特発性側弯症発症メカニズムの非線形座屈解析による検討

特発性側弯症発症メカニズムの非線形座屈解析による検討
1E44 Study on pathogenic mechanism of idiopathic scoliosis by nonlinear buckling analysis
学
○ 孫 涵 (名大院)
正
畔上 秀幸 (名大院)
Han SUN, Graduate School of Information Science, Nagoya University,
A4-2(780) Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601
Hideyuki AZEGAMI, Graduate School of Information Science, Nagoya University
Key Words: Biomechanics, Finite Element Method, Nonlinear Buckling, Idiopathic Scoliosis, Growth
1. は
じ
め
に
特発性側彎症は,椎骨やそれを取り巻く筋や靭帯に異
常が見られない状況で成長期に脊柱が弯曲する疾患であ
る.特発性側彎症の成因に関して,これまで様々な仮説
(1)
が唱えられてきた.著者らは,これまで Dickson ら の
観察に基づいて,椎体の成長に伴う座屈説に注目し,脊
柱有限要素モデルを用いた線形座屈解析によって,臨床
でみられる様々な側弯変形が4次と6次の座屈モードと
(2)
して得られることを示した .
これらの研究において,しかしながら,二つの課題が
残されていた.一つは,同じ脊柱有限要素モデルを使用
しても,商用のソフトウェアによっては座屈モードが得
られない場合があったことである.もう一つは,4次あ
るいは6次モードから分岐した後の成長変形を大変形を
考慮して解析することができなかったために,上端にば
(3)
ねによる緩い拘束を加えていたことである .前者の課
題に対しては,簡単な板状の有限要素モデルを用いて,
底面のみの固定と板の前方部分のみの成長による座屈現
象を解析し,ある幾何学的条件の下で座屈現象が発生す
ることを確認した.さらに,生理的弯曲や脊柱後部の穴
構造がその幾何学的条件に及ぼす影響を評価し,椎体の
(4)
成長に伴う座屈説の妥当性を裏付ける結果を得た .
本研究では,2つ目の課題を解決することに取り組ん
だ.すなわち,4次の座屈モードから分岐した後の成長
変形を大変形理論に基づいて求めることを試みた.その
結果から,座屈現象が発生した後の成長変形が安定であ
るのか,さらに,臨床でみられる側弯変形まで座屈説で
説明できるのかを明らかにすることを目的とした.
(a) 1st mode (ζ = 9.827)
(b) 2nd mode (ζ = 10.082)
(a) 3rd mode (ζ = 10.426)
(b) 4th mode (ζ = 10.796)
Fig. 1 Linear buckling modes of plate model
(a) 1st mode (λ = 12.16)
(b) 2nd mode (λ = 45.59)
(a) 3rd mode (λ = 50.54)
(b) 4th mode (λ = 9.359)
2. モ デ ル と 方 法
(4)
本研究では,前報 で用いた板モデル (前額面の幅
6mm, 奥行 50mm, 高さ 600mm, 要素数 265,812, 節点数
403,781) と竹内ら(2)が開発した胸郭なし脊柱有限要素モ
デル (要素数 59,356, 節点数 69,658) (以後,脊柱モデル
とよぶ) を用いた.板モデルでは,前額面から奥行 10mm
までの領域に 0.01 の膨張ひずみ (成長) が発生したとき
の変形を初期変形と仮定した.脊柱モデルでは,第 4 胸
椎から第 10 胸椎までの椎体上下面に配置された硝子軟
骨板と骨端輪に 0.01 の膨張ひずみが発生したときの変
形を初期変形と仮定した.変位の拘束条件は板モデルで
は底面,脊柱モデルでは仙骨との接続境界のみで与えら
れた.有限要素法解析には Abaqus 6.12 (Abaqus, Inc.) が
使われた.成長は熱膨張に置き換えて入力された.大変
形解析には弧長増分法 (Riks 法) が使われた.ここで,弧
長 (arc length) λ とは,初期ひずみに対する膨張ひずみ
の比を表す荷重比例係数 (load proportionality factor) ζ と
Fig. 2 Post buckling deformations of plate model
変位で構成されたベクトルのノルムとして定義される.
