第1 解約許可、明渡訴訟の提起、追行および1988年の底地買収は、違憲違法 な公用収用(強制収用)である[控訴理由第1に関する被控訴人らの主張に 対する反論・補充] 1 被控訴人千葉県による本件一連の手続きが公用収用(強制収用)であるこ との否定 千葉県は、平成 26 年 12 月 1 日付準備書面(2) (以下千葉県準備書面(2) もしくは準備書面(2)という)3 頁において原判決、空港会社所論と同様 に以下のとおり主張して、農地賃貸借契約の解約申入れ、これに対する解約 許可、農地明渡請求訴訟という一連の手続きについて、強制収用であること について否定する。すなわち、以下のとおりである。 「本件許可処分は被控訴人千葉県が、被控訴人成田国際空港株式会社(以下 「被控訴人空港会社」という。)から控訴人に対する被控訴人空港会社及び 控訴人間の農地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)の解約の申 入れをすることを許可するとしたものに過ぎず、同許可の結果として、被控 訴人空港会社は民法の定めに従って本件賃貸借契約の解約の申入れ(民法 617 条)を行うことが可能となるに過ぎないのだから、本件賃貸借契約の解 約に基づく農地明渡請求訴訟は、被控訴人空港会社による民法上の権利の行 使であり、強制収用には当たらない。 (原審被告千葉県準備書面(30)6 頁、 答弁書 9 頁、準備書面(4)2 頁)」 しかし、千葉県の主張は原判決、空港会社と同じく失当である。 2 1988年の農地底地取得ならびに農地賃貸借解約申入れ、解約許可処分、農 地明渡請求訴訟の一連の手続きは、公用収用に他ならない。 (1) 美濃部達吉博士は公用収用について以下のとおり、適確に定義した。 「公用収用の定義の下すとすれば、私は公用収用とは、公益上の必要に -2- 基づき、国家公共団体又は国家的公権を与へられた私の企業者が、国家的 公権の行使に依り、法律による別段の定めある場合の外完全なる損失補償 を支払うことを条件として、特定の私人に属する特定の財産権を取得し、 これに伴なひて原権利者の権利が消滅するを謂うと定義して誤りなきもの と思ふ。若し一言に要約すれば、公用収用は「公益上の必要に因る特定の 財産権の有償的且つ強制的の取得」であると曰っても大過ないであらう。」 (1936 年 2 月 5 日発行 美濃部達吉・公用収用法原理 46 頁 戊 400 号) そして、「協議に依る収用も亦収用たることを失はないものであること を主張」(戊 400、47 頁)した。 (2) 本件農地は公用収用対象地である。 1967 年(昭和 42 年)1 月 23 日運輸大臣は新東京国際空港工事実施計画 を認可し 1,064.92ha の空港敷地が確定し、この敷地について建設大臣坪川 信三は土地収用対象地として同空港建設事業について事業認定処分を下し た。その後工事実施計画の変更認可処分により空港敷地は若干拡大したが 南台番付近については変更はない。 本件農地(ただし南台 41 番 8 の畑については、西側部分を除く大部分) は、空港敷地として収用対象地となったことは千葉県、空港会社ともに争 いのない事実である。ちなみに、空港会社は準備書面(3)3 頁(5)オに おいて「空港建設の事業認定が失効したかは不知」と認否しているが誤り である。 1993 年(平成 5 年)6 月空港公団が本件農地を含む二期工事用地につき 権利取得裁決の申請及び明渡裁判の申立てを取下げたことにより二期工事 区域につき事業認定処分は、失効した(最高裁平成 15・12・4 判決・判例 時報 1848・66 頁 戊 401、同判決原本戊 402)。 以上のとおり本件農地は、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(戊 363 の 2)、新東京国際空港公団用地事務取扱規程(38 条)(空港会社甲事 -3- 件、甲第 45 条)の適用対象地であることが明らかである。千葉県は準備 書面(2)3 頁、第 1、4 において「同要綱が本件南台、天神峰の各農地に 直接適用されるものではない」と主張するが、仮にこの主張のとおりとし ても、同要綱に準拠して、小作権、借地権に対する補償について、旧建設 省、旧阪神高速道路公団、東京都、神奈川県、横浜市、本件空港公団等、 国、地方公共団体、公営企業等について通則的に規定されているのであり (控訴理由書 16 頁)、空港公団の事務取扱規程がこの要綱に準拠して定め られていることは、争いのない事実であって、直接的適用を否認しても、 上記事務取扱規程が憲法 29 条、上記要綱に基づき、国、その他の公営企 業体と同様に定められている事実は否定することができない。 (3) 1988年の底地売買および小作権解約申請、許可処分、民事訴訟の提起 の両者は、いずれも違憲、違法な公用収用である。 控訴人は一審段階から上記両者が実質的強制収用、違憲違法な強制収用、 公用収用であることを主張してきた。 千葉県、空港会社、原判決は本件解約申入れ、解約許可処分、民事訴訟 の提起について、農地法、民法上の権利の行使であるとして、この一連の 手続きにおける公用収用であることを否定していることは失当である。さ らに小作権者市東東市の同意なし、秘密裡での地主藤﨑、岩澤からの農地 底地買収も公用収用の大原則に違背している。後者については明確な反論 がなされていない。 3 空港会社が誘導路等空港施設建設のために小作賃借地を取得する行為は公 用収用事業である。 (1) 公用収用事業 空港会社が空港建設工事区域内の農地の小作権を消滅させて農地を転用 して誘導路等を建設する事業は公用収用事業であることは論をまたない。 -4- 公共用地の取得に伴う損失補償要綱に準拠した完全な補償をもって小作 農地を取得すべきことは、公用収用の本質、憲法 29 条、上記要綱、新東 京国際空港公団用地事務取扱規程 38 条(一審併合前の甲 172)に基づき 当然の手続きである。 (2) 小作地取得には、同意もしくは収用裁決が必要。 第 1 に空港用地の小作地について農地賃貸借解約の申入れをするために は、対象農地の損失に対して、完全な補償をするために具体的提案、協議 がなされなければならない。協議による小作権の取得ないし消滅も美濃部 説によるまでもなく、公用収用に他ならない。 事業認定が失効し、収用、明渡裁決に基づく用地取得が不可能となる以 前には、農林省農地局農地課長の下記回答は適確である。 「新東京国際空港の区域が決定され、その用に供するため小作地が買収 される場合には、最終的には土地収用法により収用されるものであって、 その用地取得に伴う損失補償は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要 綱(昭和 36 年 6 月 29 日閣議決定)」に準拠して、その所有者に所有権の 補償が、その小作者に耕作権の補償等が、それぞれ行われるべきものと考 える。したがって、農地の賃貸借について、その賃貸人がその農地を空港 用地にするために売り渡すことを理由として解約の申入れにつき許可申請 をしている場合であってその許可をするとすれば、その賃借人の上記損失 補償をうける機会を失わしめることとなるような場合における農地法第 20 条第 2 項第 2 号または第 5 号該当の有無については、いずれも消極的 に解するを相当と考える。」 上記回答は、地主からの解約許可申請にかかる事業であるが空港公団に よる許可申請であっても小作権者に対する完全な補償を行うことなしに許 可申請をした点で同様である。 本件は、地主がたとえば医院用地として第三者に転用売却するための許 -5- 可申請とは事例を異にするものである。 まして本件は、収用裁決、明渡裁決によって本件賃借権を消滅させるこ とができない事案について「公共用地」たる空港敷地について農地法 20 条 2 項 2 号を適用して解約許可、これに基づく明渡民事訴訟、強制執行に よる小作地の明渡、小作権の消滅を意図したものであり権原なき用地取得 であり、違法な強制収用というべきである。 (3) 小作権者の同意なしには取得できない。 第 2 に、千葉県収用委員会による小作賃借権の権利取得消滅が不可能で ある本件事案について、小作権者が小作賃借権の解約に同意しない場合に は、空港会社は、強制的に取得することが許されない。たとえば、公共用 地でない医院用地取得の場合、小作権者の同意なき解約の申入れ許可が認 められる余地もあり得ると思われるが、本件は空港用地である。公共用地 であることの制約を無視して、一般の農地と同様に解約許可をなし、解約 を理由に民事訴訟、民事強制執行で取得することは、とうてい許されない。 現時点で小作地を取得するには、小作権者の解約、明渡しについての明確 な同意以外にあり得ない(この点は、後に詳述する)。 「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることがで きる」 (憲法 29 条 3 項)、憲法 31 条、上記要綱、上記事務取扱規程に違反 する手続きに他ならない。 まさに違法な強制収用である。 (4) 離作を強要する明渡訴訟は、違憲、違法な強制収用 第 3 に、小作賃貸借契約の解約について、一時期、空港会社は、完全な 補償が必要であることを認識していたが控訴人の断固とした拒絶に対して 報復措置として、千葉県と結託して解約許可を得て、民事判決、民事強制 執行による明渡し、小作地強奪をはかったものと推認される。すなわち成 田空港に反対し、現地であくまでも完全無農薬有機農業を継続しようとす -6- る農民の命を奪うための強制収用を強行したものである。すなわち、本件 解約許可、明渡訴訟は、空港反対の農民つぶしのための報復的違法強制収 用に他ならない。 平成 16 年(2004 年)2 月 9 日付空港公団総裁黒野匡彦作成の控訴人代 理人弁護士葉山岳夫宛文書(空港会社作成にかかる「賃貸借契約の合意解 約のための話し合いに関する経緯」 (一審併合前千葉県提出の乙 1 号証の 5 の 2、空港会社提出甲 68・D・1)12 枚頁以下)をもって、同総裁は空港 公団の小作賃貸借契約解約に関して、農業を継続する場合と離作する場合 とに分けて提案した。 控訴人が今後も農業を継続する場合には以下のとおり、3 か所の農地の いずれかを代替農地として賃貸する提案をしてきた。 ⅰ 現在の耕作地の一部を含んだ空港敷地外の隣接地で本件南台 41 番 8 の空港敷地外の土地を含む約 12,360 ㎡(書面添付の別紙図面 1) ⅱ 南台の本件農地に近い土地約 10,900 ㎡(書面添付の別紙図面 2) ⅲ 控訴人の耕作地に近い天神峰字中央 128 外約 13,630 ㎡(書面 添付の別紙図面 3) そして土壌改良工事、現耕作地の土を代替地に運搬、農作業小屋・堆肥 場の移設等を提案し、離作する場合は 150,793,825 円を補償するという提 案であった。 本件明渡対象農地の面積は、7,283.96 ㎡、千葉地裁民事第 2 部での明 渡請求対象地は、5,722.51 ㎡で合計すると 13,006.47 ㎡なので代替農地 の面積にかぎっては、現在の耕作面積とさほどかけ離れてはいなかった。 しかしながら、市東家が 90 年以上耕作し、完全無農薬有機農業を営む 本件農地に代替する農地はあり得なかった。提案にかかる農地は約 30 年 も耕作が放棄された荒れた畑であった。また、激甚な騒音、住居にジェッ トブラストを吹き付けるなどして供用を強行している B`滑走路の供用停 -7- 止に応じない中での交渉は、とうてい認められるところではなかった。 控訴人は、控訴人代理人弁護士葉山岳夫名義の内容証明による 2004 年 2 月 25 日付書面で、市東東市は、1999 年 1 月 8 日付け遺言(戊 263 の 1) (千 葉家庭裁判所佐倉支部確認審判済)で、市東東市は、控訴人市東孝雄に対 して小作耕作権を空港公団等に絶対に売り渡してはならないと遺言したこ とをあげ、B`滑走路の供用を停止しなければ、明渡し要求等には応じかね る旨を通告した(乙 1 − 5 − 2 の 21 ないし 23 頁)。 その後は、農業を継続する場合の代替農地の件は、一切提案することが なく、一転して報復的に、離作する場合の補償としての 1 億 5 千万円に約 3 千万円を上乗せした 1 億 8 千万円の補償の提示のみをして本件明渡訴訟等 に及んでいる。 空港会社は、控訴人の有機農業、営農の強固な意思を踏みにじって離作 補償と思われる(その具体的内容は明らかにされていない)補償を提示し て、民事訴訟をもって農地を収奪せんとしているものである。 本来補償の内容については収用委員会で慎重に審理されるべきであり、 裁判所で「完全な補償」について審理することは不可能であり、現に原審 においては、補償の具体的内容については全く審理されなかった。本件民 事訴訟による農地の収奪は、裁判所をもって収用委員会の代替機関として 農地を収奪するもので憲法 29 条、31 条に違反する違憲違法は公用収用(強 制収用)に他ならない。 4 小括 以上のとおり、1988 年の小作権者を無視した底地権取得および小作賃貸 借契約の解約許可、これに基づく解約、明渡民事訴訟の提起、追行は、本 件農地が公共用地であり、これの取得については、公用収用(協議を含む) によるべきであるという大原則を踏みにじり、憲法 29 条、31 条、公共用地 -8- の取得に伴う損失補償要綱、新東京国際空港公団用地事務取扱規程に違反 する違憲違法な公用収用(強制収用)に他ならない。 