医用画像処理学(1) 総論と基本概念(1) (教科書pp.1-14) 有村秀孝 医用画像処理の目的 ●画像を見やすくするため => 人間の視覚機能の拡大 例:画質改善(ノイズ除去、エッジ強調処理、対象物強調) ●画像の中から有益な情報を引き出すため => 視覚機能の代行 例:パターン認識技術などを用いて、専門家(医師)の診断支援を行う。 ●分かり易く見せるため =>視覚機能に訴える 例:診断しやすい3次元表示。ボリュームレンダリング。MIP処理。 放射線治療における医用画像処理の目的 患者体内の情報の可視化 形態と機能,線量分布,患者セットアップ,腫瘍 有効な情報の抽出 DVH(dose volume histogram),腫瘍位置 分かり易くみせるためのアプローチ 治療計画,Beam’s eye view,3次元サーフィスレンダリング 3 医用画像処理学体系と放射線治療 イメージング技術 4D-CT,CBCT,MV-X 線,kV-X線撮像, PET/CT, MR/CT 画像変換 位置合わせのレジストレー パターン認識 腫瘍位置決め,動画像解析, 解剖学的な部位決め 医用画像 (治療計画CT, kV-CT, MV-CT, MR, PET, SPECT, EPIDなど) コンピュータ グラフィックス 【ヒストグラム解析,テンプ レートマッチング,レジスト レーション,オプティカルフ ロー】 領域抽出 GTV,CTV,OAR抽出,治療 ション,治療計画フュージョ 治療計画,シミュレーション, 計画正常組織領域抽出,解 ン,ポータル線量画像 線量分布表示 【レンダリング, 剖学的な部位決め 【等方ボクセル化,レジスト モデリング】 【対象物強調, ニ値化処理, レーション,フュージョン,ピ 領域抽出】 クセル値線量変換】 4 どちらが見やすい画像か? 画像石 (不老不死の神 西王母、中国、東京国立博物館) なに? ん? おおお! (でも,なぜ?言えることは?) 例:見方を変えると見たいものが見えてくる (画像処理の効果) 階調変換 明るさとコントラスト(明るさの差)を変えることができます 暗い、低コントラスト 輝度 明るい、高コントラスト 輝度 明るい 明るい C2 C1 暗い 暗い D ディジタル値 D ディジタル値 画像のパターン認識 「見たもの(画像)」を「記憶」の中にある「意味のあるパターン」 に対応づけをし、見たものを認識する処理 良性 悪性 Effect of Dot-Enhancement Filter Aneurysm Original image Enhanced aneurysm Dot-enhanced image 3次元MR画像における脳動脈瘤の検出 動脈瘤 画像処理の利点 現在は、○ 医療では、、、 X線写真フィルム健在というのは,今は昔。 しかし、CR (computed radiography), フラットパネルディテクター(flat panel detector; FPD)などのディジタル画像検出器に移行しつつある。フィルムレス化。 画像の種類 画像処理技術 ディジタル化 (サンプリングと量子化) ( 量 子 化 を 行 う 方 向 ) ア ナ ロ グ 値 音 1.0 階 0.8 ま た 0.6 は 濃 0.4 淡 0.2 5 0.0 0 0 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 時間 または 距離 (サンプリングを行う方向) 8 9 10 デ ィ ジ タ ル 値 ディジタル化 あるアナログ信号(ある物理量)をサンプリング(標本化)し,量子化することに よってディジタル化が行われる. サンプリング あるアナログ信号(例:脳波,X線エネルギー分布)を一定間隔(時間または空間)で測定 すること。一定時間または空間間隔をサンプリング間隔という。サンプリング間隔はサン プリング定理に従って決める。 量子化 各サンプリング点のアナログ値(測定値)を,一定間隔で分割された有限個のレベル(例 :8ビットなら0から255までの256段階のレベル)の何処かに割り当てること.analogto-digital (A/D)変換に相当する. コンピュータで扱う情報量の単位 ビット (bit) :ほとんどのデジタルコンピュータが扱うデータの最小単位.binary digit (2進数字)の略.2進数の1桁で,2通りの状態を,“0”と“1”で表記される. 問題:10進数の0から15までを16進数と2進数で表しなさい. 