山内 学

第4章 放射線検出器の一般的性質
山内 学
平成 20 年 6 月 11 日
この章では、放射線検出器の一般的性質について概説。たとえば 、
• 検出効率やエネルギー分解能の定義
• 検出器の使用方法の分類において有用な動作モード やデータ記録の
方法
4.1
簡略化した検出器モデル
• 仮想的な検出器を考える。たとえば 、1個のα粒子や1個のγ光子
のような 、1個の粒子または放射線量子の検出器中の相互作用に
着目。
• 相互作用の結果、時刻 t = 0 に検出器内に電荷 Q が出現すると仮定。
→ 電荷を収集し 、基本的な電気信号を形成する必要。
• 電荷収集方法:検出器内に電場をかけ、放射線で生成した正電荷、
負電荷をそれぞれ反対方向に移動させる。この時間は、検出器内の
電荷キャリアの移動度と収集電極への平均距離に依存し 、検出器ご
とに大きく異なる。
• 電荷収集時間に等しい時間だけ電流が流れる基本的なモデルについ
て考察。
放射線照射の時間率( 単位時間内にどれだけ相互作用が起こるか )
が十分小さいので 、個々の相互作用は1個1個区別できる電流を
作る。
→ パルスが重ならない。実際には、パルスが重なってしまう。
1
• 個々の電流パルスの大きさ、継続時間はまちまち。さらに、放射線
量子の到達時間はポアソン統計に従うランダム過程であり、電流パ
ルスの時間間隔もまちまち。p120 の真ん中の図を参照
4.2
検出器の動作方式
3つの方式:
1. パルスモード( pulse mode )
2. 電流モード( current mode )
3. 2乗平均電圧モード( mean square voltage mode,MSV mode も
しくは、キャンベルモード )
• パルスモード( pulse mode )
最も普通に用いられる。パルスモード の動作では、検出器と相互作
用するそれぞれの個々の放射線量子を記録するように測定機器は設
計される。
最も一般的な応用例として、電流パルスの時間積分値=全電荷 Q を
記録することがあり、検出器内で付与される放射線のエネルギーは
Q に直接関係している。個々の放射線量子のエネルギーを測定する
ために用いられる検出器はすべてパルスモードが使用される。
(通
常放射線スペクトル測定)
放射線強度を知りたいときは検出器からくる低いしきい値を越えた
パルスを Q にかかわらず全て読み出す測定(パルス計数)
事象発生率が高い場合、パルスモード は実用的ではない。不可能。
→ 隣接する事象間時間が短く、電流パルスが重なる。解析不可能。
ほとんど 全ての応用で、個々の事象の振幅 (エネルギー) と時間に関
する情報を得るにはパルスモード だけしか使えない。
単一の事象によって生成するパルスの性質は、検出器に接続されて
いる回路( 前置増幅器=プ リアンプ )の入力特性に依存。
( p 12
4図)
2
プリアンプが接続されている場合:
– R:入力抵抗
– C:検出器の容量+接続ケーブルの容量+プ リアンプ自体の入
力容量
– V (t):負荷抵抗両端に現れる時間依存電圧 → パルスモード の基
本的な信号電圧
– τ :時定数= RC
1. RC が小さい場合( τ ≪ tc( 電荷収集時間))
負荷抵抗 R に流れる電流は検出器内を流れる電流の瞬時値と
実質的に同じ 。(図4.1 b)
2. RC が大きい場合( τ ≫ tc )
上記よりも一般的。時刻 tc 中に負荷抵抗を流れる電流は非常
に小さく、検出器電流は C によって積分される。パルス間隔
が十分に大きいと、容量にたまった電荷は負荷抵抗を通し放電
され 、出力( 負荷抵抗の電圧)は0にもど る。(図4.1 c)
一般的結論:
(a) ・信号パルスその最大値に達するまでの時間は検出器の tc
により決定される。外部・負荷回路(プリアンプ )の影響
なし 。
・信号電圧が0に戻るのに要する時間は、負荷回路に依存。
Q
(b) ・Vmax = C
( 信号パルスの最高値が1個の放射線が相互
作用して検出器の中に生成する全電荷 Q を負荷回路の容
量 C で割った値)
→ パルス波高 ∝ Q(C は一定)
→ パルスモード で使用される検出器の出力信号パルスの
列はそれぞれ一個の放射線量子の検出器内における相互作
用の結果を表す。
→ 電荷 Q と入射放射線のエネルギーが比例するとき、波
高分布が入射放射線の波高分布を示している。
3
• 電流モード( current mode )→ 事象の生成率の高い時、個々の事象
に対する時間平均を扱う必要がある。
検出器の出力端子に電流測定装置を接続。
( p 121図)→ 時間依
存電流の平均化。
1 t
I(t) =
i(t′ )dt′
(1)
T t−T
T :応答時間 ≈ 平均時間
しかし 、時間について詳細に見ると、事象到達時間のランダムな変
動によって、この信号には統計的な不確かさがある。← T を大きく
すれば 、時計的変動は小さくなる。
平均電流=平均的な事象生成率×1事象あたりに生成される電荷
