための施策のうち、銀行財務から国家財政への悪影響に対処するための取
り組みについては着実に進んでいる。具体的には、EUにおいて2016年1月に全面実施となったBRRD(銀
行再建・破綻処理指令)により、財務状況が悪化した銀行について、公的資金を使って救済するので
はなく、株主に加えて債権者にも損失を負担させるための制度が整備された。また、銀行の監督や破
綻処理、預金保険の仕組みをユーロ圏レベルで統合する「銀行同盟」に向けた取り組みとして、ユー
ロ圏の銀行の監督権限を各国当局からユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)に移管した上で、
ユーロ圏共通の破綻処理基金が設立されるなど、ユーロ圏の銀行の破綻処理を各国財政に負担をかけ
ずに実施するための仕組みの構築が進んでいる。
(4)国家財政から銀行財務への悪影響に対処するための取り組みが課題
一方で、逆方向の悪影響、つまり、国家財政から銀行財務への悪影響に対処するための取り組みは
進んでいない。こうした中、ドイツは、ユーロ圏各国の銀行が自国国債を大量に保有している(図表3)
ことが、国家財政が銀行財務に悪影響を及ぼす原因であり、財政規律の緩みにもつながっているとし
て、銀行の自国国債保有に対する規制強化を主張するようになった。ドイツの中央銀行であるドイツ
連邦銀行のバイトマン総裁は、2013年11月、「バーゼル委の自己資本規制は自国通貨建ての自国国債
に対して0%のリスクウェイト(リスクの大きさに応じた掛け目)を許容しているが、ユーロ圏の全て
の国の国債がリスク無しとみなされれば、それらの国債は各国の経済の基礎的条件にかかわらず同じ
ように取り扱われてしまう」とし、社債と同じように、適切なリスクウェイトを設定することや、各
銀行の国債保有量について発行国ごとに上限を設けることを主張した。
ドイツが規制強化を主張する中、ECBは、規制強化についてユーロ圏内だけではなく国際的なレベル
でも検討することを求めるようになった。ECBのメルシュ専務理事は、2013年11月、国債に対するリス
クウェイトについて、「バーゼル委が国際的なレベルで整合性のとれた方法で見直すべき」と発言し
た。ECBの銀行監督委員会のヌイ委員長も、2015年10月、日本経済新聞のインタビューにおいて、
「我々
はユーロ圏危機からリスクの無い資産など存在しないことを学んだ。他の国々も我々の経験から学ぶ
ことが有効だろう。全ての国において国債に(0%ではない)リスクウェイトを設定することが望まし
い」と述べた。
図表 3
ECBが国際的なレベルでの規制の見
直しを主張する中、バーゼル委は、ソ
ユーロ圏における各国 MFIs(銀行等)の総資
産に占める各国 MFIs が保有する各国の国債等
の割合(2011 年の EBA ストレステストの結果)
発行国
保有国
ドイツ
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
ギリシャ
ユーロ圏
全体
6.4%
0.3%
0.7%
0.4%
0.2%
8.6%
フランス
0.8%
2.1%
1.0%
0.3%
0.2%
5.5%
イタリア
2016年の作業計画」では、見直しを開
1.0%
0.0%
8.1%
0.2%
0.1%
9.9%
スペイン
0.1%
0.2%
0.3%
10.7%
0.0%
11.6%
始していることと、考えられる政策の
ギリシャ
0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
14.4%
14.7%
ブリンリスクの規制上の取り扱いの見
直しに着手した。バーゼル委が2015年1
月に公表した「バーゼル委の2015年・
選択肢を検討する予定であることが明
らかにされている。
(資料)欧州システミックリスク理事会「ESRB report on the regulatory
treatment of sovereign exposures」
(2015 年 3 月)より、みずほ総
合研究所作成
