戦後日本資本主義と農業 その現段階と新たな協同運動

「農協解体」攻撃の狙いと協同
組合の今日的役割
弘前大学農学生命科学部
神田 健策
一.「官から民へ」の小泉構造改革
• 郵政改革の狙い
• 日本や米国の銀行/保険業界
• 郵便貯金・簡易保険の340兆円をターゲット
小泉「構造改革」と内外の諸問題
• 耐震強度偽装
• ライブドアの証券取引法違反
• BSE(牛海綿状脳症)
• 防衛施設庁の官製談合事件
• 在日米軍基地再編
• いのちと暮らし 増税/医療費の負担増
• 格差社会の現出
• 靖国神社参拝 アジア外交の行き詰まり
• 憲法第9条の改正 国民投票法案の提出
経済財政諮問会議とは
• 経済財政政策に関し、内閣総理大
臣のリーダーシップを十分に発揮す
ることを目的にして、2001年1月に
内閣府に設置。
規制改革・民間開放推進会議とは
• 総合規制改革会議(2001年4月~2004年3
月)終了以降も規制改革をより一層推進する
ため、2004年4月、内閣総理大臣の諮問に応
じ、民間有識者13名から構成され、内閣府に
設置。
規制改革・民間開放推進会議構成員
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議長 宮内義彦 オリックス株式会社会長
議長代理 鈴木良男 旭リサーチセンター取締役会長
総括主査 草刈隆郎 日本郵船株式会社会長
八代尚宏 国際基督教大学教授
委員 神田秀樹 東京大学大学院法学政治学研究科教授
黒川和美 法政大学経済学部教授
志太 勤 シダックス株式会社代表取締役会長
白石真澄 東洋大学経済学部助教授
南場智子 株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役
原 早苗 埼玉大学経済学部、青森大学非常勤講師
本田桂子 マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン
矢崎裕彦 矢崎総業株式会社代表取締役会長
安居祥策 帝人株式会社相談役
二.新「自由主義」とは何か
• 世界の経済システムの大原則
• 「国際化、自由化、規制緩和」
• 「市場原理、競争原理」の導入
• Mega Competition(大競争時代)
• 利潤(もうけ)第一主義
• 協同組合も解体=自由化の対象に
ホリエモンに質問
「ほかにも考えている新規参入先は?」
• 高くてもいいからおいしい野菜を食べたいと
いう人は多いが、残念ながらそれを流通させ
る仕組みがない。それは農協が農作物の流
通をはじめ、農家の経済の根幹を握っている
から。・・・農地を農家以外に自由に売ることも
できない。さらに農協は最大級の金融機関で
もある。農家の隅から隅まで入り込んだ農協
が崩壊するとなると、すごいビジネス・チャン
スになる」
ホリエモンの農協関連発言
• 農家の隅から隅まで入り込んだ農協が
崩壊するとなると、すごいビジネス・チャ
ンスになる。(『週間ダイヤモンド』(04.
12.25/05.1.1合併)
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→その壁となっているのは
①農地法 株式会社の農地購入を禁止
②総合農協
三. 内部からも進む農協解体
• 2003年10月 第23回農協大会決議
• 「『農』と『共生』の世紀づくりをめざして
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-JA改革の断行- 」
• “このままいけば、まもなく全JAの合計で
事業利益が赤字になることが懸念”
各農協大会の主な課題
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第18回大会(1988) 「全国一千農協」構想
第19回大会(1991) 「事業二段・組織二段」
第20回大会(1994) 「合併構想の早期実現」
第21回大会(1997) 「二一世紀に向けたJA運動」
第22回大会(2000) 「JAグループが一体となって
総合力を発揮するための事業改革、とりわけ、統合
の成果を発揮する経済事業の改革、一元的なIT投
資、金融総合力を結集した一体的な事業運営を展
開するJAバンクグループを実現する」
第23回大会(2003) 「JA改革の断行」
住専問題からJAバンクへ
• 1996年(平成8年)
• 「住専問題」~住宅専門金融機関への
農協の貸付 /バブル崩壊で焦げ付き