5 書証提出の申入れ 空港会社が新東京国際空港公団用地事務取扱規程(このうち 38 条につい ては、原審における併合前の甲 172 号として控訴人から提出)を所持してい ること、および「当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき」 に該当する。すなわち、民事訴訟法 220 条 1 条に該当するので空港会社は上 記規程の全文および関連規程類につき書証として提出されたい。 (以下、余白) -9- 第2 本件解約許可処分の根拠規定である農地法20条2項2号は日本国憲法に 違反する[控訴理由第2に関する被控訴人らの主張に対する反論及び補充] 1 本件解約許可処分は憲法29条3項の「公共のために用ひる」場合にあた る (1) 控訴人は、控訴理由において、「賃貸人たる被控訴人空港会社との間で 農地法20条1項2号の合意による解約に応じた場合、その小作人 A は 「成田空港の平行滑走路西側誘導路等の整備を目的とした事業」のために 任意買収に応じたことになる。かかる小作人Aの小作権喪失が「公共のた めに用ひる」に該当することは明らかであり、同人への補償には、「『公 共用地の取得に伴う損失補償要綱』が適用される。」と主張した。 これに対して、被控訴人空港会社は、「憲法29条3項に違反するとい う主張に基づく求釈明であるところ、同項にいう『公共のために用ひる』 とは強制収用等、公権力の行使がなされる場合を指すものであって、本件 許可処分や本件賃貸借契約の終了に基づく返還請求について同項違反の問 題は生じない。 」(2014 年 12 月 1 日付け準備書面(3)の7頁)と述べ、 憲法29条3項にいう「公共のために用ひる」とは強制収用等、公権力の 行使がなされる場合に限られると主張する。 しかし、被控訴人空港会社の主張は失当である。以下、詳述する。 (2)現在の憲法学では、憲法29条3項の公共のために『用ひる』とは、私 有財産を取り上げる場合などのみならず、財産権保障の観点より補償を必 要とする場合を広くさすものと解するのが、今日の通説である(『注釈日 本国憲法上巻』青林書院、684 頁)。 本件の場合、確かに形式的には「本件許可処分や本件賃貸借契約の終了 に基づく返還請求」の形をとっている。しかし、本件農地に対する市東東 市の賃借権は、新東京国際空港公団が千葉県収用委員会に提出した198 - 10 - 7年4月24日付け「裁決申請書及び明渡裁決申立書の記載事項の変更に ついて(報告)」添付の「変更事項一覧」の裁決申請書欄に関係人追加と して記載されていたものである(甲140)。ところが、その後千葉県収 用委員会が解体状態に陥ったために土地収用法による強制収用の手続きを 進めることができなくなったために、同手続きを代替するものとして(法 的に厳密に言えば、 “目的のために手段を選ばぬ”式の一種の「脱法手段」 として)、控訴人の本件賃借権を消滅させるために「本件許可処分や本件 賃貸借契約の終了に基づく返還請求」という方法が選択されて、それが強 行されたのである。 上記の具体的な経緯から、被控訴人空港会社が本件農地に対する控訴人 の賃借権を消滅させることが憲法29条3項の「公共のために用ひる」場 合に当たることは当然である。 (3) また、被控訴人千葉県は、「被控訴人空港会社は民法の定めに従って本 件賃貸借契約の解約の申入れ(民法617条)を行うことが可能となるに 過ぎないのだから、本件許可処分自体が憲法29条3項にいう『正当な補 償の下に、これを公共のために用いる』場合には該当しない。」 (2014 年 12 月 1 日付け準備書面(2)の4頁)と主張する。 しかし、すでに上記(2)で詳述したところから明らかなように被控訴人 千葉県の主張は憲法29条3項の解釈を誤ったものであり、全く失当であ る。 2 1970年農林省農地課長回答は憲法29条3項に基づく行政実例である (1) 被控訴人千葉県は、「農林省回答(戊200号証)は、『公共用地の取 得に伴う損失補償基準要綱』に準拠した損失補償を受ける機会を失わしめ るような『場合における』許可については消極的としているのみである。 本件許可処分における離作補償の額は、前記(1)のとおり、控訴人の農 - 11 - 業経営及び生計への打撃を緩和するという意味において社会通念上相当な 補償をすることとしており問題がない。」(2014 年 12 月 1 日付け準備書面 (2)の5頁)と主張する。 しかし、上記の被控訴人千葉県の主張は全く失当である。以下、詳述す る。 (2) 1970年行政実例について、その後の調査で、次の経過が判明した。 1970年1月21日の成田市農業委員会総会(戊 403)において、5 号議案として提出され、事務局から、「5は空港敷地ですが、石毛さんが 空港に反対しているため同意を得られないので一方解約で申請されていま す。」「まだ初めてのケースですので慎重に取り扱いたい。信義に反する 行為もないのでどうしたらよいか公共事業の敷地にかかるわけですから、 どうなるか、知事が農地を他に転用した方が良いと認めた場合は許可でき ることになっています。」と報告された。 これについて、17番委員が、「地主と小作人で話し合ったかどうかを 調査する必要があります。」と意見を述べた。 また7番委員が、「今の段階で一方解約を事務的に処理すべきではない と思う。高度の政治問題なので上層部の政治的判断で処理されたい。」と の意見を述べ、 「保留」とすることが議決された。 (3) こうした成田市農業委員会の要請を受けて、1970年2月、千葉県は、 賃貸人(戦前からの地主)から、「新東京国際空港用地に売却するため、 賃借人に貸付地の返還を求めたが、空港設置反対を理由に応じないため」 という理由で、農地法20条1項の規定に基づく賃貸借契約の解約申入れ 許可申請を受けた。 これに対して千葉県は、「同条(引用者注・農地法3条)第2項第2号 若しくは第5号の規定に基づき許可可能かどうか疑義がある」ため、農林 省に許可が可能かどうかを照会した。 - 12 - (4) これに対し同年6月、農林省農地局農地課長は、かなりの時間をかけて 次のように回答した。 「新東京国際空港の区域が決定され、その用に供するため小作地が買収さ れる場合には、最終的には土地収用法により収用されるものであって、そ の用地取得に伴う損失補償は、『公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱 (昭和36年6月29日閣議決定)』に準拠して、その所有者に所有権の 補償が、その小作者に耕作権の補償等が、それぞれ行われるべきものと考 える。 したがって、農地の賃貸借について、その賃貸人がその農地を空港用地 にするために売り渡すことを理由として解約の申入れにつき許可申請をし ている場合であってその許可をするとすれば、その賃借人の上記損失補償 をうける機会を失わしめることとなるような場合における農地法第20条 第2項第2号または第5号該当の有無については、いずれも消極的に解す るを相当と考える」と回答した(戊200。但し「昭和36年6月29日 閣議決定」は「昭和37年6月29日閣議決定」の誤植である)。 (5) 同年6月17日の成田市農業委員会総会において(戊 404)、事務局か ら、「何回も保留して参りましたが、先般農林省から回答がありまして農 地法第20条第2項2号の農地以外にする場合及び同項第5号のその他正 当な理由のいずれにも該当するのは消極的である。耕作権は土地収用法に よって所有権と別個に補償して収用することが出来るので、一方解約をし ては補償を受ける機会を失わせることになる為許可することは適当ではな いとの理由で申請を取り下げるよう指導されたいとの返事でした。早速そ の旨本人に電話連絡をしたところ、本人も了承して取り下げる旨回答があ りました。まだ文書では出ていませんが口頭で取り下げをしました。」と 報告され、総会では取り下げを賛成多数で議決した。 なお、上記農業委員会総会議事録に出ている「石毛さん」は天神峰部落 - 13 - の石毛常吉氏のことである。控訴理由書で大木よね氏と特定していたのを 本書面で「石毛常吉氏」に訂正する。 (6) 上記農林省回答は、そこに根拠として記載されている内容から明らかな ように、単に同省担当者の政策的な判断に基づくものではなく、明らかに 憲法上の財産権の保障規定に裏付けられたものだった。 即ち、1970年の上記石毛常吉氏のケースのように「農地の賃貸借に ついて、その賃貸人がその農地を空港用地にするために売り渡すことを理 由として解約の申入れにつき許可申請をしている場合」は、他の何人の場 合であっても一般的に憲法29条3項が私有財産を「公共のために用いる」 場合に該当するから、したがって憲法29条3項が定めるように「正当な 補償」が必要なのである。 以上から明らかなように、被控訴人空港会社と被控訴人千葉県は、控訴 人の本件農地に対する賃借権を消滅させるために、前述したとおり“目的 のために手段を選ばぬ”式の一種の「脱法手段」として、1970年行政 実例に違反している違法な手続きであることを充分承知した上で、結託し て、本件解約許可を申請し同許可処分を発出したものであり、被控訴人ら の行為は意図的に憲法29条3項違反を犯した、極めて悪質な行為なので ある。 よって本件解約許可処分申請は、憲法29条3項に違反した無効な行政 処分であることは明らかである。 (以下、余白) - 14 - 第3 農地法3条に違反し、地主と空港公団との本件農地売買契約自体が無効で ある[控訴理由第3の1に関する被控訴人らの主張に対する反論及び補充] 1 被控訴人らの主張について (1) 被控訴人空港会社の主張 被控訴人空港会社は、「空港公団は、本件各土地を空港施設用地に転用 することを目的として買収したのであり、控訴人の主張する上記各事由は いずれもそのことを否定するものではないから、本件各土地の売買に農地 法 3 条が適用される余地はない。 」(2014 年 7 月 31 日付け準備書面(2) の 4 頁)と述べ、本件農地売買が小作権付農地(底地)売買であることを 認めた上で、「転用目的がある」から「農地法 3 条が適用される余地はな い」と主張する。 しかし、転用目的の買収が農地法5条の規制対象となるためには、小作 権の消滅が前提となるが、本件農地売買は小作権付農地(底地)売買であ るから、農地法3条の規制対象になるケースである。上記被控訴人空港会 社の主張の誤りについては、後記2以下で詳述する。 しかし、小作地のまま売買すること自体が、転用目的といえないもので あり、農地法3条に違反するものである。 (2) 控訴人は、後記2ないし6で、①農地法3条2項1号による小作権付農 地(底地)売買の規制、②農地法3条2項各号による小作権付農地(底地) 売買の規制、③転用目的の農地法5条による規制は小作権解除を前提とし ており小作権付農地(底地)売買は農地法5条ではなく農地法3条の規制 を受けること、④農地法5条と農地法第20条の許可との一体処理に関す る通達の意義、⑤「空港公団用地事務取扱規程」第38条1項の意義の5 点にわたり、順次、被控訴人空港会社の上記主張に反論する。 - 15 - 2 農地法3条2項1号による小作権付農地(底地)売買の規制 控訴人は、控訴理由書第3の1(50 頁以下)において、1988年の本 件農地売買は、①1988年の本件農地売買当時に具体的な工事予定がなか ったこと、②本件各農地は17年間賃貸用農地として使用されたこと、③小 作権の取得を収用手続で行うという「計画」も実は破綻寸前だったこと、④ 本件各農地の売買契約は小作地所有目的であったこと等の具体的事実から、 「被控訴人空港会社の本件農地売買が転用目的の農地法5条の売買という弁 明が、事実に反する虚言であることは明らかである。」旨を主張した。 以下では、上記の控訴理由書の主張を踏まえた上で、さらに1952年制 定の農地法3条の規定の趣旨等にさかのぼって検討を加え、本件農地売買は 小作権の解消を伴わないため農地法3条によって規制されるべきであり(す なわち、農地法5条の規制の対象のケースではない)、農地法3条の要件を 充さない本件農地売買は無効であることについて主張を補充する。 (1) 1952年農地法成立と農地法3条2項1号の立法趣旨 ア 1952 年制定された当時の農地法(戊 239)は、第 1 条において、「こ の法律は、農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当である と認めて、耕作者の農地の取得を促進し、その権利を保護し、もつて耕 作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目的とする。」と 規定し、耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ることを法目的と している。 そのための施策として、農地は「耕作者みずからが所有することを最 も適当であ」るとして、農地改革で強く推進された耕作者主義をとり、 耕作者の農地取得を促進し、その権利を保護するものとしており、小作 地等の所有制限(6 条ないし 17 条)と農地の移動統制(3 条ないし 5 条) と農地改革以来の小作権の保護(18 条ないし 25 条)が中心をなしてい る。