3
3.現行のバーゼル規制上の取り扱いと ESRB 報告書に示された規制強化案
(1)現行のバーゼル規制上の取り扱い
自己資本比率規制において、リスクアセットの大半を占める信用リスクの計算方法は、大きく標準
的手法と内部格付手法に分けられる。ソブリンに対する信用供与(ソブリンエクスポージャー)に係
る信用リスクについては、標準的手法では、外部格付ごとに定められたリスクウェイトを適用するこ
ととされているが、自国通貨建ての自国国債については、各国の裁量で、0%のリスクウェイトの適用
を認める例外規定が存在している。また、内部格付手法では、リスクウェイトを計算する際の変数の
一つであるデフォルト確率について、0.03%とされている下限の対象外とされているなど、他の信用
供与先とは異なる計算方法が認められている。この結果、自国通貨建ての自国国債の多くが0%か0%
に近いリスクウェイトの資産として取り扱われている。
その他のバーゼル規制については、大口信用供与規制では、ソブリンエクスポージャーは適用対象
外とされているほか、LCR(流動性カバレッジ比率)規制では、自国国債やリスクウェイトが0%の国
債は現金や中央銀行預け金とともに最も流動性の高い資産の区分に分類されている(図表4)。
(2)ESRB 報告書に示された規制強化案
ECBのドラギ総裁が理事長を務めるESRB(欧州システミックリスク理事会)は、2015年3月、銀行の
ソブリンリスクの規制上の取り扱いについて、現行規制の問題点や具体的な規制強化案を示した報告
書1を公表した。
現行規制の問題点としては、前述の自国通貨建ての自国国債に対する例外規定について、「各国は
国債のマネタイゼーション(中央銀行が通貨を発行して国債を購入すること)により、国債のデフォ
ルトを回避することができるという考えを前提としているように思える」と指摘している。その上で、
各国政府がECBの金融政策に関与することができず、条約においてもECBによるマネタイゼーションが
禁止されているユーロ圏において、マネタイゼーションの可能性は存在しないことを理由に、国債に
対する規制を見直すべきであると主張している。さらに、マネタイゼーションの可能性のある国の国
債についても、マネタイゼーションに伴うリスクがあることを指摘した上で(詳細は後述)、「ESRB
は、本報告書で取り上げた課題は(ユーロ圏内に限らず)国際的な要素を有すると認識しており、バ
ーゼル委といった国際的な規制フォーラムにおいて議論される可能性を認識している」としている。
具体的な規制強化案としては、銀行のソブリンエクスポージャーについて、リスクウェイトを引き
図表 4
自己資本比率規制
現行のバーゼル規制上の取り扱い
・リスクアセット(信用リスク+市場リスク+オペレーショナルリスク)に対して十分な自己資本の確保を求める規制
・信用リスクは各種エクスポージャー(信用供与額)×リスクウェイト(リスクの大きさに応じた掛け目)を合計して計算
信用リスクに係る ・ソブリンエクスポージャーには外部格付けに応じたリスクウェイトが設定されている(AAA~AA-⇒0%、A+~A-⇒20%等)
標準的手法
・ただし、自国通貨建ての自国国債に対しては、各国裁量でより軽いリスクウェイトの適用を認める例外規定が存在
信用リスクに係る •ソブリンエクスポージャーは、①「デフォルト確率」について0.03%の下限の対象外であること、②ヒストリカルデータを用い
内部格付手法
て計算すること、等により、リスクウェイトが非常に小さくなることが多い
大口信用供与規制
・特定の債務者グループに対するエクスポージャーを「Tier 1資本の額」の25%以下に制限する規制
・ソブリンエクスポージャーは適用対象から除外されている
LCR(流動性カバレッ
ジ比率)規制
・30日間のストレス下での資金流出に対応できるよう、高品質な流動資産の確保を求める規制
・自国国債やリスクウェイトが0%の国債は、現金や中央銀行預け金とともに最も高品質な流動資産の区分に分類される
(資料)みずほ総合研究所作成
4
