地政学上の変化と資産運用

2015 年 12 月
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地政学上の変化と資産運用
チーフ・ストラテジスト
神山 直樹
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ブレマー氏が見る欧州と中国
2016 年は経済より政治が大事になるかもしれない
投資家のリスクとチャンス
ブレマー氏が見る欧州と中国
2015 年 12 月 3 日、日興アセットマネジメント主催のセミナー(渋谷ヒカリエホール)において、米国の著名な国際政治
学者であり、リーダー不在の世界を「G ゼロ」と名付けたイアン・ブレマー氏(ユーラシア・グループ社長)が、激動の国際
情勢について資産運用へのヒントを盛り込んだスピーチを行なった。以下に、重要と思われる点をまとめてみる。
ブレマー氏は、数年前まで考えられなかった英国と中国、フランスとロシア、ドイツとトルコの組み
合わせが良好な関係にあることについて、第二次世界大戦後の政治の枠組みが崩れ、「G ゼロ」
が進みつつあるからこそ、いま眼前にあると考えている。日本でも驚かれた英国と中国の関係強
化は、英国と米国の特別な関係の後退が背景となっている。これまで経験したことのない規模の
IS(中東の過激派組織、イスラム国)のテロで、フランス国内は団結から分裂に向かっているよう
だ。フランスのサルコジ元大統領とオランド現大統領が別々の方向を向く一方で、現大統領は
NATO(北大西洋条約機構)に依拠せず、ロシアと協力して IS に立ち向かうという。
ドイツは、シリアからの難民について国民の 1%ほどの人数を毎年受け入れるとしたが、米国などを含む他の国の同意
や支援は得られていない。そこで、独メルケル首相はトルコに目を向け、資金援助や将来の EU(欧州連合)加盟を視
野に難民保護を求めている。英、仏、独という欧州の主要 3 ヵ国がこのような状況にあり、米国の重要性が低下したこと
は明らかだ。欧州の政治的不安定は継続せざるを得ない。
一方、中国が「グローバルな経済戦略を持っている」、いわば戦後の米国の支援策のような「マーシャルプラン」(第二
次世界大戦後のヨーロッパ諸国に対する復興支援計画)を持っている、とブレマー氏は指摘する。中国は西側の言う
自由主義や民主主義ではなく、新興国でもあるが、いまや数少ない「戦略がある」国だ。しかし、中国が米国にとって代
わるという主張ではない。これからの世界は、米国流の自由主義経済と、国家が国営企業などを管理する経済のハイ
ブリッド型になるという予想だ。我々は今、この変革期を目にしている。長期的には中国の軍事拡大や政治体制の変化
などの予想は難しいが、当面は、上述した経済システムの変化に注目する。
世界を見渡すと良いこともある。グローバルで自由な市場経済は、西半球で強まりそうだ。メキシコは改革が進み、順調
に先進国になるだろう。現時点のブラジルは、20 年に亘って蓄積された課題の対応で厳しいが、他国への悪影響は限
られるだろう。これからは、不動産や株式投資の観点から西半球の安定に注目する。また、リーダーシップの強さと安
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資料で
はありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きのある資
産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがありま
す。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。
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定感においては、日本や中国、インド、フィリピン、インドネシアなどのアジアの国々が良い状況にあると思う。中国では、
金融の自由化や国有企業改革などを行なおうとすること自体が政治的に安定している証拠であり、ナショナリズムやポ
ピュリズムも相対的に低い状態にあると思う。アジアはこの点で魅力がある。
2016 年は経済より政治が大事になるかもしれない
ブレマー氏の見方は、私たちが普段接する情報よりも、中国に対して楽観的で、欧州に対して悲観的にみえる。しかし、
同氏の考えは、私たちの情報が自分自身の目の曇りでゆがんでいる可能性を直視する機会を与えてくれる。例えば、
南シナ海の不安定さは、世界の他の不安定や衝突と比べれば安定しているのかもしれない。
2016 年の投資環境を考える際、経済システムのハイブリッド化を背景
として、当面不安定な政治情勢が重要となりうる。FRB(米連邦準備制
度理事会)による政策金利の正常化や、債券から株式への資金シフト
などが期待される一方で、欧州における社会不安が高まる可能性など
の考慮も必要だ。ビル・ゲイツ氏らによって発足した環境への投資ファ
ンドが大規模な資金の動きを生み出す可能性があることの方が、各国
の政策よりも重要になるかもしれない。ブレマー氏が講演の中で触れた
フランシス教皇の回勅(ローマ教皇から世界の司教にあてた公文書、
対談するユーラシア・グループ社長のブレマー氏(右)と
今回のテーマは環境)が気候変動への投資拡大を後押しするかもしれ 神山チーフ・ストラテジスト(左)
ない。
投資家のリスクとチャンス
ブレマー氏の講演のインプリケーションの一つは、新興国か先進国かという区別よりも、2016 年は安定した西半球やア
ジアか、それ以外かといった新たな観点だった。経済体制のハイブリッド化が強まるとすれば、主に経済分析だけで済
む「分かりやすい」先進国投資だけでは、世界の成長をカバーできなくなりそうだ。多数決の民主主義や自由経済だけ
が、経済成長するための当面の答えではないとすれば、投資の機会損失を被らないために、(好むと好まざるとにかか
わらず)幅広い対象を視野に入れておきたい。当然、投資先の状況は地域や国ごとに大きく異なる。経済状況のみな
らず、政治的リーダーシップが相対的に強いか弱いか、難民などを意識して閉じていく政治か TPP(環太平洋経済連
携協定)で開こうとする政治経済か、積年の問題を解決する産みの苦しみなのか構造的な悪化の始まりなのか、など、
このような観点を持つことにより、投資家は地政学を単なるリスク回避ばかりではなく、投資リターン獲得の機会としてと
らえることができるだろう。
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