サウザー!~School Idol Project~ ID:71163

サウザー!∼School
Idol Project∼
乾操
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
サウザーは音ノ木坂学院に通うごく普通の聖帝。
そんな彼の通う音ノ木坂が、今、大いなる危機を迎えていた
なんと、新学期早々にこの学校が廃校になるという告示が出されたのだ
このままじゃ、校庭に密かに築いた聖帝十字陵も取り壊されてしまう
果たして、聖帝サウザーは学校を救う救世主となりうるのか
を廃校から救うことを決意
それを阻止するべく、サウザーは高坂穂乃果らとスクールアイドルとなってこの学校
!?
!
!
!?
!
の
目 次 1話 スクールアイドル聖帝爆誕
巻 ││││││││││││││
!
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻 1
3話 聖帝と甘いお願い ││││
37
18
│
の巻
20XX年、音ノ木坂学院は廃校の危機に瀕していた
!
しかし、︵一部のゴキゲンな︶生徒は諦めていなかった
︵この設定が今作で活かされる事は多分ない︶
!
あまりにも突然の知らせであったから、全員初めは皆理事長の悪趣味なジョークかと
な春の日であった。 そんな彼女の通う学校が廃校になるという事実が全校生徒に知らされたのは麗らか
高坂穂乃果は音ノ木坂学院に通うごく普通の高校二年生。
音ノ木坂救世主伝説
である
その名はサウザー。一子相伝の拳、南斗鳳凰拳伝承者にして、南斗六聖拳最強の闘士
そのゴキゲンな生徒の中でも、特に極め付けな者が一人。
!
資金は枯れ、入学希望者は減り、廃校はやむなしかと思われた。
!
1話 スクールアイドル聖帝爆誕
1
思っていた。しかし、校内中の掲示板にこれでもかという勢いで貼りだされた告示にで
かでかと躍る﹃廃校﹄の二文字に全校生徒は理事長の言葉が事実であると理解し、言葉
を失った。
﹂
﹂
それは、穂乃果や幼馴染の南ことり、園田海未も同様である。
﹁嘘⋮⋮
﹁廃校⋮⋮﹂
﹁学校が無くなるってことですか⋮⋮
フハハハハ│ッ
フハァッ
!
﹂
!
﹂
﹁ていうか重っ
!
﹂
﹂
!
はあまりのショックに心ここにあらず、といった様子だ。
ピュアだからこうなるのである。穂乃果たち三人はサウザーの名前をよびかけるが、彼
聖 帝 サ ウ ザ ー の 瞳 に は 明 ら か な 動 揺 の 色 が 走 っ て い た。図 体 は デ カ い く せ に 妙 に
!
﹁サウザー
﹁サウザーちゃん
れを慌てて三人は支えた。
あまりの衝撃にサウザーはバランスを崩し、そのまま仰向けに昏倒しそうになる。そ
!?
そして、そんな三人より衝撃を受けたのがサウザーである。
!?
!?
﹁廃校だと
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
2
﹁ぬぅぅぅう⋮⋮
この俺の⋮⋮
﹁サウザーちゃーん
﹂
﹁この俺の⋮⋮輝かしい高校生活が
﹂
ぐはぁっ
サウザーはうわ言のように慟哭する。
!
あった。
!?
﹁フッハハッハハーッ
﹂
下郎のみなさま、おはよう
﹂
!
すれ違う学友たちにも気前良く挨拶する。それを見て学友たちは顔を見合わせつつ、
!
元気よく保健室を飛びだした彼は教室へと足取り軽く歩きだした。
聖帝には制圧前進あるのみ。たかだか夢ごときに右往左往する男ではないのだ。
結構嫌な夢だったなー、と振り返り思う。が、夢とわかれば何も恐れることは無い。
﹁⋮⋮夢か﹂
陽が差し込み、清潔なシーツを照らしている。
チャイムの音に驚きながら彼は掛布団を跳ねのけた。窓からはカーテン越しに春の
﹁ぬはぁっ
﹂
サウザーが目を覚ましたのは丁度一時限目の終業チャイムが校内に鳴り響いた頃で
!
!
サウザーは血を吐いて保健室に放り込まれた。
!
!
3
﹁サウザー、いよいよおかしくなったのかしら﹂
﹁いつもあんな感じだよ﹂
サウザーの平常運転はだいたいこんな感じなのだ。彼はよく笑うのだ。
﹁それもそうか﹂
フハッ⋮⋮フハハ│ッ
﹂
学友たちにそんなことを言われているとは露知らず、サウザーは教室へと向かって歩
く。
﹁そんな急に廃校なぞあるはずがない
!
しかし、教室の前の掲示板には廃校が夢ではないことを彼に教えるためが如く告示が
!
ズラリと並んでいる。であるから、サウザーは否応なしに現実へと引き戻された。
﹂
!?
﹂ ?
!
いなのである。
﹁廃校⋮⋮フハッ⋮⋮廃フハッ⋮⋮フハハ│ッ
﹂
で無かったのだ。彼が保健室の世話になるのはターバンのガキに脚を刺された時くら
穂乃果が心配気に訊く。なにしろサウザーがショックで気を失うなんてことは今ま
﹁サウザーちゃん大丈夫
教室に戻ったサウザーを穂乃果、ことり、海未の三人が迎えた。
﹁フハハ⋮⋮ハァーッ
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
4
﹁ああサウザー⋮⋮ショックでついにおかしくなったのですね﹂
海未が哀しそうに呟く。それに対し、ことりが、
!
げた。
﹂
言うやサウザーは立ち上がり、
﹁学校が廃校になるということは、毎日が夏休みのようなものだ
﹁ビバ
!
﹂
彼女の言葉を肯定するがの如く、サウザーはまたも突然﹁フハハーッ﹂と笑い声を上
﹁いいえことり。彼にそんな神妙なことを考える能はありません﹂
しかし、そんな彼女の言葉を海未は否定する。
ことりが若干涙ぐみながら言う。
﹁サウザーちゃん、この学校が大好きなんだね﹂
のサイズが身長に合っていない︶に着くと頬杖をついて黙りこくった。
とは言え廃校がやはりショックなのか、ひとしきり笑い終わり、自分の席︵机といす
しているとかそんな理由じゃ無くて単なる癖である。
サウザーは相変わらず目を手で覆い隠しながら高笑いしている。これは別に涙を隠
﹁そう言えばそうでしたね﹂
﹁海未ちゃん、サウザーちゃんはいつも割とこんな感じだよ﹂
5
﹂
笑いながら飛び上がる。
﹁バケーション
とりあえず、二年生は廃校騒ぎとは関係ないわけである。だが⋮⋮。
ンが訪れることもない。
つまり、二年生であるサウザーがこの学校を追い出されることは無いし、バケーショ
者が卒業するまでは廃校にはならないのだ。
送り、学校は存続というわけである。仮に入学希望者が定員割れしても、今年度の入学
そもそも廃校自体本決まりではないのだ。来年度の入学希望者が増えれば、廃校は見
﹁別に今すぐ廃校になるわけじゃありませんよ﹂
そんな彼を窘めるように海未が口を開いた。
﹁サウザー落ち着きなさい﹂
!
