Economic Indicators 定例経済指標レポート

Economic Trends
テーマ:
マクロ経済分析レポート
配偶者収入はどこに消えたのか
~税・社会保険料負担増が共働き世帯の消費下押しに~
発表日:2015年12月25日(金)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主任エコノミスト 柵山 順子
TEL:03-5221-4548
要旨
○専業主婦の労働参加が進み、配偶者の収入が世帯収入を大きく押し上げ、世帯収入は増加基調が続いて
いる。にもかかわらず、消費は引き続き冴えない。
○共働き世帯と夫のみ有業世帯に分けてみると、共働き世帯の消費が停滞し、重荷となっている。その背
景には、自動車などでの駆け込み需要が大きかった分その反動が続いていること、マインド悪化に伴い
裁量支出が減少していることが挙げられる。
○世帯収入ではけん引役である共働き世帯ではあるが、税・社会保障負担の増大や将来不安などによる貯
蓄増が重荷となり、収入の割に消費が伸びない状況となっている。こうした共働き世帯の行動が、雇用
所得増が消費増に結びつかない一因だ。税・社会保障負担の増大は 2016 年以降も続くことを考える
と、今後も雇用所得環境の改善ほどには消費が伸びない状況が続きそうだ。
○存在感増す配偶者収入
アベノミクス効果もあり、最近は専業主婦の労
働市場参入が目立っている。こうした女性の就労
(図表1)勤め先収入前年比(%)
(後方3ヶ月移動平均)
は、世帯収入の押し上げにも大きく寄与しており、
その存在感は大幅に高まっている。家計調査でみ
ると、足元では勤労世帯の勤め先収入前年比では
世帯主収入を上回る押し上げ効果を見せている
(図表1)。
こうした配偶者収入の押し上げもあり、家計の
勤め先収入は過去と比べても高めの伸びが続いて
いる。にもかかわらず、消費は伸び悩んでいる。
配偶者収入増がなぜ消費に結びつかないのか、共
働き世帯と夫のみ雇用者世帯の比較を通じて、背
景を探ってみたい。
(出所)総務省「家計調査」
○ 減少続く共働き世帯の消費
家計調査で共働き世帯と夫のみ有業世帯の経常収入の前年比を比べると、妻の就労増効果により、共働き
世帯の方が経常収入の伸びが高い(図表2)。一方で、消費支出をみると今年度に入り共働き世帯の減少が
目立つ(図表3)。けん引役が期待されている共働き世帯が収入対比支出を抑制していることが全体の消費
の重荷になっているようだ。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
(図表2)世帯類型別経常収入前年比(%)
(図表3)世帯類型別消費支出前年比(%)
(出所)総務省「家計調査」
(出所)総務省「家計調査」
(注)夫のみとは夫のみ有業者世帯を、共働きとは夫婦が共に有業者世帯を指している。
では、どういった項目の消費が伸び悩んでいるのだろうか。最初に両世帯の違いを 2014 年データで確認し
ておくと、世帯主の平均年齢は 47,48 歳と大きな差は見られない。世帯人員も夫のみ有業世帯 3.3 人に対し
て共働き 3.5 人と差は小さい。一方、実収入については夫のみ有業世帯 50 万円に対して、共働き世帯は 58
万円と配偶者の収入分、共働き世帯の方が多くなっている。こうした収入の違いもあり、支出ウェイトを見
ると、共働き世帯は住居への支出ウェイトが小さい一方で、自動車などの「交通・通信」や仕送り小遣いな
どの「その他の消費支出」への支出ウェイトが高くなっている。
実際に今年に入ってからの両世帯の消費を上記の 10 大品目ごとに比較してみると、共働き世帯では交通・
通信やその他の消費支出が減少し、消費全体を押し下げている。より詳細に共働き世帯の支出を見てみると、
自動車の購入や仕送り、諸雑費、交際費などが減少している。自動車については、昨年の消費税率引き上げ
に伴う駆け込み需要がそもそも高所得世帯が多く含まれる共働き世帯で多く見られた反動もあろう。しかし、
自動車に加えて、いわゆる裁量支出と言えそうな仕送り、諸雑費、交際費などが減少していることからは、
共働き世帯の消費意欲低下がうかがわれる。
(図表4)共働き世帯消費支出前年比への自動車関連寄与度
(出所)総務省「家計調査」
○
(図表5)共働き世帯消費支出前年比へのその他の消費寄与度
(出所)総務省「家計調査」
高まる税・社会保障負担
消費動向調査でみても、所得階層の低い層ではマインドの改善が見られる一方で、高所得層ではマインド
はむしろ緩やかながらも悪化している。特にその差が明確なのが収入に対する見方だ。図表6の所得階層下
位3層は昨年の最悪期をすでに脱している。一方で、図表7の通り、上位2層は足元悪化に転じている。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
(図表6)収入の増え方に対するマインド推移(下位3層)
(出所)内閣府「消費動向調査」
(図表7)収入の増え方に対するマインド推移(上位3層)
(出所)総務省「消費動向調査」
前述の通り、共働き世帯の方が収入の伸びは高い。所得階層別にみても、配偶者の有業率が高いこともあ
り、高所得世帯の収入の方が高い伸びとなっている。にもかかわらず、共働き、高所得世帯の収入への警戒
感が高い背景の一つには、税・社会保障負担の増加が考えられよう。税・社会保障などへの支出を示す非消
費支出について、共働き世帯と夫のみ有業世帯を比較してみると、共働き世帯で負担増が続いている(図表
8)。こうした税・社会保障負担の増加が共働き世帯で収入対比支出を抑制する要因になっているようだ。
また、夫婦共に社会保険の対象である可能性が高い月収8万円以上の妻を持つ共働き世帯をみると、可処
分所得にしめる消費の割合は低下が続いており(図表9)、収入増が貯蓄に回されている。つまり、収入の
高い世帯ほど、税・社会保険料負担と将来不安などによる貯蓄が増やされ、結果消費が伸び悩んでいる。
(図表8)世帯類型別非消費支出前年比(%)
(図表9)世帯類型別平均消費性向前年差(%pt)(3ヶ月移動平均)
(出所)総務省「家計調査」
(出所)総務省「家計調査」
○ 今後も消費には逆風が
以上見てきた通り、配偶者女性の就労促進により、共働き世帯をけん引役に世帯収入は伸びているものの、
自動車など耐久財での反動減の残存や税・社会保険料負担増、将来不安などによる貯蓄増が重荷となり、な
かなか消費には結びついていない。こうした状況はまだ続きそうだ。社会保険料率の改定、所得税における
給与所得税控除の縮小など、2016 年についても税・社会保険料負担は増加する。また、少子高齢化が続く中、
社会保障の維持には高所得層や勤労者への負担増は不可避とみられ、将来の負担増および給付減への不安を
通じた貯蓄積み増しが消費の伸びを抑制するだろう。雇用・所得環境の改善対比消費が伸び悩むという姿は
続きそうだ。
女性、シニア世代の労働参加を促すことで保険料収入増および給付減をはかるとともに、高齢者世代内で
の所得再分配促進や持続可能な社会保障制度の設計などを通じ、過度な負担増を避け、将来不安を軽減する
ことが、就労増、所得増が消費増につながる自律的経済成長には必要となろう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。