全文

座屈平行板ばねを用いた
超音波リニアモータの保持・加圧機構
高野昌宏*
廣崎憲一*
滝本幹夫**
市村悟***
中村健太郎** * *
緒言
超音波リニアモータに用いる平板状振動子は,振動子自体は単純な構造であるが,モータとして用いるには
振動子を保持し,且つ振動子をスライダに加圧・接触させる機構が必要となる。従来の保持方法としては,振
動子の振動の節を弾性体で支持し,且つコイルばねにより振動子をスライダに押し付ける方法が用いられてい
る。しかしながら,支持部で発生する摩擦減衰により振動が低下してしまうことや,加圧力が不安定になるこ
となどが課題である。そこで,振動の低下が小さく,安定した加圧力の発生が可能な保持機構を開発すること
を目的に,座屈平行板ばねを用いた振動子の保持・加圧一体構造を提案した。本報では,提案した保持加圧機
構の概要及び座屈現象を利用したばね特性並びに振動速度の低下の影響について述べる。
Friction head
保持・加圧機構の概要
Adhesion
図 1に 提 案 し た 振 動 子 の 保 持 ・ 加 圧 機 構 を 示 す 。 平 板 状 振 動 子
の 縦 振 動 モ ー ド (L1 mode)と 屈 曲 振 動 モ ー ド (B2 mode)を 励 振 す る
Leaf spring
こ と で ,振 動 子 先 端 の 摩 擦 ヘ ッ ド に 楕 円 運 動 を 生 成 す る ア ク チ ュ
Transducer
エータである。保持・加圧機構は,この振動子の上下に平行に2
Adhesion
つ の 板 ば ね を 設 置 し た 構 造 と し た 。 振 動 子 と 板 ば ね は , B2 mode
Case
の 節 で 接 着 さ れ て お り ,板 ば ね の 両 端 部 は ケ ー ス に 固 定 さ れ て い
Leaf spring
る。本機構は同図に示すように平行板ばね構造であることから,
モ ー タ に と っ て 重 要 な 送 り 方 向 (移 動 体 が 移 動 す る 方 向 ) の 剛 性
を 比 較 的 大 き く す る こ と が 可 能 で あ る 。さ ら に ,本 機 構 は 保 持 機
図1
提案した振動子の保持・加圧機構
能と加圧機能を一体化しているため,ガイド部品を必要とせず,
5.4
ばね特性
8.4
Thickness:0.2mm
コンパクト化が比較的容易である。
超 音 波 モ ー タ の 加 圧 機 構 と し て は ,押 し 込 み 量 が 多 少 変 化 し て
も 加 圧 力 が 変 化 せ ず ,安 定 し て い る こ と が 望 ま し い 。本 保 持・加
19.6
圧 機 構 の 板 ば ね は , 図 2に 示 す よ う に 単 純 な 直 線 で は な く , わ ず
UO
か に 上 (振 動 子 先 端 )方 向 に オ フ セ ッ ト し た 曲 線 形 状 と し て い る 。
LO
7.8
こ れ に よ り 振 動 子 が 押 込 ま れ た と き ,板 ば ね に 座 屈 現 象 が 生 じ る
た め ,ば ね 特 性 は 非 線 形 性 を 有 す る こ と に な る 。こ の 現 象 を 利 用
し ,ば ね の 形 状 を 適 正 に 設 計 す れ ば ,あ る 領 域 で 変 位 に 対 し て 加
図2
保持・加圧機構の板ばね
圧力がほとんど変化しないばね特性を得ることができる。この荷重が変化しない現象は,座屈の影響と曲げ剛
性 の 影 響 の バ ラ ン ス に よ っ て 生 じ る 。 そ こ で , 図 2に 示 す オ フ セ ッ ト 量 UOと LOの 寸 法 を 変 化 し た 時 の ば ね 特 性
を 有 限 要 素 解 析 (ANSYS)で 調 べ た 。 図 3に 有 限 要 素 解 析 で 得 ら れ た ば ね 特 性 を 示 す 。 同 図 か ら , UO, LOの 大 き
さを適正に設計することで,任意の押し込み量で荷重一定のばね特性の導出が可能であることが示された。実
*機 械 金 属 部
** ニ ッ コ ー (株 )
* * * シ グ マ 光 機 (株 )
**** 東 京 工 業 大 学
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0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0.0 0.2
