水辺空間に調和した水門設計

Vol.42
JANUARY 2016
水辺空間に調和した水門設計
大阪支社 水圏部 山本 晋一、中国支店 水圏部 加賀 清、久一 博世
河川や湖沼は「治水」「利水」の役割を担うだけでなく、「豊かな生活環境の形成の場 (美しい水辺空間、潤いある
環境、自然とのふれあい)」や「生物多様性の場」であり、地域の暮らし・風土・文化を形成する重要な要素です。住民
の安全・安心のために設置される水門において、地域の代表的な水辺空間である宍道湖との調和に配慮して実施し
た設計と施工時の取り組みをご紹介いたします。当事業は2014年度の全建賞を受賞しました。
※本業務は、国土交通省中国地方整備局出雲河川事務所からの委託(2009、2010年度)により実施しました。
はじめに
水門設計における景観形成上の課題および基本方針
大雨によって宍道湖や大橋川の水位が上昇した際に、
支流である天神川に洪水が流入して松江市街地に浸水
することを防ぐため、3箇所の水門(写真1の○印)が計画
され、2015年1月、最初に天
神川水門が完成しました。
治水機能の確保と周辺景
天神川
大橋川
観の保全の両立を図った天
流向
神川水門の設計と施工時の
天神川水門
宍道湖
取り組みをご紹介いたします。
計画地の現状を踏まえ、水門設計における景観形成
上の課題および基本方針を図1のとおり設定しました。
周辺景観に配慮した天神川水門の設計
天神川水門の設計は、景観デザイン分野の有識者で
ある高知工科大学の重山陽一郎教授との協働のもと、
模型・CG等を活用して当社が行いました。以下、水門設
計の概要をご紹介いたします。
(1)水門のゲート形式
写真1 宍道湖上空から天神川を望む1)
ゲート形式によって土木構造も大
天神川水門計画地の概要
きく変わり、周辺景観に与える影響 ゲート
天神川水門計画地周辺は、島根県立美術館、岸公
が異なります。周辺景観との調和を
平常時(ゲート開)
流向
園(土木学会デザイン賞2003 最優秀賞、当社設計)、
図るためには「地上への構造物の突
白潟公園や夕日のスポット等が位置する松江のシンボル
出」と「ゲートや堰柱の威圧感」の抑
回転
的な水辺となっており、付近は散策、休憩、夕日鑑賞等
制が重要です。そのため、地上へ構
で観光客および市民利用度が高い場所です(写真2)。
造物が突出しないライジングセクタゲ ゲート
洪水時(ゲート閉)
また、2007年3月に策定された松江市景観計画におい
ートを採用しました(全国で14例目、 流向
図2 ライジングセクタゲートの概要
て湖畔の「展望地」として位置付けられ、宍道湖への眺
山陰地方では初採用、図2)。
望が開けるポイントとなっています。
また、水門の管理橋をゲートよりも宍道湖側に設置す
ることで、宍道湖側から巨大なゲートが目に触れないよう
に配慮しました(写真3)。
島根県立美術館
天神川
流向
水門
計画地
管理橋によってゲートを隠しています
岸公園
白潟公園
宍道湖
N
流向
写真3 宍道湖側から見た天神川水門
写真2 水門計画地の概要
計画地の現状(特性)
宍道湖
景観形成上の課題
水門設計における基本方針
①夕日の展望地
①水門および付帯施設には 宍道湖への
眺望を妨げない 位置・形態
①宍道湖への開けた眺望を確保する
②松江の代表的な水辺
景観
②周辺湖畔風景との調和および 優れた
デザイン性
②美術館や親水公園と調和した現代的
水門施設としてトータルデザインする
③多くの市民や観光客に
利用される水辺空間
③岸公園や白潟公園と一体となった 水辺の
魅力を高める整備
③開放的で 親しみやすい水辺空間 とする
図1 水門設計における景観形成上の課題および基本方針
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IDEA Consultants, Inc.
Working Report
(2)水門本体のデザイン
水門計画地周辺は、現代彫刻等が屋外展示されてい
る岸公園や島根県立美術館がある現代的な水辺空間で
す。周辺景観との調和に配慮
し、水門本体のコンクリート表
面を「はつり仕上げ」で処理す
ることによって、土木構造物の
重厚な圧迫感を軽減させまし
た(写真4)。
写真4 表面のはつり仕上げ
(3)水門操作室のデザイン
水門には操作室が必要となります。水門管理橋の橋詰
に操作室を設置すると夕日鑑賞および公園利用者の動
線を阻害することになり、周辺景観および利用面に与える
影響が大きくなります。このため、操作室は水門近傍にあ
る白潟公園内の園路を避けた位置に配置しました(図3)。
また、当操作室は公園との調和に配慮し、宍道湖側に
松江市周辺の伝統的建造物
にも見られる縁側をイメージし
たベンチを計画しました。ひさ
しを長くし、ひじ掛けを設置す
る等、気持ちよく宍道湖の夕
日を眺めることができる場所を
写真5 操作室の宍道湖側
創出しました(写真5)。
景観への意識が高まり、工程ごとの作業手順や留意点を
確認することができました。また、地域住民への情報提
供として工事進捗状況を確認できる仮設展望台を設置
する等、さまざまな工夫も行われました。このように事業
者・設計者・施工者が一体となり丁寧に取り組んだことも
評価され、全建賞を受賞しました。
(2)実サンプル作成による仕上げ方法と材料の提案
水門コンクリート表面のはつり仕上げの方法とはつり深
さ、水門管理橋の舗装、防護柵の仕様は、実サンプルを
作成し、関係者が施工現場に集まり実際に仕上がり状況
をみて仕上げの手法・材料等を決定しました(写真7)。
採用
写真7 はつり仕上げのサンプル比較
天神川水門完成写真
天神川水門の完成写真を以下に示します。
流向
宍道湖
取付
護岸
管理用
通路
水際テラス
取付
護岸
【水門】
【美術館側取付部】
ゲート
ゲート
橋詰広場
中央堰柱
流向
【白潟公園側取付部】
写真8 宍道湖側から天神川水門を望む
水門
操作室
橋詰広場
嫁ヶ島橋歩道
図3 水門操作室の配置図
流向
水門施工時の取り組み
写真9 天神川側から天神川水門を望む
天神川水門は2012年11月に着工し、2015年1月に
竣工を迎えました。当水門のデザインを反映するため施
工時に行った取り組みを以下にご紹介いたします。
(1)工事連絡会の実施
水門設計時の意図(ねらい)
が施工業者に確実に伝わるよ
う、施工期間中に、事業者・設
計者・施工者による工事連絡
会を計6回実施しました(写真
6)。工事連絡会の実施によっ
て、施工者の当水門に対する 写真6 工事連絡会の様子
おわりに
事業者、設計者、施工者が一体となり、多くの技術者
の協働によって、水都松江の代表的な水辺空間にふさわ
しい水門が完成したことに技術者として満足しています。
今後も当水門のように地域の実情に配慮し、安全・安心
で潤いある環境づくりに寄与できる施設設計に努めてま
いります。
〔出典〕
1)出雲河川事務所Webサイト「空から見た大橋川」を加工して作成
(http://www.cgr.mlit.go.jp/izumokasen/chumoku/nowohashi/files/photo/photos.html)
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