ていき、最後には三年生棟、学校そのものも⋮⋮。
を去らなければならないのだ。年度を重ねるごとに、一年生棟、二年生棟は無人となっ
そう、今の一年生は高校生活において卒業まで﹃後輩﹄という存在を知らぬまま学校
ことりがポツリと呟く。
﹁今の一年生は後輩が一人もいないまま卒業を迎えるんだね⋮⋮﹂
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
6
ぶっちゃけ下郎の一人や二人どうなろうがサウザーには知ったこっちゃない。しか
し、彼にはこの学校を廃校にしてはならない﹃理由﹄があった。その﹃理由﹄を胸に秘
め、彼は三人に同調する。
こうして、四人は廃校阻止のため動きだすことにした。
﹂と思うような事がこの学校にはあるの
要は入学希望者が増えれば廃校にはならないのである。
今の中学三年生が﹁音ノ木坂に入学したい
か。四人はそれを見つけるべく校内を散策することにした。
!
﹁フハハハハ│ッ﹂
と思われて⋮⋮そうでしょう、サウザー﹂
﹁何言ってるんですか。あんなもの、余計に入学希望が減るだけです。変な宗教団体だ
﹁あれさ、真上から見ると十字になってるんだって。面白いよねー。誰が作ったんだろ﹂
く、生徒会もその巨大さゆえに撤去するに出来ない状態だとか。
学校とは不釣合いともいえる代物であった。なんでも、生徒の誰かが勝手に作ったらし
それは巨大な石造りのピラミッドとでも言うべき建造物であり、近代的設備を整えた
穂乃果は言いながら校庭のど真ん中に聳える建築物を指す。
﹁設備は結構整ってるよね。それにほら、最近校庭に出来たあれ﹂
7
﹁でも、今時どこの学校も設備は整ってるからなぁ∼﹂
ことりはハァと嘆息する。
い
ま
部活動もさしたる結果は残していない。優秀な部活も、現代をトレンディーに生きる
若い女の子たちには今一ウケが悪そうなものばかりであった。この学校が誇る歴史と
伝統も、若者には埃を被った置物となんら変わりないのだ。
四人は悩んだ⋮⋮サウザーはそういう風には見えなかったが。
﹂
そんな四人、特にことりに背中から声を掛ける人があった。
﹂
?
?
﹂
?
ある。
眠りしていた︵新年度が楽しみで寝不足だったのだ︶から、ほぼ覚えていないも同然で
そう言えば始業式で見たような気がするな、とサウザーも思いかえす。が、当時は居
﹁生徒会長の綾瀬絵里先輩と副会長の東條希先輩ですよ﹂
穂乃果が海未に囁く。
﹁だれ
る生徒の姿であった。やや日本人離れした容姿の生徒と、胸がデカい生徒⋮⋮。
ことりと一緒にサウザーたちも振り向く。そこにあったのは、どこかで見たことのあ
﹁はい
﹁南ことりさんね
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
8
そんな彼からしてみれば印象の薄い有象無象下郎の一人である絵里はサウザーたち
を一瞥するとことりに向き直った。
結局この日四人は何も見出すことは出来ず、放課を迎え、それぞれの家路についた。
﹁ええ⋮⋮私達に出来ることって、何なんでしょうね﹂
﹁生徒会長も大変だね⋮⋮﹂
その背中を見送りながら穂乃果は、
彼女は残念そうにそういうとその場を去って行った。
﹁そう⋮⋮ありがとう。ごめんなさいね、呼び止めて﹂
﹁いえ、特に⋮⋮﹂
いえど理事長の発表には不満があると見える。
絵里は﹃廃校﹄と言う言葉をいう時に若干だが表情をゆがめた。やはり、生徒会長と
﹁お母様から、何か聞いてないかしら。その⋮⋮廃校の事とか﹂
あって、そのことを知らない生徒も多々いるだろう。
こ と り の 親 鳥 は こ の 学 校 の 理 事 長 な の だ。理 事 長 が 彼 女 を 特 別 扱 い し な い こ と も
﹁はい、そうですけど⋮⋮﹂
﹁たしか、あなたって理事長の娘さんだったわね﹂
9
※
サウザーの居城⋮⋮
﹁もう、お食事はよろしいのですか
﹂
サウザーはスプーンを放り出し、夕食の皿を下げるようモヒカンの手下に命じた。し
﹁今日はもういらん﹂
?
かし、皿の上にはまだ半分以上残っており、モヒカンたちが心配げに問う。
﹂
?
﹁なんと、廃校とはまた急な⋮⋮﹂
果たちと廃校阻止のために行動することにしたこと⋮⋮。
サウザーは今日学校であったことをブルに話した。音ノ木坂が廃校になること、穂乃
﹁うむ⋮⋮﹂
ください﹂
﹁何かあったのでしたら、このブル︵いつもサウザーの傍にいる髭のオッサン︶にお話し
期ということもあってお祝いに予定が変更されたのだ。
カレーはサウザー大の好物である。いつもは土日がカレーの日なのだが、今日は新学
﹁カレーを残されるとは、聖帝様らしくもない⋮⋮﹂
﹁ご気分でも悪いのですか
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
10
﹁そうであろう
べる﹂
それに、廃校になるのは困るのだ。あとやっぱり残りのカレーも食
﹁何か廃校阻止の良い方法はないものか⋮⋮む
﹂
モブキャラを動員して築き上げた、あの十字陵を。
廃校になれば⋮⋮せっかく校庭に拵えた聖帝十字陵も取り壊しになる可能性が高い。
カレーを頬張りながらサウザーは考える。
?
その人気の秘訣とは
﹄と自己紹介している。
!
﹁スクールアイドルか⋮⋮﹂
ヒューイ
画 面 の 中 で は ア ナ ウ ン サ ー か ら イ ン タ ビ ュ ー を 受 け る ス ク ー ル ア イ ド ル が﹃風 の
﹁ふむ⋮⋮﹂
て﹂
﹁流行ってるようですな。かく言う自分も﹃A│RISE﹄というグループのファンでし
?
テレビの中の女性アナウンサーが元気よく話す。
﹃今人気のスクールアイドル
﹂
!
サウザーのスプーンを動かす手が止まる。
﹁⋮⋮スクールアイドル
?
﹄
その時、丁度点けっぱなしにしていたテレビ画面が、サウザーの目に飛び込んできた。
?
11
彼の頭の中に妙案が浮かんだ。
﹂
これならば、廃校を阻止できるやもしれん。
※
﹁フハハハハーッ
﹁サウザーちゃん朝っぱらから元気だね。どうしたの
付いたことりが問いかける。
﹁そ、それは本当
﹂
穂乃果が身を乗り出す。
﹂
﹂
﹁フフフ⋮⋮はてさてこの歴史的名案、発表しちゃおうかな∼
・
・
・
やめちゃおうかな∼
?
しなのだ。
海未が露骨にイライラしている。しかし、聖帝たるサウザーはそのような事お構いな
?
!?
﹁ウザったいですね、早く言ってください﹂
?
﹂
翌朝の教室。登校してきたサウザーのご機嫌ぶりがいつもに増してくどいことに気
?
!
﹁フハハ、実は昨晩この学校を廃校から救う名案を思いついてな
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
12
彼はフハハと笑いながら重たそうな鞄を机の上にドスンと載せると、中から十冊近く
の雑誌を取り出して見せた。どれもこれも、全国のスクールアイドルに関する雑誌であ
る。
それに
?