10進数 16進数 2進数(4 bits) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F 0000 0001 0010 0011 0100 0101 0110 0111 1000 1001 1010 1011 1100 1101 1110 1111 8ビット=1バイト(Byte) 1024バイト=1 KB 次のアナログ信号を量子化テーブルを使って量子化 しなさい アナログ信号 ア ナ ロ グ 値 3 2 1 0 x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 時間または距離 Δx=xi-xi-1:サンプリング間隔 10進 2進 量子化テーブル (3) 11 デ ィ ジ (2) 10 タ ル (1) 01 値 (0) 00 0 1 2 3 アナログ値 答え 10進 2進 アナログ信号 ア ナ ロ グ 値 (3) 11 デ ィ ジ (2) 10 タ ル (1) 01 値 3 2 1 0 x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 (0) 00 0 時間または距離 Δx=xi-xi-1:サンプリング間隔 ディジタル信号 アナログ信号 11 10 01 00 量子化テーブル x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 1 2 3 アナログ値 値デ 3 ィ 2 ジ タ 1 ル 0 サンプリング定理 連続関数f( x) (x線写真、心電図 ) が持つ最高周波数がUであるとき、またはU以下に 帯域制限されているとき,Δx<1/(2U)となる△xでf(x)をサンプリングするとf(x)に含ま れる全ての情報は保存される。 サンプリング周波数:1/(Δx)=fs ナイキスト周波数:1/(2Δx)=fs/2 サンプリング間隔,サンプリング周期:Δx m m f x f sinc x 2U 2U m sin( x) シンク関数 sinc x x フーリエ級数展開(Fourier series expansion)の概念 周期的な連続信号(周期関数)は、基本(角)周波数(最低周波数)をω として、その整数倍 (integral multiple)の周波数の多くの単純な波(sin波, cos波)を足し合わさることによって、表現 できる。 a f (t) {an cos(nt bn sin(nt } (1) 2 0 n 1 a0, an, bnを求め、上記式を使って、連続信号f(t)を単純な波で表現することをフーリエ級数展 開と言います。偶関数と奇関数のフーリエ級数はそれぞれcos波(余弦波)またはsin波(正弦 波)だけで表現される。不連続点を持つ関数のフーリエ級数では、Gibbs現象が生じる。 フーリエ係数(Fourier coefficients) の求め方 連続信号の周期をTとすると、フーリエ係数を次式を使って求めることができる。 a0 1 T f (t )dt T 0 2 T f (t ) cos(nt)dt 0 T 2 T bn f (t ) sin(nt)dt T 0 an (2) a0は、波の平均値です。 (3) anとbnは、nで決まる 周波数のcosと sinの 振幅です。cos波とsin波の直交 性(orthogonality)を利用したテンプレー トマッチング。 (4) 22 フーリエ級数 展開の概念 フーリエ変換(Fourier transform) フーリエ変換:絶対可積分 (absolutely integrable) の任意の関数(非周期でもOK)に対し て、それぞれの(連続)周波数に対する振幅を求めることができる。実空間の関数から周波 数空間の関数に変換。 フーリエ変換 F ( f ( x) ix dx e フーリエ逆変換(Fourier inverse transform):フーリエ級数展開の拡張(Extended Fourier series expansion)。任意の関数(arbitrary function)は、単純な波 exp(iωx)=cos(ωx)+isin(ωx)で表現できる。周波数空間の関数を実空間の関数に逆変換 できる。 フーリエ逆変換 f ( x 1 2 F ()eix d DFT(discrete Fourier transform; 離散フーリエ変換):実際にフーリエ変換をコンピュータで計 算するときに用いる。サンプリングしたディジタル信号に適用する。周期関数を仮定。したがっ て、フーリエ変換後も周期関数となる。DFTの高速な計算アルゴリズムはFFT(fast Fourier transform)。 