また、未墾地についても、それを買収して自作農創設に用いる道が - 16 - 開かれている(44 条ないし 60 条)。 イ その中で、農地についての権利の移動は、原則として農業委員会の許 可を要するとして、強い制限がおかれている(3 条)。農地法 3 条 2 項 1 号で、「小作地につきその小作農以外の者が所有権を取得しようとする 場合」「許可をすることができない」と規定し、小作地について、その 所有者がその土地を他人に譲り渡す場合、その土地の小作農に限られ、 小作農以外の者への譲渡は一切認めない。現実の耕作者以外の者、不適 切な耕作者に権利が移動することを防ぐことによって、農地改革の成果 を保持するとともに農業生産力の増進をはかった。 (2) 1970年の農地法改正の趣旨 ア 1970年の農地法の一部改正により、小作地について、1号で、小 作農以外のものが所有権を取得しようとする場合、例外として、①小作 農が 6 か月以内に同意した書面がある場合、②競売もしくは国税滞納処 分等に係る差押さえのあった後に使用収益を目的とする権利が設定され た小作地を強制執行により取得する場合に限って小作農以外の者への譲 渡を認めることとした。 イ 農林水産省構造改善局農地制度実務研究会編著『逐条農地法』(学陽 書房、1996年。戊 405)は、次のように解説している。 「本号は、従来、小作地又は小作採草牧草地が譲渡される場合にはその 小作農等に優先的にその所有権を取得しうる機会を保障するために、そ の小作農等以外の者への譲渡は一切認めないとしていたが、その小作農 等に買受け意思がない場合は、所有者の処分を不当に制約する結果にな るので、その小作農が同意している場合になお第三者への譲渡を認めな いこととしておく必要はないこと、…等の理由から、昭和45年の農地 法の一部改正により、右の二つの場合に限って小作農等以外の者への譲 渡を認めることとした規定である。」(67頁) - 17 - また、競売及び公売の執行手続きの中で、「執行裁判所は買受けの申 し出のできる者を所定の資格を有する者に限ることとする規定(民事執 行法64条、民事執行規則33条)を使って、知事が競売参加者の農地 競売参加者の適格性をあらかじめ審査して農地競買適格証明書を発行 し、それを有する者だけが農地の競売に参加することができるものとし ている。 」 (加藤一郎『農業法(法律学全集50)』有斐閣 143 頁、戊 346)。 こうした農地法3条2項1号の規定は、「小作地等についてのこのよ うな厳重な制限は、地主が売却する場合に小作農の自作化を促進しよう とするものであるが、同時に地主が交代することによって小作農の地位 が不安定になることを防ぐ趣旨も含まれている。」 (戊 346『農業法』148 頁) 。 ウ 1970年の農地法の一部改正は、小作農以外の者への小作地の譲渡 を認める場合は、上記の①は小作農が同意した場合であり、上記の②は 「差押さえのあった後に使用収益を目的とする権利が設定された小作地」 に限られており、従前からの小作地については認められていない。すな わち、1970年の農地法の一部改正は、小作農等に買受け意思がない 場合に小作人が同意すれば、小作権付きの底地所有権の売買を認めたに すぎなかったのである。 3 農地法3条2項各号による小作権付農地(底地)売買の規制 (1) 農地法3条2項1号が認める小作人の同意がある場合の小作地の新所有 者の資格について、農地法3条2項2号、2号2、4号、5号により自作 農にしか認めていない。1970年改正による小作地の売買についても、 農地法の耕作者主義が貫かれ例外は認められていない。 すなわち、小作地の所有権を当該小作地についての小作農等以外の者が 取得する場合、農地法3条第2項各号の適用については、1970年9月 - 18 - 30日の「農地法の一部を改正する法律の施行について」(農林事務次官 から各地方農政局長、各都道府県知事あての通達[45農地B2802]) の第3条関係4(3)において、「小作地または小作採草放牧地の所有権を当 該小作地または小作採草放牧地についての小作農等以外の者が取得する場 合における第2項各号の適用については、同項第3号、第6号および第7 号を除いたすべてが適用される。」(戊 406『逐条対照農地関係法』40 頁) としている。 また戊 405『逐条農地法』(学陽書房、1996年)は、同書の68、 69頁で次のように解説している。 「取得に係る小作地が引き渡しを受けた賃借権等新取得者に対抗する権 利に基づくものである場合には、新取得者はその土地を耕作することがで きないので、取得に係る土地は、本条第2項第2号の『耕作又は養畜の事 業に供すべき農地』には該当しない。したがって、取得に係る小作地は耕 作又は養畜の事業に供しなくてもよい。 しかし、それ以外の従来からの借り受けている小作地や自作地は『耕作 又は養畜の事業に供すべき農地』に該当するから、これらの土地はすべて 耕作又は養畜の事業に供しなければならない。 そこで、従来の小作地や自作地を耕作せず放置しつつ新たに小作地を取 得しようとする場合には、本条第2項第2号に該当することになる。 このことは、第4号、第5号の適用においても同様である。」 (2) 小作地の所有権を当該小作地についての小作農等以外の者が取得する場 合、農地法3条第2項各号の適用については、2号、2号2、4号、5号 が適用される。 2号は、「所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃 借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を取得しようとする 者又はその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき農地及び採草牧 - 19 - 草地のすべてについて耕作又は養畜の事業を行うと認められない場合」と 規定する。 上記2号の規定の趣旨は、「このような制限をおいたのは、十分に耕作 の意欲をもつ者に権利を取得させようとするとともに、権利の取得が真に 経営規模の拡大に資するようにするためである。」(戊 346『農業法』148 頁)と解説されている。 2号2は、「農業生産法人以外の法人が前号に掲げる権利を取得使用と する場合」と規定する。 上記2号2の規定の趣旨は、「法人の権利取得を限定するために農業生 産法人という特別の要件をみたす法人の概念を設けたのであるから、当然 の制限である。 」(戊 346『農業法』148 頁)と解説されている。 4号は、「第2号に掲げる権利を取得しようとする者(農業生産法人を 除く。)又はその世帯員がその取得後において行う耕作又は養畜の事業に 必要な農作業に常時従事すると認められない場合」と規定する。 上記4号の趣旨は、「これは、以前に存在した上限面積の制限を撤退し て経営規模の拡大の障害を取り除いた反面として、農業経営者であっても 自分で農業労働を行わないという非農民的経営が拡大することを防ぐた め、自分で農作業に常時従事する者でなければ権利取得を認めないとする ものである。たとえば、自分で農作業をしない不在者でも、経営の方針を きめ、その危険を負担すれば、雇傭、請負等の契約によって他人を使って 経営主体となることが可能であるが、そのような者には権利取得を認めな いわけである。 」(戊 346『農業法』150 頁)と解説されている。 5号は、取得に係る土地以外の耕作に供すべき農地が50アールに達し ない場合には、許可できないとする規定である。 (3) こうした規定から、農地法3条2項1号が認める小作地の取得は、小作 人の買い受け意思がなく、地主の交代に同意を得られる場合で、小作権付 - 20 - き農地(底地)を取得できる者を、自作農の農民(農業法人)に限定して いる。この規定は、耕作者主義、小作農の保護を柱とした農地法の目的に 沿った範囲内に過ぎないことを裏付けており、転用目的での先行取得を認 めない趣旨である。 4 転用目的の農地法5条による規制は小作権消滅を前提としており、小作権 付農地(底地)売買は農地法5条ではなく農地法3条の規制を受ける 小作地に関する転用目的の売買は、以下の農地法5条の条文・施行規則・ 通達等から小作権消滅を前提としているので、小作権付農地(底地)売買は 農地法5条の規制ではなく農地法3条の規制を受ける。 (1) 小作人の小作放棄と補償を申請条件としていること 農地法施行規則6条1項は、「(農地)法第5条第1項の許可を受けよ うとする者は、第2条第1号から第4号まで並びに第4条第1項第3号及 び第5号から第7号までに掲げる事項を記載した申請書を、農業委員会を 経由して都道府県知事に…提出しなければならない。」(戊 406『逐条対照 農地関係法』129頁)と規定し、農地法施行規則4条第1項第3号の「申 請者がその農地の転用に伴い支払うべき給付の種類、内容及び相手方」 (戊 406『逐条対照農地関係法』78頁)を記載した申請書の提出を義務づけ ている。 「農地法第5条の規定による許可申請書」には、「5 申請者がその農 地の転用に伴い支払うべき給付の種類・内容及び相手方」欄に「相手方の 氏名」 「相手方の経営地総面積(離作地を含む)」 「左のうち離作する面積」 と共に「毛上補償」「離作補償」「代地補償」を記載させる(戊 406『逐条 対照農地関係法』149 ∼ 150 頁)ことになっている。 このように農地法5条の申請農地が小作地である場合には、小作農が小 作権消滅に同意していることが前提となっており、同時に許可には小作農 へ - 21 - の補償が必要とされているのである。 (2) 小作人の合意書面の必要性 それを示すように、その1971年4月26日の農地B第500号局長 通達「農地等転用関係事務処理要領の制定について」第2・3「添付書類 その他についての留意事項」の「(2)農地法5条の許可申請手続」は、次 のように述べ、添付書類について規定する。 「イ 申請書には、(1)のイに掲げる書類(同イの(カ)および(ク)中「農地」 とあるのは「農地または採草地」と読み替える。)を添付させるものとす る。」(戊 406『逐条対照農地関係法』137 頁) 上記の農地法 5 条の手続で引用する「(1)農地法4条の許可申請手続」 のイに掲げる添付書類の中には、(カ)で「所有権以外の権原に基づいて申 請をする場合には、所有者の同意があったことを証する書面、申請に係る 農地につき地上権、永小作権、質権または賃借権に基づく耕作者がいる場 合には、その同意があったことを証する書面」(戊 406『逐条対照農地関 係法』112 頁)と規定する。 このように、地主が小作地を転用目的で売買する場合には小作人の同意 書面を必要とすることが、その局長通達に明記されているのである。 このように、農地法5条は転用目的での売買であるため、小作継続の売 買はありえないため、小作権の解約を前提にした許可しかあり得ないので ある。そのため補償なき小作権解消が増えないように局長通達等で規定し ているのである。 (3) 上記(1)ないし(2)から、小作権付農地(底地)売買は、小作地の賃貸継 続になるので、転用目的の売買である農地法 5 条では申請できない。 5 農地法5条と農地法第20条の許可との一体処理について (1) 1971年4月26日の農地B第500号局長通達「農地等転用関係事 - 22 - 務処理要領の制定について」局長通達「農地等転用関係事務処理要領」第 1・1(8)ア)は、農地法5条の申請手続について、次の様に述べている。 「申請に係る農地…が賃借権に基づく小作地…である場合であって、当該 小作地の小作農…以外の者が転用するときは、その申請に係る許可は、そ の小作地……に係る農地法第20条の許可とあわせて処理するものとし、 とくに、地方農政局長が処理する事案にあっては、これらの双方の許可に くいちがいの生じないよう、許可権者間の連絡に留意するものとする。」 (戊 406『逐条対照農地関係法』141 頁) (2) これは、農地法5条は農地以外の用途に転用するためであり、当然、小 作地としての使用を止めることであり、農地法20条の賃貸借の解除、解 約の申し入れ、合意による解約、更新拒絶の許可と一緒に処理するように 求めたものである。 (3) 原判決は、上記通達について、「かかる一体的処理は農地法5条1項の 許可に必要とされる賃借人の同意(農地法施行令1条の15、農地法施行 規則6条2項2号)が得られないことから、これを補うものとして農地法 20条1項の許可と併せて処理とするものと解される」という、驚くべき 誤った解釈を述べている。 しかし、転用目的の売買は、小作権消滅を前提としており、一方、農地 法20条は、解約の申入れと更新拒絶、解除、合意解約について、知事の 許可を受けなければしてはならず、知事は一定の正当事由がなければ許可 をしてはならないという実質的な制限を設けているので、一体的運用は二 重の小作権保護になっているので原判決は完全に誤っている。 6 「空港公団用地事務取扱規程」第38条1項と農地法3条の関係 (1) 本件農地を買収した1988年当時の空港公団は、「新東京国際空港公 団用地事務取扱規程」第38条1項で、「取得し、又は使用しようとする - 23 - 土地に用益物権、担保物権等が設定されている場合においては、土地所有 者及び関係人にこれらの権利を消滅させるものとする。