• →母体行責任を貫けず、国の「財政支
援」
• 農協の信用事業(協同組合金融)から
• 「JAバンク」に転換
JAバンクの抱える問題点
• 1.自己資本比率の引き上げ
• →4%から8%へ
• 2.他部門(経済事業)の赤字(2年連
続)の際、収支の改善
• 3.「JAバンク」から業績の悪い単協の強
制排除(農林中金/全中の権限強化)
農水省と農協中央の一体的政策推進
• いわゆる住専問題の頃から、農水省は農協のあり方に強く
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介入し、農協中央もそれに対応してきた。
【2000年6月】
全中から総合審議会答申(「経済環境の変化に対応したJ
Aグループの事業推進のあり方」「中央会事業・組織のあり
方」)
【2000年11月】
農水省の「農協系統の事業・組織に関する検討会」から「農
協改革の方向」が発表。
【2001年4月】
「JAバンク構想」の実現を目指した「農協改革二法」の施行
• まさしく農水省と農協中央が一体となって「農協改革」を進め
てきたというのが近年の特徴。
経済事業改革の経過と問題点
• 1.JAバンク自主ルールからの経営改善
• 2年間連続赤字の場合、3年以内に人員経
費の削減、不採算業務や施設の統廃合と見
直し、配当還元水準の見直し、運営方式の見
直し、手数料体系の抜本的見直しなどの経
営改善の指示。
• 2.財界主導の構造改革農業版
• 武部幹事長(元農水大臣)
• →農協改革と米改革
進行する上位下達のJA改革
• 全中総会「組合の組織・事業・経営の指導に
関する基本方針」(2005年3月)
• 1.水田農業における担い手づくり
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担い手対象者の限定
• 2.経済事業改革のさらなる推進
• 3.JA経営の改善と機能発揮
• ①JAの支店・支所体制再構築、②経営不
振JA対策、③JA合併の推進(未合併解消)
四.政・財界の農協つぶしの進行
• 「規制改革」中間報告素案(050701朝日)
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一人一票制
農協の部門ごとの独立採算性や組織分割
全農等の系統上部組織の大幅縮小など
新たな形態の農協設立促進と既存農協との競争
農業委員会や農協の抜本的見直し
• →「総合農協」の否定
• 郵政の次は農協!
経済財政諮問会議 2006年の動き
• 第1回1月18日
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「平成十八年の経済財政諮問会議の進め方」
• 第2回2月1日
• 「平成十八年の経済財政諮問会議における課題」
• 規制改革・民間開放推進会議の宮内議長(オリックス会
長)が出席、報告
• 「改革の加速と深化」「広く”公”を支えるシステムの改革」
• →「非営利法法人、NPO、消費者等に係る制度の改革」
経済財政諮問会議答申2006年6月
• →未解決の重要課題として農地制度、農協改革など
六項目を挙げる
• →本年6月を目途に”答申”をまとめる
• 「国際競争力向上に向け、強い農業経営を育成する
ため支援の集中・重点化をはかるなど、その成果が
三~五年で発言するような」戦略
戦後農政の骨格
• 「戦後自作農」の再没落を防衛
• 骨格となる法体系
• 1.農業協同組合法(1947年)
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戦後自作農の発展を目指し、「農民の協同組織の
発達を促進」する新生農協の理念を掲げて出発
2.農業改良助長法(1948年)
3.土地改良法(1949年)
4.農地法(1952年)
「農地はその耕作者がみずからが所有することが最
も適当である」(農地耕作者主義)を基本理念
農産物の一層の自由化段階
• 1988年、政府はGATT勧告を受け入れ、10
品目の自由化
• 1991年、牛肉・オレンジの「完全自由化」
• 1980年代後半から、米の自由化攻勢が開
始され、GATT交渉(ウルグアイラウンド)の
最大の障害物として取り上げられた。
日米諮問委員会の最終報告書
• 『りよよき協調を求めて-日米関係の課題と
可能性-』(1984年)
• 「日本の農業政策は、農地規模の拡大を図る
とともに(広大な農地規模を必要とするコメ、
