Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ:15年10-12月期もマイナス成長の可能性大 ~個人消費が足を引っ張る~ 発表日:2016年1月13日(水) 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主席エコノミスト 新家 義貴 TEL:03-5221-4528 要旨 ○現在公表されている 15 年 10、11 月分の経済指標から判断すると、15 年 10-12 月期の実質GDP成長 率はマイナス成長が濃厚だ。エコノミストのコンセンサスは、今後下方修正が相次ぐだろう。 ○①個人消費の悪化、②在庫投資の押し下げ、③設備投資の低迷がマイナス成長の主因。消費低迷が続い ていることに加え、設備投資も引き続き冴えない。在庫削減の動きが続いたことも成長率を押し下げた 模様。 ○仮に直近3四半期のうち2四半期がマイナス成長となれば、「景気は緩やかに改善」と主張し続けるこ とは難しくなる。また、先行きの景気についても不透明感が急速に強まりつつあり、16 年の景気回復 シナリオに暗雲が立ち込めている。こうした経済情勢を踏まえると、1月 28、29 日の金融政策決定会 合で追加緩和が行われる可能性は十分あると思われる。 ○ 15 年 10-12 月期はマイナス成長の公算大 現在公表されている 15 年 10、11 月分の経済指標をもとに計算すると、15 年 10-12 月期の実質GDP成長 率はマイナス成長が濃厚だ。筆者は 15 年 12 月8日時点で 15 年 10-12 月期GDPを前期比年率+0.1%と予 測しており、コンセンサス(12 月上旬時点で前期比年率+1.31%)と比べてかなり慎重な見方をとっていた が、どうやらそれすら下振れそうだ。「10-12 月期がマイナス成長になるかどうか」という議論は過去のも のとなり、今後の焦点は「マイナス幅がどの程度になるか」に移るだろう。10-12 月期GDPについてのエ コノミストのコンセンサスも、今後下方修正が相次ぐことは確実だ。 ○ 個人消費の悪化が響く マイナス成長の主因は、①個人消費の悪化、②在庫投資の押し下げ、③設備投資の低迷の3つだ。 まず、個人消費については予想以上に低迷が目立つ。15 年4-6月期に落ち込んだ後、7-9月期にはいっ たん持ち直したが、10-12 月期は再び減少に転じた可能性が高い。消費増税後の 14 年4-6月期に大幅に落 ち込んだ後、個人消費はほとんど増えていない。現在もなお、増税後に強まった生活防衛色が和らぐには至 っていないようだ。 消費については、家計調査のサンプル要因によって悪化しているとの声も聞かれる。だが、販売側から消 費を把握できる小売業販売額でも 11 月は大幅に悪化していることに加え、その他の供給側統計でも低調な推 移となっている。程度はともかく、実態としても 10-12 月期の消費は低迷したと見るのが妥当だろう。 また、消費の悪化は「暖冬による一時的なもの」との見方もある。確かに、暖冬によって冬物衣料等の消 費が減ったことは事実だ。だが、暖冬は外出機会の増加に繋がるため、サービス消費にとっては追い風にな り得る要因でもある。トータルで見て、暖冬が消費にとってプラスかマイナスかははっきりしない。暖冬に よるマイナス面だけを強調するのはフェアではない。 在庫投資も成長率を押し下げる可能性が高い。GDPの在庫は 15 年1-3月期に前期比年率で+2.1%Pt、 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4-6月期に+1.3%Pt もの押し上げ要因になった。成長率の観点からはプラス要因だが、これは需要の停滞 を受けた在庫積みあがりだったとみられる。7-9月期には前期比年率▲0.8%Pt のマイナス寄与となったが、 15 年前半の積みあがり分と比較すると小幅で、在庫調整が終了したわけではない。10-12 月期も在庫削減の 動きが成長率を押し下げることになるだろう。このことも 10-12 月期のGDP下振れの大きな要因である。 設備投資も低調な推移が続いた模様である。高水準の企業収益や強い設備投資計画を受けて、設備投資が 景気を牽引するとの期待が高かったが、状況は引き続き芳しくない。景気の先行き不透明感の強さから企業 が投資を先送りしている模様であり、計画がなかなか実際の設備投資に繋がってこない。 このように、15 年 10、11 月分の経済指標は全般的に低調で、10-12 月期はマイナス成長が見込まれる。今 後公表される 12 月分の経済指標次第では、GDPが予想以上の悪化を見せ、「小幅マイナス成長」程度では とどまらなくなる可能性も否定できないだろう。 ○ 1月緩和の可能性も 難しいのは、この景気下振れが金融政策に与える影響だ。日本銀行のスタッフも、15 年 10-12 月期がマイ ナス成長になる可能性が高いことは認識しているはずである。仮に直近3四半期のうち2四半期がマイナス 成長となれば、「景気は緩やかに改善」と主張し続けることはさすがに苦しくなるだろう。少なくとも日銀 が想定していたよりも足元の景気が下振れていることは間違いなく、1月の展望レポートでは、景気、物価 とも下方修正は避けられない。景気が下振れた分、需給ギャップの改善も滞ることになり、「物価の基調」 が揺らいでいるとの判断に傾いてもおかしくない。 一方、日銀が 10-12 月期のマイナス成長を「家計調査のサンプル要因」や「暖冬」によるものと評価し、 「あくまで一時的な悪化であり、先行きは回復が見込める」と主張する可能性もある。過去の日銀の行動を 踏まえると、有り得ない話ではない。 確かに、10-12 月期の悪化が一時的と言い切れる状況であれば、これで乗り切れるかもしれない。だが、 足元では急速に不透明感が強まりつつあり、先行きの景気に自信が持てる情勢ではない。 元々、16 年の景気回復シナリオは、「海外経済の回復から輸出が増加。好調な企業収益を背景に設備投資 増、雇用・賃金増から消費増」というものだった。だが、中国経済に対する不安感は根強いことに加え、米 国の利上げが予想される中での新興国景気の先行きにも懸念があるなど、世界経済は磐石とは程遠い。また、 足元では円安傾向が一服しているが、仮に今後円高が進むようであれば、企業収益の下方修正に繋がるリス クがある。企業収益が好調なことが日銀シナリオの根幹にあるだけに、ここが崩れれば話は大きく変わる。 中国経済に対する不安や金融市場の動揺を受けて、企業がさらなる設備投資の先送りに動く可能性もあるだ ろう。日銀が期待をかけてきた賃上げについても、組合側の控えめな要求を見る限り不発に終わりそうだ。 このように、懸念材料は山積みである。16 年の景気回復シナリオが崩れたとまで言うつもりはないが、リス クは明らかに下振れだろう。 これまでの日銀の強気姿勢を踏まえると、1月 28、29 日の決定会合での追加緩和をメインシナリオにする ことは難しいが、経済情勢的には追加緩和の材料は揃っている。少なくとも追加緩和の可能性が以前と比べ て高まっていることは確かだろう。1月緩和の可能性は、一般に予想されているよりも高いと思われる。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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