きく,1 - 東北大学

いとう
みちお
氏名・ (本籍)
伊藤 美智雄 (山形県)
学位の種類
理学博士
学位記番号
理博第 972 号
学位授与年月 日
日召希061年 3月25日
学位授与の要件
学位規則第5条第1項該当
研究科専攻
東北大学大学院理学研究科
(博士課程) 化学専攻
学位論文題目
プ レニル トラ ンス フェラーゼ反応の立体化学解析法の開発と
その応用
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論文審査委員
(主査)
教授小倉協三教授田宮信雄
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教授高瀬嘉平
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次
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序論
策一章 炭素一炭素結合形成の立体化学
第二章 イソペンテニルピロリ ン酸の2位の水素脱離の立体化学
第三章 ウンデカプ レニルピロリン酸合成酵素によるイ ソペ ンテニルピロリ ン酸ホモロ グの反
応の立 体化学
第四章 まとめと考察
文献
謝辞
一 225一
論文内容要旨 !
き
序論
インプレイ ド化合物の生合成過程において, イソプレン (q)単 位の炭素鎖延長は, アリル
性基質とイソペンテニルピロリン酸 (.IPP) との縮合反応によって行なわれる。 この縮合反 応に 1l!
関与する酵素はプ レニル トラ ンスフエ ラ晒ゼと 総弥さ れてお り・ 最終生成物の鎖長およ び反曝
の立体化学の違いにより, これまで12種類の酵素が分離され, 性質が調べられている。 li
プレニルトランスフェラーゼ反応によって, 工PP分子が関わる立体化学は, 縮合によって 2- 1
…
3位間に生成する二重結合の配置がEかZかの他に,次の2つの問題がある。 1
① IPPの2位から脱離する水素は, proR の水素かproS の水素か?
②炭素一炭素結合は,IPPの二重結合のどちら側の面に形成されるか? li
この二つは, 言わばかくされた立体化学であり, それぞれどち らの羅を経て も, 生成物 に変イ薩
が現れるものではな い。
,躍食膿 灘難論乙灘鰍 糠簾離
するということが, 全生物において共通であると考えられてきた。 しかし, 最近, 高等植物のz l
プレニル基成形において, この一般則に合わない例が報告されており, IPPの2位の水素脱離 1
の立体化学を・ さらに多くの例に関 して研究する必要がある・ そのために・ ト1ヲ チウム標識し撰
メバ・ ン酸を用いる方法に比べ・ より簡便に応用でき・ 信頼度の高い蜥法の開発が望まれ㌧
そこで筆者は, IPPの2位の水素脱離の立体化学解析のための新しい方法を検討した。 1
炭素一炭素結合形成 の立体化学については, ブタ肝臓のE, E一フ ァルネ シルピロリ ン酸(F
P P) の生成に関して, Comforthらが 「I PPの二重結合のSi 面側」 と決定 した一例 がある
のみである。 したがって, 縮合反応の全立体過程が明らかにされているのは, この酵素が唯一の
例である・ 他の蝋 特にz型鎖延長反応を角㈱る酵素に肌て・ 船反応の全立体過程を鰍
らかにすることは, 反応機構の解析に役立っだけでな く, 比較生化学的な見地からも興味深 い。
そこで筆者は, ブタ肝臓のFPP合成酵素以外のものに関 しても縮合反応の全立体過程を明 らか
にするため に, 炭素 一炭素結合形成の立体化学を明らかに した。
プ レニルトラ ンスフェラーゼに対するIPPホモロ グを用 いた反応は, E, E- FPP 合成酵
素に関 してよく 研究されてお り, それらの知見は, 酵素反応機構 の考察に寄与 しただけでなく,
酵素を用いた立体選択的有機合成にも応用されている。 しか し, Z型鎖延長反応を触媒する酵素
に関 しては, まだ研究されていない。 著者は, ウンデカ プ レニル ピロリ ン酸合成酵素反応のかく
された立体過程を明らかに したので, この立体過程を不斉反応として表現させてみるため, また,,・
酵素 の活性部位 に関する知見 を得るために, この酵素に対するIPPホモロ グの反応性および反 i
応の 立体化学 について検討 した。
一 226一
第一章 炭素一炭素結合形成の立体化学
第1節=用いた解析法を示 した。
第2節:枯草菌のウ ンデカ プ レニルピロリ ン酸合成酵素に関して, 縮合反応の全立体過程を明
らかにするため, 炭素一炭素結合がIPPの二重結合のどち ら側の面に形成されるかを決定した。
且および旦とE, E - FPPを基質と して, ウンデカ プレニルピロリ ン酸合成酵素反応を行った。
用いた反応液の全 容 積 は, それぞれ5 6であ る。 酵素反応生成物を酸性ホスフ ァタ ーゼ法で酵