Displacement [mm]
0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
80
70 The number of samples n = 3
60
50
40
30
20
10
0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
Displacement [mm]
Displacement [mm]
(a) Effect of UO dimension
図3
UO : 0.8 mm , LO : 0 mm
UO : 0.8 mm , LO : 0.2 mm
UO : 0.8 mm , LO : 0.4 mm
Load [N]
UO : 0.6 mm , LO : 0.2 mm
UO : 0.8 mm , LO : 0.2 mm
UO : 1.0 mm , LO : 0.2 mm
Load [N]
Load [N]
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0.0 0.2
(b) Effect of LO dimension
ばね特性の解析結果
図4
ばね特性の実験結果
際 に 試 作 し た 保 持・加 圧 機 構 の ば ね 特 性 を 図 4に 示 す 。UOは 0.8mm,LOは 0.2mmと し た 3体 の 供 試 体 で 測 定 し た 。
解 析 結 果 と ほ ぼ 同 様 に 押 し 込 み 量 0.7~ 0.9の 区 間 で , 荷 重 が ほ と ん ど 変 化 し な い ば ね 特 性 が 得 ら れ て い る 。
振動速度への影響
振動子の保持機構としては,振動子の振動速度を低下させないことが重要な要素となる。振動が低下する原
因 と し て は ,減 衰 ,剛 性 ,質 量 の 増 加 が 考 え ら れ る 。本 保 持・加 圧 機 構 は ,振 動 子 と 接 着 で 固 定 し て い る た め ,
摩擦減衰が発生せず,減衰は十分に小さいと考えられる。また,剛性,質量に関しては,平行板ばね構造を利
用し,振動方向に対しては十分に柔軟な構造とした。有限要素法で剛性,質量の影響を解析した結果,振動速
度 の 低 下 は 3% 以 下 で あ る 。実 際 に 試 作 し た 保 持・加 圧 機 構 を 取 り 付 け た 振 動 子 と 取 り 付 け て い な い 状 態 の 振 動
子 の ア ド ミ ッ タ ン ス を 比 較 し た 結 果 を 図 5に 示 す 。同 図 に 示 す よ う に 保 持・加 圧 機 構 を 取 り 付 け た こ と に よ る ア
ド ミ ッ タ ン ス の 変 化 は 十 分 に 小 さ い 。 こ の 結 果 か ら 振 動 子 の 振 動 速 度 の 低 下 を 算 出 す る と 10% 未 満 で あ り , 優
れた性能を示した。
free
with holding device
0.1
0.01
1E-3
50000
52000
54000
56000
0.1
0.01
1E-3
50000
58000
Frequency [Hz]
52000
54000
56000
58000
Frequency [Hz]
(a) L1 mode
図5
free
with holding device
1
Admittance [S]
Admittance [S]
1
(b) B2 mode
保持・加圧機構を取り付けたことによるアドミッタンスの変化
結言
超 音 波 リ ニ ア モ ー タ の 性 能 向 上 を 目 的 に ,座 屈 平 行 板 ば ね を 用 い た 振 動 子 の 保 持・加 圧 一 体 機 構 を 提 案 し た 。
提案した保持・加圧機構は,座屈による非線形効果により,押し込み量によらず荷重一定な領域を持つばね特
性 が 得 ら れ た 。 ま た , 振 動 速 度 の 低 下 は 10% 以 下 と い う 良 好 な 結 果 が 得 ら れ た 。
論文投稿
日 本 機 械 学 会 論 文 集 (C編 ) 2011, vol. 77, no. 783, p. 184-194.
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