但し、これらの権 利の存する一筆の土地の一部を取得し、又は使用しようとする場合におい て、当該権利を放棄するときは、権利放棄承諾書(第43号様式)を提出 させるものとする。」(甲事件の甲172)と規定し、土地買収に際して 小作権を消滅させた上で取得することを義務づけられていた。 (2) 空港公団の上記「用地事務取扱規程」第38条は、上述した農地法3条 が規制する小作地を、転用目的でありながら、小作農の同意をえず、小作 権を解消しないまま、農地法違反の買収を防ぐため、小作権付きで地主か ら買収することを禁じたものである。農地法3条との整合性を図った規程 であり、単なる空港公団の内部規定ではない。 この点については、「用地事務取扱規程」が開示されればあきらかにな るはずである。 (以下、余白) - 24 - 第4 農地法5条に違反し、地主と空港公団との本件農地売買契約自体が無効で ある[控訴理由第3の2に関する被控訴人らの主張に対する反論・補充]。 1 農地法施行規則7条11号の違憲性について−千葉県準備書面(2)7頁 ないし11頁「第3の2(1)」に対する反論 (1) 農地法第5条1項の趣旨について ア 規則 7 条 11 号の制定された 1967 年 9 月 29 日当時の農地法はその 目的を「耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目 的とする」と規定していた(1 条)。農地法 5 条 1 項柱書が、転用目 的での農地の売買について、知事の許可を要するとしているのはこ の趣旨を全うするためである。 イ そして、「このような規制の目的は、土地の農業上の効率的な利用 を図り、営農条件が良好な農地を確保することによって、農業経営 の安定を図るとともに、国土の合理的かつ計画的な利用を図るため の他の制度と相まって、土地の農業上の利用と他の利用との利用関 係を調整し、農地の環境を保全することにあると認められる」ので あって、「この規制目的は、農地法の立法当初と比較して農政をめぐ る社会情勢が変化してきたことを考慮しても、なお正当性を是認す ることができる」のである(平成 14 年 4 月 5 日最高裁判所第 2 小法 廷判決 判例タイムス No.1091 219 頁以下)。 (2) 被控訴人千葉県及び同知事の主張の不当性 ア まず、被控訴人千葉県及び同知事(以下、「被控訴人ら」と言う) の主張の前提をなす、成田国際空港の「公共性」あるいは「公益性」 (被控訴人千葉県準備書面(2)の 8 頁)なるものは否認ないし争う (戊 394 ないし 397)。 イ 被控訴人らは農地法 5 条の趣旨について、「農業上の土地利用と国 - 25 - 民経済の発展及び国民生活の安定上必要となる農業以外の土地利用 との調整を適切に行うことを目的としている」とする。 しかし、前記最高裁判決も説示するとおり、農地法 5 条の趣旨は「土 地の農業上の利用と他の利用との利用関係を調整し、農地の環境を 保全することにある」のであるから、「調整」を「適切に行」った結 果、「農地の環境」が「保全」されていなくてはならないことは自明 である。 ウ しかるに被控訴人ら所論は、農地法 5 条 1 項各号、及び同 4 号(農 地法施行規則 7 条 11 号制定当時)の委任に基づき農地法施行規則(以 下、「施行規則」と言う)7 条各号で許可が不要とされることとされ た各事項については、それらが多岐にわたるものであるにもかかわ らず、十把一絡げに「公共性」、「公益性」という抽象的な単語を適 示するに終始し、各事項について許可が不要とされることとなった 具体的な立法事実を何ら主張することがない。 さらに「農地の環境を保全する」という法 5 条 1 項の最終的な趣旨 には、ほとんど触れることさえない。 エ したがって被控訴人らの主張は無内容であり、思考を停止して原判 決に縋っているに過ぎず、空港建設予定地の農民に何ら事前の説明 も協議も無いまま閣議決定に縋って農地の強奪を推し進めた国、及 びそれに協力してきた被控訴人らの姿を彷彿させるものでしかない。 オ さらに、本件許可処分の効力を左右するところの施行規則 7 条 11 号の違憲性については、成田国際空港建設予定地が現在の位置に決 定するまでの経緯がその立法事実に深く関わる。したがって同経緯 を捨象して施行規則 7 条 11 号の憲法適合性を論じることはできない。 そしてこの経緯を被控訴人ら、及び被控訴人成田空港株式会社が知 らないはずがない。 - 26 - そうであるにもかかわらず、「本件許可処分とは関連性がない」(被 控訴人千葉県準備書面(2)10 頁の「ク」)とする被控訴人らの主張 は失当であり、不誠実である。被控訴人成田空港株式会社も同様であ る。 (3) 成田国際空港の建設予定地が現在の位置たる三里塚地区に決定するまでの 経緯 ア 1962 年 11 月 21 日、運輸省(当時)航空局は羽田国際空港の混雑 解消のため新たに「第二空港建設構想」を発表した。同構想は都心 から 100 キロメートル内で羽田空港の 7 倍の面積に 4000 メートル級 の滑走路 2 本を含む 5 本の滑走路を持つ最大級の国際空港を目指す ものであった。すでに運輸省は前年の 1961 年に候補地の調査を実施 し千葉県富里地区と茨城県霞ヶ関地区を候補に挙げていた。 イ 1963 年になって、政治家が次々に様々な候補地を口にし始めた。 運輸大臣(当時)の綾部健太郎は「千葉県浦安沖埋め立て」を発表 し、また建設大臣(当時)であった河野一郎は「木更津沖埋め立て」 を主張する。以降、成田国際空港の候補地は政界・財界で激しい議 論が交わされることとなる。そのような状況下、1964 年 12 月 18 日 には、政府は「新空港建設に関する基本的態度」を閣議で確認し、 新空港完成の目標を 1970 年とするに至った。 ウ 1965 年 11 月 18 日、佐藤栄作内閣は新空港建設予定地を千葉県富 里に内定した。しかしこれに先立つ同年 11 月 15 日には、富里村の空 港反対派がトラクター 50 台で千葉県庁までデモを行って知事室に乱 入する事態が生じていた。 新空港予定地の内定後も、同年 11 月 25 日には富里村議会及び八街 町議会が満場一致で空港設置反対を決議し、また同年 11 月 19 日には 友納知事が事前の連絡が不十分のまま新空港の位置が内定されたこと - 27 - について政府に対し不満を表明していた。 エ そして冨里地区における空港反対運動は激化の一途を辿る。1966 年 2 月 7 日には富里への新空港建設に反対する富里・八街新空港反対 同盟のデモ隊 1000 人以上が千葉県庁に押し寄せて乱闘となる事態が 生じた。さらに 5 月 18 日には富里・八街空港反対同盟による農地不 売運動が開始され、ここに冨里案は完全に暗礁に乗り上げたのであ る。 オ こうした事態に対し、1966 年 6 月 22 日、佐藤首相と友納知事とが 急遽会談の場を設け、佐藤首相は友納知事に対して、原案の二分の 一に圧縮した三里塚御料牧場での空港建設案を提示し、御料牧場と その周辺の県有地を中心にして民有地にかかる面積を極力圧縮して 新空港を建設する考えを示した。ここにおいて新たに三里塚地区が 候補地として急速に浮上したのである。そして同年 6 月 29 日に運輸 省が三里塚での新空港設置計画を発表するや、友納知事は同案の受 け入れを表明した。 カ しかしこの間、地元三里塚地区の農家には事前の話も協議も無いま まであった。この三里塚案決定の背景に存在したのは、富里地区は 古くからの農業地帯で富農層が多く、また立退きが予想される戸数 もおよそ 1500 戸にも及んでいたことに対して、三里塚地区には裕福 とは言えない戦後の開拓農家が多く、見込まれる立ち退き戸数も数 百戸で済むであろう、という実に安直な机上の議論であった。 そして同年 7 月 4 日、新東京国際空港の建設予定地を千葉県成田市 三里塚地区の宮内庁下総御料牧場付近とすることが閣議決定されたの である。 (4) 施行規則7条11号制定の背景 ア 施行規則第 7 条 11 号が追加制定されたのは 1967 年 9 月 29 日であ - 28 - る。これは前記 1966 年 7 月 4 日の閣議決定に対応するものに他なら ない。 イ 前記のようにこの閣議決定がなされた理由は、一旦は新空港建設 予定地と内定した富里地区において激しい反対運動に直面し、建設 予定地を変更せざるをえなくなった国が、もっぱら空港用地確保の 観点のみから、立ち退き戸数が少なくて済むという理由で安易に決 定したと言うに尽きる。このことは、後になって空港公団の幹部が 「設計図もない、法解釈や技術論はどうでもいい。とにかく既成事 実をつくることに全力をあげた」 (1975 年 6 月 13 日毎日新聞)と述 べていることからも明白である。 ウ なお被控訴人らは、施行規則 7 条 11 号の趣旨について「『公団の 行なう空港建設のための農地等の転用または国から売り渡された土 地等の権利の取得については、空港の位置がすでに決定されている こと、空港建設に伴う周辺農業への被害防除措置および離農措置に ついて万全を期することが既に閣議決定されていること等を考慮』 して、農地法 4 条及び 5 条の適用除外とした」と主張する(被控訴 人千葉県準備書面(2)9 頁)。 エ しかしながら、農林省(当時)は 1965 年の時点で「もし、三里塚 で畑作農業が成立しえないとすれば、日本の他の地域での畑作農業 の将来は非常に困難だと予想されよう」としていたのである。そう であるにもかかわらず、前記閣議決定時には代替地の準備さえ碌に できていなかったこと、及び「空港の位置がすでに決定されている」 ことをもって農地法 4 条及び 5 条の適用除外の理由としていること は、三里塚地区への空港建設予定地決定がとにかく「既成事実をつ くることに全力をあげた」ものであって、農地法 5 条 1 項の趣旨で ある「農地の環境を保全すること」など一顧だにされていなかった - 29 - ことの証左でしかない。「離農措置」云々に至っては「農地の環境を 保全すること」とは無縁の事由である。 オ 以上のとおりであるから、施行規則 7 条 11 号は、新東京国際空港 建設用地買収の便宜を図って既成事実を積み上げるためだけの目的 で、農地転用売買について農地法 5 条 1 項の許可を不要とするべく 追加制定されたものでしかないことは明らかである。 そうであるから、施行規則 7 条 11 号が農地法 1 条及び 5 条の趣旨 を一切顧みることのないものであって、法 5 条 1 項 4 号の委任の趣 旨を逸脱し、憲法 41 条に反して違憲無効であることは論を俟たない。 (5) 被控訴人成田空港株式会社の準備書面(3)9頁「第3の2(2)」に対する再求釈 明 ア 控訴人は控訴審において明示的に憲法 14 条違反の主張を提出した のであり、原判決において規則 7 条 11 号の憲法適合性について憲法 14 条に関して説示した箇所はない。 イ 施行規則 7 条 11 号が憲法第 41 条に反する理由と、憲法 14 条に反 する理由とではその内容が異なることは自明である。被控訴人成田空 港株式会社において「この点につき争うことを前提として反論した」 というのであれば、控訴人が控訴理由書を提出してから既に 1 年弱が 経過しているのであるから、早急に「前提」部分についての認否をさ れたい。 2 小作権者の同意なしの底地買収は無効であることについて−千葉県準備書 面(2)11頁以下(2)に対する反論 (1) 千葉県は、控訴理由書第3、2(2)「小作権者の同意なしの農地買収は無効で ある」(72頁以下)に関する求釈明書25頁以下に対して同書面11頁以下で上記 控訴理由書第3、2(2)について反論するので以下のとおり認否、反論する。 - 30 - ア 第 2 段に対して おおむね認める。 イ 第 3 段に対して 争う。 ウ 第 4 段に対して 逐条農地法における第 5 条に関する記載は否認する。引用の神戸地裁 判決に主張にかかる文言があることは認めるが、趣旨は争う。上記判 決は、農地法 5 条の申請に関し、「小作人の同意は法文上要求されて いない」というが農地法施行令 1 条の 15、同施行規則 6 条 2 項 2 号 に基づき小作権者の「同意を要する書面」の提出を定めていることを 看過し、農地法 1 条の耕作権者保護の趣旨に基づく同法 5 条の趣旨を 誤解した不適切な裁判例であり、参考にできない。 エ 第 5 段に対して 否認ないし争う。 オ 第 6 段に対して 判決に記載があることおよびその判示については、認める。 カ 第 7 段に対して 否認ないし争う。 (2) 原判決、空港会社、千葉県、同知事の主張にかかる県知事の許可が不要だ から小作権者の同意も不要とする判断の誤り。 千葉県は準備書面(2)第 3、2(2)第 7 段(12 頁)において「転用許 可を要しない場合、転用する行為の妨げとなる権利を有する者の同意が不 要であるとしても、農地法の趣旨に反せず本件売買契約は無効にならない」 と主張し、空港会社は準備書面(3)4 頁(8)イ(4 頁)において、 「昭和 63 年(1988 年)当時、空港公団は本件各土地を賃借人(で)ある訴外東市 に知らせることなく訴外藤﨑及び同岩澤から取得し、訴外東市の賃借権に - 31 - ついて収用手続による解消を検討していたことは認める」と主張して控訴 人の実父市東東市に「知らせることなく」すなわち同意を得ることなく本 件農地を上記藤﨑、岩澤から取得したことを認めている。 