﹂
﹁どうせ﹃廃校阻止のために私達でスクールアイドルを結成しよう﹄とか言うんでしょう
ように、海未がため息交じりに口を開いた。
自信満々に話すサウザーだったが、ことりが申し訳なさげに話を遮る。それに続ける
﹁⋮⋮あのね、サウザーちゃん﹂
││﹂
ちも、スクールアイドルがある学校への入学を希望することが多いらしいぞ
﹁今、スクールアイドルが空前の大ブームで、全国に増殖し続けている。ナウいヤングた
13
もそも生徒を集めるには相応に有名になる必要があり、そのためにはプロに負けないほ
曰く、思いつきで行動しても結果は出ない、むしろ悪い方向に動く可能性もある。そ
﹁で、これもさっき私が穂乃果に言ったことなんですけど⋮⋮﹂
穂乃果が﹁でへへ﹂と困ったように笑う。海未は続ける。
﹁分かります。丁度今さっき穂乃果も同じ提案をしていたところです﹂
﹁ほう、分かるか﹂
?
﹂
﹂
﹂
どの努力が必要であり、好奇心だけで行動したところで結果は見えている、とのことで
ある。
﹁ですから⋮⋮ちょっと聞いてるんですか
﹁もう少し分かりやすく話してくれても良いのだぞ、ん
海未の言う事は至極正論である。
﹁じゃあはっきり言わせてもらいます。アイドルは無しです
全くの無意味であった。
だが、残念ながら⋮⋮結果としては良かったが⋮⋮このサウザーと言う男には正論は
!
?
?
ぬはずがなかろうが
﹂
!
フハハーッ
!
﹁穂乃果⋮⋮﹂
﹂
﹁海未ちゃん、私、やっぱり諦められない。私、可能性に賭けてみたい﹂
しかし、このサウザーの言葉に心打たれる少女が二人いた。穂乃果とことりである。
﹁そ、その無根拠な自信はどこから出てくるんですか⋮⋮﹂
くしかないのだ
﹁帝王には制圧前進あるのみ 有象無象のスクールアイドルなぞ、この帝王の前に跪
!
?
サウザーは高笑いする。
!
﹁俺は聖帝サウザーだぞ スクールアイドルなぞ⋮⋮下郎どもに出来てこの俺に出来
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
14
﹂
﹁私も穂乃果ちゃんと同じ。このまま何もしないで卒業なんて、私やだよ⋮⋮﹂
﹁ことり⋮⋮﹂
﹁フハハハハハハハハハ│ッ
﹁サウザー⋮⋮﹂
﹂
!?
﹂
﹂
さのオーラが海の身体を貫いた。
﹁ぐふっ
!
ことりの﹃お願い﹄⋮⋮またの名を﹃南小鳥嘆願波﹄はその甘ったるい声音も相まっ
みなみこちょうたんがんは
次の瞬間、ことりの甘ったるい声音と子犬のように潤んだ瞳から発せられるいじらし
﹁海未ちゃん⋮⋮お願ぁいッ
ことりは、全霊の思いを込めて海未に懇願した。
海未に動揺が走る。彼女はことりの﹃アレ﹄が来ることを察したのだ。
﹁
﹁海未ちゃん⋮⋮﹂
海未が沸き上がる感情を押さえ込もうとする。その時、ことりの瞳が大きく潤んだ。
あってはならない。自分が、冷静にならなければ⋮⋮。
冷静な判断を最もとする。穂乃果やサウザーの思いつきに同調するなんて、友としても
海未の瞳が揺れる。彼女だってこの学校が廃校になるのは嫌なのだ。しかし、彼女は
!
!
15
て妙な破壊力がある。この声で本気のお願いをされるとイエスと答えざるを得なくな
﹂
る。ましてや、海未の心は大きく揺れ動いていたのだ。ダメージは相当である。
軽率な、行動は⋮⋮
﹂
!
だが、海未は持ちこたえた。
﹁し、しかし⋮⋮
﹂
﹁海未ちゃんお願ぁい
﹁ぬふしっ
!
!
彼女はしばし床の上で悶えた後、息も絶え絶えな様子で身を起こした。
海未は崩れ落ちた。流石に二度は無理だった。
!
﹂
!
﹁うん
分かってる
﹂
!
そう言うと、海未はことりの腕の中で力尽きた。
﹁そう⋮⋮ですか⋮⋮﹂
﹁フフン、聖帝に不可能は無い﹂
!
構えで臨んだら、容赦しませんからね⋮⋮﹂
﹁い、いえ、構いませんよ⋮⋮。そのかわり⋮⋮穂乃果も⋮⋮サウザーも⋮⋮生半可な気
ことりが涙ぐみながら海未に駆け寄る。海未も︵死にそうながらも︶笑いながら、
﹁海未ちゅあんありがとう
﹁い、良いでしょう⋮⋮私も、協力、します⋮⋮﹂
1話 スクールアイドル聖帝爆誕! の巻
16
17
かくして、一つのスクールアイドル伝説が幕を開けた
持ち歌どころか、グループ名すら決まっていない現状
つづく
果たして、彼らはこの学校の救世主になりうるのだろうか
しかし、四人の心には大いなる希望と野心があった
!
!?
!
!
+前回のラブライブ
+
した。歌もダンスも未経験だけど、きっと余裕だよね
だって帝王だし
!
!
もあるよ
くれないしすぐ嘘つくんだもん
でも、お師様は好き
お師様のためにデカい十字
!
陵だって作っちゃうくらい好き。ロン毛なのがもどかしいけど好き
あ、でも愛はいらないよ
人気もファンも欲しいけど、愛はいらない︵笑︶
!
こんな聖帝だけど、下郎の皆さん、どうかファンになってください。
!
!
好きな食べ物はカレーライス、嫌いなものは大人。だって、大人って汚いしわかって
!
座右の銘は﹃退かぬ、媚びぬ、省みぬ﹄。でも、時々昔を思い出して泣きたくなるとき
!
俺は聖帝サウザー なんやかんやでスクールアイドル始めることになっちゃいま
!
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
18
※
スクールアイドルを始めることにした四人はさっそく部として登録するべく書類を
手に生徒会室に向かった。
生徒会長も学校の廃校は阻止したいはずである。きっと、この提案に快諾の判を押し
てくれるだろう。
⋮⋮だが、現実はそううまく行かないものである。
した。
!?
た。
こう言われては四人も引き下がるほかなく、すごすごと生徒会室を後にするのだっ
人未満のものが数個あるが、それらも設立当時は五人以上の部員が登録されていた。
これは生徒手帳にもバッチリ銘記されていることである。また、現行の部活動には五
﹁部活、同好会問わず設立には五人以上の部員が必要よ﹂
た。
それに対し、穂乃果が食い下がる。しかし、絵里の言葉は冷たく、簡潔なものであっ
﹁な、何でですか
﹂
昼下がりの生徒会室、生徒会長の絢瀬絵里はそういうや部活動申請書を四人につき返
﹁残念だけど、認められないわね﹂
19
しかし、部活動の申請が却下されたからといって個人的な活動が禁止されたわけでは
ない。四人は来るべきアイドル部設立に向けて動きだすことにした。
例えば││。
﹁三人とも、見て見て﹂
翌日の昼休み、ことりは一冊のスケッチブックを鞄から取り出してサウザーたちに見
せた。
﹁なんだこれは﹂
昨日の夜考えたんだー﹂
どうしたの二人とも
﹂
穂乃果が不思議そうに訊いた。
﹂
そんな衣装を見ながら、サウザーと海未がモジモジする。
作るつもりなのだろう。
ことりは時折自分で服をこさえてしまうような腕の持ち主である。この衣装も、自分で
真 っ 白 な ス ケ ッ チ ブ ッ ク の 上 に 描 か れ た 鮮 や か な 衣 装 は 三 人 の 目 に 眩 し く 映 っ た。
﹁ステージ衣装だよ
!