素的に加水分解 した後, TCLさらにHPLCで精製して, 〔2H7〕 C50 プレノ ール と 〔2H8〕
C55 プレノール (4昆+ 5昆),(4厄+ 霞) を得た。
乙れらをそれぞれオゾン分解で レブリ ン酸に変換 し, CDスペク トルを測定した決果, (4α +
5α) から得られた 〔3 -2H〕 レブリン酸はS体であり, (4b + 5b) から得られた。
〔3-2H〕 レブリン酸はR体であることがわかった。 (図式1) したがって, 炭素一炭素結合は
IPP の二重結合のSi 面側にに形成されることが証明された。 z型鎖延長反応を触媒する酵素
に関して, 縮合反応の全立体過程が明らかにされたのは, これが最初である。
第三節1枯草菌のヘプタ ブレニルピロリ ン酸合成酵素に関 して, 炭素一炭素結合形成の立体化
学を明らかに した。
2とE, E- FPP を基質と して用 い, ヘプタプレニルピロリ ン酸合成酵素反応を行った。 用い
た反応液の全容積は, 94である。 反応終了後, 第二節と同様に酵素的加水分解, 分離, 精製を
行い, 〔2H4〕 C35 プレノール (込) を得た。 ヱをオゾン分解でレブリ ン酸に変換 し, CDス
ペクトルを測定 した結果, 生成 した 〔3 -2H〕 レブリ ン酸はS体であることがわかった・ (図式 2)
したがって, 炭素一炭素結合は, IPPの二重結合のSi 面側 に形成されることが証明さ れた。
第二章 イソペンテニルピロリン酸の2位の水素脱離の立体化学
第一節:著者が開発 した解析法の原理を示した。 こ 方法は・ 〔2 -2H〕 ジメ チルア リルピロ
リン酸 (DMAPP) を基質としてブタ 肝臓のIPPイソメ ラーゼ反応を行ない, 立体特異的に
生成する (S) 〔2-2 H〕 IPPを直接プレニルトラ ンスフェラーゼ反応に利用 し, 生成物に
重水素が取り込ま れているかどうかを, マススペクトルで分析する ものである。
第二節:基質と して用いる 〔2- 2H〕 DMAP Pの合成法を示した。
第三節1著者が開発 した解析法の有効 性を確認するために, IPPの2位の水素脱離の立体化
学が既知である枯草菌の2つの酵素に適用 してみた。 1つは, proRの水素脱離を伴う 反応を触
媒するFPP合成酵素であり, 他方は, proS の水素脱離を伴う反応を触媒するウンデカプ レニ
ルピロリ ン酸合成酵素であ る。 適用 した結果, FPP合成酵素においては, 生成したファルネソ
ールに 重水素が3個取り込まれており, 一方, ウンデカ プレニルピロリン酸合成酵素において は,
生成物に重水素 が取り込ま れて いないことが示された。 このことか ら, 開発 した解析法の有効性
が確認さ れた。
第四節:カボチャのFPP合成酵素反応の全立体過程を明らかにした。 著者が開発 した解析法
一227一
1
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し, まずエPPの2位の水撒の立体化学を検討した. 得られたファルネソー 膿
一取_てい とから, fPPの2位の 脚R の水素が1騰る 一明 ./
ll※難墨警灘鞠蕊騰灘1薩
た結果, 生成した 〔3-2H〕 レブリン酸はS体であることがわかった。 したがって, 炭 素一炭
素結合は, 王PPの二重結合 のSi 面倒に形成されることが証明された。
き
第五章:枯草菌のFPP合成酵素に関して, 縮合反応の全立体過程を明らかにするために, 炭 1
素一炭素結合形成の立体化学を明らかにした。 第四節と同様な操作を行なった結果, 炭素一炭素 1
き
結合は,IPPの二重結合のSi面側に形成されることがわかった。 1
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第薫 ウン効プレニノ伽リン酸合成酵素によるイソペンテニルピロリン酸
1
ホモ縫グの反応の立体化学 !
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第}節:IPP ホモロ グの枯輔のウ ンデカプレニルピロリ ン酸合雌素 に対す る反応性を概
討 した。 用いたI PPホモロ グを図式3に示 した。 アリル性基質に 〔1-14C〕 FPPを用いて 1
酵素反応を行なつ鳩果濾を用いた場合のみ反応生成物が得られ・ 追・ £芯 騨・ 基質 裾
ならないことがわかった・ 坦は・ IPPlこ対する競争酷効果を示 し・ 鵬定数1ま 55。μMであ1
つた。 一方, 12のZ異性体である廻は, IPPに対g一る阻害効果を示さなあった。 1
第二節:12とE, E-FPP か ら得 られた 酵素反応生成物の構造 を決定 し, 反応の立体過程を
明らかに した。 アルコール体のマススペクトルか ら, 平面構造は, ゲラニルゲラニオールのメチ 1
!
