アプリケーションノート BD 3D スキャフォールド In vitro 培養・解析 九州大学 大学院歯学研究院 口腔常態制御学講座 硬組織構造解析学分野 檀上 敦、山座 孝義、田中 輝男 1 【 イントロダクション 】 近年、組織工学分野の研究では、組織・臓器の再生を目指し、組織の修復もしくは再生を 促進させるための方法の開発が活発に推進されている。 組織の再生に必要なものとして、3 つの要素が必要であるといわれている。つまり、第一 の要素として、目標とする組織・臓器を構成する細胞、第二の要素として、細胞が増殖・分 化して組織を構成するための環境(主にサイトカイン)、第三の要素として、目標とする組 織を構成するための足場(スキャフォールド)である。この 3 要素のなかで、スキャフォー ルドに要求される条件としては、(1)細胞の増殖・分化を誘導し、組織形成・修復を促進 すること、(2)生体への親和性が高く in vivo の環境に可能な限り近いこと、(3)無抗原 性であること、そして(4)組織の再生・修復終了後、生体内で分解・吸収性を備えている ことである。しかしながら、これら全ての要件を満たすスキャフォールドは、現在のところ 未開発のままである。今回、我々は、骨組織の再生を研究するため、以下の 3 種類の BD 社 スキャフォールドの中からリン酸カルシウムスキャフォールドについて検討した。 1. リン酸カルシウムスキャフォールド 骨の主成分であるリン酸カルシウムは、無機物であるため無抗原性である。また、ハイド ロキシアパタイトとは異なり、破骨細胞によって吸収可能な材料である。 2. コラーゲンスキャフォールド 骨の細胞外マトリックス(ECM)の主成分であるⅠ型コラーゲン線維を主体とした材料で ある。高い生体親和性と吸収性をもち、組織の成長を促進できる材料である。 3. OPLA スキャフォールド 合成ポリマー由来であり、抗原性が全くなく、また吸収性を持つ材料である。現在、骨折 治療用のプレートやスクリューに多く使用されている。 【 原理 】 ̶ in vitro 的解析 ̶ 一般的な細胞培養用プレートを用いた骨芽細胞の培養実験において、石灰化像小結節が確 認できる培養条件は、αMEM 基礎培地に仔牛血清を添加した培地に、リン酸の供給源とし て b-グリセロリン酸、Ⅰ型コラーゲン線維合成に必要なビタミン C の供給源としてアスコ ルビン酸を加えた培養液で増殖・分化させる事である。本研究では、新生仔ラット頭蓋冠由 来の骨芽細胞をスキャフォールドに播種する。その後、上記の条件で培養し、細胞の増殖と 石灰化組織の形成の有無を確認する。 2 【 準備 】 ― 実験動物 ― 新生仔(4 日齢)ならびに 6 週齢雄性 Wistar 系ラットは、九動(佐賀)より購入した。 ― 試薬 ― 以下の各試薬を購入した。コラゲナーゼ(新田ゼラチン、大阪)、ディスパーゼ(合同酒 精、東京)、仔牛血清(fetal bovine serum;FBS)および、a minimum essential medium (αMEM)、トリプシン(GIBCO、 USA)、 b-グリセロリン酸およびアスコルビン酸 (Sigma、 USA)、パラフォルムアルデヒド(Merck、Germany)、グルタールアルデヒド およびゼラチン(ナカライテスク、京都)、O.C.T.コンパウンド(サクラ、東京)、ペント バルビタール(ソムノペンチル®、共立製薬、東京)、カルセインブルーおよびアリサリン レッドコンプレキソン(Dojindo)、リゴラック 70F および 2004、過酸化ベンゾイル(日新 EM、東京) ― 培養器具 ― 以下の培養器具を購入した。100 mm セルストレーナーおよび、50 ml 遠沈チューブ、100 mm カルチャーディッシュ、96 ウェルマルチプレート(BD Falcon、USA) ― スキャフォールド ー BD 3D リン酸カルシウムスキャフォールド 主成分:無機リン酸カルシウム 平均ポアサイズ:200-400 mm ― 実験装置 ― マイクロカッティングマシン(BS-300CP)(盟和商事、大阪)、蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Axiotech、Germany) 3 【 方法 】 ― 骨芽細胞様細胞の培養 ― 生後 4 日齢の Wistar 系ラットの頭皮を剥離し、頭蓋骨を無菌的に取り出した。