N 1 DTF Fk fne i 2 kn N A prism splits visible light into the colors of the spectrum. n 0 逆DFT 1 fn N N 1 F e k i 2 kn N k 0 任意の関数 フーリエ変換 周波数ごとに 分解される 24 フーリエ変換の例 FT F ( ) f ( x e a | x | f(x) 2a a 2 2 F(ω) x 1 f ( x (| x | d ) 2d ω FT F ( ) sin(d ) sin c(d ) d 1 f(x) 1/(2d) -d d ω -2π/d f ( x ( x) δ(x) FT -π/d π/d 2π/d F ( ) 1 1 25 ω 画像のフーリエ変換 フーリエ変換の例(つづき) ● ガウス関数のフーリエ変換はガウス関数となる。 26 フーリエ変換の応用 自己相関関数(autocorrelation function) 1 ( ) f ( x) f ( x )dx T パワースペクトル P( ) 1 | F ( |2 T ウイナーヒンチンの定理 自己相関関数φ(τ)とパワースペクトルP(ω)はフーリエ変換対の関係にある。 P( ( )e i d FT ( ) P( i d e パーシバルの定理 実空間でのエネルギーと周波数空間でのエネルギーは等しい。 | f ( x)|2 dx 21 |F ( |2 d 27 畳込み積分と線形システム 関数f(x)とh(x)との畳込み積分(convolution) f ( x) h( x) f ( )h( x )d τ:x方向の移動量 線形システムの条件 線形システム g ( x) L[ f ( x)] 加法性:L[a1 f 1( x) a2 f 2( x)] a1g1( x) a2 g 2( x) 定常性:L[ f ( x )] g ( x ) f(x) PSF g(x) h(x) 線形システム応答を畳込み積分で表現 g ( x) f ( x) h( x) FT G() F () H () ここで、f(x)としてインパルス(δ関数)を入力すると、出力はG(ω)=H(ω)となり、 システム伝達関数(周波数応答関数) H(ω)が求められる。画像の分野では、 H(ωはMTF(modulation transfer function)と呼ばれ、h(x)は点広がり関数 (point spread function)と呼ばれる。 28 畳みこみ積分の例 MTFの概念 画像処理におけるフィルタ処理(畳込み積分) 出力画像g h1 h2 h3 h4 h5 h6 h7 h8 h9 フィルタh 9 f h fih10 i g g i 1 f1 f2 f3 f4 f5 f6 f7 f8 f9 Prewittフィルタ(x方向) 平均化フィルタ 入力画像f 1/9 1/9 1/9 -1 0 1 1/9 1/9 1/9 -1 0 1 1/9 1/9 1/9 -1 0 1 Laplacianフィルタ(二階微 分;second order differential) Sobelフィルタ(x方向) 1 1 1 0 1 0 -1 0 1 1 -8 1 1 -4 1 -2 0 2 1 1 1 0 1 0 -1 0 1 8近傍 4近傍 31 実空間 エリアシングエラー 周波数空間 Δxでサンプリングすると,サンプリング周波 数は1/Δx=fs. 標本化関数 ナイキスト周波数:fsでサンプリングしたとき の再現される最高周波数 1/(2Δx)=fs/2 信号の最高周波数U < 1/(2Δx)ならば エリアシングエラーは起こらない. 重なったところでエ リアシングエラーが 起こる 練習問題 (問1)下の信号をサンプリングする場合、サンプリング間隔を幾らより小さくするべきか? 振 4 幅 2 0 20 40 60 80 (msec) (問2)信号の周波数域20Hz~80kHz → サンプリング間隔は? (問3)2進数11111111をD / A変換したところ2.55Vになった。 このD / A変換器で00000010を変換すると何Vが出力されるか? (問4)人間の耳は20kHzの音が可聴域の上限(最高周波数)だと言われています。 ここで、ある歌手(アーティスト?)の4分間 の曲を適切にサンプリングし、それぞれのサンプリング点 を16ビットで量子化したディジタルの曲をCDに記録することを考えます。この曲には最低何キロバイト必 要でしょうか? 解答 1 1 = T 40 (問1) U= (問2) △x< 1 2u △x< 1 = 20(ms) 1 2・ 40 より 1 1 6 x 6 . 