ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:118(2) ,191―203,2008(平20) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 悪性黒色腫における超音波パワードプラ法の血流信号と腫瘍血管の なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 免疫組織学的所見の関連についての検討 二葉1) 江田 要 清原 祥夫2) 旨 鈴木 正3) 土田 哲也1) 変診断,炎症性疾患の評価の検討などが行われてい る2). 皮膚腫瘍においてはその病巣の血流分布や流速分 超音波ドプラ法は血流信号の検出感度が高く悪性黒 析により良性腫瘍と悪性腫瘍を鑑別する試みがなされ 色腫の診断には特に有用である.一方,種々の悪性腫 ており3), 悪性腫瘍の中でも特に悪性黒色腫の原発巣と 瘍において腫瘍血管の増殖やその血管平滑筋細胞の異 転移巣では血流信号が高率かつ豊富に認められ,有用 常が報告されている.そこで悪性黒色腫の原発巣,リ 性が高いとされている4). ンパ節において超音波ドプラ法による所見と腫瘍血管 悪性腫瘍の増殖・進展には血管新生が不可欠な要素 の密度や抗 αSMA 抗体,抗 calponin 抗体を用いた血 と考えられており5), 新生血管は腫瘍の増殖に必要な栄 管平滑筋細胞の染色性の異常についての関連を検討し 養,酸素の供給,代謝産物の処理などを担うだけでな た.悪性黒色腫原発巣では,腫瘍内部,腫瘍周辺部に く,新生血管の壁そのものが未熟なため腫瘍細胞の血 おいて超音波ドプラ法で高率かつ豊富な血流信号を認 管内侵入を容易にさせ,転移経路としても重要な要素 めた.同部では径 25µm 以下の血管径群の密度が高い となると言われている6).これまで,各種固形腫瘍にお 一方で抗 αSMA 抗体,抗 calponin 抗体での血管平滑 いて血管内皮細胞の免疫組織学的検討により,微小血 筋の染色性は著明に減弱し,超音波ドプラ法での所見 管の同定とその血管密度が算定され,その結果,血管 は腫瘍内部,周辺部の微小な腫瘍血管密度と血管平滑 密度の異常と患者予後との間に強い相関があることが 筋細胞の変化を反映している可能性が示唆された.リ 明らかにされてきた7)∼9). ンパ節転移巣においても同様な血流信号を認めたが, また,悪性腫瘍における新生血管では成熟した血管 血管平滑筋の染色性や腫瘍血管密度については非転移 と比較し,血管内皮細胞を取り囲む平滑筋細胞に異常 巣との差は見られなかった. 緒 言 を認め,α-smooth muscle actin の特異モノクローナル 抗体(以下抗 αSMA 抗体)を用いた免疫組織学的検討 においては,悪性腫瘍内の新生血管では良性腫瘍の場 種々の腫瘍の血行動態を観察する方法として非侵襲 合に比べその染色性が減弱していることが報告されて 的で簡便なことから超音波ドプラ法の有用性が注目さ い る10)∼12).さ ら に,ア ク チ ン 結 合 蛋 白 で あ る cal- 1) れている .通常,超音波ドプラ法は color Doppler im- ponin13)∼15)を用いた検討においても,その発現低下はさ age(以下 CDI)で行われるが,power Doppler image らに著明になると報告されている16)∼20).このアクチン (以下 PDI) は,より血流信号の検出感度が高く,病巣 結合蛋白であるカルポニンはアクチン重合を促進する 内の細い血管や遅い血流を検出できるとされている. が,この発現低下が細胞骨格の脆弱化をきたすことが 現在,この方法を用いて,肝臓,腎臓,乳腺,リンパ 分かってきた21). 節,軟部組織などの分野で腫瘍血管の検出,虚血性病 我々はこれらの点に着目し,悪性黒色腫の原発巣, 所属リンパ節(転移巣,非転移巣) ,および母斑細胞母 1) 埼玉医科大学皮膚科学教室(主任:土田哲也教授) 静岡がんセンター皮膚科 3) 諏訪皮膚科クリニック 平成 19 年 1 月 25 日受付,平成 19 年 9 月 10 日掲載決定 埼玉県入間郡毛呂山町毛呂 別刷請求先: (〒350―0451) 本郷 38 埼玉医科大学附属病院皮膚科学教室 江 田 二葉 2) 斑を超音波ドプラ法を用いて血流信号を観察した後, これらの切除標本の病理組織学的検討を行った.超音 波ドプラ法での血流信号の有無,腫瘍内部および腫瘍 近隣部血管密度や,同部における血管平滑筋の免疫組 織学的染色性についてそれぞれの相関を検討した. 