原判決もその 69 頁で「そもそも本件各土地の取得に当たっては農地法 施行規則 7 条 11 号により農地法 5 条 1 項の許可は不要であるから、小作 権者の同意も不要であり本件各土地の売買契約も有効である」と誤った判 断をなした。 以上の判断の誤りについては、本控訴理由書第 1 および第 3、2(2)、 本書面第 1 において述べたところであるが、その誤りについて以下のとお り上記主張に付加する。 (3) 空港施設に転用できないことが明白な農地を空港施設に供するために取 得することはできない。 ア 原判決も空港会社も千葉県、同知事はいずれも空港公団が県知事の 許可を要せずに本件底地を取得しても小作権者市東東市および控訴人 は農地法 18 条によって新所有権者空港公団、空港会社に対抗するこ とができ、耕作を継続できることは、当然ながら一致して認める。 イ すなわち、空港公団は訴外市東東市との小作契約を新東京国際空港 用地事務取扱規程 38 条等に基づき小作権者と公共用地の取得に伴う 損失補償基準に準拠して小作権を消滅させなければならなかった。 すなわち、公共用地のための用地取得である限り、公用収用の大原 則に則り、小作権者と協議、交渉し、完全な補償を行い、すなわち同 意を得て、小作権を消滅させなければならなかった。 しかるに空港公団は、小作権者市東東市に秘密裡に 1988 年 1 月 28 日付で藤﨑政吉との間で同人に代替地 2 ヶ所を提供する、小作権者市 東東市の賃借地はそのままにして借地権割合は訴外東市には無断で小 作権者にきわめて不利な 27.85 %とするなどの覚書を締結し 1988 年 3 - 32 - 月 18 日には岩澤和行と、同年 4 月 12 日には藤﨑政吉との間で底地売 買契約を締結した(岩澤につき甲 16、藤﨑につき甲 10)。 そして、前項のとおり小作権者訴外市東東市については、違法に、 底地の所有権とは分離して千葉県収用委員会での収用裁決によって権 利取得裁決、行政代執行(強制収用)によって収奪せんとしたもので ある。 ウ しかしながら上記 1988 年 4 月 12 日の時点では、小作権者市東東市 は、当然のことながら小作耕作権を保有し底地権利者が代わっても依 然として耕作を継続することができた。そして B 滑走路誘導路など 空港施設への転用は小作権が存在するかぎり、不可能であることは空 港公団も当然に認識していた。 農地を誘導路などの空港施設に転用することが事実上も法律上も不 可能な状態でその底地を取得することは、農地法 1 条の趣旨および 5 条に反し、とうてい許容されない。かりに施行規則 7 条 11 号が違憲 でないとしても、農地転用が不可能な農地を空港施設に転用するため に先行的に取得することは許されない。 エ 空港公団は市東東市と公用収用上の協議を行い、小作権について完 全な補償を行い、市東東市の同意を得た上で取得しない限り転用工事 は絶対にできなかったのである。県知事の許可を要する場合の転用工 事については、ほぼ 1 年間という工事期限付きで許可されるのが通例 とされている。 本件については、1988 年当時転用工事計画がなかったことは、空 港会社も自認するところである(準備書面(2)2 頁 1(3)ア、3 頁 1 (4)ア)。 このような状態は、たとえば夫が離婚に応じない妻に対して協議離 婚届を偽造して、他の女性との婚姻届を出して結婚しようとした場合 - 33 - と類似する。将来離婚する見込みがあるといっても離婚が成立してい ないかぎり、そのような婚姻届による婚姻が無効であることは明らか である。仮に、収用裁決によって小作権を消滅させる見込みがあった としても、底地買収の時点で現に転用可能でなければ底地買収は無効 である。 オ 小作権者市東東市の同意なしに空港公団と県知事が結託して転用目 的での農地取得の許可を出しても、転用不可能な農地の取得は憲法 29 条、31 条、農地法 1 条の趣旨および 5 条に反し無効である。 したがって農地法 20 条 2 項 2 号に基づく千葉県知事の許可も無効 もしくは取消されるべきであった。 3 南台の告示区域(敷地)外の土地売買は無効であることについて (1) 千葉県準備書面(2)第3の2の(3)に対する反論 ア 被控訴人千葉県は、「成田国際空港の敷地」とは、航空法に基づく 空港の「告示区域」に限られるものではなく、航空法は空港に必要な 全ての施設を同範囲に設置することまでを要求していないと主張す る。 しかしながら、成田国際空港の敷地とは、「新東京国際空港工事実 施計画」の対象地であって、「敷地面積 10649200 平方メートル」と特 定された部分であり(乙 1 の 10)、事業認定の対象となり、強制収用 できるのもその敷地の範囲内に限られるという法的効果を伴うもので ある。 したがって、被控訴人千葉県のいうように、「空港に必要な施設が あるところがすべて「空港の敷地」などといえるものではない。また、 このようにいうならほとんど無限定に「敷地」概念が広がってしまい 告示区域を限定した意味がない。 - 34 - イ 被控訴人千葉県は、農地法施行規則の例外規定は、国民経済の発展 及び国民生活の安定上必要となる施設等の敷地に農地を提供する場合 について、当該事業の公共性、公益性に鑑み、これを農地の転用のた めの権利移動の制限の例外としたものであるから、告示区域に限定す べき理由は全くなく、告示区域と一体的に運用されることが企図され ており、被控訴人空港会社が実質的に空港敷地として使用する範囲で あればこれに含まれると主張する。 しかしながら、南台の区域外部分についてはそもそもどのような施 設にするかの計画すらなかったのであり、「国民経済の発展及び国民 生活の安定上必要となる施設等の敷地」であったのかどうか、「公共 性、公益性に鑑み、これを農地の転用のための権利移動の制限の例外 とし」 て差し支えないかを検討・検証する余地すらなかったのである。 ウ 被控訴人千葉県は、当時の用地担当者は、告示区域とまたがつた用 地について告示区域内と一体として空港施設用地として使用するため に一筆の土地で買収していたこと、また、いわゆる成田国際空港の敷 地と考えていたため、農地法 5 条の許可を取っていなかったこと等証 言しているので(戸井証人調書 4,5 頁)、上記の一体的な運用が企図 されていたことは明らかであると主張するが、 しかしながら、担当者の戸井が「敷地と考えて」取得したかどうかは ともかく、当時「なんの計画もなかった」と証言しているのである。 「何の計画もない」のだから、「敷地」と考えていないということで あり、敷地だと考えていたとしてもきわめて漠然とした「用地」とい う程度で許可の要否すら検討せずに取得したということであり、農地 法 5 条の存在を無視した対応である。その「用地として使用」のイメ ージが全くなかったからこそ空港会社は、のちに控訴人に対し、代替 地として提案もしているのである(乙 1 の 7 の別紙 F-3)) 。 - 35 - エ 被控訴人千葉県は、昭和 42 年 5 月 11 日付、農林省農地局長と運輸 省航空局長との間の「農地法と公共飛行場周辺における航空機騒音に よる障害の防止等に関する法律との調整についての覚書」(己 4 号証) において「新東京国際空港公団法 20 条 1 項の規定による業務の用に 供している飛行場及びその飛行場以外の土地でその飛行場の敷地に連 接している土地を「飛行場の敷地」として取り扱い、騒防法 9 条 3 項 の規定により取得する土地が「飛行場の敷地」に連接するものであっ て、公団が実質的に飛行場の敷地として管理するものについては、農 地法 5 条該当の事案として取り扱うものとしていたと主張する しかしながら、この点について控訴人は、原審(原告準備書面 41 10 頁以下)以来、要旨以下のように主張している(控訴理由書 83 頁)。 すなわち、①己 4 の覚書は、運輸省航空局長と農林省農地局長との 内部的取り決めであって法的拘束力を持つものでも解釈指針となるべ きものでもない(原審準備書面 41 の 6 頁) 。②同覚書きは、「飛行場 の敷地」に連接しているものであって、公団が実質的に飛行場の敷地 として管理するものについては、 「農地法 5 条の事案として取り扱う」 としているだけであって(覚書きの(1))、「飛行場の敷地として取 り扱う」とはされていない。すなわち、「飛行場の敷地」に連接し、 公団が実質的に飛行場の敷地として管理するものについては、農地法 5 条の知事の許可によらしめて売買できるようにしたものである。そ して「公団が実質的に飛行場の敷地として管理する」とは、公団が買 収する時点で実質的に飛行場の敷地として管理するという実態がなけ ればならない。 ところが、本件では、告示区域外部分については、買収当時に何ら の計画もなかったのであるから、飛行場の敷地として管理していると - 36 - いう実態がなかったことは明らかである。 被控訴人千葉県の主張は、上記の控訴人主張に対して、従前の主張 を漫然繰り返すのみで正面からの反論を避けている。 なお、被控訴人千葉県の主張のうち、「成田国際空港の敷地として の面積は特定する必要はあるので、否認ないし争う」との部分(14 頁 10 行目)は、趣旨が不明である。むしろ千葉県の主張では「敷地」 の面積は融通無碍で「特定する必要」はないことになろう。 オ 被控訴人千葉県は、防音堤設置計画について買収時から 7 年後に立 案されたことについて、被控訴人空港会社は取得時より、一体的な運 用を企図していたものであり、平成 7 年ころの防音提はそれを具体化 したものである等と主張する。 しかしながら、そもそも 1988 年の買収当時、区域外部分は「一体 的な運用の企図」どころか何の計画もなかった区域であり、戸井証人 は、「計画はなかった」と明言しているのであり、「一体的な運用の 企図」も何もなかったのである。 平成 7 年ころの防音提はそれを具体化した等という主張は空港会社 もしていない。 カ 被控訴人千葉県は、乙 1 の 7 に添付の図面に表示されている「空 港敷地境界」は、告示区域を指しているものであると主張する。 しかしながら、空港会社もそのような主張はしていない。告示区域 を指しているというなら「告示区域境界」とでも記載すべきであろう。 なお、空港用地土木設計基準(国土交通省航空局 監修 平成 13 年 4 月)においても、「境界柵は空港用地の境界に・・設置すること を原則とする」 「境界柵と立入禁止柵を併用して設置される場周柵は、 空港用地の境界に設置するものとする」とされている(乙 1 の 10 添 付資料 6 − 1)ところ、この「用地の境界」として「空港敷地境界」 - 37 - と記載されている(乙 1 の 7 添付計画図参照)。すなわち、「空港敷地 境界」はこの図面では告示区域の内外を画する概念ではなく「空港用 地」の内外を分ける概念として用いられている。 このように、被控訴人千葉県がいかに強弁しようとも、本件南台の 告示区域外の部分は、空港の敷地外なのである。 (2) 被控訴人空港会社準備書面(3)第3の4に対する反論 ア 被控訴人空港会社は、航空法と農地法とはその趣旨・目的の異なる 別個の法律であるというが(準備書面(3)の 10 頁)、法令用語の解 釈は法令間で統一的、整合的にになされるべきであり、航空法の「敷 地」と農地法の「敷地」とが別々の概念で成立するなどというのは法 的解釈の統一性・安定性を害する主張である。 イ 被控訴人空港会社は、南台 41 の土地について「同土地の区域外内 の部分はもとより、同区域外の部分についても・・・空港に必要な施 設の敷地として使用しうることから、成田空港の敷地として一筆全体 を買収したものである」等と主張するが、買収当時には、前記のとお り、「何らの計画もなかった」のであって「空港に必要な施設の敷地 として使用」する予定すらなかったのである。被控訴人空港会社の主 張は、後からつくり上げた理屈で買収当時を論ずるものであり失当で ある。 ウ 被控訴人空港会社は、「敷地境界線」は航空法上の飛行場の範囲を 示すもので、農地法上の「空港の敷地」を示すものではないと主張す るが、前記(ア)で述べたとおり法令毎に用語の解釈が区々となるよ うな解釈は法的統一性・安定性を害し、失当である。 エ 被控訴人空港会社は、規則 7 条 11 号の「敷地に供する」の解釈に ついて、原判決を援用して「空港公団の主観的意図を基準とする」等 というが、客観的に裏付けのない単なる空港公団の主観的意図で農地 - 38 - 法の例外が許容されるはずがない。このような解釈を許すならば、農 地法の趣旨を空港会社の主観で左右しうることになる。 (以下、余白) - 39 - 第5 本件解約許可は20条2項2号の要件を充足していない[控訴理由第4に 関する被控訴人らの主張に対する反論・補充] 1 転用相当の要件を充たしていない −千葉県準備書面(2)第4の1に対 する反論 (1) 同「(1)同①について」について ア 控訴人は、農地法 20 条 2 項 2 号の転用相当の要件について、大阪 地判平成 8・3・27、農事調停実務等を援用して、農地法の趣旨に照 らし、賃借人である耕作者の意思に反してでも農地賃貸借契約を解消 し、農地を農地等以外のものにすることが適当であるといえるのか、 「転用計画」があるとしても、その計画が、「公共的立場から転用相 当なのか」「具体的緊急な転用の必要性」があるのかについて十分な 検討がなされなければならないと主張した(控訴理由書 88 頁以下) 。 