?
﹁こ、このスカート、丈が短すぎませんか⋮⋮
?
﹁いやなんでサウザーちゃんは着る前提で話してんのさ﹂
﹁そ、そうだ。いくらおれでもこんなミニスカートは⋮⋮﹂
?
﹁ん
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
20
﹁サウザーちゃんはいつものタンクトップでいいよー﹂
しかし、ここは聖帝サウザー、自分だけ他と衣装が違うのは許さぬ⋮⋮というか寂し
い。とは言えいくらなんでもフリフリミニスカートというのは厳しい。 ﹂
それぞれ色違いのタンクトップにすればかなり
そういう事であるから、サウザーもまたお揃いの衣装案を引っ提げてきていた。
鮮やかだと思うが
﹁貴様たちもタンクトップにすれば
﹂
!
﹁穂乃果の言う通りです
ことりの衣装だって、その⋮⋮下着が⋮⋮﹂
もっとも、サウザーにかかればその程度なんてことは無いだろうが。
サウザーがフリフリミニスカートなぞ履こう日には国家権力の召喚は避けられまい。
﹁だからなんでサウザーちゃんは着る前提で話してんのさ﹂
﹁それは俺も恥ずかしい﹂
!
に胸が﹂
﹁確かに、サウザーちゃんのタンクトップって、女子が着ると大変なことになるよね。主
﹁破廉恥です
をしている。しかし、海未はどちらにも反対な様子であった。
ことりはスケッチブックを眺めながら納得出来るような出来ないような微妙な表情
﹁タンクトッ⋮⋮タンクトップ⋮⋮うーん⋮⋮﹂
?
?
21
俺の脚も﹂
海未ちゃん、脚も引き締まって綺麗だから似合うよ
﹁わかりましたか
ことり﹂
カートはどうなんだという野暮な指摘は断じて許されない。
﹂
か っ た。曰 く、衣 装 は 膝 下 じ ゃ な い と 認 め な い、と。こ こ で い つ も 着 て い る 制 服 の ス
話は平行線を辿って決着がつかない。海未はてこを使っても持論を曲げそうにはな
!
恥ずかしさで頬を染める海未。そんな彼女の肩を叩きながら、
﹁大丈夫だって
﹁フハハハハ│ッ
!
﹁サウザーちゃんちょっと黙ってくれないかな﹂ !
?
﹁おや、曲は流通しているものを使うのではないのですか
﹂
﹁えっと、チームの名前は公募するとして、問題は曲だね﹂
リストアップされたものをことりが確認する。
四人のやるべきことは衣装意外にも多々ある。
﹁むう⋮⋮﹂
﹁タンクトップも無しです﹂
﹁じゃあやっぱりこのタンクトップを﹂
﹁はーい⋮⋮﹂
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
22
?
﹁穂乃果は自分たちの曲が欲しいなー
﹂
音ノ木坂の名前を上げるための活動なんだし
!
要なのだ。
﹁でも、そう都合よく作曲出来る人なんているかなぁ
﹁まぁ、普通はいないですよね﹂
心配するでない﹂
﹂
穂乃果がフンスと意気込む。どちらにしろ、部活動申請のためにはあと最低一人は必
﹁となると、新メンバーが必要だね﹂
さっさと作れるものではない。
特に、作曲に関してはある程度の専門知識が必要なわけで、昨日今日の人間がほい
しかし、四人は作詞も作曲もやったことは無いし、どうやればいいのかは分からない。
穂乃果が元気に言う。と、なれば、歌詞とそれをのせるメロディを作る必要がある。
!
﹁で、サウザー。アテはあるんですか
!
﹁フハハ そのようなものないわ
!
﹂
放課後にでも音楽室に行けば、そう言う輩がい
?
!
﹂
﹁いなければスカウトすれば良いのだ。このおれのネゴシエイト力に括目するがいいわ
サウザーはマントを華麗に翻しながら宣った。その姿には謎の信頼感がある。
﹁フフハハハ│ッ
!
?
23
るんじゃね
っていう
﹂
!?
れないというのは、大きな魅力であった。
な時間⋮⋮放課後の音楽室で一人、ピアノの弾き語りをする時⋮⋮それを誰にも邪魔さ
それに、廃校になるというだけにこの学校は人が少ない。それゆえ、自分だけの大切
にきちんと学校として機能していてくれるならば何ら問題ないのだ。
彼女にとって学校は勉学をする場所でしかない。例え廃校になろうと、自分の在学中
しかし、彼女にとってそのような事はどうでもよい。
の事実を突き付けられた可哀想な一年生の一人でもある。
西木野マキは今年入学してきたピッカピカの一年生である。そして、入学早々に廃校
※
調するのであった。
高笑いするサウザーに呆れかえる海未。穂乃果とことりは苦笑しながらも海未に同
﹁穂乃果、ことり、私色々先が心配なんですけど﹂
?
そして今日も彼女は人知れず音楽室で歌を唄う。
﹁⋮⋮ふぅ﹂
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
24
一通り唄い終わった彼女は息を一つ吐くと、鞄から水筒を取り出し喉を潤した。
誰にも邪魔されないこの時間。この時間があるから、彼女は明日も頑張ろうと思える
のだ。
﹂
彼女がそんな豊かな気分に浸っている時であった。
﹂
﹁フハハハハ│ッ
﹁ヴェェッ
﹁な、なに
誰
﹂
﹁フフ⋮⋮誰ですかって⋮⋮フハハハハ│ッ
﹂
ホントに音楽が出来そうな感じの子がいた
﹁お、お邪魔します⋮⋮﹂
﹁すごい
﹂
!
のリーダーである﹂
﹁俺の名はサウザー。南斗鳳凰拳伝承者にして聖帝、そして音ノ木坂スクールアイドル
そんなマキなぞお構いなし、タンクトップが自己紹介をする。
マキはあまりに突然の事態に呆然とするばかりである。
何が面白いのか大笑いするタンクトップに続いて三人の二年生も入室してきた。
﹁流石聖帝だね∼﹂ !
!
!?
突如音楽室の戸が開け放たれ、紫のタンクトップ姿の男が乱入してきた。 !?
!
!?
25
﹂
﹁す、スクール⋮⋮なに
?
名前は
﹂
﹁マキちゃんかぁ
歌、上手だねぇ
﹂
こっちが南ことりちゃんで、こっちが園田海未ちゃん あなたの
!
!
﹁に、西木野マキ⋮⋮﹂
?
!
⋮⋮。
﹂
歌もピアノも上手だけど、もしかして作曲とかできたりするの
﹁ていうか、あなた達何
突然入ってきたかと思えば
!?
﹂
マキは照れたように頭を掻く。が、ここに来てようやく彼女は正気を取り戻した。
!?
穂乃果は続ける。
﹁マキちゃん
﹁すごい
﹁えっ、ま、まぁ⋮⋮﹂
!
﹁い、いや⋮⋮﹂
!
﹂
れお前は歌が上手いなだの⋮⋮まぁ、歌が上手いと言われたのは素直に嬉しかったが
マキは意味が解らなかった。闖入者の襲来かと思えばやれスクールアイドルだのや
!