192 江田 二葉ほか 表 2 対象症例の臨床的背景 表 1 対象症例の臨床的背景 因子 男性 女性 年齢(平均) 悪性黒色腫 (n= 16) 母斑細胞母斑 (n= 10) 1 1 6 5 5 3~ 8 0 (64. 8) 4 4~ 6 3 (40. 5) 組織型 NM 5 ALM 9 UM pT* 2 pT1 0 pT2 pT3 a 2 2 pT3 b 2 pT4 a 1 0 悪性黒色腫所属リンパ節(n= 18) 因子 男性 女性 年齢(平均) 組織型 10 8 26~ 83 (61. 1) NM 7 ALM 9 UM SSM 1 1 N因子 N(+) St a ge* i ns i t u 1 s t a geI 2 s t a geI I 1 s t a geI I I 1 2 s t a geI V 0 t umo rt hi c kne s s (平均) 0 . 7~ 6 . 0 (3. 49) { LN me t a(-)7 10 N(-) St age* 8 s t ageI 1 s t ageI I s t ageI I I s t ageI V 2 13 2 { LN me t a(-)5 LN me t a(+)8 * LN me t a(+)5 3. 6~ 8. 8 (5. 8) * UI CC(1 9 7 7 )悪性黒色腫病期分類による NM:no dul a rme l a no ma ALM:a c r a ll e nt i gi no usme l ano ma UM:ungua lme l a no ma LN me t a (+) :l ymphnodewi t hme t as i t as i s LN me t a (-) :l ymphnodewi t houtme t as i t as i s UI CC(1977)悪性黒色腫病期分類による NM:nodul arme l ano ma ALM:a c r all ent i gi nousme l ano ma UM:ungualme l ano ma SSM:s uper f i c i als pr eadi ngme l ano ma LN me t a(+):l ymphnodewi t hme t as i t as i s LN me t a(-):l ymphnodewi t houtme t as i t as i s 2% パテントブルー皮内注による色素法22), もしくは術 前 の 99m Tc-Sn-colloid に よ る RI 法23)に よ り sentinel 対象(表 1,2) 対象症例は全て埼玉医科大学皮膚科にて 1997 年 3 node24)と同定されたものを使用した(表 2) .いずれの 症例も術前に超音波ドプラ法を施行し,手術で得た同 標本を免疫染色後に解析した. 月から 2000 年 8 月までに経験したものである. 悪性黒 方 色腫,原発巣 16 例(男性 11 例,女性 5 例,年齢 53∼ 法 80 歳,平均年齢 64.8 歳,nodular melanoma(NM)5 1.超音波ドプラ法 例,acral lentiginous melanoma(ALM)9 例,ungual 使用した超音波診断装置は東芝社製 SSA 340A(リ melanoma(UM) 2 例,stage I 2 例,stage II 1 例,stage ニア型探触子 8∼10MHz) ,アロカ社製 SSD2000(リニ III 12 例,in situ 1 症 例,tumor thickness 0.7∼6.0mm ア型探触子 7.5MHz) を用いた.まず B モードにて病巣 平均 3.49mm) ,対照として母斑細胞母斑 10 例(男性 6 を確認し,さらに CDI および PDI で,対象部の血流信 例,女性 4 例,年齢 4∼63 歳,平均年齢 40.5 歳)を使 号を検出した.velocity range を最低 3cm! sec に設定 用した.母斑細胞母斑は臨床的に 3mm 以上隆起が見 し,flow gain はノイズがでない程度に調節して血流信 られた症例を使用した(表 1) . 号の有無とその分布を観察し,血行動態の判定には リンパ節については,悪性黒色腫所属リンパ節 18 PDI の所見を利用した. 領域(男性 10 例,女性 8 例,年齢 26∼83 歳,平均年 齢 61.1 歳,転 移 巣 10 例(stage III 8 例,stage IV 2 2.