日本証券アナリスト協会による企業情報開示の推進

ディスクロージャーとIR
資料
日本証券アナリスト協会による企業情報開示の推進
社団法人 日本証券アナリスト協会
日本証券アナリスト協会では、さまざまな取り
種215社を予定)。評価参加アナリストはアナリ
組みを通じて、企業情報の開示を積極的に推進し
スト経験3年以上、当該業種担当2年以上のアナ
てきている。以下では、ディスクロージャー優良
リストに限定している。評価対象企業は、当該業
企業選定、会社説明会(個人向けを含む)の運営、
種のうち時価総額上位企業を基本とし、当該企業
企業会計研究会の活動について、これまでの実績
を定期的にモニターしているアナリスト数も考慮
などを説明する。このほかにも、東京証券取引所
に入れて選定することによって、市場の関心に応
が主催する「ディスクロージャー月間」や名古屋
えつつ、評価の公平性が保たれるように努めてい
証券取引所が主催する「IRエキスポ」の後援、機
る。また、評価参加アナリストは、対象企業の中
関誌『証券アナリストジャーナル』への「XBRL
で自身が定期的に当該企業と接点を持っている企
コーナー」の掲載(2007年6月~ 12月)なども
業のみを評価対象とすることとなっている。
行っており、幅広く企業情報開示の推進に貢献し
なお、業種数にはカウントしていないが、05
てきている。
年度から、従来の業種別優良企業選定とは別に、
新興市場銘柄および個人投資家向け情報提供にお
1.証券アナリストによるディスクロー
ジャー優良企業選定
ける優良企業選定を開始し、新興市場におけるデ
ィスクロージャーの向上、個人投資家向けの情報
提供レベルの向上に配意している。
当協会では1995年度から東証一部上場企業に
評価結果は毎年秋に冊子にして発表しており、
ついて、業種別にディスクロージャー優良企業の
これを利用して財務情報開示水準が資本コストや
選定を開始した。当初は7業種、59社を対象と
コーポレート・レピュテーションに与える影響を
したが、
現在は15業種にまで拡大している。ただ、
検討したり、財務情報開示に対する企業行動を検
開示レベルの向上等も勘案し定期的に選定、評価
討したりする研究例も見られている。また各業種
を休止する業種もあり、13回目に当たる2007年
などの優良企業は日本証券アナリスト大会で表彰
度は11業種175社を対象にし、延べ369名のアナ
しているが、多数の経営トップの方々の出席を得
リストが評価に参加した(なお、08年度は13業
ている。業種別評価の対象とした企業には、その
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担当の専門部会委員のアナリストが手分けして訪
積極的に受け止められている。
問し、結果のフィードバックを行う。フィードバ
評価はアナリストに対して、スコアシートと呼
ックに加わるアナリストは全員東京在住である
ばれる質問表を送り、これに対象企業各社の評点
が、地方に所在する評価対象企業の本社まで出掛
を記入してもらう。スコアシートの大項目は全業
けて、当該企業のIR部門担当者(役員を含む)に
種統一されており、
その配点にも枠が設定される。
評価結果を報告する。特に、評価結果に満足でき
図表1は95年度から04年度までの、図表2は05
ない企業は、常に一定割合存在するわけで、こう
年度以降の大項目と配点枠を示したものである。
した企業に対してなぜ満足の行く評価が得られな
この枠の中で、当該業種に即した具体的な評価細
かったかを説明、納得してもらうことは本制度の
目および実際にどのように配点していくかは、各
クレディビリティ維持の観点からも極めて重要な
業種ごとの専門部会が決定する。優良企業選定を
プロセスである。また、こうした過程で表明され
開始してから10年が経過したのを契機に、05年
る意見のうち当方として改善すべき点について
度には評価大項目とその配点枠を見直した。図表
は、翌年の作業に反映するべく努めている。こう
1にあるように、本制度の導入後10年間はまだ、
したことから、多くの企業において、評価結果の
ディスクロージャーの基本である制度開示の決算
報告は今後の改善のあり方についての参考として
短信および有価証券報告書について、さらにタイ
図表1 1995年-2004年度の評価大項目と配点枠