﹁私、高坂穂乃果
サウザーを名乗るタンクトップに着いてきたマゲの二年生が言う。
﹂
﹁スクールアイドルだよ
!
!
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
26
﹂
﹁だから、スクールアイドルだと言っているであろう
﹁意味わかんない
﹂
?
?
ことりも参加してマキを口説く。
ね、一緒にスクールアイドルやらない
!
﹂
?
﹂
!
﹂
!
そしてそのまま穂乃果たちの脇をすり抜けるように出口へと向かう。
﹁失礼します
穂乃果たちの声を無視するように、彼女は鞄に素早く荷物をまとめ、肩に下げた。
﹁え∼
﹁興味ないです
し、それも一瞬のことで、すぐに返事が返って来る。
穂乃果は満面の笑みで元気よく誘う。それにマキは一瞬逡巡の気色を見せた。しか
﹁ことりちゃんの言う通り
﹂
﹁西木野さん歌も上手いし美人だし、きっと衣装も似合うと思うな∼﹂
こと。
結成したこと、そして、その曲作りのために西木野マキさんにも参加してほしいという
自分たちはこの学校を廃校から救いたいということ、そのためにスクールアイドルを
四人はマキに事情を説明をした。
﹁サウザー、ちゃんと順を追って説明しないと伝わらないでしょう﹂
!
27
だが。
﹁へっへっへ∼﹂
﹂
﹁逃がさねぇぜェ∼﹂
﹁な、なによ
丈夫二人が立ちふさがってきた。
?
それにはさすがの穂乃果たちも驚く。
﹁こ、この世紀末感あふるる人たちは⋮⋮
﹂
音楽室を出ようとしたマキの前に、どこに隠れていたのかという勢いでモヒカンの偉
!?
﹂
?
いけない。
そのような大男たちがニヨニヨ笑いながらいたいけな少女に迫ってくるのだ。これは
聖帝軍の精鋭モヒカンズの二人は一見してマキの身長の倍はあるようにすら見える。
しかし、当のマキは全然笑いごとではない。
三人は思わず苦笑を漏らした。
﹁ほ、保護者⋮⋮﹂
﹁フハハ、立場上は俺の保護者となっている﹂
﹁学校は関係者以外立ち入り禁止では
﹁フフフ⋮⋮。俺の部下、聖帝正規軍の兵士よ﹂
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
28
﹁フフ⋮⋮行けい、者ども
﹂
捕えてチーム﹃名称未定﹄の作曲担当とするのだー
!
羽目になってしまうだろう。ああ、哀れ西木野マキ
だが、次の瞬間
﹂
﹁ねえ穂乃果ちゃん、何か聞こえない
?
﹂
!
﹂
マキの腕から鋭い闘気が放たれ、モヒカンズを貫いた
││北斗有情破顔拳
﹁あっ⋮⋮げ⋮⋮﹂
﹁うひぃ⋮⋮﹂
キは再びサウザーたちに向き直り、
ほどに恍惚の表情を浮かべながら冷たい床の上で痙攣している。それを一瞥すると、マ
貫 か れ た モ ヒ カ ン ズ は 見 事 M E N T A L K.O で あ る。気 が 付 け ば 気 味 が 悪 い
!
そう、その謎の音楽が流れてきた瞬間、マキがおもむろに腕を上げた瞬間である
﹁ええ⋮⋮なにかしら⋮⋮テーレッテー
﹂
﹁ほんとだ⋮⋮海未ちゃんも聞こえる
?
!
!
?
!
このままではマキはあえなく捉えられ、なんやかんやの後にサウザーの下で作曲する
モヒカン達が舞う。
﹁ヒャッハァーッ
!
!
29
﹁とにかく、お断りしますからっ
﹂
あまりの急展開に置いていかれ気味の穂乃果、海未、ことりの三人。対して、サウザー
﹁世紀末すぎるよ∼﹂
﹁ちょっと私にもわかりません﹂
﹁えっ、何今の﹂
スだけが部屋の空気を震わせていた。
彼女が去った音楽室は一気に静まり返り、床の上で痙攣するモヒカンのアヘアヘボイ
と言い捨てさっさと音楽室を後にしてしまった。
!
だけが血を流すほどに歯ぎしりしながら、
﹂
!
この誰が作ったのか分からないピラミッド⋮⋮まぁ作らせたのはサウザーなのだが
四人は校庭にある聖帝十字陵前に来ていた。
そういうわけで、トレーニングです﹂
﹁メンバー探しも良いですけど、それに構かけて練習できなかったら意味ありません。
時は流れ、放課後。
※
と唸っていた。
﹁ぬうう北斗めぇえええ
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
30
⋮⋮には頂上まで長い長い階段が続いている。海未はそれをひたすら登る、という単純
ながらも地味にハードなメニューを課した。
﹂
?
ら⋮⋮﹂
﹁いや別に南斗と北斗の因縁的な話じゃなくてね 歌が上手くて作曲も出来るんだか
ぬ限り奴は俺に勝てぬ﹂
﹁フフ⋮⋮安心しろ高坂穂乃果。いくら北斗神拳といえど、この俺の身体の秘密を暴か
﹁それにしても、マキちゃんの事は諦めきれないなぁ﹂
登りながら、穂乃果が漏らす。
四人はしっかりとした足取りで階段を登り始めた。
ウザーの順で頂上を目指す。
準備体操が済むといよいよ登山の始まりである。海未を先頭に、穂乃果、ことり、サ
穂乃果とことりが準備体操しながら答える。
﹁そうだね﹂
﹁まぁ﹂
しょう
サウザーも聖帝ですから問題ないでしょう。でも、穂乃果とことりはそうじゃないで
﹁私は弓道で鍛えてますし、こう見えて登山が趣味ですから体力には自信があります。
31
?
穂 乃 果 に は マ キ は あ あ 言 え ど ス ク ー ル ア イ ド ル に 興 味 を 抱 い て い る と い う 確 信 が
あった。YESと答えられないのは、プライドがそれを許さないという理由もあるだろ
う。アイドルなんて、ヘラヘラ踊り狂っているだけにしか見えないのかもしれない。
実際、穂乃果も最初はそう思っていた。廃校から学校を救いたいという気持ちは本物
であったが、アイドルを軽く見ていたからこそ、気楽に、
﹁アイドルやろーぜアイドル﹂
と提案出来たのである。 しかし、海未に言われ、聖帝十字陵を登っている今、そのような気持ちは微塵もない。
サウザーもまた同様にスクールアイドルを提案した者だ。しかし、彼の穂乃果と違う
ところは、過去も現在も特に何も考えていないというところである。海未に言われて考
えてることといえばカレーに一番合う品種の米は何かということくらいである。
⋮⋮四人が十字陵の頂上に着いたのは登り始めてから二十分ほど経った時の事であ
る。
その頃には穂乃果とことりはヘロヘロで、立っているのもやっとという様子であっ
特にサウザーは途中でターバンの少年に脚を刺されていた
?
た。
ようでしたが﹂
﹁三人とも大丈夫ですか
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
32
﹂
﹁フン、大丈夫だ。絆創膏も貼ったし﹂
﹁な、なんて強がりなのぉ
﹂
﹁あの我慢強さは穂乃果じゃ絶対太刀打ちできないね⋮⋮
﹁そんなことより、ほら、見てください
を向けた。
││お師さん
!