免疫組織学的染色法 例) ,非転移リンパ節巣 8 例(stage I 1 例,stage II 2 手術で得た標本をホルマリン固定,パラフィン包埋 例,stage III 5 例) ) を使用した.リンパ節標本は術中の し,3∼4µm の薄切標本を作成して,avidin-biotin per- MM における PDI の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見との検討 以上の 3 群に分けそれぞれ計測した. 表 3 超音波ドプラ法所見 症例 193 病例数 血流信号 検出率 n (+) (-) (%) 2)血管平滑筋染色所見 抗 αSMA 抗体,抗 calponin 抗体による免疫組織化 学染色にて,腫瘍内およびその近隣周辺部の血管壁の 母斑 16 10 13 0 3 10 81. 3 0 悪性黒色腫リンパ節 転移巣 10 9 1 90. 0 腫瘍部との位置関係にて分類した.悪性黒色腫原発巣, 非転移巣 8 1 7 12. 5 母斑細胞母斑では近隣部,腫瘍部を対象とし,リンパ 悪性黒色腫原発巣,リンパ節転移巣にて高率に血流信号を 節標本では近隣部,リンパ節内部を対象とした.染色 認めた. 所見を 2 名以上で評価し,以下の様に階級付けた.悪 悪性黒色腫母斑細胞 染色性を評価した.評価は径約 25∼50µm 前後の血管 壁が確認できる血管を対象とし,評価部は前述の様に 性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑では各標本の正常部で oxidase complex(ABC)法による免疫染色をおこなっ 最も濃染されている血管壁の染色性を 3(strong)と た. し,これを control とした.リンパ節では各標本のリン 使用した抗体は抗第 VIII 因子関連抗体,抗 calponin パ節外側部かつ遠位で最も濃染されている血管壁の染 抗体,抗 αSMA 抗体(いずれも DACO 社製)を使用し 色性を 3(strong)とし,これを control とした.評価 た.脱パラフインした後,0.1% トリプシン溶液にてト は 3(strong) ,2.5,2(medium) ,1.5,1(weak) ,0.5, リプシン処理した.0.3% 過酸化水素にてペルオキシ 0(negative)と階級付けした. ダーゼを不活性化し 10% 正常ブタ血清にてブロッキ ングをしたのち,一次抗体として抗第 VIII 因子関連抗 4.統計処理 体(×200) ,抗 calponin 抗体(×75) ,抗 αSMA 抗体 血管密度の比較は t 検定を用い,計測値は mean± (×30)をそれぞれ使用した(4℃ overnight) .二次抗 standard deviation(SD)で表した.血管平滑筋染色所 体は ABC KIT Elite(フナコシ)附属のビオチン標識抗 見の比較は,同一標本内においてはウィルコクソン符 マウス免疫グロブリン―ヤギ抗体及び,ビオチン標識 号付順位和検定を用い,他標本間においては,マン・ 抗ウサギ免疫グロブリン―ヤギ抗体を使用した(室温 ホイットニ検定を用いた. p<0.05 を有意差ありと判定 30 分) .二次染色は Elite(フナコシ)キットを用い, した. DAB で発色したのち,ギムザ染色を行った. 3.解析 1)血管密度 結 果 1.超音波ドプラ法(表 3) 超音波ドプラ法にて悪性黒色腫の原発巣腫瘍内に 検体を光学顕微鏡(OLYMPUS BX 50)にて観察し, 16 症例中 13 症例(81.3%)で血流信号が認められた 悪性黒色腫原発巣標本では四万村ら25)の方法に準じ腫 (図 1a, b) .血流信号の分布パターンを観察したとこ 瘍部,近隣部,正常部の 3 カ所に分類した.すなわち, ろ,病巣全体あるいは多中心的に血流信号が見られた 標本内において近隣部は 200 倍視野にて腫瘍線より 3 他,腫瘍辺縁からも検出された. 視野以内までとし,それより外側部は正常部とした. リンパ節標本ではリンパ節内部のみを対象とした. 所属リンパ節の転移巣内においては 10 症例中 9 症 例(90.0%)で血流信号が認められ(図 2a),非転移巣 微小血管密度の計測については Weidner ら26)の方 においては 8 症例中 7 症例(87.5%)で血流信号が検出 法に準じた.すなわち抗 VIII 因子関連抗体による免疫 されなかった (図 2b) .