伊藤忠商事のインドネシアにおける 石炭火力IPP - 日本貿易会

特 集
商社のビジネス紹介
伊藤忠商事のインドネシアにおける
石炭火力 IPP
さいとう
たかゆき
PT. Bhimasena Power Indonesia COO Director 齋藤 崇之
はじめに
2011 年 10 月 6 日、ジャカルタにおいて、電
源開発㈱(以下 J パワー)
、アダロ・パワー社(以
下アダロ)
、伊藤忠商事㈱(以下伊藤忠)の 3
社が設立した現地法人「ビマセナ・パワー・イ
ンドネシア社」
(以下 BPI)は、インドネシア国
有電力会社(以下 PLN)との間で 25 年にわた
る電力売買契約(以下 PPA)を締結した。
f )株 主:J パ ワ ー 34 %、 ア ダ ロ 34 %、
伊藤忠 32%
g)保守運営:BPI
h)工程(予定)
:2016 年末ごろ 1 号機運転開始、
2017 年中ごろ 2 号機運転開始
i )総事業費:約 40 億ドル
ジャカルタ
中部ジャワ州
バタン県
インドネシア(ジャワ島)
調印式の様子。左から 6 人目はハッタ経済調整大臣
経済成長著しいインドネシアにおいて、さら
なる成長の基盤となる電力の安定供給は欠かせ
ないものであり、それに資するプロジェクトにグ
リーンフィールド(新規開発)から参画すること
には伊藤忠にとっても大きな意義がある。まず、
案件の概要を下記に紹介する。
a )地 点:インドネシア共和国中部ジャワ
州バタン県(下記地図参照)
b)発電方式:超々臨界圧(USC:Ultra Super
Critical)石炭火力発電
c )出 力:100 万 kW × 2
あ れきせいたん
d )燃 料:インドネシア産亜瀝青炭
e )スキーム:B OOT(Build-Own-OperateTransfer)方式
本件の意義
本件がインドネシアのインフラ案件として持つ
意義には、下記 3 つの側面があると考えている。
①インドネシアにおける電力の安定供給に資すること
②大型インフラ案件のモデルケースであること
③環境配慮型のプロジェクトであること
①電力の安定供給
インドネシアの現在の発電容量は約 38GW
(2012 年現在)。電化率は約 73%といわれてい
る。島しょ国であるため、基幹高圧電線の設置
は進んでおらず、その中でジャワ-バリ系統は
総人口の 8 割を占める約 1 億 8,000 万人の電力
供給を担っている。しかしながら、人口集中地
であるジャワ-バリには燃料となる地下資源は
ほとんどなく、カリマンタンやスマトラといった
資源のある外島からいかに運搬するかが大きな
課題である。本件の立地
(ジャワ海に面したジャ
2012年5月号 No.703 15
特 集
ワ島北岸)も石炭運搬の観点から決められた
ものである。
ジャワ-バリ系統管内においては 28GW の発
電容量がある。本件(200 万 kW= 2GW)が運
転開始した暁には、その約 7%を担う一大発電
所となり、
供給対象の人口は実に 1,300 万人、
ジャ
カルタ首都圏の人口にほぼ匹敵する規模となり、
その供給がいかに重要であるかを示している。
②大型インフラ案件のモデルケース
インドネシア政府はインフラ整備に注力して
おり、
その中でも重要な案件を PPP
(パブリック
・
プライベート・パートナーシップ)と位置付け推
進を強化している。本件はその PPP 第 1 号案
件として認知されており、入札事前審査から入
札、契約に至るまで高い透明性の下、公開入
札の形で進められてきた。
さらには、インドネシア・インフラ保証基金(以
下 IIGF)
の適用第 1号案件でもある。IIGFとは、
インドネシア財務省(以下 MOF)が 100%出
資している保証会社であり、より具体的には、
本件において PPA 上での PLN の義務履行を
MOF と共に保証することになっている。また本
件は、インドンネシア経済成長促進・拡大基本
計画(MP3EI)の一環としても認知されている。
上記のように、インドネシア政府はインフラ
案件推進のためさまざまな施策を打ち出してお
り、本件はそれらが実効性を持って推進され
るか見極めをされるモデルケースとして大いに
注目されている。関係する省庁としても、電力
ということでエネルギー鉱物資源省、PPP とい
うことで開発企画庁(BAPPENAS)、投資調
整庁(BKPM)
、IIGF が関係するということで
MOFといったように複数が監督する形になって
おり、これからの案件実行を通じて、さまざま
な課題が検討・吸収され、今後の外資参画型
インフラプロジェクトに、IPP に限らず、良い形
で反映されることが望まれる。
③環境配慮型のプロジェクト
本件は、インドネシアにおいて初の超々臨界
圧技術導入案件である。これは蒸気ボイラの
16 日本貿易会 月報
圧力と温度を超々臨界圧(圧力 22.1MPa 以上、
温度 593℃以上)に引き上げタービンを回す技
術で、従来の石炭火力発電に比し二酸化炭素
を含む温室効果ガス削減の効果を持つ。株主
のうちの 1 社であるJ パワーは日本国内において
この技術での発電所運営に 10 年以上の実績を
持つ。またアダロはインドネシア有数の石炭生産
者であり、国内での環境基準に経験を持つ。ま
た伊藤忠は同じインドネシアのスマトラ島サルー
ラにおいて地熱発電事業も計画しており、本件
はその環境方針にのっとった取り組みである。
今後の課題
PPP モデルケースとしての注目度が高い一
方、その仕組みに今後に向けた改善点があるこ
とも指摘しておきたい。PPP とは「官と民による
リスク星取表」という側面があり、本件におい
ては用地買収、住民対応等ほとんどを民=事
業者側が負担する形になっている。用地買収や
住民対応はインドネシア企業にとっても決して
簡単な課題ではなく、インフラ案件への外資導
入に向けては、このあたりの民の負担を軽減す
るような法整備・施策が待たれよう。また、種々
許認可に関しても、2000 年代以降の民主化の
流れの中で地方に大きな権限移譲がなされた
が、それでもまだ中央政府・州政府・県庁の
業際が曖昧なことが多い。明確な権限規定と、
迅速かつ透明性の高い許認可プロセスが引き
続き求められている。
さいごに
今後も年間 6%前後の経済成長率が予想さ
れ、8 - 9%の電力需要の伸びが見込まれるイ
ンドネシア。電力の安定供給がその鍵になるこ
とは誰の目にも明らかである。各国が燃料のベ
ストミックスを模索する中、自国電源(石炭・地
熱・水力)の最大活用、地域特性ならびに環
境への配慮を戦略の中心に据えるインドネシア
ならではの取り組みに、この石炭火力 IPP の着
JF
実な実行を通じて資する考えである。
TC