農地法の法(行政法)社会学的研究 畑 雅 弘 教 授 教養課程 平成 24 年度 以下は、標題の研究の一環として行った農地法 関係訴訟研究の一部である。 区域からの除外(「農振除外」という。)をする必 要がある。 なお、観光ぶどう園来客用の駐車場の設置が、 農地に関する農地法の運用解釈、特に農地転用 農地法でいうところの「軽微変更」3 に当る、あ の問題を、具体的事例(観光ぶどう園開設のため るいは、農地法でいうところの「一時転用」4 に の農地転用)を想定して検討した。 当るのであれば、農振除外・転用許可の申請をす 1 .農用地区域内における農地転用 る必要はない。 X は、S 市所在の土地(農用地区域内にある) 農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振 でぶどうを栽培しているが、このたび、X は観光 法」という。)は、自治体が定める農業振興地域 ぶどう園を計画し、甲地の一部をぶどう狩りの来客 整備計画の変更の一つとして、農用地区域からの 用駐車場(冬季は、近隣にあるスキー場来場者の 除外を定めている。市町村は、農業振興地域整備 駐車場として利用)として整備しようと考えている。 基本方針の変更若しくは農業振興地域の区域の変 農地を農地以外のものにする(「転用」という。) 更により、前条第一項の規定による基礎調査の結 ためには、原則として都道府県知事(4 ヘクター 果により又は経済事情その他情勢の推移により必 ル以上の場合は農林水産大臣)の転用許可が必要 要が生じたときは、政令で定めるところにより、 である(農地法 4 条)1。例えば、農地を宅地、店舗、 遅滞なく、農業振興地域整備計画を変更しなけれ 工場、駐車場などにするのは、農地転用にあたる。 ばならない(法 13 条 1 項)。そして、農業振興地 ブドウ畑の一部を駐車場にすることは農地転用に 域整備計画の変更のうち、農用地区域内の土地を 当たるので、X は転用許可を申請する必要がある2。 農地等以外の用途に供するために、その土地を農 しかし、X が所有する甲地は農用地区内にあ 用地区域から除外する農用地区域の変更は、( i ) る農地である。農用地区域とは、市町村が定めた 農用地区域以外に代替すべき土地がないこと、 農業振興地域整備計画において、長期にわたり農 (ⅱ)除外により、土地の農業上の効率的かつ総 業上の利用を確保すべきとされた土地の区域であ 合的な利用に支障を及ぼすおそれがないと認めら る。この農用地区域内の農地の転用は、原則とし れること、(ⅲ)除外により、農用地区内の土地 て認められない(農地法 4 条 2 項 1 号イ)。そこで、 改良施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがな X が農地転用を申請する前に、まず甲地の農用地 いこと、(ⅳ)土地基礎整備事業完了後 8 年を経 94 過していること、以上の全ての要件を満たしてい は当たらないというべきである(千葉地判平成 6・ なければならない 5。 2・23)とするものがある。 しかし、実際は、農地所有者が農振除外の申請 2 .農振除外の法的性質と行政訴訟 をして、それに対して行政が個別に承認・不承認 X は農振除外の申請をすることになるが、S 市 をするという形がとられており、標準処理期間も がその受理を拒否した場合、あるいは X の農振 定められていることも考慮すると、農振除外の承 除外申請に対して S 市がそれを承認しなかった場 認・不承認は実質的には行政処分の性質を有して 合、X は、なんらかの行政訴訟で争うことを考え いるといえるのではなかろうか。したがって、X るであろう。しかし、行政訴訟の提起が可能かど には、Y の不受理については、受理義務の確認(申 うかは必ずしも明らかではない。 請権の存在)を求める公法上の当事者訴訟で争う 先に触れたように、農地所有者が農振除外を申 ことが、あるいは Y の不承認については、それ 出あるいは申請するという手続については、法律 が申請に対する拒否処分を意味するとして、その 上何らの規定がなく、農振除外が、そもそも、申 取消の訴えを提起することが、それぞれ認められ 請にかかる行政処分の形でなされるものであるの るべきであろう。 かどうかは明らかではない。むしろ、農振法の規 定からすると、農振除外は、農業振興整備地域計 1 農業生産の基盤である農地を確保するため、農地の転 画 6 の変更の一つとして、市町村が職権で行なう 用については、法的規制が必要である。しかし、社会 ものであって、申請者の申請に基づいてなされる 的環境の変化のなかで、既存農地が農地としての価値 を喪失している場合があり、また農業形態も変化して ものではないようにみえる。つまり、X の S 市に きている状況においては、農地所有者の農地の利用・ 対してする農振除外の申請は、市が職権で行う農 処分の自由にも配慮しなければならない。 業振興地域整備計画の変更を促すための申出ある いは要望に過ぎず、行政手続法上の「申請」、す なわち行政庁に諾否の処分を義務づけるような行 為ではないのではないかということである。 農振除外は、申請にかかる処分という形で行わ れるのではなく、市が職権により行う農業振興地 2 無許可転用は、個人の場合は三年以下の懲役又は 三百万円以下の罰金、法人の場合は、一億円以下の罰 金に処せられる(農地法 64、67 条)。 3 例えば、農業用倉庫、機械倉庫建築などは軽微変更に 当たる。 4 一時転用と判断されるためには、転用期間が一時的で あること及び回復が容易にできることが必要である。 ぶどう狩りシーズンだけでなく、冬季も利用というこ 域整備計画の変更であるということになると、X とであれば、「一時的」とは言えないし、また例えば、 の申請の受付拒否を行政手続法 7 条違反であると コンクリートでの舗装の場合は必ずしも回復が容易と か、申請に対する返答を放置することが処分の不 作為になるとか、そして申請の拒否を不許可処 は言えないであろう。 5 具体例としては、住居用の建築物の建築がある。 6 「農用地利用計画は、農用地区域及びその区域内にあ 分であるとかという主張は成り立たないことにな る土地の用途区分に係るもので、それ自体として、国 る。判例にも、不承認の通知は、農業振興整備地 民の権利義務に対して直接影響を与えるものではな 域計画の変更をしないという結果を事実上通知す い」(名古屋地判平成 15・2・28) るものであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に 95
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