母斑細胞母斑では全症例におい 組織化学的検討にて,血管内皮細胞が染色されたもの て明らかな血流信号は認めなかった(図 3a, b) . を微小血管と同定した.まず,光学顕微鏡を使用し 100 倍視野にて標本内の各標本各分類部における微小血管 豊富部(vascular hot spot)を検索し,次に 200 倍視野 2.免疫組織学的所見 (1)血管密度(0.72mm2) での 1 視野中(0.72mm2)の血管数を算定した.これを 悪性黒色腫では最小 46.5(! 0.72mm2 以下略) ,最大 各部 3 回行い,その平均数を血管密度とした.さらに 132.6 の間に分布しており, 平均 82.6±24.6 であった. 血管数は血管径により 25µm 以下,25∼50µm,50µm 母斑細胞母斑では最小 15.5, 最大 64.0 の間に分布して 194 江田 図 4 悪性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑の血管密度 悪性黒色腫は母斑細胞母斑に比べいずれの部において も高い血管密度を示した.悪性黒色腫原発巣内では特 に近隣部に高い血管密度を認めた. 二葉ほか 図 5 悪性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑の血管密度 いずれの血管径群においても,悪性黒色腫の方が高い 血管密度を示した.特に径 25 μm 以下,5 0μm 以上の 血管径群においてその差が顕著であった. 図 6 悪性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑の部位別および血管径別血管密度 正常部では 2 5 μm以下の血管密度に明らかな差を認めた(p< 0 . 0 5 ).近隣部でも 2 5 μm 以下,5 0 μm 以上の血管密度に明らかな差を認めた(p< 0. 0 1 ) .腫瘍部ではいずれの 血管径群においても明らかな差を認めた(p< 0 . 0 5 ). おり,平均 39.7±13.6 であった.悪性黒色腫では,母斑 おいて近隣部は,腫瘍部,正常部と比し最も高い血管 細胞母斑と比して高い血管密度を示し (p<0.01) ,腫瘍 密度を示した (p<0.05) (図 4) .母斑細胞母斑では正常 との位置関係にて 3 分類したいずれの部においての比 部の血管密度が最も高く,次いで近隣部が高かった. 較でも,高い血管密度を示した.さらに悪性黒色腫に この 2 者においては差は認められなかったが,腫瘍部 MM における PDI の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見との検討 195 た(図 9a) (p<0.01) .腫瘍部血管壁では,全症例にお いて近隣部よりもさらに染色性の減弱が認められた (図 10a) (p<0.01) . 母斑細胞母斑にお い て 抗 αSMA 抗 体 で は 正 常 部 control と近隣部血管壁の染色性は同等で (図 12a) ,腫 瘍部においては,10 例中 2 例に染色性の減弱を認める も (図 13a) ,染色性は control と比較し明らかな差はな かった. i-2)抗 calponin 抗体(図 14) 悪性黒色腫原発巣標本において抗 calponin 抗体に よる近隣部における染色性は,正常部 control(図 8b) に比して全症例で減弱が認められ (図 9b) ,腫瘍部にお いて近隣部と比してさらに著明に減弱して認められた 図 7 悪性黒色腫所属リンパ節の血管密度 転移巣,非転移巣間において血管密度の差は明らかで なかった. (図 10b) (p<0.01) . 母斑細胞母斑において抗 calponin 抗体では正常部 control と比較し近隣部血管壁の染色性は 10 例中 6 例 (60%)の血管壁で軽度減弱が見られた(図 12b) (p< 0.05) .腫瘍部では全症例にて血管壁の染色性に明らか では正常部と比し血管密度が有意に低かった(p< な減弱が認められた(図 13b) (p<0.01) . 0.01) .図 5 には悪性黒色腫,母斑細胞母斑における血 悪性黒色腫原発巣において,抗 αSMA 抗体,抗 cal- 管径別の血管密度の差を示す.前述した 3 分類のいず ponin 抗体にていずれも正常部 control と比較し,近隣 れの血管径群においても悪性黒色腫にて高い血管密度 部,腫瘍部の双方特に腫瘍部で染色性の減弱を認めた を示し,特に径 25µm 以下,径 50µm 以上の血管径群に (p<0.01) が,抗 calponin 抗体による染色性の減弱の方 おいて,血管密度の差は顕著であった(p<0.01) .