LBC(Liquid-based-cytology)が 病理検査室にもたらしたもの

BD Diagnostics
,
BD & Women s Health CASE REPORT
4
Vol.
LBC(Liquid-based-cytology)
が
病理検査室にもたらしたもの
… LBC法応用の可能性と将来 …
静岡県立静岡がんセンター
病理診断科 医長
伊藤以知郎 先生
液状処理細胞診LBC (Liquid-based-cytology) 法の医療現場での普及につれて、その利点、有用性は広く知られるように
なってきました。
今回は、
がん専門病院の現場においてBD シュアパス™ 法※ を導入した経験と、
新たな展開につながった例について、
静岡県立
静岡がんセンター病理診断科の伊藤以知郎先生にお話頂き、
LBC法の持つ可能性と将来像について伺いました。
※
BD シュアパス™ 液状処理細胞診システムの推奨手順を使用した液状処理細胞診検査のことをいいます。
検体不適正の減少:
とくに子宮摘出後の経過観察症例において
カンジタ検出率の向上
LBC法の大きな利点のひとつとして、細胞回収率の向上、標本
背景が見られなくなるデメリットについて危惧された。
しかし実際
作製過程の標準化が図られ、検体不適正例が減少することが知
に導入した後に気づいたことのひとつに、Candida様菌体の検出
られている。当センターでは、子宮頸癌で子宮摘出術を受けられ
の頻度が高くなったことが挙げられた。
おそらく沈降法により、
扁
た症例のフォローアップ外来にて、しばしば膣断端細胞診が施行
平上皮細胞群とからみ合い、
集塊状となった菌糸群がそのままガ
されるが、通常の子宮頸部細胞診に比べ、細胞数が極端に少な
ラス上に乗るため、
塗抹法よりもより見やすくなったことがその理
い例や、乾燥が著しく評価が難しい標本に遭遇する頻度が非常
由であろう。
我々は臨床医の依頼内容にかかわらずCandida様菌
BD シュアパス™ 法導入に際し、直接塗抹法でみられた炎症性
に多かった。しかしBD シュアパス™ 法を導入した2014年より不
体を見つけた際には所見欄にコメントすることにしている。細菌
適正標本が激減し、術前症例の子宮頸部細胞診の不適正標本減
学的検査の結果やカンジダ膣炎に対する治療の有無などの臨床
少率をはるかにしのいだ(表)。これにより、再発兆候をより鋭敏
情報との整合性は、がんセ
に検出することができるようになったと考えている。
(写真1)
ンターという施設の特殊性
表
膣断端
細 胞 診 報 告 書 に お ける
直接塗抹法
(2013年6月)
LBC法
(2014年6月)
Candida様菌体陽性のコメ
症例数
21/ 119
0 / 117
(%)
(18%)
(0%)
では平均24例/年だったの
症例数
48 / 141
2 / 105
(%)
(34%)
(2%)
ントが、導入前の過去3年間
が、導入後は52件/年と、2
倍以上となった。
(写真2)
BD シュアパス™
材料:膣断端
対物20倍 BD シュアパス™
上段左から:旭技師、本田技師、
田代技師、大野技師
下段左から:渡邊先生、伊藤先生、渡部技師
直接塗抹
写真1
材料:子宮頸部
(LBC法)
のため検 討していないが、
不適正標本数の比較
子宮膣部
・頸管
写真2
対物20倍 直接塗抹
対物20倍
免疫染色法による診断精度の向上
内膜細胞診への応用
直接塗抹法では通常1枚である子宮頸部細胞診標本だが、
臨床現場において、内膜細胞診への期待が大きいことを日々
LBC法ではバイアル内にある期間細胞を保管できるため、
報告後
感じているが、実際は標本の厚塗りや出血、粘液によるマスキン
も追加標本を作製し目的細胞について検討できる利点がある。
グ、採取細胞数の確保の問題等、質の高い標本を得る事に苦労
これまでに我々は、大腸がんの子宮転移が疑われた症例につい
することが多い。見慣れた直接塗抹法のメリットを守りつつも内
てCDX-2(細胞診検体、写真3)や、CK20(浮遊組織から作製した
膜LBC法にも挑戦したいとの思いから、婦人科の協力のもと、ス
切片、写真4)免疫染色の追加により原発巣が大腸であることを、
ライドガラスに塗抹後のブラシをBD シュアパス™ コレクション
形態のみならず免疫細胞化学的検討の結果を根拠に報告した例
バイアルで洗ってもらい、直接塗抹法と併用でスクリーニング業
を経験した。また、ASC- Hと報告した子宮頸部細胞診例について
務を行っている。まだ内膜LBC法導入から日が浅いため、導入前
p16免疫染色を追加し、目的細胞が陽性を示したことから、HSIL
後における報告内容の変化については検討していないが、内膜
をより強く示唆するとの記載を報告書に追記した例もあった。
LBC法ではときに保存液の中に組織塊が浮遊していることがあ
る。生検同様のサイズがあると認識された場合には、
主治医に連
写真3
絡し、承諾を得た上で、組織切片を作製するように努めている。
材料:子宮内膜
(LBC法)
実際に、パラフィン包埋薄切標本を保存液中の浮遊組織から作
製し、類内膜腺癌の組織診断確定まで至った症例を経験した。
今後の展望
当センターの頭頸部などいくつかの臓器の穿刺吸引細胞診
は、直接塗抹法と低分子デキストラン加乳酸リンゲル液(以下、
「リンゲル液」という)による穿刺針洗浄細胞診を併用している
が、
今後、
洗浄液として使っているリンゲル液を、
BD サイトリッチ™
対物20倍 PaP染色
写真4
対物20倍 CDX-2染色
レッド保存液に変更するプランがある。理由は後者の溶血作用と
タンパク可溶化作用に期待するのみならず、細胞浮遊液として一
定期間保管できる利点から、先に述べたような、免疫染色法へ
材料:LBC中浮遊組織のホルマリン固定薄切標本
の応用を念頭においたものである。とくに穿刺吸引細胞診の結
果に基づいて手術計画がたてられるような頭頸部領域の腫瘍で
は、免疫細胞化学的検討が推定病変報告の際の一助になるもの
と考えている。またLBC法は、whole cell specimenを確実に採
取・保存し、適宜FISH解析へ応用することも可能である。そのた
め、骨軟部腫瘍やリンパ腫等の診断にも力を発揮すると考える。
例えば分子病理学的検索が必要な病変だが脱灰が必要な硬組織
の腫瘍でも、生組織から得た腫瘍細胞を一部BD サイトリッチ™
レッド保存液に分けておくことで、その後の分子病理学的検討
対物20倍 HE染色
対物20倍 CK20染色
を、脱灰の影響を気にせずに行える。またリンパ腫が疑われ生検
されたものの、フローサイトメトリーや染色体検査に回すまでの
十分な組織量が確保できない場合などでも、同様に細胞を保存
し、後日、診断に必要とされる類のFISH解析を、細胞の重なりの
静岡県立静岡がんセンター
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少ない標本で施行できれば、診断の大きな助けとなるであろう。
今後、分子標的治療薬の適応判断など、分子病理診断のニーズ
が増えることが予想される中、LBC法の利点が生かされる場面は
ますます広がると考えられる。我々はこれからもLBC法を最大限
に活用しながら、あらゆる臓器の腫瘍病変の診断精度の向上を
図っていきたいと考えている。
2015 BD
45-031-00
R0-1504-003-019