イ これに対して、被控訴人千葉県は、上記の控訴人の主張に対して、 (判例・文献の引用以外は)すべて「否認ないし争う」と認否した。 ウ そこで、控訴人は、求釈明書(28 頁)において、具体的にどこを どのように争うのかと釈明を求めた。 エ ところが被控訴人千葉県は、準備書面(2)において、どのように 争うのかの具体的主張をしないまま、漫然従前の主張(転用相当の要 件解釈の一般論)を繰り返すのみである(しかも上記大阪地裁の判決 は、敢えて援用していない)。 そこで、控訴人は、再度、被控訴人千葉県に対し、否認ないし争うと の趣旨は、「農地法の趣旨」や「「賃借人である耕作者の意思に反し て」もかまわない「緊急の転用の必要性」など不要であるとの主張を するものであるのか釈明を求める。 (2) 同「(2)同②について」について - 40 - ア 控訴人は、空港会社が本件許可処分申請の際に、事業計画に係る設 計図書等も提出されていないから、転用の具体性の疎明がないと主張 した。 イ これに対して、被控訴人千葉県は、「空港会社は、図面を提示し、 説明しているから、事業を行う計画を有していることが認められる」 と釈明した(16 頁)。 ウ しかしながら、提出された当該図面(乙 1 の 5 別紙)なるものには 作成者、作成年月日、縮尺や数値や方位の記入もなく、およそ空港の 設計図書とはどうみてもいえないしろものである。一般の農地転用に おいても、このような杜撰な書類の提出さえあれば、千葉県は、農地 の転用を許可しているということなのか。 本件は、控訴人の営農の基盤である農地を、その意思に反して取り 上げ、これを潰して滑走路にするという計画なのである。このような でたらめな図面だけでどうして計画の具体性や確実性が備わっている と判断できるのか。現に営農している控訴人から農地を取り上げるこ とができるのか。 (3) 同「(3)同②について」について ア 控訴人は、「転用計画事業の内容」についても本文わずかに 13 行足 らずであり、これでは具体的にどのような必要性に基づき、どのよう なう設計でどのような工事が実施されるのか不明であり、また、必要 性の根拠とされている空港の運用実績についても空港会社はわずかに A4 版 1 枚の箇条書きメモを提出したに過ぎないことを指摘した。 イ 被控訴人千葉県は、これに対して「否認ないし争う」と認否した。 ウ そこで控訴人は、どこをどのように「否認ないし争う」のか釈明を 求めた(29 頁)。 エ これに対して、被控訴人千葉県は、「前記②のとおり」と主張する - 41 - のみである。 前記②というのは前記の図面などで足りるという主張である。 どうして前記の図面が事業計画の必要性や緊急性の資料になりうる のか。なるはずがない。 これほどでたらめな解約許可申請が堂々とまかり通り、許可された という事態は何を意味するのか。それは被控訴人千葉県が成田空港建 設という国策にひれ伏し、行政当局として実は何らのチェック機能も 果たしていないという無様な姿である。 被控訴人千葉県は、転用相当の基準について一般的基準を云々し、 「転用計画」の具体性、相当性などといっているが、所詮それは空疎 な建前に過ぎず、自ら定立した一般的基準すらまったく空洞化させ、 フリーパスで許可を与えたというのが本件の偽らざる実態である。か かる処分には一片の正当性もない。 (4) 同「(4)同④について」について ア 控訴人は、「増大する首都圏の航空需要に対応するため」「親子三 代 90 年にわたり営農してきた農民の農業と生活をつぶすというので あれば、当然に、成田空港の建設の歴史とその持つ意味を日本資本主 義の構造の中に位置づけて省察し、それにふまえて、現代における空 港建設の持つ意味、必要性・緊急性についてあらためて具体的・実証 的な考察がなされなければならない」と主張した。 イ これに対して被控訴人千葉県は「否認ないし争う」とだけ認否した。 そこで、控訴人はこの点をどのように「否認ないし争う」のか釈明を 求めた(29 頁)。 ウ これに対する被控訴人千葉県の主張も前記(1)のとおりというだけ である。前記(1)というのは、内容のない転用計画の一般論である。 控訴人は、このような一般論ではなく、成田空港について、世界恐 - 42 - 慌下、労働者・人民に塗炭の苦しみをなめさせている現代資本主義の ただ中にあって、控訴人の営農剥奪、日本の農業つぶしをしてまで作 らなければならないだけの必要性・緊急性があるのか、具体的、実証 的に検討もしないで、どうして「農地法の趣旨」に照らして許可処分 ができるのかと問うているのである。 被控訴人千葉県は、そのような問題意識すらなく、検討能力がまる でない事が明らかになった。このような行政主体がなした本件許可処 分には一片の正当性もない。 (5) 「(5)同⑤について」について ア 控訴人は、「告示区域外の部分は約 16 %にとどまっている」として 正当化した原判決に対し、これでは 84 %の計画を出せば 100 %の転 用を認めるという論理であり、到底農地法 20 条の認めるところでは ないと批判した。 イ これに対して被控訴人千葉県は、「否認ないし争う」と主張した。 ウ そこで控訴人は、どのように「否認ないし争う」のか。被控訴人千 葉県は、84 %の計画を出せば 100 %の転用を認めるという取り扱い をしてきたのかと釈明を求めた。 エ これに対して、被控訴人千葉県は、空港告示区域に隣接する部分の 土地について、具体的な転用計画が不明であったため、被控訴人空港 会社に対して照会したところ、被控訴人空港会社から空港建設事業で ある GSE 及び ULD の置場を整備する計画があるとの回答があったと 主張するのみである。 オ しかし、この主張は、許可申請時に区域外部分について転用計画が なかったのだから許可できないはずだという控訴人の指摘を黙殺した うえで、「84 %の計画を出せば 100 %の転用を認める」という論理な り取り扱いを被控訴人千葉県が認めるのか、そうでないのかについて - 43 - 正面からの認否を避けている。 被控訴人千葉県は、申請時に一部の計画を出せば残りは具体的計画 がなくてもよいという趣旨なのか、あらためて認否を求める。 2 農地法20条2項2号要件における賃借人の同意−千葉県準備書面(2) 第4の2に対する反論 (1) 被控訴人千葉県は、第 4 の 2(1)において、「農地法 20 条 1 項が合意 による解約について都道府県知事の許可の対象としているのは」「例えば 口頭のみによる合意のような場合には、当事者が解約に真に合意している かどうか疑義が存する場合があるから」と記載している。 控訴人がここで釈明を求めていたのは、農地法 20 条 2 項において、1 号、3 号、4 号の場合と 2 号の場合が根本的に性格を異にしており、前者 の場合は賃借権の存続自体が問題になるので賃借人の同意は要件にならな いが、後者の場合は賃借権の存続が前提なので、賃借人の同意が要件にな る、との解釈の前提として、前者と後者の性格の相違を認めるか否かを問 うていたのである。 これに対する被控訴人千葉県の釈明が、前記のものであり、すなわち、 真の合意を確認する必要があるから農地法 20 条 1 項の知事の許可の手続 をふむのだというものであった。 これは、まさに、賃借権の解約について真の合意の存在することが、農 地法 20 条 1 項の許可の不可欠の要件であることを、はからずも千葉県が 認めたもの以外の何ものでもない。 農地法 20 条の趣旨および法の構造からみて、農地法 20 条 2 項 2 号の許可 の要件として、解約についての賃借人の同意が不可欠なのである。 (2) 被控訴人千葉県は、第 4 の 2(2)において、農地等転用関係事務処理 要綱で、農地法 5 条と 20 条の一体的処理をを求めていることについて、 「単 - 44 - に農地法 5 条の許可に係る事務と農地法 20 条に係る事務に齟齬が生じな いよう処理することを求めているにすぎ」ない、などと主張している。 控訴人がここで釈明を求めていたのは、原判決が「農地法 5 条の許可に 必要な賃借人の同意が得られないことからこれを補うものとして 20 条 1 項の許可と併せて処理するものと解される」と、あたかも転用についての 賃借人の同意がない場合に 20 条許可で代替するために一体的処理がある かのような、何の根拠もない詭弁的曲解の判示をなしていることについて、 一体的処理においても賃借人の同意書面の添付が不可欠なことから、原判 決の解釈が誤りであることについての被控訴人千葉県の釈明を求めたので ある。 これについての被控訴人千葉県の釈明が前記のとおりであるということ は、原判決の前記判示を明確に否定するということである。この点は重要 なものとして銘記されなければならない。 それはさておき、そもそも、小作人が耕作している農地を転用のために 所有権移転する場合、近接して転用がなされなければならないため、ほぼ 直前の時期に賃借権の解約が必要になる。すなわち、農地法 5 条の手続と 農地法 20 条の手続がほぼ同時に進行することになるのであり、通常一体 的に進められなければならないゆえんである。その場合、農地法 5 条の申 請に当たって不可欠とされる賃借人の解約の同意が、農地法 20 条の手続 においても当然に必要とされるのである。 被控訴人千葉県の主張は誤りである。 (以下、余白) - 45 - 第6 本件許可処分のその他の違法事由[控訴理由第5に関する被控訴人らの主 張に対する反論・補充] 1 対象土地の誤りと本件許可処分の一体的無効 (1) 本件許可処分は一体であり、不可分であることは控訴理由書 127 ∼ 128 頁で主張したが、以下のように補充する。 本件と同様に農地法 20 条 1 項の農地賃貸借契約解約の不許可処分の取 消しを求めた事案で、平成 19 年 8 月 31 日付けの裁決書は、「本件土地の 残地の実測面積 674.28 平方メートルについては、新幹線用地として買収 される予定はなく、また、申立人からは、本件土地の残地について、その 他の具体的な転用計画は示されていない。」ことを理由に、新幹線用地 746. 7 平方メートルを含めて全体の許可申請を不許可とした(平成 19 年 8 月 31 日裁決、18 関生第 1582 号、戊 380、農地法関係行政不服審査裁決例集 15 集 No22 107 頁)。 当該事件は北陸新幹線の建設用地に関する事案である。北陸新幹線等の 整備新幹線は、全国新幹線鉄道整備法 7 条に基づく鉄道であり、本件成田 空港と同様の「国策の中の国策」である。 しかるに、前記裁決は、新幹線用地外の土地も新幹線用地と同一地番で あることを奇貨として、合わせて農地からの転用許可申請をしたところ、 一つの許可申請であったために、農地からの転用許可申請が九分九厘認め られるはずの新幹線用地も含めて不許可とし、新幹線用地のみの転用許可 申請を改めて出させたのである。許可申請が一つである以上、全体を許可 するか不許可にするしかないためにとられた不許可処分である。 いかに新幹線建設が「国策」であったとしても、法治国家である以上、 できないことはできないとした裁決であり、法治国家としての守るべき最 低限度の矜持を示している。 - 46 - 他方、原判決は前記裁決に見られる姿勢が全くない。許可申請が一つで ある以上、全体を許可するか不許可にするしかない。被控訴人空港会社が 事実上「土地違い」を認めている以上、申請そのものに重大な瑕疵がある から、全体として不許可にするしかない事案である。 従って、被控訴人千葉県がなした許可処分は取り消されなければならな い。 (2) なお、被控訴人空港会社は、 「南台 41 番 9 の土地が小作地でなかったと しても、本件許可処分のうち南台 41 番 8 の土地に係る部分は可分なもの であり、仮に南台 41 番 8 の隣接地が被告市東の小作地であるならば、原 告空港会社はその解約許可を得て解約申入れをする必要があるというだけ のことである」(被控訴人空港会社準備書面(1)18 頁)と主張して、原審 判決を擁護している。 しかし、可分というならば、41 番 8 に関する申請と 41 番 9 に関する申 請というように二つの申請を出せばよいだけである。地番毎の二つの許可 申請ができるにもかかわらず、あえて一つの許可申請でしたのは、一つの 結論を期待したからである。ならば、申請時の被控訴人空港会社の意思か らしても「一部許可」のような法の趣旨にも反する姑息なことをすべきで はない。 従って、この観点からも、被控訴人千葉県がなした許可処分は取り消さ れなければならない。 (3) 南台の土地の「土地間違い」は原審の審理中には、突然生じたものでは ない。被控訴人空港会社が成田市農業委員会に本件転用許可申請を出した ときから、控訴人がつよく主張したにもかかわらず、被控訴人らは一切控 訴人の主張に真摯に向き合うことなく、 「完全無視」を決め込んだところ、 原審の審理中、どうにも「土地間違い」を否定できなくなり、被控訴人空 港会社が「請求放棄」したことによって、満天下の下に「土地間違い」が - 47 - 明らかになった。被控訴人のいずれかが、多少なりとも控訴人の主張に耳 を傾けていれば、当然早い段階で是正されたことである。 被控訴人らの極めて頑なな態度こそが「土地間違い」を惹起した原動力 であり、単純な「過失犯」ではないから、被控訴人らは法の趣旨を捻じ曲 げてまでも「救済」されるべきではない。 