きむらひろゆき 氏名・(本籍) 木村宏之 学位の種類 博士(理学) 学位記番号 理博第1658号 学位授与年月日 平成11年3月25日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 研究科,専攻 東北大学大学院理学研究科(博士課程)物理学専攻 学位論文題目 ホールドープ型高温超伝導体の長距離磁気秩序と超伝導の共存、競合に関 する研究 論文審査委員 (主査)教授前川禎通 教授小林典男 助教授遠山貴巳,高橋隆 次 目 文 尉一=目 △而 第1章序論 1.lLa2.、Sr,CuO、1の物性 1.1,1La2■、Sr、CuO、1の物性 1.1.2結晶構造 1.L3電子構造 L1.4磁気的性質 LL5輸送現象 1,2中性子散乱 L2、1中性子の性質と散乱の原理 1.2.2昔艾舌Ll析函孫責 L2,3三軸型中性子分光器 L2.4装置分解能 1.3La2.、Sl、CuO司のスピンダイナミクス L3.1スピン揺動 L3.2静的スピン相関 L4La2.、Sr,CuO4の格子ダイナミクスーフォノン 1.4.1ソフトフォノンと構造相転移 1.4.2ソフトフォノンと高温超伝導 L5本研究の目的 第2章La1.88Sr〔エ12CUI.yZllyO1の磁気秩序 2.1試料準備,及び調整 2.2磁気ピーク測定1一冷中性子源を用いた中性子弾性散乱 2.2.1実験結果,解析 一70一 2.3磁気ピーク測定2一熱中性子源を用いた中性子弾性散乱 2.3.1実験結果 2.3.2ドメイン構造を考慮した解析 2.3.3磁気モーメントの概算 2.4考察,及びまとめ 2.4.1Nd,Zn置換効果 2.4.2L&2.、Sr、CuOイ,La2CuO4+δにおける静的磁気相関とその起源 2、4.3まとめ 第3章La2.、Sr、CuOdのソフトフォノン 3.1試料準備,及び調整 3.2フォノン測定一三軸分光器による中性子非弾性散乱 3.2.1実験条件の最適化一FocusingとDefocusing 3.2.2実験結果,解析 3.3考察 3.4まとめ 第4章全体の総括と今後の展望 参考文献 論文内容要旨 ホールドープ型高温超伝導体L且2.・Sr・CuO4の母物質であるLa2CuO4は電荷移動型絶縁体であり,T∼ =325K以下で三次元反強磁性秩序が存在する。そしてLa3+サイトをSr2+で置換することによって,ホール はCuO2面にドープされ,ホール濃度劣∼0.02でほぼ完全に三次元秩序が破壊される。しかしCuO2面内の短 距離的な二次元反強磁性相関は更にドープが進んだ後にも残り,その相関は超伝導を示すホール濃度領 域(0.06勲≦0.27)においても存在していることから,磁性と超伝導の間に強い相関があることが推測さ れている。事実,La2謁r.CuO4の中性子非弾性散乱実験によって,超伝導領域にのみ存在するCuO2面内の 格子不整合な“動的な"磁気相関(スピン揺動)が,超伝導の発現に大きく寄与している可能性が示唆 されて来た。 これまでに観測されていた超伝導相における格子不整合な磁気相関は,純粋に動的な成分のみであっ たが,最近,La].6“Nd。,4Sr.Cuqにおいて,“静的な"格子不整合磁気相関を示す磁気弾性ピークが中性子散 乱によって発見され,この相関が,物質特有の構造である低温正方晶相の安定化によって出現すること が明らかになった。更に,静的相関は超伝導と競合して,超伝導を抑制する事も明らかにされ,これら 一連の現象を説明するモデルとして,“ストライプモデル"が提唱された。このモデルは,ドープされた ホールが運動エネルギーを得するためにストライプ上に配列し,ストライプをはさむ反強磁性的な相関 を持つドメインが互いの位相を反対にするように配列する,というモデルである。この“ストライプモ デル"の基本は,超伝導状態で存在していた動的なストライプ相関が何らかの原因によってピン止めさ れ,静的な成分が出現し,その結果超伝導が抑制されると考えるものであり,これまでに観測された現 象を矛盾無く説明することができる。 一方La㍑S!』CuO4は,ホール濃度劣∼1/8で若干の超伝導の抑制がある。これは高温超伝導体に共通して みられる現象で,“レ8問題"と呼ばれている。“ストライプモデル"の立場で考えると,低温正方晶の存在 一71一 ,,,,一」 「' しないLa2“Sr.CuO,1でも,κ∼1/8で静的な磁気相関の存在が示唆され,事実,La】,88Sr。.12CuO4の中性子回折 実験において,磁気弾性ピークが発見され,静的磁気相関の存在が示唆された。しかし,これまでの実 験は定量性が欠けていたため,詳細な議論を行なう事ができなかった。