I0 = rQ = r
E
q
W
(2)
E
r:事象の生成率 Q = W
q:各事象で生成される電荷
E :1事象あたり付与される平均エネルギー
W :単位電荷対、例えば電子ーイオン対を生成するのに必要なエネ
ルギー
q:1.6 × 10−19 C
電流の分散、すなわち2乗平均は
σI2 (t) =
1
T
t
t−T ′
[I(t′ ) − I0 ]2 dt′ =
1
T
t
t−T ′
σi2 (t′ )dt′
(3)
標準偏差はこれの平方根。ポアソン統計で与えられた観測期間での
事象の数 n の標準偏差は以下。
σn
√
= n
√
= rT
(4)
(5)
( 式3.29より (4) 、n = rT で( 5 ))
個々のパルスが同じ電荷であるとして、パルスの到達時間により測
定された信号に生じる相対的な標準偏差は
σI (t)
σn Q/T
σn
1
=
=
=√
I0
nQ/T
n
rT
4
(6)
σI (t) は測定電流の標準偏差の時間平均。I0 は電流計の読みの平均。
注)各事象で生成する電荷は一定。また、この結果は電流モード の
測定に付随する不確かさを評価するのに有効。
• 2乗平均電圧モード( mean square voltage mode,MSV mode も
しくは、キャンベルモード )
電流モード の議論の延長。→MSV モード
平均電流は通さずに、変動電流のみが通過する回路を考える。信号
処理素子を加え、変動電流の2乗の時間平均を計算する。
( p 123
図)
2乗平均信号;
σI
2
rQ2
I0 2 r 2 Q2
√
) =
=
(t) = (
rT
T
rT
(7)
σI 2 (t) は各事象において、生成する電荷 Q の2乗に比例。
得られる信号は各事象の電荷の2乗に比例。→ 1事象あたりより、
大きな平均電荷を与えるような放射線の測定に有効。
:独自の特性が活用できるいくつかの特別な応用例に限られる。
– 第一の放射線と第二の放射線で生成する電荷の量が大きく異な
る、混合放射線場で測定する場合
– 原子炉の中性子検出器。
4.3
パルス波高スペクト ル
パルスモード で検出器を使用する場合、多数のパルス波高は同じ 値で
はない。← 放射線のエネルギーの違い or 検出器固有の応答の違い。← パ
ルス波高の分布を知ることでこの特性を知る。
パルス波高の情報を表す方法:
• 微分パルス波高分布 (p127 図4.2 a)
横軸:パルス波高値(エネルギー)
縦軸:H ∼ H + dH に含まれるパルスの数
図の斜線部の面積( =パルスの数)を求めて、はじめて物理的意味
をもつ。
5
• 積分パルス波高分布( p127 図4.2 b )
横軸:パルス波高値(エネルギー)
縦軸:その波高値 H 以上のパルス数。
微分分布と積分分布は同等。微分分布で極大→積分分布の勾配が極大。
微:極小 → 積:勾配が極小
微分分布のほうが 、微細な違いを表しているので一般的。
4.4
計数曲線とプラト ー
計数回路で 、積分分布を実験的に測定する。パルス計数測定の際、長
期間にわたり最高の安定度を与える動作点を定めるのが望ましい。
→ 積分分布の勾配が最小である点を選べば 、波高弁別レベルの変動にパ
ルスの総数は最小の影響。
( 微分分布の谷)
→ 計数プラトー( p 127図4.2の H3 )
プラトーの別の観測手順:
放射線の相互作用で生成される電荷の利得(ゲ イン 、入力に対する出力
の比、増幅率)を変化させて測定。
( 計数曲線 p 129図4.3)
ガ イガーミューラー計数管やシンチレーション検出器は印加電圧により
ゲ インを変化できるために 、プラトー領域で動作するように印加電圧を
決定する。
4.5
エネルギー分解能
放射線検出器を使用する場合、入射放射線のエネルギー分布の測定を
目的とする事が多い。ここだは 、スペクトル測定に応用される検出器の
一般的性質について論じ 、併せて有用ないくつかの定義をする。
放射線スペクトル測定用検出器の重要な特性の一つに単一のエネルギー
に対する応答を観測して調べる。
( 図4.4)→ 検出器から得た微分パルス波高分布。=応答関数
6
• 良い分解能
波高平均値 H を中心に幅はせまく、パルス間の変動が小さい。この
幅がせまければ狭いほど 、ピークが大きくなる。
( カウント数は同
じだから )
• 悪い分解能
パルス間の変動が大きく、ピークも小さい。
ピークをおおきくすれば 、測定能力があがるってわけじゃない。
エネルギー分解能の正式な定義。
( 図4.5 )
R=
F W HM
H0
(8)
R:エネルギー分解能。無次元量で、%で表す。
F W HM:半値幅。ピークの最大値の半分の値(ガウス分布では 2.35σ に
対応)
H0:ピークの中央値。
半導体ダ イオード 検出器は1%以内。シンチレーション検出器は5∼
10%。
エネルギー分解能の値が小さければ小さいほど 互いに接近した2本の
放射線を区別する能力が優れている。およそ半値幅離れた2つのエネル