﹂
その日の鍛錬を終えたサウザーは腕で額の汗を拭いながら、ふと近くにいた犬へと目
それは丁度このような夕暮れの事であった。
そんな夕暮れの景色を見て、サウザーの心に、昔の温かな記憶がよみがえる⋮⋮。
そうとしか表現の仕様の無い景色であった。
﹁綺麗⋮⋮﹂
その風景に、四人は言葉を失う。
光の残滓と共に消えて、街の灯が星よりも煌びやかに輝き始めるだろう。
空は夜の装いを見せ始め、鮮やかな空の中で星々が輝き始めていた。間もなく夕日は
時刻はちょうど夕暮れであった。
三人のやり取りを無視しながら海未が目の前に広がる景色を示す。
!
!
!?
33
││どうしたサウザーよ
││あそこにいる犬は、何をしているのですか 一匹がもう一匹に乗っかっている
ようですが⋮⋮
││へぇ、動物も大変ですね
││あれは、犬同士の鍛錬だ。動物界にも険しい戦いがあるからな
かけた。
ものへと変わり、手にしたタオルでサウザーの汗をわしわしと拭きながら、優しく語り
サウザーは一瞬その目に気圧された。だが、すぐにオウガイの目はサウザーを愛しむ
それを聞いた瞬間、師⋮⋮オウガイの目が険しく光った。
?
││ン
いや、あれは⋮⋮
││シュウ、見てみろ。犬が鍛錬に励んでいるぞ
サウザーが事の真実を知ったのは、それからずっと後のことでった⋮⋮。
!
││いや⋮⋮えっ
サウザー⋮⋮えっ⋮⋮
﹂
?
││犬ですらあのように鍛錬するのだ。我々人間もうかうかしておれぬな
?
﹁愛などいらぬぅっ
?
!
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
34
﹁うわビックリした
﹂
!
ジュース奢り∼﹂
﹁あっ、サウザーちゃんずるい
﹂
!
!
!
まってよサウザーちゃん
!
省みぬ
フハハハハ│ッ
その飛翔する姿は、まさに鳳凰
﹁フハハハハ
!
﹂
!
﹂
!
結局、サウザーは三人にジュースを奢る羽目になった。
三人に先を越されてしまった。
先ほどと寸分違わぬところ︶、その痛みに絶えるためうずくまっている内に穂乃果たち
しかし、彼が着地した瞬間の僅かな隙を突いたターバンのガキに脚を刺され︵しかも
!
!
穂乃果とことりの声を無視して、サウザーは高らかに飛翔する。
﹁ちゅん
﹂
﹁フハハハハ│ッ 一番先に下へ行くのはこの聖帝サウザーだ 一番遅れた下郎は
海未が言う。すると、サウザーがまた高らかに笑い出した。
﹁そろそろ下りましょうか。本格的に暗くなると危ないですし﹂
⋮⋮そうこう言っている内、空はみるみる暗くなっていった。
サウザーが慟哭する。誰よりも純真であったが故に⋮⋮。
﹁大人の愛ゆえに、人は恥をかかなければならぬ
!
35
36
2話 聖帝の華麗なるスカウト の巻
つづく
+前回のラブライブ
!
※
FATAL K.O. トラナイデ
ウィーンマキィ ︵パーフェクト︶ テーホクトウジョーハガンケンハァーン
バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッ
ス
ヴェェッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. オコトワリシマ
ヴェェッナニソレイミワカンナヴェェッイイカゲンハァーテンショウヒャクレツケン
ンテンショーヒャクレツヴェェッイミワカンナイヴェェッヴェェッヴェェッフゥハァ
ンデッサイダデステニーヴェェッペシペシヴェェッペシペシハァーンヴェェッハァー
ジョインジョインマキィヴェヴェヴェヴェザタイムオブレトビューションバトーワ
西木野マキよ。
+
3話 聖帝と甘いお願い
37
!
十字陵から降りた四人はそのまま荷物をまとめると校門へと向かった。既におおよ
その部活も活動を終えており、薄暗い校門から出ていく人影はまばらである。
﹂
!
﹂
そんな校門で、穂乃果は三人に嬉しそうに言った。それに対して海未が驚いた様子
﹁さて、曲の目途も立ったことだし、あとは歌詞だね
で、
﹁穂乃果ったら、あの子のこと諦めて無いんですか
?
それにサウザーちゃんは絶対負けないって言ってるし、いざという時は大丈
﹁当然
!
﹁穂乃果ちゃんもしかして西木野さんのこと拉致るつもり
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
サウザーの居城は学校から二十分歩いたところにある大きな建物で、屋根の上にはい
た。
四人は歌詞を練り上げるべく、校門から出るやそのままサウザーの居城へと向かっ
しかし、拉致るにせよなんにせよ、曲を作ってもらうにはまずは歌詞である。
﹁何で黙るの﹂
?
る恐る訊く。
答えるようにサウザーは﹁フハハハハ│ッ﹂と笑う。そんな二人を見て、ことりは恐
﹂
夫だよ
!
3話 聖帝と甘いお願い
38
つも南斗の十字を象った旗がはためいている。
﹂
門をくぐりながら穂乃果がほえー、と溜息を吐く。彼女はここに来るたびにこれを
﹁相変わらずデカいねー﹂
言っていた。
玄関ではサウザーのお世話役であるブルが出迎えてくれた。
﹂
おしぼりをお持ちしろ
﹁お帰りなさいませ。ご学友の方もごいっしょでしたか﹂
﹁うむ﹂
﹁おじゃまします
﹁どうぞいらっしゃいまして。リゾ
﹂
!
!
ベッドのある寝室ぐらいなものである。それは来客があった時も同じで、穂乃果たちは
サウザーの城は非常に広いが彼が使う部屋は玉座のある無駄に広い食堂とふかふか
無論サウザーはそんな事情を知らない。
している三人への聖帝軍からの労いと感謝の気持ちという面が強い。
となぁ﹂などと思っているのだが、実際のところこのおもてなしは、サウザーの相手を
穂乃果たちは﹁こんなに良くしてくれるのだから、今度何かお土産でも持ってこない
サウザーの城は﹃城﹄と言うだけあってお客さんへ熱いもてなしをしてくれる。
﹁はっ
!
!
39
いつも無駄に広い食堂に案内されている。
この日も四人は広い食堂のデカい食卓に着き、さながら会議の如く話し始める。
海未の言う通り、作詞は単に文章を書けばいいというわけではない。いかに簡潔に、
﹁作曲ほど技術はいらないといっても、作詞もどうしたらいいか分かりませんね﹂
﹂
詩的に、リズムよく伝えたいメッセージをまとめ上げるかが重要である。好き勝手言葉
を羅列すればいいというわけではないのだ。
﹁いっそその西木野とかいう下郎に歌詞も任せてもいいんじゃないか
ことりが窘めるように言う。
﹁だめだよサウザーちゃん、何でもかんでも人任せは﹂
﹁穂乃果ちゃん、どうしたの
﹂
﹂
そんな中、穂乃果にはどうも妙案があるらしく、ひとり不敵に笑っていた。
?
﹂
﹁海未ちゃん
﹁はい
﹂
﹂
﹁海未ちゃんってさ、中学の時、ポエムとか書いてたよね
﹁なっ⋮⋮⋮
?
!?
!
!?
﹂
彼女はガタンと立ち上がるや否や勢いよく人差し指を海未へと向けた。
!
?
﹁ふっふっふ、実は作詞担当の目途は立ってるんだよねー
3話 聖帝と甘いお願い
40
瞬間、海未の顔が湯でタコのように紅潮した。顔全体で﹁恥ずかしい
るようである。
﹂
!