頭蓋骨を 2~3 mm 四方大に細断し、濾過滅菌済 2 ml 0.1%コラゲナーゼおよび 0.2%ディスパーゼ含有 0.01 M phosphate buffered saline(PBS)にて処理した。頭蓋骨 10 個あたり上記の酵素処 理液 2 ml を 50 ml 遠沈チューブにいれて、37℃、10 分間、振蕩させた。上清のみを 100 μ m セルストレーナーで濾過した。新しい酵素処理液を添加して、同様の操作を繰り返した。 5 回目の濾過液に 10% FBS 加αMEM を 6 ml 添加し、毎分 2,000 回転で 5 分間遠心した。 細胞ペレットを確認し、上清を吸引し、新しい 10% FBS 加 αMEM を 10 ml 添加した。細 胞塊を静かにピペッティング後、細胞懸濁液を 100 mm カルチャーディッシュ上へ播種した。 培地は、3 日毎に全量交換した。 70~80%のコンフルエント状態まで増殖させた後、0.1%トリプシンおよび 0.02% EDTA で細胞をカルチャーディッシュ上から剥離させ、1 x 106 個/ml に細胞数を調製した。スキャ フォールドとその細胞懸濁液 250 ml を 50 ml チューブに加えた。スキャフォールドは、予 め 10% FBS 加 αMEM 培養メディウム中で、30 分間インキュベートした。50 ml チューブ 中で3時間、37℃で振盪しながら(毎分 50~60 回程度:あまり速すぎるとスキャフォール ドを損傷するので注意が必要)インキュベートした。その後、96 ウェルマルチプレートの 各ウェルにスキャフォールド 1 個をセットし、10% FBS 加 αMEM に 5 mM b-グリセロリン 酸および 50 mg/ml アスコルビン酸を加えた培養液 250 ml を添加して培養を開始した。培地 は、3 日毎に全量交換した。 ― in vitro 的解析 ― 培養 7 および 28 日目に、4%パラフォルムアルデヒドおよび 5%グルタールアルデヒド含 有 0.1 M phosphate buffer(PB)(pH 7.4)で 10 分間、室温で固定した。5% EDTA および 4%サッカロース含有 0.01 M PB(pH 7.4)で 2~3 日間、4℃で脱灰した。脱灰終了後、20% サッカロース含有 0.1 M PB(pH 7.4)に浸漬し、その後 O.C.T.コンパウンドに包埋し、ド ライアイスで充分に冷却したイソペンタン中にて急速凍結した。クリオスタット(Frigocut 2800N、Jung、Austria)で厚さ 10 mm の凍結切片を-20℃で作製した。ゼラチン処理スライ ドグラス上に切片を載積した。充分に風乾した後、0.5%トルイジン・ブルー染色液で染色 した。 【 結果 】 ― in vitro 的解析 ― リン酸カルシウムスキャフォールドでは、培養初期よりスキャフォールドの内部表面上に 細胞が接着していた(図 1)。この現象は、培養後期まで観察されたが、明らかな石灰化組 織の形成は認められなかった。 4 図 1. 骨芽細胞を培養したリン酸カルシウムスキャフォールド 培養 7 日目(a、b)、28 日目(c、d)の凍結切片法による標本。(b、d)(a、c)の拡 大像。スキャフォールド外部ならびに内部表面に細胞が接着している(矢印)。しかしなが ら、培養 28 日目において、明らかな石灰化組織は認められない。トルイジンブルー染色。 Bar = 400 mm(a、c)、200 mm(b、d)。 【 注意事項 】 ・ ・ スキャフォールドは非常に壊れやすい。特に平均ポアサイズが大きく、硬くもろい リン酸カルシウムスキャフォールドの取り扱いには注意を要する。 スキャフォールドは輸送の際に壊れないように、保護のためのスポンジとともに4 8穴プレートに入っているが、そのために静電気を帯びていることが多い。保護の スポンジを取り除く際に、裏にスキャフォールドが付着したままになることがある。 5
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