図 が,抗 αSMA 抗体の場合に比してより著明であった 6 には悪性黒色腫,母斑細胞母斑間での腫瘍からの位 (p<0.01) .母斑細胞母斑において,近隣部,腫瘍部に 置別,血管径別の血管密度の差を示す.正常部では 25 おいて抗 calponin 抗体の染色性は抗 αSMA 抗体に比 µm 以下の血管密度に明らかな差を認めた(p<0.05) . し明らかに減弱していた (p<0.01) .いずれの抗体にお 近隣部でも 25µm 以下,50µm 以上の血管密度に明ら いても近隣部及び腫瘍部にて悪性黒色腫では母斑細胞 かな差を認めた (p<0.01) .腫瘍部ではいずれの血管径 母斑と比較し,染色性の減弱は著明であった(p< 群においても明らかな差を認めたが(p<0.05) ,特に 0.05) . 25µm 以下,50µm 以上の血管密度により顕著な差が見 ii)悪性黒色腫のリンパ節標本 られた(p<0.01) . ii-1)抗 αSMA 抗体(図 17) 同様の検討におけるリンパ節内の血管密度におい 転移巣において抗 αSMA 抗体では,リンパ節外側部 て,転 移 巣 は 最 小 9.7, 最 大 176.4 の 間 に 分 布 し 平 均 control と比較し近隣部の 10 症例中 5 例(50%)の症例 81.7±52.0 であり,非転移巣は最小 12.7,最大 167.3 の で軽度の染色性の減弱が見られた(図 15a)が,有意差 間に分布し平均 108.7±47.9 であった.転移巣,非転移 は認められなかった.リンパ節内部は 90.0% の症例で 巣間の全血管の血管密度,血管径群別血管密度に,明 さらに著明な染色性の減弱が認められた(図 16a) (p< らかな差は認められなかった(図 7) . 0.01) . (2)血管平滑筋染色所見の評価 非転移巣においては抗 αSMA 抗体の染色性は近隣 i)悪性黒色腫原発巣,母斑細胞母斑 部では 8 症例中 3 症例(37.5%)で減弱していたが,有 i-1)抗 αSMA 抗体(図 11) 意差は認めなかった.リンパ節内部では全症例で減弱 悪性黒色腫原発巣標本において抗 αSMA 抗体によ していた(p<0.05) . る近隣部血管壁の染色性は,正常部 control(図 8a)と ii-2)抗 calponin 抗体(図 18) 比較し 16 症例中 8 例(50%)の症例で減弱が認められ 転移巣において抗 calponin 抗体では近隣部におい 196 江田 二葉ほか 図 2a リンパ節転移巣 PDI所見 リンパ節内部に明らかな血流信号を認めた. 図 1a 悪性黒色腫(NM)53歳男 臨床像 図 2b リンパ節非転移巣 CDI所見 リンパ節内部に明らかな血流信号を認めなかった. 図 1b 悪性黒色腫(NM)PDI所見 腫瘍内部,腫瘍周囲部に豊富な血流信号を認めた. てリンパ節外側部 control と比較し全症例で染色性が 減弱していた (図 15b) (p<0.01) .リンパ節内部も全症 例において,さらに著明な染色性の減弱がみられた (図 16b) (p<0.01) . 非転移巣において抗 calponin 抗体では近隣部,腫瘍 部でも全症例ともに染色性の減弱が見られた(p< 図 3a 母斑細胞母斑 59歳男 臨床像 0.05) . 転移巣においてリンパ節内部では抗 αSMA 抗体,抗 calponin 抗体による染色性の減弱が認められ,特に抗 calponin 抗体で減弱度は著明であった(p<0.01) .非転 移巣では,近隣部における抗 αSMA 抗体での染色性は control と明らかな差を認めなかったものの,抗 calponin 抗体では有意な減弱をみた(p<0.05) .リンパ節 内部では,control と比較し各抗体で明らかな染色性の 減弱がみられたが,抗 calponin 抗体での染色性の減弱 の方がより著明であった (p<0.01) . しかし, 転移巣, 非転移巣間の各抗体の染色性に明らかな差は認められ なかった. 図 3b 母斑細胞母斑 PDI所見 腫瘍内に明らかな血流信号を認めなかった. MM における PDI の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見との検討 図 8a 抗 αSMA抗体 正常部 cont r ol (×200) 197 図 9a 悪性黒色腫原発巣 近隣部 抗 αSMA抗体 (×100) 著明な血管平滑筋染色性の減弱を認めた. 