①決算短信および有価 ②説明会、インタビュ ③タイムリー・ディス ④企業が自主的に公表
証券報告書における開 ーおよび説明資料等に クロージャー(東証の している情報
示 ※ 決 算 短 信 に は、おける開示
TDネットへの登録を含む)
東証の要請による添付
資料等(決算短信と同
時配布資料に限る)を
含む。(注)
第1回(1995年)
15 ~ 25%
50 ~ 65%
5 ~ 15%
5 ~ 20%
第2回(1996年)~
第3回(1997年)
10 ~ 20%
60 ~ 75%
5 ~ 10%
10 ~ 20%
第4回(1998年)
5 ~ 20%
60 ~ 75%
5 ~ 15%
10 ~ 20%
第5回(1999年)~
第10回(2004年度)
2 ~ 15%
55 ~ 80%
5 ~ 15%
5 ~ 25%
(図表注)第10回(2004年度)は有価証券報告書を外し、
「決算短信(同時配布資料を含む)等における開示」
に変更。
図表2 2005年度以降の評価大項目と配点枠
① 経 営 陣 のIR姿
勢、IR部 門 の 機
能、IRの 基 本 ス
タンス
108
② 説 明 会、 イ ン ③ フ ェ ア ー・ デ
タ ビ ュ ー、 説 明 ィ ス ク ロ ー ジ ャ
資料における開 ー
示および四半期
開示
④コーポレート・ ⑤ 各 業 種 の 状 況
ガバナンスに関 に即した自主的
連 す る 情 報 の 開 な情報開示
示
第11回(2005年度) ~
第13回(2007年度)
10 ~ 40%
30 ~ 60%
10 ~ 30%
3 ~ 10%
8 ~ 30%
第14回(2008年度)
10 ~ 40%
30 ~ 60%
10 ~ 30%
10 ~ 20%
8 ~ 30%
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ムリー・ディスクロージャーについて評価する必
ちなみに、07年度に各業種等のディスクロー
要があった(あるいは評価に差がついていた)の
ジャー優良企業に選定された企業は図表3の通り
に対し、05年度以降は、市場の関心の変化を反
である(注)。
映してタイムリー・ディスクロージャーがフェア
ー・ディスクロージャーに吸収され、さらに、決
算短信等が説明会、説明資料等の大項目に吸収さ
2.会社説明会の運営
れるとともに、経営陣のIR姿勢等のIRの基本スタ
会社説明会は、当協会が会員向け事業の重要な
ンス、およびコーポレート・ガバナンスが新たな
柱の一つとして、63年以来、長年にわたり開催
大項目とされた。これは、各企業のディスクロー
してきているものである。会社説明会は、企業に
ジャーの向上が、単にIR部門の努力のみによって
とっては、経営者が直接、不特定多数の証券アナ
達成されるものではなく、経営陣のIRに対する基
リストに対し、業績や中長期経営計画、新製品・
本的な考え方に大きく依存していることを勘案し
技術の開発状況、さらには経営理念や基本方針を
たものである。また、近年のコーポレート・ガバ
自ら語る重要な場である一方、証券アナリストに
ナンスについての関心の高まりを踏まえて、本件
とっても企業との貴重な対話の場となっている。
が大項目として取り上げられるとともに、08年
会社説明会は会議室での説明だけではなく、企業
度では配点枠が引き上げられた。ただ、本選定評
を一段と深く理解するための良い機会として、年
価制度があくまでも各企業の「ディスクロージャ
に数回は工場・研究所・店舗・物流センター等の
ー」を評価するものであって、ガバナンスそのも
施設見学会という形でも開催している。
ののあるべき姿を評価する立場にはないため「コ
会社説明会の運営方法としては、協会事務局が
ーポレート・ガバナンスに関連する情報の開示」
協会ホームページに開催予定を掲載し、参加者を
を評価基準としている。
募集するとともに、当日の会場の設営、受付、司
図表3 2007年度の各業種等のディスクロージャー優良企業
業種等
建設・住宅・不動産
食 品
電気・精密機器
自動車・同部品・タイヤ
電力・ガス
運 輸
通 信
商 社
小売業
銀 行
コンピューターソフト
新興市場銘柄(3社)
個人投資家向け情報提供(3社)
社 名
三菱地所
アサヒビール
日本電産
日産自動車
東京瓦斯
東日本旅客鉄道
KDDI
三菱商事
ローソン
住友信託銀行
野村総合研究所
ディー・エヌ・エー
日本マイクロニクス