従って、この観点からも、被控訴人千葉県がなした許可処分は取り消さ れなければならない。 (4) 被控訴人空港会社は、別訴での文書提出命令を無視している。「打ち合 わせメモ」は同意書・確認書が作成された時期と近接した時期には作成さ れているため、この時期だけけないのは極めて不自然、不可思議といわざ るを得ない。「打ち合わせメモ」は、よほど疚しい内容なのであろう。 何があっても公開できないというほど疚しいとなれば、犯罪そのものと 関連するか、犯罪とまではいえないまでも犯罪と同視できるものと関連す るとなろうか。被控訴人空港会社の文書提出命令無視という態度は、問わ ず語りに同意書・確認書が偽造であることを、強く示唆している。 従って、被控訴人空港会社は同意書・確認書を偽造している可能性が極 めて高いから、同被控訴人を「救済」するなどもっての外であり、この観 点からも、被控訴人千葉県がなした許可処分は取り消されなければならな い。 2 同意書・確認の偽造と許可処分の効力−別件訴訟の文書提出命令申立手続 に基づく主張 同意書・確認書が偽造文書であることは控訴理由書 128 ∼ 139 頁で主張し たが、以下のように補充する。 (1) 別件訴訟における文書提出命令申立手続に関する経過 控訴人市東と被控訴人空港会社との間では、現在、千葉地裁民事第 2 部 - 48 - において、被控訴人を原告、控訴人を被告とする別件訴訟(平成 18 年(ワ) 第 2218 号土地明渡請求事件)が係属しているところ、別件訴訟で審理さ れた文書提出命令申立手続については、概要以下のような経過を辿ってい る。 別件訴訟において、控訴人市東は、2011 年 10 月 24 日、別紙申立文書 目録記載の文書(以下「本件申立文書」という。)につき文書提出命令申 立(千葉地裁平成 23 年(モ)第 305 号)を行った。 これに対して、千葉地裁民事第 2 部は、2012 年 10 月 5 日、本件申立文 書のうち別紙インカメラ対象文書(以下「インカメラ対象文書」という。) について被控訴人空港会社に文書を提示するよう決定したことに基づいて 被控訴人空港会社が提示した文書のうち、別紙除外文書目録記載の文書(以 下「除外文書」という。)がインカメラ対象文書に該当すると判断した上、 別紙除外文書目録 1 から 3(以下「本件文書 1 ∼ 3」という。)までに記載 の文書について文書提出命令義務があるとして被控訴人空港会社に文書の 提出を命じ(ただし、提出を命じなかった部分がある。)、これらを除く 本件申立文書について申立てを却下したところ、控訴人市東が即時抗告を 申し立て(東京高裁平成 24 年(ラ)第 2571 号)、抗告審は、2013 年 3 月 26 日、インカメラ対象文書が除外文書以外にも存在することが一応認められ、 被控訴人空港会社が所持している可能性についてもこれを直ちに否定する ことはできないとして、除外文書以外のインカメラ対象文書(以下「非提 示文書」という。)に係る部分について第 1 審の決定を破棄して差し戻し、 その余の部分については即時抗告を却下し又は棄却した。 差戻し後第 1 審(千葉地裁平成 25 年(モ)第 128 号)は、2013 年 12 月 9 日、その審理の対象である①非提示文書の存在及び被控訴人成田空港 会社の所持を認め、②別件訴訟におけるその証拠調べの必要性も認め、③ 民事訴訟法 220 条 4 号ニの文書(自己利用文書)の該当性はこれを否定し、 - 49 - 非提示文書の裁判所への提出を命じた。 被控訴人空港会社は、2013 年 12 月 17 日、差戻し後第 1 審決定に対し て即時抗告を申し立て(東京高裁平成 26 年(ラ)第 198 号)、差戻し後抗 告審は、2014 年 7 月 16 日、被控訴人空港会社による即時抗告を棄却した。 被控訴人空港会社は、同年 7 月 18 日、差戻し後抗告審決定に対して抗告 許可を申し立てたが(東京高裁平成 26 年(ラ許)第 304 号)、東京高裁第 7 民事部は、同年 8 月 20 日、抗告を許可しない旨の決定を発し、同決定は 確定した。 被控訴人空港会社は、別件訴訟において、現在に至るも非提示文書を提 出していない。 (2) 別件訴訟において真実と認められる被控訴人市東の主張 ア 以上の経過のとおり、被控訴人空港会社は、別件訴訟において、非 提示文書の文書提出命令義務を負っているものの、この義務を履行し ていない。 したがって、「当事者が文書提出命令に従わない」あるいは「当事 者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、 その他これを使用することができないようにした」 (民訴法 224 条 1 項、同条 2 項)場合に該当する。 このような場合、「裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主 張を真実と認めることができる」(同条 1 項)あるいは「相手方が当 該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証 明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるとき は、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることが できる」(同条 3 項)ところ、控訴人市東は、非提示文書の記載に関 して具体的な主張をすること及び非提示文書により証明すべき事実を 他の証拠により証明することが著しく困難であるから、同条 3 項が適 - 50 - 用されるべきである。 イ 被控訴人市東が非提示文書により証明すべき事実は、① 1988 年 3 月 1 日付け地積測量図、同意書、1988 年 4 月 11 日付境界確認書が被 控訴人成田空港会社により偽造された事実、②同意書、境界確認書の 作成経緯、訴外藤﨑とのやり取り、入手・保管経緯、③ 1987 年 12 月 の藤﨑メモ・手書き図の作成経緯、訴外藤﨑とのやり取り、入手・保 管経緯、④被控訴人空港会社が控訴人市東の賃借地を 1987 年 4 月時 点では別紙関係土地図中の A・B と認識していたにもかかわらず、 1988 年 4 月 12 日の時点では B・E1 であると認識を変えた経緯、であ る。 ウ そして、これらの事実に関する別件訴訟における被控訴人市東の主 張が真実と認められるべきであり、その主張は以下のとおりである。 ① 被控訴人空港会社は、1987 年ころ、千葉県収用委員会に審理再 開を働きかける中で、本件南台農地につき賃借権を有する訴外東市 を関係人に付け加えないと強制収用が不可能になることに気づい た。 そこで、被控訴人空港会社は、南台 41 番に関する訴外東市の賃 借権を強制収用手続きの対象とするため、1987 年 4 月 24 日付けで 千葉県収用委員会に対して「裁決申請書及び明渡裁決申立書の記載 事項の変更について(報告)」と題する文書を提出した。 しかし、千葉県収用委員会は、事業認定から 18 年が経過してい るので、収用対象の関係人(賃借人)を追加することには土地収用 法上の問題があり、同申立書に当然添付されている賃借権確認の根 拠書面だけでは不十分であることから、さらに同変更申請後、被控 訴人空港会社に対し、訴外東市の賃借地に関する訴外東市の署名の ある文書の提出を求めた。 - 51 - ② 被控訴人空港会社は、1987 年 12 月ころ、訴外藤﨑に対し「訴 外東市に対し、南台 41 番土地について石橋政次に提案したのと同 様の方式(賃借地のうち 3 割を小作人が土地所有権を取得し、残り の 7 割は地主に明渡す)を提案してもらいたいこと、また、もし訴 外東市が上記提案に応じない場合には、同土地の市東賃借権を土地 収用法によって権利取得することになるが、訴外東市が現在耕作し ている場所が当初の賃借場所と違っているので、訴外東市から当初 の賃借地の広さ(4 反 7 畝)と場所を確認して、耕作地を当初の場 所に戻すよう求めて欲しいこと」などを要請し、訴外藤﨑はこれを 承諾した。 ③ 訴外藤﨑は、上記被控訴人空港会社の要請に従い、1987 年 12 月 26 日に訴外東市が小作料を支払うために訴外藤﨑方を訪ねた際、 上記の石橋方式を訴外東市に提案し、かつ賃借地の場所を尋ねた。 被控訴人空港会社は、訴外藤﨑より、訴外東市との面談結果の報告 を受けたところ、訴外東市との面談の経過及び面談内容を報告書に して提出して欲しい旨依頼し、訴外藤﨑からメモと手書図(甲 122 の 1、2)の交付を受けた。 ④ 被控訴人空港会社は、1988 年 1 月 26 日、既定方針となってい た収用方針に基づき、南台 41 番土地について合筆登記が行った。 ⑤ 被控訴人空港会社は、1988 年 3 月、本件同意書(己 1 の 3 の 2)、 本件確認書(己 1 の 3 の 3)、本件地積測量図(己 1 の 3 の 2 及び 3 の各 2 枚目)を偽造した。これらの書面が偽造された経緯は以下の とおりである。 前述したとおり、被控訴人空港会社は、千葉県収用委員会から、 訴外東市の賃借地に関する訴外東市の署名のある文書の提出を求め られていた。また、被控訴人空港会社は、1988 年 4 月に訴外藤﨑 - 52 - から南台農地を買収することを予定しており、そのためにも現に耕 作している訴外東市から、当初の訴外東市賃借地を特定し、現に耕 作している農地を当初の訴外市東賃借地に戻す旨の書面の交付を受 ける必要があった。 しかし、訴外東市が耕作地を縮小して土地所有者の指定の場所に 戻すことを承諾する本件同意書や本件確認書に署名・捺印すること は到底あり得ないことから、被控訴人空港会社野上西、法理らは、 訴外市東名義の本件同意書、本件確認書を偽造するに至った。 そして、被控訴人空港会社は、千葉県収用委員会に対して、偽造 した本件同意書の 1 枚目を提出したものの、千葉県収用委員会から は、本件同意書には訴外東市賃借地を特定する図面を添付する必要 がある旨の指摘を受け、本件同意書の 1 枚目は被控訴人空港会社に 返還された。 このようにして被控訴人空港会社は、訴外東市賃借地を特定する ための図面を新たに作成する必要性に迫られることになった。しか し、訴外藤﨑は、南台の農地について、訴外市東の賃借地・耕作地 の正確な知識がないほか、訴外藤﨑による手書き図(甲 122 の 1、2) は、甲 55 号証の地積測量図中にある訴外市東賃借地の場所と一致 しないことから、訴外東市の当初賃借地の場所に関する被控訴人空 港会社と訴外藤﨑との協議はなかなかまとまらなかった。 そこで、被控訴人空港会社は、訴外東市賃借地・耕作地がどこか を特定する知識が訴外藤﨑には欠如していることを熟知しながら、 訴外藤﨑名義で新たな本件地積測量図を偽造した。すなわち、本件 地積測量図が作成された際、実際の現地測量や訴外藤﨑及び訴外東 市の立ち会いは行われておらず、被控訴人空港会社が図上で作成し たものでるほか、作製者欄にある「藤﨑政吉」との署名は上西の部 - 53 - 下である職員が記載したものであり、訴外藤﨑は一切関与していな かったのである。 このような経過と手法で作成されたものが、己 1 号証の 3 の 2 及 び 3 の各 2 枚目の 1988 年 3 月 1 日付けの本件地積測量図であり、 本件地積測量図も被控訴人空港会社によって偽造されたものであっ た。 被控訴人会社は、このようにして偽造した本件地積測量図を同意 書の 1 枚目に、上記の経緯で偽造された地積測量図を勝手に添付し、 また勝手に作成した市東名義の印鑑を使って割り印を押し、かつ同 書面の 1 枚目の訴外東市の署名の下にも押印して、もって本件同意 書を偽造した。 また、被控訴人空港会社は、同様に本件確認書の 1 枚目に、偽造 した地積測量図を勝手に添付し、上記の市東名義の印鑑を使って割 り印を押し、かつ、同書面の 1 枚目の訴外東市の署名の下にも押印 し、もって本件確認書を偽造した。 (3) 本件訴訟との関係 以上が別件訴訟において民訴法 224 条により真実と認められる被控訴人 市東の主張である。これを本件との関係でいうと、本件解約許可処分申請 にあたっては、申請書別紙 B(己 1 の 3 の 1)に「その結果、故市東東市 の賃借地 4,661 ㎡の位置が確認され、耕作地を確認場所に戻す『同意書』 (別紙 B − 1)及び賃借している土地の範囲を確認する『賃借地境界確認 書』(別紙 B − 2)が締結された。 なお、別紙 B − 1、B − 2 は、申請者が藤﨑政吉氏より原本を預かり保 管したものである。」と記載されていることから明らかなとおり、被控訴 人空港会社が偽造した本件同意書、本件確認書、本件地積測量図が用いら れており、本件解約許可処分はこのように偽造された書面に基づき発せら - 54 - れたものであって、その瑕疵は著しいというべきである。 (4) 偽造された同意書・確認書に基づき発せられた許可処分は無効である 上記で主張したとおり、被控訴人空港会社が別訴での文書提出命令を無 視している以上、その主張事実である同意書・確認書の偽造という控訴人 の主張は真実とみなされるべきである。 従って、同意書・確認書が偽造文書であるから、これに基づいて南台に おける市東東市の賃借地を 41 番 8、同番 9 と特定してなされた本件解約 許可処分はその瑕疵が著しいので無効である。 (以下、余白) - 55 - 第7 <被控訴人の訴権濫用ないし信義則・禁反言違反>についての被控訴人の 全くの緘黙の違法不当性と【求釈明】[控訴理由第6] 1 問題の所在 (1) 控訴人は、原審以来、成田シンポ・成田円卓会議・東峰部落に対する謝 罪と誓約等々の幾多の歴史的事実に基づいて、次のことを詳細明確に指摘 してきた。すなわち 被控訴人会社による本件明渡請求は、 ①訴権の濫用であるから、本訴請求は違法であり却下さるべきである。 ないしは、 ②信義則・禁反言則に違反する違法なものであるから棄却さるべきで ある。 (2) しかるに被控訴人は、この批判に対して一言の反論も行わない。ひたす ら緘黙し続けるのみであって、訴訟当事者としては自己の行動の正当性を 主張すべきであるにもかかわらず、何の論述も行わないのである。 (3) そもそも、このようなことがありうるであろうか。 通常の訴訟では絶対にありえない事態である。「違法不当訴訟」と被告 から面罵された原告は、猛然とこれに反論する。当然である。 しかし、本件ではそれがない。なぜか。それは、被控訴人空港会社は 成田国際空港は、国策である したがって、空港完成のためのこの訴訟は、国策の遂行である ゆえに、国家機関である裁判所は我々原告の味方であるから、被告か ら何を言われようと、絶対的に原告を勝たせてくれる だから、一々反論しなくてもよい などと考えているからである。原審千葉地方裁判所と成田空港会社(空港 公団)との間の数十年間に及ぶ癒着関係に基づき、空港会社は裁判所を深 - 56 - く信頼しきっているのである。 (4) 改めて言うまでもない事であるが、憲法 32 条の宣明する「公平な裁判 所」の理念・規範からするならば、このような信頼関係が絶対に存在して はならないことは勿論である。 ところがである 。千葉の地にあっては、空港公団・空港会社の裁判所 に対する、このようなもたれかかり・ぶら下がりの事態が、裁判所によっ て許容され続け、こうした「信頼」に裁判所が応えて、いかなる事案であ っても、いかなる請求であっても、千葉地裁は「空港会社・空港公団を勝 たせてあげる」という態度を、この 50 年間一貫してとり続けてきたので ある。 (5) このような癒着関係は、本件に於いても遺憾なく発揮された。 すなわち、空港会社(空港公団)の信義則違反・禁反言ないし本件訴訟 の権利濫用性についての被告側の主張に対して、具体的認否をなすことを 促すという、通常の訴訟であれば必ず行われる訴訟指揮も一切行うことな く、被告主張を「原告は聞き流す」という不当な訴訟態度をとることを許 容した。この結果、本件に於ける空港公団・会社の不信義が、本件の審理 の前面に出されてくるという事態は狡猾に避止された。 (6) 原審裁判所は、そのように空港会社に便宜を図ってやったのである。が、 そればかりではない。その上更に、判決に於いて極めて大胆に、空港会社 を救済してやったのである。 すなわち、判決に於いて、空港会社が審理に於いては一言も主張もして いなかった事実を自ら創造し、これを認定してやり(明らかな弁論主義違 反である)、ひたすら緘黙し続ける以外に無かった空港会社を救済してや ったのであった。それが、「話合い挫折論」というものである。 (7) つまり、原告には、空港公団当時、国・千葉県も参加した成田シンポジ ウム・円卓会議に於いて、<従前の工事進捗方法について非民主的と謝罪 - 57 - >し、その上で<今後、一切の強制手段を放棄し><地元農民との話合い で問題を解決する>ことを社会的に公然誓約したという、歴史的事実が存 在している。更に、空港会社に移行後も、黒野社長が自らが「人の道に反 していました」とさえ言って、殆ど土下座するようにして、地元である東 峰部落に謝罪した歴史が存する。 (8) このような歴史的事実と、市東氏に対する強制執行・実力的追出しを企 図していることが明白な本件訴訟の提起が、絶対的に矛盾している事は、 誰の目にも明らかである。 だからこそ、被控訴人は原審法廷に於いて、この問題については一言も 陳弁しようとはせず、ただただ、ひたすらに目を伏せ、口を閉ざしてこの 問題をやり過ごそうとしたのであった。 (9) しかして原審裁判所は、そのような空港会社に対して、事実について認 否するように求めるなどということすら一切せず、苦肉の緘黙路線をとる しかない空港会社側の態度に理解を示してやっていたところ、判決書に於 いて、更に大胆に、空港会社に対する庇護援護を打ち出したのであった。 すなわち原審裁判所は、上記の<謝罪・誓約>に関する全ての事実を詳 細に認定した上で、突如として、自ら案出した「話合い挫折論」なるもの を持出し、 絶対的矛盾に陥っていた空港会社を救済してやったのであった。 すなわち、要旨に曰く。「<強制手段の放棄・話合い解決>ということ も、話合いが挫折したときにまで維持されるという趣旨ではなかった 云 々」というのである・・・・。 (10) 原審裁判所は、ここまでしても、空港会社救済のためにはなりふり構 わぬ姿勢を示したのである。 これに接した被控訴人空港会社は「得たり」とばかりに、早速に自分の 不当な信頼を裏切らなかった原審裁判所に便乗して、「原判決は正当であ る」などとのみ言って、控訴審に於いてもこの問題が前面化することをひ - 58 - たすらに回避しようとしているのである。 (11) しかしこれは、明らかな「弁論主義」違背の違法判決である。 けだし、原判決がわざわざ説明するように、成田シンポ・円卓会議に於 ける空港公団の<謝罪><誓約>、及び黒野匡彦空港会社社長の<謝罪> <誓約>の趣旨が、 ひととおりの話合い解決のための努力というものであって、あくまで 空港反対の意思を変えない農民に対しては強制手段をとる というものであったなどという趣旨は、公団・会社当事者の言葉それ自 体には勿論、議事録等その他の資料のどこにも一切見受けられないからで ある。 すなわち、原判決は、成田シンポジウム・円卓会議の客観的性格、そこ に於て表明された空港公団の意思の内容、黒野空港会社社長の謝罪文に表 明された社長の意思の内容について、被控訴人の主張も、何らの証拠も存 在しない事実について、勝手に案出し作り出してこれを認定したのであっ た。 (12) このような原判決が、民事訴訟法違反であり破棄されなければならな いことは多言を要しない。 2 被控訴人に対する求釈明 (1) 原判決の違法不当は、上記のとおりである。 しかるに被控訴人は、このような原判決が出されるや、 「やはり裁判所は我々の味方なんだ」 と更に確信が得られたとばかりに、当審に於いても「原判決は正当」との み述べて、本件問題については、一切口を開かないという態度をとり続け ている。しかし、原判決の違法不当性は上記のとおりである。 したがって、「原判決は正当」などと言って逃げを決込むことは許され - 59 - ない。 よって被控訴人は、以下の事実を明らかにすべきである。 (2) 【求釈明】 ①成田シンポ・成田円卓会議に於いて、当時の空港公団総裁は、 ア 従前の手法について、地元の意思を十分に斟酌していなかったと 謝罪し、 イ 二期工事の用地問題については一切の強制手段はとらず、地元農 家との話合いに基づいて進めてゆくと誓約した事実が存在している ことを、否認するのか。 ②黒野匡彦社長が東峰部落に対して、「(会社のやり方は)人の道に反し ていた」と謝罪した事実を、否認するのか。 ③黒野社長は、この謝罪を前提に、会社の事業を進めてゆくに当たって は部落の農家の考え方を最大限尊重する旨、東峰部落に誓約した事実 を、否認するのか。 ④これらの誓約に於ける真意は、 「一定の話合いはするが、それでも同意が得られなかった場合には、 強制手段をとる」 というものであったのか。 ⑤仮にそれが真意であった場合、その内容が顕れている当時の資料は何 か。その資料を法廷に顕出されたい。 ⑥上記⑤がなされない場合、空港公団・空港会社は地元農家や日本社会 に対して嘘を言っていたことになるが、如何。 以 - 60 - 上 (別紙) 申立文書目録 新東京国際空港公団(以下、この目録において「公団」という。)が藤﨑政吉 (以下、この目録において「藤﨑」という。 )から千葉県成田市天神峰字南台 41 番の土地を買収することを企図し、藤﨑との間で買収の条件や手順について話し 合い、その手順の一環として同土地中の市東東市の賃借地を同人自身において特 定することを藤﨑に依頼し、最終的に同土地の売買契約を締結し、その売買代金 を支払い、所有権移転登記に関して即決和解を申し立てるに至るまでの経過を記 載した交渉記録、報告書その他の関連記録一切(ただし、当該文書には、少なく とも次の 1 ないし 5 に記載の文書が含まれている。) 1 昭和 62 年(1987 年)12 月の藤﨑作成のメモ及び手書き図(甲 42 の 1[引用 者注・本件の甲 122 の 1])の作成経緯、藤﨑の説明、公団が入手した経緯、 基本事件提起までの保管経過について記載した「交渉記録」等の報告書(乙 42 ないし 50[引用者注・本件の甲 113 ないし甲 121]と同様のもの。以下同じ。) 2 昭和 63 年(1988 年)3 月 1 日付け地積測量図(甲 8、9、36[引用者注・本 件の乙 1 の 3 の 2、乙 1 の 3 の 3、甲 13]の各 2 枚目図面)の作成経緯、藤﨑 とのやり取り、公団が入手した経緯、上記各甲号証の 2 枚目に利用した経緯に ついて記載した「交渉記録」等の報告書 3 同意書(甲 8[引用者注・本件の乙 1 の 3 の 2])の作成経緯、藤﨑とのやり 取り、公団が入手した経緯、基本事件提起までの保管経緯について記載した「交 渉記録」等の報告書 4 境界確認書(甲 9[引用者注・本件の乙 1 の 3 の 3])の作成経緯、藤﨑との やり取り、公団が入手した経緯、基本事件提起までの保管経緯について記載し た「交渉記録」等の報告書 5 昭和 63 年(1988 年)4 月 12 日の売買契約(甲 36[引用者注・本件の甲 13]) において、公団が前記市東の賃借地の範囲を別紙関係土地図中の B 及び E1 で あると認識を変えた経緯について記載した「交渉記録」等の報告書 - 61 - (別紙) インカメラ対象文書目録 1 昭和 62 年(1987 年)12 月の藤﨑政吉(以下、この目録において「藤﨑」と いう。 )作成のメモ及び手書き図(甲 42 の 1[引用者注・甲 122 の 1、2])の 作成経緯、藤﨑の説明、新東京国際空港公団(以下、この目録において「公団」 という。)が入手した経緯、基本事件提起までの保管経緯について記載した「交 渉記録」等の報告書(乙 42 ないし 50[引用者注・本件の甲 113 ないし甲 121] と同様のもの。以下同じ。)その他関連記録一切 2 昭和 63 年(1988 年)3 月 1 日付け地積測量図(甲 8、9、36[引用者注・本 件の乙 1 の 3 の 2、乙 1 の 3 の 3、甲 13]の各 2 枚目図面)の作成経緯、藤﨑 とのやり取り、公団が入手した経緯、上記各号証の 2 枚目に利用した経緯につ いて記載した「交渉記録」等の報告書その他の関連記録一切 3 同意書(甲 8[引用者注・本件の乙 1 の 3 の 2])の作成経緯、藤﨑とのやり 取り、公団が入手した経緯、基本事件提起までの保管経緯について記載した「交 渉記録」等の報告書その他の関連記録一切 4 境界確認書(甲 9[引用者注・本件の乙 1 の 3 の 3])の作成経緯、藤﨑との やり取り、公団が入手した経緯、基本事件提起までの保管経緯について記載し た「交渉記録」等の報告書その他の関連記録一切 5 昭和 63 年(1988 年)4 月 12 日の売買契約(甲 36[引用者注・本件の甲 13]) において、公団が市東東市の賃借地の範囲を別紙関係土地図中の B 及び E1 で あると認識を変えた経緯について記載した「交渉記録」等の報告書その他の関 連記録一切 - 62 - (別紙) 除外文書目録 1 昭和 62 年 3 月 23 日付け作成者不詳の「藤﨑政吉からの事情聴取結果」と題 する書面 2 昭和 62 年 10 月 20 日付け作成者不詳(「空港公団」作成名義)の「藤﨑政吉 所有地(事件番号 91)の取扱いについて(案)」と題する書面及びその添付資 料 3 昭和 63 年 1 月 19 日付け作成者不詳(「公団上西」作成名義)の「藤﨑政吉氏 との打ち合わせ概要」と題する書面 4 昭和 62 年 9 月 4 日付け作成者不詳の「藤﨑政吉所有地の買収に係る打ち合わ せ」と題する書面 5 昭和 62 年 9 月 7 日付け作成者不詳の「藤﨑所有地の契約に係る問題点」と題 する書面 6 昭和 62 年 9 月 11 日(ただし、 「8」が「11」に訂正されている。)付け作成者 不詳の「藤﨑政吉氏に対する協議事項」と題する書面 7 昭和 62 年 9 月 17 日付け作成者不詳の「藤﨑正吉所有地買収に係る打合わせ」 と題する書面 8 昭和 62 年 9 月 21 日付け作成者不詳の「藤﨑所有地の取扱いについて」と題 する書面 9 昭和 63 年 1 月 19 日付け作成者不詳の「藤﨑政吉氏に係る契約手続き等につ いて」と題する書面 10 昭和 63 年 1 月 19 日付け作成者不詳の「今後の進め方(藤﨑氏関係)」と題 する書面 - 63 - (別紙) - 64 -
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