図 8b 抗 cal poni n抗体 正常部 cont r ol (×200) 考 察 図 9b 悪性黒色腫原発巣 近隣部 抗 cal poni n抗 体(×100) 著明な血管平滑筋染色性の減弱を認めた. 本研究では悪性黒色腫の原発巣,リンパ節 (転移巣, 非転移巣)および母斑細胞母斑における超音波ドプラ 内でも不均一差は存在し,腫瘍が増大すると腫瘍内部 法での血流信号の所見と,各標本での腫瘍内部,腫瘍 に壊死を起こすことがしばしば認められることも起因 近隣部における血管密度および血管平滑筋細胞の免疫 していると考えた.また,近隣部血管密度が最も高い 組織化学的所見との関係を調べた.PDI の結果,原発 結果は,腫瘍の浸潤により,近隣部すなわち腫瘍移行 巣,リンパ節転移巣ともに悪性所見を示す病巣におい 帯,腫瘍先進部の血管新生変化を表していると考えた. て 3cm! sec 以上の血流信号が高頻度に認められた.ま この血管密度の結果より悪性黒色腫の原発巣におい た,検出された信号は多くが病巣内部だけでなく病巣 ての PDI の所見は, 腫瘍内部及び近隣部での特に径 25 部周辺部にも連続して検出された. µm 以下の微小な血管密度と相関している可能性が推 免疫組織化学染色を用いて各切除標本での血管密度 測された.Giovagnorio らは CDI により皮膚腫瘍病巣 を算出したところ,悪性黒色腫原発巣は母斑細胞母斑 を検討し,血流信号のパターンを以下の 4 型に分類し と比較し高い血管密度を認めた.さらに,PDI による ている27);avascular (type 1) , hypovascular with a sin- 血流信号に関わる血管径群を検討する為に血管径の太 gle vascular pole(type 2) ,hypervascular with multi- さにより 3 群に分類し,また標本内において腫瘍部, ple peripheral pole (type 3) ,hypervascular with inter- 近隣部,正常部と 3 分類した.悪性黒色腫は母斑細胞 nal vessels(type 4) .このうち悪性腫瘍に多く見られる 母斑に比し,いずれの部においても血管密度が高かっ パターンとして type 3,type 4 を報告している.今回 たが,特に径 25µm 以下の微小な血管群の密度が腫瘍 我々が血流信号陽性とした所見は type 3,type 4 に 部だけでなく近隣部,正常部においても高かった.こ 一致し,一方,陰性所見は type 1,type 2 に一致する. れは腫瘍内部,転移巣における血管の分布は同一組織 超音波ドプラ法で悪性黒色腫原発巣の多くに豊富な血 198 江田 二葉ほか 図 10a 悪性黒色腫原発巣 腫瘍部 抗 αSMA抗体 (×200) 著明な血管平滑筋染色性の減弱を認めた. 図 12a 母 斑 細 胞 母 斑 近 隣 部 抗 αSMA抗 体 (×100) 血管平滑筋染色性は c o nt r o lと同等であった. 図 10b 悪性黒色腫原発巣 腫瘍部 抗 cal poni n抗 体(×200) 著明な血管平滑筋染色性の減弱を認めた. 図 12b 母 斑 細 胞 母 斑 近 隣 部 抗 cal poni n抗 体 (×100) 血管平滑筋染色性に減弱を認めた. 図 11 悪性黒色腫(MM)母斑細胞母斑(NCN)における免疫染色結果 αSMA MM における PDI の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見との検討 199 図 13a 母 斑 細 胞 母 斑 腫 瘍 部 抗 αSMA抗 体 (×200) 血管平滑筋染色性は c o nt r o lと同等であった. 図 15a リ ン パ 節 転 移 巣 リ ン パ 節 近 隣 部 抗 αSMA抗体(×100) 5 0 %の症例で血管平滑筋染色性の減弱を認めた. 図 13b 母 斑 細 胞 母 斑 腫 瘍 部 抗 cal poni n抗 体 (×200) 血管平滑筋染色性に減弱を認めた. 図 15b リンパ節転移巣 リンパ節近隣部 抗 cal poni n抗体(×100) 血管平滑筋の著明な減弱を認めた. 