ギーの放射線は分解できる。
エネルギー分解能劣化の主要な変動源
• 測定中の検出器の特性の変化
• 検出器と計測装置のランダム雑音
• 測定される信号自体のバラバラな性質からくる統計的雑音
↑ 重要。検出器信号中に常に存在し削減できない変動。
1個の量子の放射線によって、検出器内に発生する電荷 Q は連続変
数でなく、離散的な電荷キャリアの数という事実から発生する。検
出器が違えどもキャリアの数は離散的で、1つの事象と他の事象と
でランダムな変動をする。
7
電荷キャリアの形成がポアソン過程であると仮定すると、平均総数
N 個の電荷キャリアが生成される。これに対応した統計的変動の標
√
準偏差は N(式3.29)になり、通常 N は大きいので、これだ
け信号の変動があると、応答関数はガウス分布になる。
(図4.5)
ガウス分布
(H − H0 )2
A
G(H) = √ exp(−
)
(9)
2σ 2
σ 2π
( 式3.29)
( 式3.30)より。ここで測定する物理量は H
H0 と A はそれぞれ中央値と面積。多くの検出器は応答が直線的な
なで、平均パルス波高は H = KN となる。K :比例定数。パルス
√
波高スペクトルのピークの標準偏差は σ = K N となり、半値幅
√
F W HM は 2.35σ = K N 。
√
(?キャリア形成がポアソン分布 → 標準偏差 N 、N :大 → 応答
√
関数はガウス関数 → ピークの標準偏差 K N )
電荷キャリアの数の統計的変動による分解能の限界:
√
F W HM
2.35K N
2.35
R |ポアソン限界 ≡
=
=√
(10)
H0
KN
N
√
統計変動による限界は 1/ N に比例。
半導体ダ イオード 検出器は生成されるキャリア数が多いため、エネ
ルギー分解能がよく、非常にうおく用いられる。
しかし 、実際には上記の議論により予測される限界値の最小の値よ
り係数3から4ほど 小さくなる。← 電荷キャリアの生成過程が独立
でない。→ 電荷キャリアの総数がポアソン過程で表せない。→ ファ
ノ因子の導入。
F ≡
観測された N の分散
ポアソン統計で予測された分散( N )
R |統計限界 =
√ √
2.35K N F
KN
= 2.35
F
N
(11)
(12)
半導体ダ イオード 検出器、比例計数管でファノ因子は1よりかなり
小さい。シンチレーション検出器はファノ因子がほぼ1でポアソン
統計と一致。
8
いくつかの雑音の原因があり、それぞれ独立していると測定全体の揺ら
ぎはそれぞれの半値幅の2乗和として表される。
(F W HM)2総合 = (F W HM)2統計 + (F W HM)2雑音 + ...
4.6
(13)
検出効率
入射した放射線と計数されたパルスの数がしばしば違う。これを関連
付けるために正確な検出器の効率を求める必要がある。
• 絶対効率
ǫabs =
記録されたパルスの数
線源より放出される放射線量子の数
(14)
記録されたパルスの数
検出器に入射した量子の数
(15)
• 固有効率
ǫint =
等方的な線源の場合、
ǫint = ǫabs · 4π/Ω
(16)
Ω:実際の線源の位置から検出器を見る立体角。
固有効率の方が 、幾何学的な配置に対する依存性が少ないので、便利で
ある。また、これは検出器材料、放射線エネルギー、検出器の物理的な
厚さに依存する。
記録される事象の性質による分類:
• 全効率 ǫtotal
図4.6における微分パルス波高の全面積。
• ピーク効率 ǫpeak
図4.6における微分パルス波高の斜線部面積。入射放射線の全エ
ネルギーを付与する相互作用の分だけを数える。
ピーク対トータル比 r も用いられる。また、全エネルギー事象は周囲
の物体による散乱や雑音による妨害効果に対する感度が低いので、ピー
ク効率だけを用いる実験が好まれる。
検出効率を記述するには、固有ピーク効率 ǫip など 、上記の効率について
組み合わせて用いる必要がある。
9
4.7
不感時間
2つの事象が2個のパルスとして記録されるのに必要な最小の時間。計
数率が大きくなると、不感時間による損失が大きくなる。→ 損失の補正
が必要。
( 図4.7 )
• 非まひ型モデル
n=
m
1 − mτ
(17)
n:真の計数率
m:記録された計数率
τ :装置の不感時間
検出器が不感になっている全ての時間の割合は簡単に mτ で与えら
れ 、真の計数が失う割合は nmτ 。また、n − m である。
• まひ型モデル
m = n exp(−nτ ) ∼
= n(1 − nτ )
(18)
(図4.8) 真の計数率 n がちいさければ 、上記2つは一致。
できれば 、不感時間による数え落としが大きい測定条件は避けるべき
で。または 、不感時間の短い計数装置を選び 、数え落としを減少させる
必要がある。
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