﹂と叫んでい
!
﹁いやですよ
﹂
﹂
!
と叫び立ち上がるとこの場から逃走しようとした。
﹁嫌なものは嫌です
やがて、その瞳に海未は耐えられなくなり、
﹁うっ⋮⋮﹂
穂乃果が悪意なき瞳で海未を見つめる。
?
!
﹁えー、なんでー
﹂
も死ぬというほどの思い出なのだ。
ずかしい思い出である。もしもこれ以上掘り返すようなら穂乃果たちを殺して自分ん
気には見えない。当然である。中学時代のポエムなぞ、彼女にとっては忘れたいほど恥
しかし、対する海未は真っ赤になりながら口をパクパクするだけで、お世辞にも乗り
とご機嫌麗しい。
﹁それは適任だな。フハハハハ│ッ
ことりも思い出した様子である。サウザーも、
﹁そういえば、書いてたよね、海未ちゃん﹂
41
﹂
﹂
﹂
が、そんな彼女の前をサウザーが高速反復横跳びで遮る。
﹁フハハハハハハハ
﹁ぬっく⋮⋮帰す気サラサラありませんね
﹁海未ちゃんお願い、海未ちゃんしかいないの
﹂
!?
﹁でも⋮⋮私はいやです
お断りします
﹁フフ⋮⋮作詞しないと反逆罪で死刑だぞ
﹂
﹂
!
?
!
いる。任せようものなら﹃パンを喰らう歌﹄などを作りかねない。
とはいうものの、彼女は穂乃果に作詞というか文章的な才能が壊滅的なことは知って
﹁穂乃果がいるでしょう
﹁私がしたいのは山々なんだけど、衣装作りで精いっぱいで⋮⋮﹂
ことりはサウザーの隙を窺う海未を説得する。
!
!?
!
!
﹁うっ
﹂
﹁海未ちゃん⋮⋮﹂
がどれだけ拒絶しようとも、彼女は作詞をしてしまうだろう。なぜなら⋮⋮。
海未の拒絶ぶりに穂乃果は﹁どれだけ嫌なんだ⋮⋮﹂と若干引いていた。だが、海未
ら腹を切ります﹂
﹁突然力と恐怖で人を支配しようとしないでください 何にせよ、作詞するくらいな
3話 聖帝と甘いお願い
42
!?
そう、穂乃果とサウザーの方には南ことりがいるのだ。
みなみこちょうたんがんは
﹂
﹂
海未ちゃんお願い
⋮⋮⋮お願ぁいっ
海未ちゃぁん
!
優しく抱きかかえる。
﹁うう⋮⋮ことり⋮⋮﹂
?
﹂
ことりが恐る恐る訊く。それに対し、死にかけの海未は困ったような笑みを浮かべ
﹁海未ちゃん⋮⋮どうしても、ダメ
﹂
穂乃果の制止が入り、ようやく海未は解放された。床の上で痙攣する彼女をことりは
!
た。
﹁お願い
﹁ぬうぅーーーーーーし
!
﹁待って待って、これ以上やると海未ちゃんおかしくなっちゃうって﹂
!
!
そんな彼女に追い打ちをかけるが如くことりは席を立って駆け寄り、嘆願波を連発し
と声を絞り出していた。
﹁そ⋮⋮それでも⋮⋮いやなものは⋮⋮﹂
だが、心はまだ完全に屈していないようで、
まらず身体を崩し、思わず尻もちをつく。
ことりが放った﹃南小鳥嘆願波﹄がまたも海未の身体を貫く。それを受けた海未はた
﹁⋮⋮お願ぁいっ
!
43
て、
﹁もう⋮⋮ことりったら、ズルいですよ⋮⋮﹂
彼女は、恥ずかしいと同時に怖かったのだ。 自分なんかが歌詞を書いたら、変なのになってしまうのではないか⋮⋮いや、まだそ
れだけならいい。自分が恥をかいて済むだけなのだから。
でも、書いてしまった以上、穂乃果とことりにそれを歌わせることになってしまうの
だ。そうなれば、二人は人前で大きな恥をかくことになってしまう。大切な人にそんな
思い、させたくなかったのだ。
﹁私は、口では偉そうなことを言ってますけど⋮⋮本当は自信がないんです。みんなに、
迷惑を掛けるかもと、不安なのです⋮⋮﹂
そういうと自嘲気味に笑った。
だが、そんな声を吹き飛ばすように穂乃果が叫ぶ。
﹂
!
﹁穂乃果⋮⋮﹂
露できる、素敵な歌詞が⋮⋮
﹁海未ちゃんならきっといい歌詞が書けるよ 誰にでも自慢できる、どこでだって披
死にかけ海未の傍へ穂乃果も駆け寄った。
﹁そんなことないよっ
3話 聖帝と甘いお願い
44
!
私達に書けないものを、海未ちゃんは切っと書ける ﹂
!
!
﹁もし私が歌詞なんか書いたら、ロクなのできないよ。﹃お饅頭音頭﹄とか﹃パンを喰ら
﹂
サ ウ ザ ー
う歌﹄とか⋮⋮もし海未ちゃんが引き受けてくれなかったら、歌詞を書くのは私とサウ
﹂
ザーちゃんになるんだよ
﹁⋮⋮
﹂
私 と サ ウ ザ ー ち ゃ ん な ん て ロ ク な の 作 れ な い よ
ちゃんなんかが作ろう日にはオトノキの廃校が加速するよ
﹁海 未 ち ゃ ん い い の
!?
!?
﹂
!
!
彼は自分の胸をそっと抑えながら独り言ちる。
﹁なんだろう﹂
そんな三人を傍から見ていたサウザー。
そう言う彼女の顔に、もう拒絶や恥じらいの色はなかった。
﹁分かりました。作詞、引き受けさせていただきます﹂
彼女は一つ笑うと、ことりの腕を離れ、一人でしっかりと立ち上がった。
いつもの力強い光が舞い戻ってきていた。
ことりの腕の中、呆然としていた海未。だが、二人からの言葉を受け、海未の瞳には
﹁穂乃果⋮⋮ことり⋮⋮﹂
ちゃんの素敵な詩が良いよ
﹁穂乃果ちゃんの言う通りだよ サウザーちゃんに世紀末ソング作られるより、海未
!?
!?
!?
45
﹁この辺が⋮⋮ズキズキする
※
﹂
しかし、彼女の指は以前ほど美しく動かない。
マキである。
音楽室にはピアノの軽やかな旋律が流れていた。演奏しているのは、もちろん西木野
えさっそく音楽室へと向かった。
歌詞が出来たとなると、後はメロディだけである。放課後になると、四人は歌詞を携
穂乃果に言われて誇らしげに胸を張る。
﹁ざっとこんなもんですよ﹂
﹁海未ちゃんすごーい﹂
には完成してみせた。
一度やる気になると海未の作業速度は非常に速くなる。頼まれていた歌詞も、翌々日
?