図 14 悪性黒色腫母斑細胞母斑における免疫染色結果 cal poni n 200 江田 二葉ほか 流信号パターン(type 3,4)がみられ,一方,母斑細 胞母斑に血流信号が乏しかった(type 1,2)ことの基 盤には腫瘍内および腫瘍近傍血管の量的,質的差があ ると考えられる.その量的基盤の一つとして,悪性黒 色腫における腫瘍内部および腫瘍近隣部の高い血管密 度が関連している可能性を考えた. また,血管の質的差を探る目的で腫瘍及び腫瘍近傍 の血管平滑筋細胞の免疫組織学的検討も行った.現在 まで報告されている悪性腫瘍における腫瘍血管での血 図 16a リンパ節転移巣 リンパ節内部 抗 αSMA 抗体(×100) 血管平滑筋染色性の減弱を認めた. 管平滑筋の免疫組織化学的検討では,血管平滑筋細胞 の染色性の低下が認められており,それは腫瘍内部, 腫瘍近隣部にて著明であったとされている10)11)20).ま た腫瘍血管における血管平滑筋細胞の染色性の低下の み ら れ た 悪 性 腫 瘍 に お い て Western blot 法 で の mRNA の低発現が報告されている10)11)16).谷口らは悪 性黒色腫において腫瘍細胞が発するカルポニンの発現 を押さえる因子を報告しており28),血管平滑筋の異常 をおこさせる要因として検討されている.Koganehira らは,アクチン関連分子の低発現は転移や進行,予後 に相関するとし,実際に悪性黒色腫において電子顕微 鏡にて血管平滑筋,内皮細胞ともに脆弱性を示す像を 図 16b リ ン パ 節 転 移 巣 リ ン パ 節 内 部 抗 cal poni n抗体(×100) 血管平滑筋の著明な減弱を認めた. 報告している19). 今回の検討により母斑細胞母斑に比べ悪性黒色腫に おいて腫瘍内部,腫瘍近隣部での血管平滑筋の異常が 顕著なことを明らかにした.この事は血流信号に及ぼ 図 17 リンパ節における免疫染色結果 αSMA MM における PDI の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見との検討 201 図 18 リンパ節における免疫染色結果 cal poni n す血管の質的異常の一つの基盤となる可能性がある. に発現低下するといわれ19)21),発現低下が転移促進の 以上から,悪性黒色腫の原発巣では異常血管の増殖 一因であるということを考えると,リンパ節非転移巣 が認められ,こういった腫瘍部血管の量的異常に基づ において発現低下した症例の予後との相関を検討する く血流増加と質的異常による血流調節障害の双方が 必要がある.さらに,悪性黒色腫では血管内皮細胞な PDI において検出された異常な血流信号と関連してい しに血行転移をおこさせる腫瘍細胞の vascular chan- る可能性を考えた.ただし,リンパ節においては PDI nel formation の報告があり29),このことと PDI での血 所見上,転移巣と非転移巣の間に血流信号の明らかな 流信号の増加についても,さらに検討する必要がある 差が見られたものの,血管密度や,構成血管の血管径 と思われた. に明らかな差は見られず,血管平滑筋の質的異常を示 す,免疫染色の結果も有意差も認められなかった.こ 謝辞:本稿を終えるにあたり,本研究に御助言を頂いた のことは,さらなる検討を残すところとなった.また, 埼玉医科大学中央超音波室中島美智子講師に心より深謝致 悪性黒色腫原発巣,リンパ節転移巣において著明に認 します. められた血管平滑筋の変化が,母斑細胞母斑,リンパ 節非転移巣においても少なからず認められたことに関 本文の要旨は第 780 回日本皮膚科学会東京研究地方会 (2003 年 3 月,東京)において発表した. しても問題が残る.カルポニンは悪性形質転換で顕著 文 1)雨宮慎一,鈴木陽一:カラードプラ法とパワード プラ法,臨床放射線,43 : 1224―1229, 1998. 2)伊東紘一:臨床医のための最新エコー法 エコー 技 術 の 進 歩 と 臨 床 医 に も と め ら れ る も の, Medicina,37 : 8―10, 2000. 3)清原祥夫:皮膚腫瘍の超音波診断 パワードプラ 法による良性と悪性の鑑別,医薬の門,41 : 58―63, 2001. 4)永井秀之,清原祥夫,中島美智子,土田哲也:皮膚 献 腫瘍の超音波パワードプラ法による診断―特に悪 性黒色腫の診断と鑑別について,日皮会誌,111 : 815―820, 2001. 5)Folkman J, Merler E, Abernathy C: Isolation of a tumor factor responsible for angiogenesis, J Exp Med, 133: 275―288, 1972. 