3 10 2 80 103 1.6 105 (問3) 6.3×10-6より小さい 28―1=255(10) 2.55 = 0.01 0.01×2=0.02(v) 255 解答 (問4)人間の耳は20kHzまでしか聞こえないので、曲の最高周波数を20kHz とします。したがって、サンプリング間隔は、 1 2 * 20 *103 4分の曲をこのサンプリング間隔でサンプリングすると、サンプリング点数は 4 * 60 1 2 * 20 *103 1個のサンプリング点のデータ量は16ビットなので、2バイト。したがって、全体のデータ量は 4 * 60 * 2 19200kB 1 2 * 20 *103 サンプリング定理の応用 ーSinc関数近似による補間法を用いた等方ボクセル変換 (isovoxel transformation)ー f x0 , y0 , z0 f x, y, z sinc ( x0 x)sinc ( y0 y )sinc ( z0 z ) x y z z4 z3 z1z2 y1 求めたい点: y2 (x0,y0,z0) y3 y4 x1 x2 x3 x4 (H20年度卒研生中村君作成) Sinc補間による等方ボクセル化 Sinc関数 sin 2Ux sinc( x) 2Ux 3次近似(third order approximation) 1 2 x 2 x 3 0 x 1 2 3 sinc( x) 4 8 x 5 x x 1 x 2 0 2 x (H20年度卒研生中村君作成) Sinc補間と線形補間の結果 (a) Original (c) Cubic Interpolation (b) Cubic - Linear (d) Linear Interpolation (H20年度卒研生中村君作成) ディジタル化 (サンプリングと量子化) ディジタル化 ディジタルとは、状態を示す量を数値化して処理(取得、蓄積、加工、伝送など)を 行う方式 アナログが「坂道」で、ディジタルが「階段」。 つまり、アナログはなめらかで、ディジタルはガタガタです。 アナログ写真の濃淡の種類は無限、しかし、ディジカメでは、たったの256種類! だから、CMで「ディジタルだから、画像がきれい」というのはおかしい。 ただし、劣化に強い。 ディジタル画像だと,思い出は色あせない...色あせた方が良い思い出もある? ディジタルデータは、基本的には、0と1を使って表現されます。 たとえば、音楽CDなら、「穴が有る」なら「1」で、「穴が無い」なら「0」という感じです。 ディジタル人間は白黒はっきりを好む。合理的、論理的。 アナログ人間はグレーなところ、曖昧さを好む。感覚的、感情的。 ディジタル画像 X線エネルギー 分布 FPD X線光子->電子・正孔対-> ディジタル化 ディジタル画像 画像の標本化と画素 X線画像作成(撮影) X 線 X 線 検 出 器 被 写 体 管 X線 骨 白 筋肉 白っぽい 血管 肺 灰色 空気 黒 Flat Panel Detector (医療用ディジタル画像検出器) Flat Panel Detector (医療用ディジタル画像検出器) Flat Panel Detector (医療用ディジタル画像検出器) 間接変換方式 間接変換方式と直接変換 方式とで、どちらがぼけの 少ない画像になるか? 直接変換方式 X線->光 ボケが 有る 間接変換方式 FT 低画質な画像 周波数 距離 高周波数成分が少ない X線->電子 直接変換方式 δ(x) ボケが 無い FT 1 高画質な画像 高周波数成分が多い サンプリングの効果 画像の場合、一定距離間隔をピクセルと言います。 どの程度まで細かいところが見えるか(空間の解像度)が決まります。 例えば、肋骨(1.6cmくらい)が見えるかどうか。ピクセルサイズ8mmでは ぎりぎり見えるが、32mmでは見えなくなる。 256 ピクセル x 2 mm 64 ピクセル x 8 mm 256 x 256 64 x 64 細かい間隔 16ピクセル x 32 mm 16 x 16 粗い間隔 ディジタル画像 (量子化) 量子化ビット数が多いほど、多くの階調数を表現できる 量子化の効果 量子化によって、濃淡の種類の数が決まります 例えば、低いコントラストの肋骨が見えるかどうか。2ビット画像では濃淡の種類が4 つしかないので、ほとんど見えなくなる。 濃淡の種類の数= 濃淡の種類の数= 濃淡の種類の数= 256 (8ビット) 16 (4ビット) 4 (2ビット) 細かい濃淡 粗い濃淡
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