上げる案や、国ごとに信用供与額の上限を設ける案、等が挙げられている(図表5)。
4.想定される主な論点
現時点におけるバーゼル委における検討状況は不明であるものの、以下では、想定される主な論点
を確認した上で、望ましい方向性について考えてみたい。
(1)通貨発行権の有無によるソブリンの違い
規制の見直しにあたっては、英国の有力な金融学者であるグッドハート氏や旧英国金融サービス機
構のターナー会長(当時)が言及している通貨発行権の有無によるソブリンの違い、具体的には、「完
全なソブリン」と「副次的なソブリン」の違いを念頭に置く必要がある(図表6)。
「完全なソブリン」とは、通貨発行権を持つ国のことであり、米国や日本等が該当する。「完全な
ソブリン」は究極的にはマネタイゼーションによってデフォルトを回避することが可能であり、発行
する国債について、低いリスクウェイトを適用することや、大口信用供与規制の適用除外とすること
は、一定の妥当性があると考えられる。
一方、「副次的なソブリン」とは、通貨発行権の無い国のことであり、ユーロ圏各国が該当する。
「副次的なソブリン」は通貨発行権を持たないため、マネタイゼーションによってデフォルトが回避
されることは考えにくい。むしろ、ユーロ圏においては、ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁が、ユー
ロ圏の財政政策の「裁量と責任の不一致」を解消するために「銀行と国家が、金融システムに悪影響
を及ぼすことなく、デフォルトできるようにする必要がある」と発言している通り、デフォルトの容
易化が図られている。こうした点を踏まえれば、
「副次的なソブリン」が発行する国債については、0%
に近いリスクウェイトを適用していることや大口信用供与規制の適用除外とされていることの妥当性
を検証する必要がある。
(2)マネタイゼーションの副作用
なお、前述のESRB報告書は、「完全なソブリン」が発行する国債についても、マネタイゼーション
が行われた場合、金利上昇等が発生することによって銀行に損失が発生する可能性があるとして、0%
のリスクウェイトの適用に疑問を呈している。しかし、こうした金利上昇等は、自国国債に限らず、
他の資産や負債の価値にも影響を与えるものであり、金利上昇等に伴う自国国債の価値の下落は、同
時に発生する自国通貨建ての負債の価値の下落によって相殺される。したがって、マネタイゼーショ
図表 5
ESRB 報告書に示された規制強化案
図表 6
1. ソブリンエクスポージャーに対するより厳しい第1の柱の自己資本要件
a. 標準的手法における自国通貨建てソブリンエクスポージャーに対して各国裁量でより
種類
軽いリスクウェイトの適用を認める例外規定の除去
b. 標準的手法への0より大きいリスクウェイトの下限の導入
完全な
ソブリン
c. 標準的手法における機械的な外部格付けへの依存の低減
d. 内部格付手法における「デフォルト確率」や「デフォルト時損失率」等の下限の見直し
2. 分散要件(大口信用供与規制の適用除外の撤廃等)
3. マクロプルーデンス規制の対象への追加(景気循環に合わせた規制水準の変動等)
4. 強化された第2の柱の要件(ストレステストの勧告、分散に係る定量的ガイダンス等)
5. 強化された第3の柱の開示要件
6. 流動性リスクに対する規制(流動性規制における国債の取り扱いの変更等)
(資料)欧州システミックリスク理事会「ESRB report on the regulatory
treatment of sovereign exposures」
(2015 年 3 月)より、みずほ総合
研究所作成
5
完全なソブリンと副次的な
ソブリン
特徴
代表例
・通貨発行権を持つ国
・究極的にはマネタイゼーションによ
りデフォルトを回避することが可能 米国、日本
・投資家にとっての主なリスクはマ
ネタイゼーションやインフレのリスク
副次的な ・通貨発行権の無い国
ソブリン ・デフォルトリスクが存在
ユーロ圏
各国
(資料)旧英国金融サービス機構のターナー会長(当