ル誘導体であり・ 縮合は1回だけで停止 していることがわかった。 M, ・i漉螂 の全E一ゲラニル 1
ゲラニルピロリン酸合成酵素を用 いて合成 した標品とTLCのRf 値を比較 した結果, 縮合によ
って生成 した二重結合の配置は, Zであると考えられた。 4位にメチル基が導入されたため生じ
た不斉中心の絶体構造を明 らかにするため, アルコール体 をオ ゾン分解 した後, CDスペク トル
を測定した。 その結果, 生成した3一メチルレブリ ン酸は, S体であることがわかり, したがっ
て, 4位の絶体構造は, Sであることが明らかとなった。
第三節:3一メチルレブリ ン酸を (R)一 (+)一1一 (1一ナチフル) エチルアミンとの縮
合によりアミ ドに変換した。 HPLCの条件を検討 した結果, 得られたアミ ドの ジアステ レオマ
ーを分離できることがわかった。 したがって11および12を用 いて プ レニルトラ ンスフェラーゼ反 i
応を行い, 生成物のオ ゾン分解で得 られる3一メチルレブリ ン酸を, 100彩 光 学 的 に 純 粋 な 1
1一(1一 ナフチル) エチルアミンとのアミ ドに変換 して, HPLCで分析すれば酵素反応の不斉 1
収率を含めて, IPPホモログの反応の立体 化学が明 らかになることが示された。
第四章 まとめと考察
著者は, 代表的なプレニルトラ ンスフェラーゼに関して, 縮合反応の全立体過程を明らかにし
一228一
た。 その結果を, 図式4に示 した。 炭素 一炭素結合の形成は, Z型鎖延長酵素とE型鎖延長酵素
⊃
のいずれの場合においてもIPPの二重結合の S1 面側 に起こる。 炭素一炭素結合 の生成する方
向と脱離する水素の方向との関係は, 共通 して syn 型である。
IPPの2位の水素脱離の立体化学解析法として, 簡便で直接的な方法を開発した。 この方法
は, 精製 した酵素を用いて, 生成物のマススペク トルを直接観測するので, 信頼度が高い。
ウ ンデカ プ レニル ピロリ ン酸合成 酵素 に対するIPPホモロ グの反応を検討 した結果に基づき
反応の立体 化学や酵素 の活性部位 の構造について議論 した。
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一229一
論文審査の結果の要旨
本論文はイ ソプ レノイ ド生合成 の炭素鎖延長過程に関与するプ レニルトラ ンス フェ ラーゼの反
応の立体化学に関する ものであ る。 プ レニル トラ ンス フェラ 一一 ぜには触媒機能の異なる十数種類
かにされているのは, ブタ 肝臓の トラ ンス型ファルネ シルピロリン酸合成酵素のみであった。 そ
こで著者はシス 型の鎖延長反応を触媒する酵素につき, 炭素・炭素間結合生成の立体化学を初め
て明らかに したほか, 鎖延長反応において脱離するイソペ ンテニルピロリン酸 (以下IPPと略
す) の2一位 の水素の絶対配置の決定法を新らたに開発 し, これを応用 して代表的なプ レニルト
ラ ンスフェ ラーゼの全立体化学を明 らかに した。
序論で, この研究が酵素反応機構の見地からのみな らず, 比較生化学的観点からも意義深いも
のであることを述べたのち, 第一章では, 枯草菌か ら分離 した2種類の長鎖プ レニルピロリ ン酸
合成酵素による反応の立体化学的解析を述べている。 すなわち, 化学的に合成した (E) 一 〔4
」 H〕 IPPと (Z) 一 〔4-2H〕 IPPを, それぞれウンデカプレニルピロリン 酸合成酵
素の 基質と したとき の反応生成物を化学的に分解 して レブリ ン酸にま で導く と, 前者か らの もの
は, (S) 一 〔3-2H〕 レブリン酸を, 後者からのものは (R) 一 〔3-2H 〕レブリ ン酸を与
えることか ら, この酵素反応によるシス型鎖形成において, C-C結合はIPPのSi 面側 に生
成することが証明された。 同様にして, トラ ンス 型の鎖延長酵素であるヘプタプ レニルピロリン
酸合成酵素による反応においても, C-C結合が Si 面側に作 られることを示した。
第二章はIPPの2一 位から脱離する水素の立体化学に関するものである。 著者はこの立体化
学を決定す るため, IPPイソメラーゼの特異性を利用する方法を開発 し, これを応用 して, カ
ボチャのファルネ シルピロリ ン酸合成酵素 の立体化学を明 らかにした。
第三章は, IPPホモログによる酵素反応の立体化学に関するもので, IPPの (E) 一3一
メチル体 がウ ンデカプ レニル ピロリ ン酸合成酵素の基質として, 本来の基質と同じ立体過程で反
応するが, 縮合が一回で.止まることを見いだした。 またホモログの反応の立体化学解析法を確立
した。
最後に, 著者の決定 した立体化学と従来の知見を総合 して, rプレニルトランスフェラーゼの
反応は種類によらず, Si 面攻撃の syn 型様式である。 」 と結論 し, この分野の研究に重要な
貢献をした。 これらは著者が自立 して研究活動を行なうに必要な高度の能力と学識を有すること
を示す ものである。 よって伊藤美智夫提出の論文は理学'博士の学位論文と して合格と認める。
一230一
き
の酵素が知られているが, これ らの酵素反応において, 炭素・炭素間結合形成の立体化学が明ら