そこで本研究では,エネルギー 分解能の高い線源を用いて中性子散乱実験を行い,κ皿0.ユ2の磁気ピークの限りなく純粋な弾性散乱成分の 観測を試みた。その結果,緻密な解析に耐え得るS刀Vの良い磁気弾性ピークが格子不整合の位置に観測 された。そして装置分解能を考慮した磁気ピークスペクトルの線幅の解析によって,静的磁気相関の Cuo2面内の相関長はξ>200Aと見積もられた。更に磁気ピークの二次元面内のプロファイルを測定して 解析した結果,磁気相関が,CuO2面内にほぼ等方的に広がっていることがわかった。一方,CuOz面間の 相関は短距離になっている(く10A)事が,実験結果から示唆され,エニ0.12における磁気相関は二次元性 が非常に強い事が分かった。更に,静的相関の出現温度では,この試料の超伝導転移温度ηとほぼ一致 することが分かった。そして今回得られたκ=0.12における結果と,過剰酸素超伝導体La2CuO判.,ナで最近発 見された静的磁気相関と,三次元反強磁性秩序を持つLa2CuOdの磁気構造を比較して,この系の磁気構造 のモデルに関して議論を行なった。更に,静的磁気相関の,劣=0.12近傍のSr濃度依存性について系統的に 測定を行なった結果,磁気相関の出現温度プ,及びCuO2面内の磁気相関長ξはん∼1/8付近で最大値を持 つことを発見し,エー1/8付近における超伝導の抑制現象と強い相関があることが分かった。 以前報告されているLa1,幟Ndu,4S1』CuO4の結果から類推すると,L&1,88Sro.12CuOイにおける静的磁気秩序の 起源として,局所的な低温正方晶構造の存在,或いは,低温正方晶的な構造不安定性(構造揺らぎ)が 考えられる。前者に関しては,中性子散乱で低温正方晶特有の超格子反射の観測を行なって,低温正方 晶の体積分率を見積もった結果,最大で試料全体の1¥%以下になり,観測された磁気ピークの強度を考え ると,局所的な構造を起源とする可能性はほぼ棄却された。後者に関しては,低温正方晶への構造相転 移に強く相関したソフトフォノンの測定を行なって,その可能性を評価した。このソフトフォノンが, La1.8[,Srl],15CuO4において,超伝導転移温度乳,付近でソフト化が停止する現象が観測されており,この結果 から,超伝導と低温正方晶相は競合し,超伝導発現によって低温正方晶相への構造相転移が抑制される 事が示唆された。本研究では上記の実験事実を踏まえ,磁気ピークの観測に成功した試料と同一の炉0、12 試料,及びオーバードープ領域のκ=0.18試料を用いてフォノンの観測を試みた。その結果,κ=0.18につい ては炉0.15と同様に,超伝導発現によってフォノンのソフト化が停止する現象が確認された。しかし一方, 惣0.12に関しては,異付近で一旦停止するものの,温度の低下に従って再びソフト化していく事を発見し た。この結果は,欝0.12では低温正方晶的な構造の揺らぎが低温で進んでいることを示す重要な結果であ る。最後にフォノン測定で得た結果と,磁気相関の研究から得た結果から,La2“Sr.CuO、1の詫一工/8におけ る超伝導抑制の起源について考察を行なった。 2 [! } 論文審査の結果の要旨 木村宏之は高温超伝導銅酸化物のLa2謁r.CuO4系のx二1/8付近に特徴的に見られる超伝導の抑制効果と 最近発見された,超伝導相での反強磁性秩序状態がどの様に関係するのか,また磁気秩序の形成と超伝 導機構との関連を明らかにする目的で劣=0.12近傍の単結晶を育成して丁寧に中性子散乱研究を行った。 木村は劣=0.115で超伝導発見(τ=31K)とほぼ同じ温度でこの物質のスピンが結晶格子とは非整合の周 期構造の磁気オーダーをすることを見つけた。その上でこの新しい発見を基にして磁気秩序発現の起源 を明らかにした。 この新しい磁気秩序はκ=0.12(㌶1/8)のホール濃度で最も安定に存在し,磁気秩序の対称性が。面内 で反強磁性ブラッグ反射点(π,π)の周りに2回対称を持つ。劣をこの近傍で細かく変えた実験でκ= 0.12の濃度で最も秩序状態が発達をしていることを確認し,磁気秩序が超伝導を抑制すると推論している。 更に格子振動の研究から低温正方晶への格子変形の芽がその原因である可能性を追求した。 木村宏之提出の論文は従来の常識を覆す超伝導相での反強磁性秩序相との共存という間題を提起し, その起源を解明する糸口も与えた。従って,木村宏之は,相応の高い学問的見識を修得し,独立した研 究者として,博士(理学)の学位を得られるに相応しい者と認定する。 一73一 」
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