がん特異性を測る 軟寒天コロニー形成の定量的評価 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 分子腫瘍学 古川龍彦 1 従来技術とその問題点 • 軟寒天コロニー形成アッセイは、in vitro で行う腫瘍形成能の アッセイである。 • 従来の一般的な方法ではコロニーを数えているが、立体性が あり正確な定量化、多検体処理は困難であった。 • 現存する定量化キットの方法では不溶性のホルマザンを形成 するテトラゾリウム塩(MTT)やDNA結合性の蛍光色素をも用 いて定量化を図っているが、 • 寒天中のコロニーと細胞を溶かすためにヨウ化ナトリウムと界 面活性剤の添加を必要とし全体量が増加するうえ、粘調な液 体の一部を採るので精度が悪い、煩雑で多検体の処理も困難 である。 2 軟寒天コロニー形成アッセイ • 癌研究は動物実験を細胞培養で代替えすることで大きく進歩した。 • In vitro で上皮性がん細胞がガン化によって獲得する性質として、 足場非依存的増殖能を持つことがあげられる。 • 軟寒天コ口ニー形成アッセイはコ口ニー形成の有無を調べることで 足場非依存性の増殖能力を調べる方法で、腫傷形成能とよく相関 する in vitro のアッセイ系として認められてきた。 3 定量化の問題 • 軟寒天コ口ニー形成アッセイでは一般的には細胞を染色して 肉眼的に半定量的に判定していた。 • 細胞が立体的に増殖するので定量化は困難であった 4 新技術の内容 1. 2. 3. 容器底面の寒天上に細胞を含む軟寒天を重層し、細胞を含む 寒天の上部に培地を重層し、細胞を培養する工程と(低吸着性 プレートを用いれば省くことができる) 培地を除去し、水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウムと 電子キャリアーとを添加し、細胞を培養する 水溶性ホルマザンの発色を指標として細胞の生存を評価する 方法。 ここで、水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウムは 2-(4- ヨードフェニル )-3-(4- ニトロフェニル )-5-(2,4- ジスルホフ ェニル )-2H- テトラゾリウム・モノナトリウム塩で、 電子キャリアーが 1- メトキシ -5- メチルフェナジニウムメチル サルフェートである。 5 具体的アッセイ方法 • 96well - plate = 8 x 12 well • ボトムの寒天( 0.5 – 0.6 % in medium ) • 軟寒天( 0.4 % )に細胞を捲く(数万千個) 軟寒天中ではスフエロイド培養、 インビボに近い培養状態である。 硬い底面寒天:低吸着性 コントロール 接着状態の細胞 スフエロイド x40 薬剤を作用 6 従来法、A社製品との比較 定量性 培養日数 本法 軟寒天コロニー形成 アッセイ (従来法) A社 製品A A社 製品B あり 6-8日 半定量 2週間以上 あり 6-8日 あり 6-8日 培地の除去 色素の添加 コロニーの染色 測定前処理 (ステップ数) 1 2 測定前処理時間 データのバラツキ 1時間10分 小さい 価格 約1000円/88測定 11.3円/1測定 ー ー 培地を除く、寒天の融解、 寒天の融解、ピペッ ピペッティング、界面活性 ティング、100μLを移 剤を加える、インキュベー す、MTTと混ぜる、イ ション、10μLを移す、蛍光 ンキュベーション、界 色と混合 面活性剤を加える、 インキュベーション、 9 ピペッティング 8 4-8時間以上 2時間以上 ND 大きい 9030円/98測定 116550円/98測 921円/1測定 定 蛍光のプレートリーダー 1189円/98測定 が必要 7 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であった、多検体の解析 時の精度の低さ、操作の煩雑さを大幅に改良 することに成功した。 • 本技術の適用により、特別な試薬を必要とし ないので、これらの品質管理に費用がかかっ てもコストが1/10以下に削減されることが期待 される。 8 実施例 1 本方法を使用した癌細胞 (DU145 細胞及び Panc1 細胞 ) の増殖における細 胞数と定量性の評価 WST-1/ 1-methoxy PMS 細胞数と相関する OD 値 100 μl の 10 %ウシ胎児血清含有 RPMI 培地 100 μM の抗癌剤 Paclitaxel を含む培地 DDW: 滅菌蒸留水 9 実施例2 癌細胞 (DU145 細胞 ) に対する抗癌剤 Paclitaxel による 濃度依存的コロニー形成抑制効果 10 実施例 3 本方法を使用した癌細胞 (DU145 細胞 ) に対する新規抗癌剤候補分子に よる濃度依存的コロニー形成抑制効果 新規の化学物質 A 、 B 、及び C 1 : 0.5 1 : 0.5 1 : 0.5 11 本技術の有用性 • 阻害効果の評価で、細胞毒性ではなく、 阻害作用を高感度でアッセイできた。 12 これまでの抗がん剤スクリーニングと 現在のスクリーニングのニッチ 従来のスクリーニング 分子標的治療薬のスクリー ニング 細胞生存アッセイ 細胞の増殖抑制度を測る 欠点:毒性との区別が困難、 ・毒性の高いものがとれや すい ・毒性に低いもの省かれる。 生化学的な阻害効果が重視 される:増殖抑制が見られる かどうかは直接にはわからな い。 欠点:未知の分子標的の分 子では作用できない。増殖抑 制と直結しない。特定の作用 分子のみに適用 13 軟寒天細胞生存アッセイは スクリーニングのニッチを補う 細胞毒性によるスクリーニング 毒性の低い物を取りこぼす 分子標的治療薬のスクリーニング 標的分子の同定が必要 軟寒天細胞生存アッセイは これらのニッチを補う可能性がある ・作用する標的分子がわからなくても、アッセイできる。 ・細胞毒性が低く、増殖抑制効果が高いものを選べる ・in vivo 腫瘍増殖に近い。 14 実用化に向けた課題1 • アッセに用いる寒天、プレート、テトラゾリウム の条件の詳細な検討。 • 実用化に向けて、製品の精度管理をできるよ う技術を確立する必要も。 • 低吸着プレートを応用し、操作を単純化する。 (ボトムの寒天が必要なくなる。底面での細胞 増殖を除ける) 15 実用化に向けた課題2 • IPS細胞の腫瘍化の判定条件について、本技 術の導入についてはIPS細胞を用いた条件の 検討が必要である。 16 企業への期待 1 • グローバルスタンダードとなる、アッセイキットと して育てることを目指す。水溶性ホルマザンを形 成するテトラゾリウムや低吸着プレートなどの製 造メーカーを想定しています。 • 多検体を処理するロボット化可能なアッセイ条件 の設定:寒天の粘調性、上清の除去などの問題 点を解決したアッセイ系を作製し、ハイスルー プットなアッセイを目指す。 17 企業への期待 2 • 低分子orientedに抗腫瘍薬剤スクリーニング をめざす企業、IPS細胞の腫瘍化判定につい て、本技術の導入が有効と思われる。 • 足場非依存的増殖に用いる細胞系の確立、 分子機構の解明への援助。 18 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :水溶性ホルマザンを生成する テトラゾリウムを用いた定量的 軟寒天コロニー形成アッセイ • 出願番号 • 出願人 • 発明者 :特願2011-219433 :国立大学法人鹿児島大学 :古川 龍彦 19 お問い合わせ先 鹿児島大学 産学官連携推進センター 知的財産部門 TEL: 099-285 -3881 FAX: 099-285 -3886 e-mail: tizai@kuas.kagoshima-u.ac.jp 20
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