時)のスピーチ「Debt and leveraging: Long
term and short term challenges」(2011 年
11 月 21 日)より、みずほ総合研究所作成
ンの副作用
用については
は、0%以外の
のリスクウェ
ェイトの適用
用といった自国国債の保有
有量に応じた
た規制では
なく、金利
利リスクに対
対する規制の
の枠組み等で
で対処すべきであろう。
また、イ
インフレ等の
の発生を懸念
念して「完全
全なソブリン
ン」がマネタイゼーション
ンではなくデ
デフォルト
を選択する
る可能性があ
あることも指
指摘されてい
いるが、経常
常収支が黒字である先進国
国や基軸通貨
貨を発行で
きる国にお
おいては、マ
マネタイゼー
ーションによ
よって急激な
なインフレ等が発生する可
可能性は低く
く、デフォ
ルトによる
る金融市場の
の混乱の方が
がはるかに懸
懸念されることから、デフォルトが選
選択されるこ
ことは考え
にくい2。
うに、「完全
全なソブリン
ン」と「副次
次的なソブリン」とでは、発行する国
国債に係るリスクの大
このよう
きさや性質
質が異なるこ
ことから、規
規制の見直し
しにあたって
ては、両者を区別する必要
要がある。
(3)規制
制が強化され
れた場合の幅広い影響
響
が及ぶことが
仮に銀行
行による自国
国国債の保有
有が制限され
れれば、経済
済や財政にも幅広く影響が
が想定され
る。例えば
ば、財政政策
策の自由度が
が下がること
とが考えられ
れる。政府は、一般的に、
、景気後退時
時には、財
政支出を増
増やすことに
により景気回
回復を図る。 この際、財
財政支出を増やすために発
発行された国
国債を円滑
に消化でき
きる経済主体
体は、主とし
して、不況に
に伴う借入需
需要の低下によって貸出が
が減少した自国銀行で
ある(図表
表7)。このた
ため、銀行によ
よる自国国債
債の保有が制
制限されれば
ば、柔軟な財政
政出動が困難
難となり、
不況から抜
抜け出すのが
が難しくなる
る可能性があ
ある。特に、市場の不安定化に対する
る懸念が高ま
まっている
現状を踏ま
まえれば、危
危機時の機動
動的な政策対
対応への影響
響には十分に留意する必要
要があろう。
。
また、金
金融市場への
の影響も考え
えられる。金
金融市場では
は、国債の単純な売買だけ
けではなく、
、国債を担
保とした資
資金の貸借や
や、現金を担
担保とした国
国債の貸借も行われている。このため
め、国債は、
、政府の資
金調達の手
手段にとどま
まらず、金融
融機関や事業
業法人等の民
民間経済主体にとっても重
重要な資金運
運用・調達
の手段とな
なっている。また、国債
債市場は、リ スクフリー
ー金利の水準を示す役割や
や、中央銀行
行が金融政
策判断を行
行う上での情
情報源として
ての役割、中
中央銀行が金
金融調節を実行する場と しての役割も
も担ってい
る。国債市
市場がこうし
した役割を十
十分に果たす
すためには、機能性・流動性が高い市
市場であるこ
ことが求め
られるが、銀行による
る自国国債の
の保有が制限
限されれば、国債市場の機能性・流動
動性が低下し、中央銀
図表 7
日本国債
債の発行残高
高と国内銀行
行の国
債保有残
残高・貸出残
残高の推移
図表 8 日本・米国
国・英国の政
政府債務
残高と国内
内銀行による自国
国債等の保
保有額
日本
政府債務残高(22014年末)
名目GDP(2014 年)
米国
1 ,200兆円 2,181兆
兆円
英国
288兆円
4
488兆円
2,082兆
兆円
323兆円
2 4 6%
1 05 %
89%
国内銀行の自国
国国債等保有額
(2014年末)
1
127兆円
77兆円
円
22兆円
国内銀行の自国
国国債等保有額
/政府債務残高
高
1 0.6 %
3 .5 %
7 .6 %
政府債務残高/
/名目GDP
(注)1 米ドル=120 円、1 英
英ポンド=180 円として計算
円
(資料)IMF 資料、日本銀行