小麦、大豆、牛の放牧などはやめ)小規模農
地で効率的で生産しうる農産物(野菜、果樹
栽培、養豚・養鶏、草花栽培など)への農業
生産構造の転換を目指すべきである。」
財界農政と「農業改革論」の登場
• 国内農業批判
• 「農業過保護論」
• 「農産物割高論」
• 「農民裕福論」
• →日本の財界の要求
• 「市場原理の導入、内外価格差の縮小、農業
の体質強化」
GATTからWTO体制へ
• 1986年から始まったGATT交渉は、世界貿
易のあらゆる分野において「市場原理」「競争
原理」を適用させ、とりわけこの原則を農業部
門にも全面的に貫徹させようした。
• 1995年1月 GATT体制に代わって設置さ
れたWTO体制
• 1995年4月 ミニマム・アクセス米の輸入
•
11月 新食糧法
小泉首相の「農業鎖国論」発言
• 小泉首相は、2003年10月21日、タイ
で開催されたアジア太平洋経済協力会
議(APEC)首脳会議後の記者会見にお
いて、「農業鎖国は続けられない」「外国
農産物との競争に耐えられるよう農業
構造改革は待ったなしだ」の発言を行
う。
食料・農業・農村基本計画の見直し
• 2005年3月 新「食料・農業・農村基本計画」を発
表
• 第1、食料自給率向上の目標(40%を45%に)を
2015年までに先送り
• 第2、農業支援の対象を「効率的かつ安定的な農
業経営」に限定。支援対象規模の農家を限定す
る「品目横断的経営安定対策」の導入
• 第3、株式会社の「リース方式による農業への参
入」を認可
五.国民の求める日本農業とは
• このような内容で「格段のスピード
アップ」をもって推進されている小泉
「農業構造改革」に対して、国民が
求める農政の課題は食料自給率の
向上と食の安全・安心に対する不安
の解消であり、それを保障する国内
農業生産の振興を基礎にした地域
農業の再生である。
日生協・日本の農業に関する提言
~日本の農業が産業として力強く再生するために~
• 日本の農業が産業として力強く再生し自
立していくために消費者の視点から意
見を表明。提言では、環境保全型農業
の推進や食品安全行政の確立、日本の
農産物の品質と競争力の向上を求めま
した。
• さらに国際環境の変化に対応した農政を確
立し、国際化の中で日本の農業を守るため
に、食料・農業・農村政策審議会企画部会で
論議されてきた品目横断型直接支払制度を
導入し、経営支援していくことに賛成の立場
を表明しました。導入にあたっては、国民的
合意を確立する視点からも高関税の逓減に
よる農産物の内外格差の縮小を求めていま
す。
また、自給率の向上に向けた自給力の強化
の課題については、新規就農の促進や厳格
な用途転用規制を大前提に農地の利用促進
に向けた規制の緩和を求めました。
中国で注目される日本の農協
• 日本
新農業基本法(食料・農業・農村)
• 中国
三農問題(農業・農村・農民)
六.総合農協の意義を考える
• わが国の系統農協組織が農民の自主的な協
同組織として展開してきたか否かについては
異論を持つ人もいると思いますが、農協が日
本農業の発展と農家の生活と経営の向上に
一定の役割を果たしてきたことは否定できま
せん。そして、行政との関係では政府の「下
請け機関」「制度としての農協」の役割を果た
してきた側面はあるものの、自主的な産地形
成や創造的なマーケティングを開発するな
ど、農民の利益のために立派に貢献してきた
ことは評価されるべきだと私は思います。
協同組合は何故、発生したのか
• 協同組合とはそもそも、利潤を追求するので
はなく組合員の利益をめざし、所有株式数に
基づく意思決定ではなく、一人一票制をとり、
収益も利用高に応じる配当をとってきた。
• つまり、協同組合は、資本主義経済におい
て先行する株式会社に対するアンチとして生
まれてきた。
日本の農協に問われていることは
• 日本の農村社会の現実に即した農協のあり
方が、「総合農協」として展開してきた。
• 農家(家族経営)は、生産面から生活面にわ
たるトータルな協同が必要です。その必要性
を事業化、経営体したのが、日本の総合農協
です。日本の農協は金融農協と批判されます
が、高利貸しからの解放は農協の歴史的原
点である。
農協の活路をどう切り拓くか
• 組合員の声を聴くことを基本に。
• 組合員のなかに生産や生活をめぐる協
同の種を播き、それを育み、協同事業化
していく、あるいは組合員の協同の要求
を事業として実現していくことが重要。