SBIイー・トレード証券
日本電産
三菱商事
東京瓦斯
(注)
なお、08年度の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定(第14回)
」の選定要領は『証
券アナリストジャーナル』2008年2月号108 ~ 109ページの通り。
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会を担当する。また、後日説明会要旨を協会ホー
する場合も多く、回数的にはやや減ってきている
ムページに掲載することで、当日出席できなかっ
が、逆に四半期決算の開示が要請されるというこ
た証券アナリスト(検定会員)も内容を知ること
とから、既上場企業による開催社数・開催回数が
ができるようにしている。この説明会要旨につい
増える傾向にある。
会社説明会は東京だけでなく、
ては、05年度から非会員個人を対象に発足させ
69年度以降は大阪でも開催している。大阪での
た「IRクラブ」の参加者も閲覧できることとなっ
開催は、一時、年間100回を超える開催回数を数
ている。企業と参加者の双方にとっての会社説明
えていたものの、近年は証券アナリストの東京へ
会の利便性を高めるために行った、近年における
の集中が進んだことを反映し、年間50回程度に
運営面の諸施策は図表4の通りである。
減少してきたが、今後再び増加させることを計画
会社説明会は、63年2月に日産自動車が開催
している。なお、80年度から3年間は名古屋で
して以来、08年3月末までの45年間に1万回弱
も開催しているが(80年度:8回、81年度:4回、
開催しており、参加延べ人数はデータがとれる
82年度:5回)、図表5では便宜的に東京に含め
71年度以降累計で約48万人に達している。ちな
て集計してある。
みに、直近の07年度は開催回数で913回、参加延
参加延べ人数(図表6参照)は、開催回数の増
べ人数は33,067人となっている。
加におおむね比例する形で増加してきているが、
開催回数(図表5参照)については、当初から
近年の1回当たりの参加人数は40人程度と、以
新規上場・公開会社のフォローに力点を置いてい
前に比べやや減少している。これは会社説明会の
たこともあり、上場・公開企業数が増加しIRの重
数が増加している一方で、かつてに比べセルサイ
要性も認識され始めた88年度ごろから回数が増
ドを中心にアナリストの数が伸び悩んでいること
加している。この時期は、協会としても既存の部
や、3・9月末決算の企業を中心に、決算説明会
会を整理・結集した上で産業研究会を新設(88
が同一時期に集中化していること等が原因と考え
年10月)し、内外企業の分析に一段と注力する
られる。
こととした時期と符合している。近年、新規上場
証券市場の裾野拡大という観点から、06年9
企業の説明会は、主幹事証券やIR会社がサポート
月から一般個人投資家向け説明会も開始し、07
図表4 会社説明会の利便性向上の諸施策
年月
施策の内容
2001年4月 会員宛の開催予定案内を郵送方式からホームページ掲載方式に変更。
2002年1月 説明会要旨を『証券アナリストジャーナル』掲載方式からホームページ掲載方式に変更す
るとともに、自社ホームページへ転載もできることとする。
2002年4月 説明会をビデオ撮影し自社ホームページへ掲載もできることとする。
2002年5月 開催時間を1時間固定から1時間、1時間半、2時間の中から選択できる方式に変更。
2002年10月 開催予定案内をE-mailで配信開始。
2004年8月 開催会社が了承する場合には、マスコミと学生も出席できることとする。
2006年9月 一般個人投資家向け説明会(第1回)を試験的に開催(東京会場)。
2007年11月 兜町平和ビル3Fに会議室(中会議室)を新設。
2008年2月 東証ビル6Fの会議室(大会議室)を改装し、収容人員を拡大。
2008年3月 兜町平和ビル7Fに会議室(小会議室)を新設。
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図表5 会社説明会の開催回数(62年度~ 07年度)
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図表6 会社説明会参加延べ人数(71年度~ 07年度)