6)Blood 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MM における PDI の血流信号と腫瘍血管の免疫組織学的所見との検討 203 The Association between Power Doppler Flow Signals and Immnohistochemical Findings of Tumor Vessels in Malignant Melanoma Futaba Eda1), Yoshio Kiyohara2), Tadashi Suzuki3)and Tetsuya Tsuchida1) 1) Department of Dermatology, Saitama Medical School, Japan 2) Dermatology Division, Shizuoka Cancer Center 3) Suwa Dermatology Clinic (Received January 25, 2007; accepted for publication September 10, 2007) The purpose of this study was to determine the relationship in malignant melanoma between the Dopper flow signals and the immnohistochemical findings of blood vessels, including the microvessel density (MVD) and the expression of α-smooth muscle actin (αSMA) and calponin in blood vessel walls. Sixteen lesions from primary malignant melanoma, 10 lesions from nevus cell nevus, and 18 lesions from lymph nodes in malignant melanoma patients (10 positives, and 8 negatives) were examined with power Doppler sonography. Doppler flow signals were detected in 81.3% of primary melanoma lesions and 90% of lymph nodes with metastasis. Malignant melanoma had a higher MVD than nevus cell nevus (p<0.01). In primary melanoma specimens, the area closest to the tumor mass showed highest MVD (p<0.05). In particular, the number of vessels with diameter less than 25µm was increased. In primary melanoma , the expression of αSMA and calponin in the blood vessel walls located in or close to the tumor mass was reduced (p<0.01). Our study indicates that there may be a correlation between high Doppler flow signal and high MVD or reduced expression of αSMA and calponin in tumor vessel walls in malignant melanoma. (Jpn J Dermatol 118: 191∼203, 2008) Key words: power Doppler sonography, malignant melanoma, angiogenesis, α-smooth muscle actin, calponin
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