論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 - 九州大学

氏
論
文
名
鄭 瑾
名
Studies on efficient acetone-butanol-ethanol fermentation from
lignocellulosic biomass
(リグノセルロース系バイオマスからの効率的なアセトン-ブタノー
ル-エタノール発酵に関する研究)
論文調査委員
主
査
九州大学
教授
園元
謙二
副
査
九州大学
教授
酒井
謙二
副
査
九州大学
准教授
中山
二郎
論
文
審
査
の
結
果
の
要
旨
アセトン-ブタノール-エタノール(ABE)発酵によるブタノール生産プロセスは、低い生産性や
高い基質コストなどの問題を抱えている。このような課題の解決策として、生産性向上のための連
続発酵プロセスの構築やリグノセルロース系バイオマスを基質として用いる研究などが考えられる。
本研究は、リグノセルロース系バイオマスを構成する糖を用いた ABE 発酵プロセスについて検討し
たものである。
高密度菌体を用いた連続発酵は、代謝流束の変動が少なく高生産性が期待できる発酵プロセスで
ある。また、キシロースはリグノセルロース系バイオマス中でグルコースに次いで豊富に含まれる
糖である。本研究では、Clostridium saccharoperbutylacetonicum N1-4 の cell recycling による連続発酵
プロセスを構築し、キシロースからのブタノール生産の発酵特性を検討している。Cell recycling に
より 17.4 g L-1 の高い乾燥菌体重量を得て、従来の連続発酵法と比較して 2 倍のブタノール生産量お
よび生産性を達成している。最終的に、希釈率 0.78 h-1 の時、最大ブタノール生産性 3.32 g L-1 h-1 を
達成している。
次に、有望なリグノセルロース系バイオマスであるユーカリを用いた ABE 発酵を検討している。
ユーカリを蒸気爆砕処理・水洗した後、セルロースを含む固体画分 10% (w v-1) をセルラーゼなど
による酵素処理で加水分解した。グルコースなどへの糖加水分解反応に必要な酵素の最小量は 35
FPU g-1(蒸気爆砕処理ユーカリの乾燥重量)であった。しかし、培地として他の栄養素を添加せず
ユーカリの糖加水分解物のみを用いた ABE 発酵では、加水分解に用いる酵素量の増加に伴い、ABE
の生産量が増加した。また、蒸気爆砕処理によって副生するフルフラールや 5-ヒドロキシメチルフ
ルフラールが発酵を阻害することを示している。
ユーカリ加水分解物を利用した ABE 発酵の向上を図るために、糖を除いた Tryptone-yeast extract
(TY) 培地を添加して培養を行った結果、ABE 生産量が約 30%増加した。最終的に、TY 培地の添加
によって、低酵素負荷量(35 FPU g-1 )で調製したユーカリ加水分解物でも、完全な糖消費と 15.9 g
L-1 の ABE 生産量を達成している。
最後に、低セルラーゼ投入量と最小限の栄養源添加条件下での高 ABE 生産を実現するために、統
計学的手法を用いて TY 培地組成の最適化を行っている。その結果、最適化な培地条件(FeSO4、
tryptone、yeast extract)では 17.0 g L-1 の ABE 生産濃度が予測された。一方、その条件下での実際の
発酵試験では 16.9 g L-1 の ABE 生産量を達成し、予測値とほぼ同じ値となることを示している。
以上要するに、本研究は、リグノセルロース系バイオマスを利用する ABE 発酵プロセスについて、
連続発酵プロセスの構築やユーカリからの ABE 発酵の最適化に関する新規な知見を見出したもの
であり、微生物工学の発展に寄与する価値ある業績と認める。よって、本研究者は博士(農学)の
学位を得る資格を有するものと認める。