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ᐕᐲ
年度までは試行段階との位置付けで累計5回開催
は企業会計研究会の活動を通じて、企業会計基準
した。08年度からは本格展開に移り、開催回数
にも積極的にかかわっている。グローバル化の進
を増加させるとともに、大阪での開催も検討して
展とともに、企業会計基準の国際的統一の問題も
いる。
ますます重要になっている。
企業会計研究会は77年に設立された(当初の
3.企業会計研究会の活動
名称は企業会計委員会)。当協会の第1回検定試
験(2次レベル)は81年であり、試験に先立っ
企業情報開示において企業会計基準が重要な意
て企業会計を研究するための組織を立ち上げた
味を持っていることは言うまでもないが、当協会
ことになる。組織設立の直接のきっかけは、各
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国 の 証 券 ア ナ リ ス ト 協 会 が、 国 際 調 整 委 員 会
様な利用者の情報要求をすべて満たすことはでき
(International Coordinating Committee)を立ち上げ、
ないと述べた後に「
(株式)投資家は企業のリス
この委員会が企業会計基準の国際的統一問題につ
ク資本の提供者であるので、投資家の要求を満た
いて検討、証券アナリストの立場から要望、意見
す財務諸表を提供することによって、財務諸表が
を出すこととしたためである。こうした経緯から
満たすことができるその他の利用者の大部分の要
当初は国際会計基準について意見書を提出してき
求を満足させることになるであろう」(同、第10
たが、01年に財務会計基準機構が設立されたの
項)としている。こうした考え方を根拠に会計基
を契機に国内基準についても意見書を提出するよ
準の策定に当たっては投資家の意見が重要視され
うになっている。05 ~ 07年度では企業会計基準
るが、ここで証券アナリストは投資家の代表と目
委員会(ASBJ)に対して10本、国際会計基準審
され、また個々の証券アナリストの意見把握が難
議会(IASB)に対して1本の意見書を提出した。
しいことから、証券アナリスト協会の意見が投資
書面による意見提出に加え、企業会計研究会のメ
家全体の意見のいわば代理変数として用いられる
ンバーでASBJの委員・専門委員会員を委嘱され
傾向がある。
ている人が複数名いること、IASBと世界のアナ
こうした意味で、日本証券アナリスト協会の責
リスト・ミーティングに当協会の理事(部長兼務)
任は重大であるが、当協会では意見表明に当たっ
が定期的に参加することなどを通じて、研究会の
ては会員の総意を反映すべきであるとの考えか
活動を踏まえた直接的な意見表明も行っている。
ら、05年9月にメールアドレス登録会員を対象
研究会のメンバーは12名で、内訳は実務家8
に会計アンケートを実施し、974名から回答を得
名、学者2名、公認会計士2名である。研究会は
た(回収率8.3%)
。アンケート分析結果は、ホー
意見書提出の都度開催するほか、ASBJの依頼に
ムページで公表したほか、ASBJ、IASBの会合で
より、検討中の会計基準についてのヒアリング会
直接説明した。本年半ばまでにIASBより「収益
の形式で開催することもある。
認識」と「財務諸表の表示」の討議資料が発表さ
当協会が企業会計研究会を主催しているのは、
れる予定である。今後の会計基準の枠組みに影響
以下の通り、会計基準設定に当たり証券アナリス
する重要な討議資料になると思われる。当協会で
ト、ひいては証券アナリスト協会の意見が重視さ
は討議資料に関する勉強会・講演会の開催および
れているためである。国際財務報告基準(IFRS)
解説資料を刊行し、これをベースに全会員を対象
は財務諸表の目的を「広範な利用者が経済的意思
にした会計アンケートを行って、その分析結果に
決定を行うに当たり、企業の財政状態、業績およ
基づく意見をASBJ、IASB、FASB(米国の会計基
び財政状態の変動に関する有用な情報を提供する
準設定者)等に対してプレゼンテーションしてい
こと」と定義している(財務諸表の作成および表
く予定である。
示に関するフレームワーク、第12項)
。IFRSは多
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