彼女は悩んでいた。
﹁⋮⋮スクールアイドル、か⋮⋮﹂
3話 聖帝と甘いお願い
46
⋮⋮あの四人の提案、乗ってみても良かったのではないだろうか
﹁バカみたい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ハハハ⋮⋮﹂
﹁アイドルなんて⋮⋮﹂
﹁フハ⋮⋮ハハハ⋮⋮﹂
﹁そんな連中の音楽なんて⋮⋮ん
﹂
それでも彼女は素直になれなかった。
その姿に、マキは魅力を感じてしまったのだ。
ころを。
女は見てしまったのだ⋮⋮あの四人が、校庭の十字陵に登ってトレーニングしていると
しかし、自分の作曲した歌が唄われる、というのは大きな魅力だったし、何より、彼
ヘラヘラ愛想を撒きながら適当に歌い踊るだけのオチャラケな人だ、と。
確かに、彼女はアイドルというものを見下している節があった。チャラチャラして、
?
﹂
?
彼女がそう呟いた、次の瞬間。
﹁こっちに、近づいてくる
そして、その笑い声は⋮⋮
マキは遠くから聞こえる奇妙な声に気付いた。何やら笑い声のようである。
?
47
﹁扉ドーン
﹂
﹂
﹂
﹂
! !?
﹁西木野マキよ
﹁お断り⋮⋮﹂
んん
﹂
我々のために作曲するのだ
﹁お断りしたら反逆罪で死刑だぞ
?
﹂
!
﹂
!
だが、感心したからといって付き合う道理はない。彼女は手早く荷物をまとめると方か
サ ウ ザ ー は 楽 し そ う に 高 笑 い す る。毎 日 が 楽 し そ う な 人 だ と マ キ は 逆 に 感 心 し た。
﹁フフフ⋮⋮貴様には作曲する以外の道は残されていないのだ
反復移動を繰り返すサウザーを見る限り、とにかくマキを外に出す気はないようだ。
何に対する反逆罪なのかは知れないが、出入り口を塞ぐようにフハハシュビドゥバと
?
!
蹴破られた入り口に聳える偉丈夫⋮⋮聖帝サウザーは宣う。
その音楽室に似つかわしくない喧しい笑い声にマキは聞き覚えがあった。
﹁フハハハハ│ッ
﹁な、なによ⋮⋮
破って外へ飛んでいってしまった。あまりに突然の事態にマキは慌てふためく。
音楽室の扉が景気よく蹴り破られ、吹き飛ばされた扉はそのまま音楽室の窓を突き
﹁ヴェエッ
!? !
﹁くっ⋮⋮﹂
3話 聖帝と甘いお願い
48
ら下げた。
﹁⋮⋮帰ります﹂
﹁おっと帰さんぞ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
?
フハハ﹂
﹂
!
!
そうであるから、諦めてこの歌詞にあった曲を作れ﹂
!
ない︶受け取り、サッと目を通した。
!
﹁⋮⋮⋮イミワカンナイ⋮⋮⋮﹂
た。
言うやサウザーは一目散にさきほど割れた窓へと突き進み、そのまま空へと羽ばたい
﹁フハハ⋮⋮完成を待ち望んでいるぞ。さらばだ
﹂
は半ばひったくるように︵相手が高速反復移動しているのだから仕方ないと言えば仕方
彼は反復移動しながら懐より海未の記した歌詞を取り出してマキに手渡した。彼女
も止められぬのだ
﹁俺の身体は神に与えられし身体だ。俺の身体に流れるのは帝王の血 故に、何者に
﹁
﹁フハハ。一つ警告しておこう。 俺の身体に北斗神拳は効かぬ
に手を上げる。だが、サウザーは不敵に笑いながら反復移動をやめない。
マキはサウザーのウザさに少しムッとした表情を見せると、荷物を床に置き、緩やか
?
49
嵐の去った音楽室で、マキは一人そう呟くのだった。
音楽室から飛び出したは良いものの、着地の瞬間ターバンのガキに襲われ死に体に
﹂
なってしまったサウザーは、ラマーズ法で痛みをこらえていたところをちょうど通りか
﹂
かった穂乃果たちに助けられた。
﹂
あのガキ、以前刺したところと寸分たがわぬところを⋮⋮
﹁サウザーちゃん大丈夫
﹁ぬっふ
﹁この聖帝に不可能は無い。無論、快諾であったわ﹂
ち上がった。
海未に訊かれたサウザーは、不敵に︵でもちょっと辛そうに︶笑いながらユラリと立
!
?
﹁そんなことよりサウザー、ちゃんと歌詞は渡せたのですか
?
!
﹁そうですよ穂乃果。いくらいつもパッパラパーでアッタタターなサウザーでもそこま
﹁穂乃果ちゃんったら、さすがにサウザーちゃんもそこまで馬鹿じゃないよ﹂
案外大丈夫なもんだね﹂
﹁いや∼、サウザーちゃんの事だから南斗と北斗の因縁深めてきただけかと思ったけど、
ことりが嬉しそうに言う。これには穂乃果もホッとした様子で、
﹁さすがだね﹂
3話 聖帝と甘いお願い
50
でじゃないですよ﹂
﹂
四人は仲良く声を上げて笑う。
﹁フハハハハ│ッ
﹂
ひとしきり笑い終わったところで、海未が﹁さあ
﹂
﹁今日もトレーニングしていきますよ
﹁おー
﹁フハハハハ﹂
※
三日後。
﹂
!
﹂
﹂と声を上げた。
﹂と突如として穂乃果が現れた。
消毒されてぇかぁ∼
!
そんな彼の前に、﹁サウザーちゃん
﹁なんだテメェはぁ
!
!
ズに登校できる。
紀末的な登校をしていた。彼の行く手は先遣隊が確保してくれているので、実にスムー
サウザーはいつものように豪奢なバイク︵通称・聖帝バイク︶の玉座に座りながら世
﹁聖帝様のご登校だぁ∼
!
!
!
!
51
﹂
突然のことに先遣隊が反応する。しかし、それをサウザーはおさえ、
﹁まぁ待て。どうしたのだ高坂穂乃果、えらく慌てている様子だが
﹂
?
﹂
﹁朝起きたら家に届いてたの。マキちゃんが作ってくれたんだって
﹁なんだと
﹂
!
は、﹁チーム﹃名称未定﹄へ﹂と走り書きがされている。
言うと穂乃果は鞄をごそごそ漁り、一枚のCDを取り出して掲げて見せた。ケースに
﹁そ、それがね
!
ついに北斗は南斗に屈したのだ﹂
!
!
面目に聞くような性格ではないのだ。なにしろ聖帝なのだから。
穂乃果は苦笑しながら言う。しかし彼は聞く耳を持たない。彼は根から人の話を真
﹁いやいや﹂
﹂
いとマキは言うのだ。だが、聖帝サウザーにそんな道理が通用するはずもなく、
たので今回だけ特別に作ることにした﹂らしい。決してサウザーの勧誘のおかげではな
CDにはメモ書きが同封されていたらしく、穂乃果が言うに、そこには﹁歌詞が良かっ
﹁いや、別にそういうんじゃないと思うけど﹂
﹁フハハハハ│ッ
それを聞くや、サウザーはスクと立ち上がり、快活な笑い声を上げた。
?
﹁そのようなもの、下郎の戯言に過ぎん。﹃ホザケ↓ゲロゥ﹄でしかないわ
3話 聖帝と甘いお願い
52
南斗の威光を知らしめるのだ
!
﹂
!
つづく
す羽目となった。
だが、存外に乗り心地の悪いバイクであるから、サウザーは校門前で胃の中を吐き戻
で音ノ木坂学院へと猛進していった。 サウザーの指示の下、聖帝バイクは大きな唸り声を上げ、穂乃果そっちのけの全速力
﹁征け、音ノ木坂へ
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