行資料、米国 FRB 資料、英国
BOE 資料より、みず
資
ずほ総合研究所作
作成
(資料)日本
本銀行資料より、
、みずほ総合研
研究所作成
6
行による金融政策や企業の資金調達に悪影響が及ぶ可能性がある。
5.今後の見通し
日本は、国債の発行残高が大きく、国内銀行が保有している割合も大きいことから、相対的に規制
強化の影響を受けやすいと想定される。一方で、米国や英国は、日本に比べ、国債発行残高の対GDP
比や国内の銀行が保有している割合が小さく(前ページ図表8)、ソブリンエクスポージャーに大口信
用供与規制が適用された場合の国内銀行への影響も小さい(図表9)ことから、ある程度の規制強化は
受け入れられる可能性がある。ユーロ圏内については、ドイツやオランダが規制強化に積極的である
一方、南欧諸国の中には、自己資本規制が強化された場合に、自国銀行の自己資本不足が発生するこ
とや財政政策に制約がかかることを懸念して、規制強化に反対する国もあるであろう。ユーロ圏内の
問題をECBが国際的な議論に持ち込んだ背景として、ユーロ圏内の銀行が国際競争上不利にならないよ
うにユーロ圏外も巻き込みたいというインセンティブのほか、銀行に対する規制の強化に積極的な米
国や英国のいる場で議論することによってユーロ圏内の反対国を押し切りたいというインセンティブ
が働いた可能性も考えられる。
なお、2015年6月のEU首脳会議においてユンケル欧州委員会委員長が公表した報告書「EMU(経済金
融同盟)の完成に向けて」には、ユーロ圏財務省(a euro area treasury)の設置等、財政同盟の実
現に向けた計画が示されている。財政同盟の実現により、「完全なソブリン」として「ユーロ圏共同
債」といった債券を発行できる体制が整えば、「副次的なソブリン」であるユーロ圏各国が発行する
国債に関する規制の問題を解消する必要性は小さくなるだろう。
バーゼル委は、ソブリンリスクの規制上の取り扱いの見直しについて「慎重に、全体論的に、漸進
的に」行うこととしていることから、検討結果や規制強化案が示されるには、今しばらく時間がかか
ることが予想される。本稿で取り上げたものを含む幅広い論点について、十分な議論を行い、慎重に
検討を進めていくことが求められる。
図表 9
日本・米国・英国の大手銀行による自国国債等の保有状況
邦銀
米銀
英銀
みずほFG
JPモルガン シティグルー バンクオブア モルガンスタ ゴールドマン
三菱UFJFG 三井住友FG
チェース
プ
メリカ
ンレー
サックス
総資産
189.7兆円
286.1兆円
183.4兆円
308.7兆円
221.1兆円
252.5兆円
96.9兆円
自国国債等保有額
21.8兆円
35.2兆円
14.3兆円
4.8兆円
17.3兆円
14.7兆円
自国国債等保有額
/総資産
11%
12%
8%
2%
8%
Tier 1資本の額
7.5兆円
14.1兆円
8.5兆円
22.4兆円
自国国債等保有額
/Tier 1資本の額
291%
250%
168%
21%
HSBC
バークレイズ
102.7兆円
316.1兆円
244.6兆円
10.8兆円
5.8兆円
4.7兆円
5.2兆円
6%
11%
6%
1%
2%
20.0兆円
20.3兆円
7.7兆円
9.4兆円
18.3兆円
8.3兆円
86%
72%
140%
61%
26%
63%
(注 1)1 米ドル=120 円、1 英ポンド=180 円として計算
(注 2)邦銀は 2015 年 3 月末時点、米銀・英銀は 2014 年 12 月末時点
(資料)各行資料より、みずほ総合研究所作成
1
2
欧州システミックリスク理事会「ESRB report on the regulatory treatment of sovereign exposures」(2015 年 3 月)
ESRB 報告書では中央銀行の独立性に係る法令の変更可能性についても言及されている。
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
7