本研究では,板モデルと脊柱モデルに対して成長変形
を初期変形とする線形座屈解析を行い,座屈が発生する
ときの荷重比例係数と座屈モードを求めた.さらに,そ
れらの結果を初期不整にもつ板モデルと脊柱モデルに対
して大変形解析を行った.
3. 結 果 と 考 察
板モデルの線形座屈解析によって得られた 1 次から 4
次までの座屈モードを図 1 に示す.これらの座屈モード
を初期不整にもつ板モデルが大変形した後の形状を図 2
日本機械学会 [No.14-67] 第 27 回バイオエンジニアリング講演会論文集
1 (2015.1.9-10, 新潟)
(a) 1st mode
(b) 2nd mode
(a) Front view
Fig. 4
(a) 3rd mode
Fig. 3
(b) 4th mode
(b) Side view
4th linear buckling mode of spine model (ζ =
5.203)
Histories of load proportionality factor for plate
model
に示す.また,そのときの荷重比例係数と弧長の関係を
図 3 に示す.これらの結果において,3 次モードを初期
不整にもつ場合には,弯曲が反転するような大きな変動
まで解析することができた.それ以外の場合には,弧長
増分を小さくとっても解が見つからない状況に陥り,解
析が打ち切られた.
(2)
脊柱モデルの線形座屈解析の結果は既報 と同様の座
(a) Front view
(b) Side view
屈モードを含む多くの座屈モードが得られた.それらの
中から,臨床でみられるシングルカーブに似たモードを Fig. 5 Post buckling deformation of spine model (λ =
初期不整にもつ脊柱モデルの大変形解析を行った.図 4
28.89)
に線形座屈解析で得られた既報の 4 次に似た座屈モード
を示す.この座屈モードで T7-T8 椎間板の中央における
変位が 16.64mm となるような初期不整にもつ脊柱モデ
ルが大変形した後の形状を図 5 に示す.図 6 にそのとき
の荷重比例係数と弧長の関係を示す.図 5 の変形は (図
では見難いが) 上端が横に移動する 1 次の横曲げ変形で
あった.初期不整の大きさを十分大きくしてもその傾向
は同じであった.
図 3 と図 6 の結果より,座屈後しばらくは弧長に対
する荷重比例係数の傾きが正となっていることから,座 Fig. 6 History of load proportionality factor for spine
model after 4th buckling
屈発生後の成長変形は安定であることが確認された.さ
らに,板モデルでは高次の座屈モードを初期不整にもつ
板モデルは,大変形により高次モードの変形が進行する
(2) 竹内謙善, 畔上秀幸, 笹岡竜, 村地俊二, 鬼頭純三, 石田義人,
ことが確認された.しかし,脊柱モデルでは,シングル
川上紀明, 後藤学, 牧野光倫, 松山幸弘. 特発性側彎症の成
カーブに似たモードを初期不整にもつ脊柱モデルは,大
因に関する数値シミュレーション(多様なモードの成因).
変形しても高次モードの変形は発生しなかった.
今回の解析に基づけば,臨床でみられるような側弯変
脊柱変形, 日本側弯症学会誌, Vol. 16, No. 1, pp. 11–16, 12
形を座屈説だけで裏付けることはできないと考えられる.
2001.
文
献
(3) T. Aoyama, H. Azegami, and N. Kawakami.
Nonlinear
buckling analysis for etiological study of idiopathic scoliosis.
(1) R. A. Dickson, J. O. Lawton, I. A. Archer, and W. P.
Butt. The pathogenesis of idiopathic scoliosis biplanar spinal
asymmetry. J. Bone and Joint Surg., Vol. 60-B, No. 1, pp.
8–15, 1984.
Journal of Biomechanical Science and Engineering, Vol. 3,
No. 3, pp. 399–410, 9 2008.
(4) 孫涵, 畔上秀幸. 特発性側弯症の発症メカニズムの検討. 日
本機械学会第 26 回バイオエンジニアリング講演会講演論
文集, No. 13-69, pp. 181–182, 1 2014.