演が行われました. 太陽風プラズマ乱流の詳細な観測により,近年かなり高 インフォメーション 精度なデータが得られており,イオンジャイロ半径で規格 化して1程度の領域を境に磁場と電場揺動スペクトルの冪 が変化するなど,運動論的効果によると思われる現象が確 ■会議報告 実験室と宇宙プラズマにおけるジャイロ運動論 認されています.これらは磁気流体乱流に運動論的効果が 現れる典型例として注目され,ジャイロ運動論的シミュ 渡邉智彦,洲鎌英雄,沼波政倫 レーションとの比較研究が進展しています.これらについ (核融合科学研究所・総合研究大学院大学) て,Horbury,Bale,Kasper(また第2週目に G. Howes)に 英国・ケンブリッジのアイザック・ニュートン数理科学 よる報告がありました. 研究所において,2010年7月19日から8月13日まで4週間 トカマクプラズマ実 験 に つ い て は,DIII-D グ ル ー プ に渡って,ワークショップやセミナーからなる「実験室と (A. White,G. Mackee,L. Schmitz,T. Rhodes)による一 宇宙プラズマにおけるジャイロ運動論」と題するプログラ 連の講演がなされ,電子揺動スケールでの CECE 測定と ムが実施されました.このプログラムは,英国における GYRO コードによる計算結果の比較,イオン揺動スケール ジャイロ運動論研究グループの代表であるオックスフォー での BES 計測のレビュー,ドップラー散乱計測,および輸 ド大学の研究グループが中心となって企画され,実験室か 送モデルの validation のための実験・シミュレーションの ら天体プラズマ乱流におけるジャイロ運動論モデリングと 比較研究,などが報告されました.また,G. Hammett と シミュレーションおよびその応用について多くの講演と議 X. Garbet により,NSTX と Tore Supra 実験およびそれら 論が行われました.本プログラムの詳細はホームページ と関連したジャイロ運動論的シミュレーション研究につい http://www.newton.ac.uk/programmes/GYP/index.html て発表がありました.前者は特に電子熱輸送,後者はトロ に掲載されており, イダル回転に力点が置かれていました.また,JET の ITB http://www.newton.ac.uk/programmes/GYP/seminars/ 形成について de Vries が,C-Mod での自発的トロイダル回 index.html 転について Hutchinson がそれぞれ報告しました.ITB と自 にある講演プログラムから,講演ビデオを視聴することも 発回転は,ジャイロ運動論的シミュレーションではまだ十 できます.ちなみに,アイザック・ニュートン数理科学研 分に扱われておらず,今後の研究の展開を視野に入れた 究 所 は1992年 に 設 立 さ れ,1 993年 に は 数 学 者 ア ン ド テーマ設定でした. リュー・ワイルズがフェルマーの最終定理の証明を発表し トカマクプラズマの輸送理論に関連して,A. Peeters, た場所としても有名で,トイレやエレベーターの中にまで A. Smolyakov,M. Barnes,F. Parra らが講演を行いまし 議論用の黒板が設置されています. た.Barnes 等は,シア回転をとりいれたフラックスチュー プログラムにおいては,以下の11テーマが設定されました. ブモデルでの ITG 乱流シミュレーションを多数実行し,乱 1. Alpha particles, their transport and Alfvenic insta- 流輸送による実効プラントル数の速度シア依存性を評価し bilities ています.これと関連して Parra は,新古典輸送と異常輸 2. Astrophysical kinetics and gyrokinetics 送が与えるプラントル数曲線が解の分岐を記述するとの理 3. Phase-space turbulence, energy flows in GK 論モデルを導いています.さらにこうした乱流スケールと 4. Edge gyrokinetics 輸送スケール間の結合問題を扱うために開発しているマル 5. Global full-f simulations チスケールモデル,TRINITY についても報告がなされま 6. Hamiltonian gyrokinetics した. 7. Kinetic reconnection 一方,非軸対称型閉じ込め配位での輸送理論について, 8. Microtearing, high-beta GK P. Helander がステラレータ磁場配位でのプラズマ回転や 9. Sheared gyrokinetic turbulence, interactions be- ゾーナルフローについて講演し,洲鎌が3次元磁場構造と tween flows and turbulence 径電場がゾーナルフローと乱流に及ぼす影響,ならびに軸 10. Gyrokinetics for simple laboratory plasma configu- 対称および非軸対称トロイダルプラズマでの運動量バラン rations スと巨視的径電場の関連についてレビューを行いました. 11. Tokamak transport プラズマ回転や運動量輸送は,トカマクにおいて現在もっ それぞれのテ ー マ に つ い て,一 日 ま た は 半 日 の ワーク とも注目を集めているテーマの一つであり,参加者の関心 ショップが開催されるか,または関連したセミナーが行わ も総じて高かったと言えます. れ,moderator が議論や講演テーマの設定と舵取り役を担 講演の合間には,ポスターセッションが行われ(全3 2 いました.以下に,プログラムの概略を報告します. 件),沼波が LHD 実験とジャイロ運動論的シミュレーショ 第1週のワークショップでは,ジャイロ運動論の理論・ ンの比較解析について報告しました. シミュレーション研究者だけでなく,核融合およびプラズ 第2週目には,磁気リコネクション,ジャイロ運動論の マ基礎実験の研究者や太陽風プラズマの飛翔体観測を行う 周辺プラズマへの適用可能性,微視的ティアリング不安定 研究者も参加し,実験および観測面から25件のレビュー講 性,および,簡単な磁場配位での基礎実験とジャイロ運動 625 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.86, No.10 October 2010 ワークショップ参加者との集合写真(Photo by Sara Wilkinson, Isaac Newton Institute) 論的シミュレーションの比較,について一日または半日の ワークショップが設定されました.磁気リコネクションに つ い て は,B. Daughton,J. Drake,J. Egedal,B. Rogers 等が,宇宙プラズマを対象とした磁気リコネクションの運 動論的シミュレーションについて,特に,guide field があ る場合に見られる磁場の3次元構造の詳しい紹介を行いま した.また,J. Drake は,リコネクション電流を担う電子の シア流に伴なう KH 的な不安定性が異常粘性を引き起こ し,実効的な磁場凍結の破れをもたらすことを主張してい ました.周辺プラズマへのジャイロ運動論の適用について は,P.Catto がペデスタル領域におけるブートストラップ Isaac Newton Institute の外観 電流やイオン熱フラックスの導出について報告しました. また,強い径電場がある場合の無衝突極限での新古典分極 効果の理論モデルを求め,その減少からゾーナルフローの ついての理論・シミュレーション研究を紹介しました. 増大と乱流輸送の抑制を議論していました.F. Parra は, G. Plunk は,有限ジャイロ半径効果による位相混合過程を ペデスタル領域に適用するための新たなジャイロ運動論的 はじめ,最近の関連研究についてのレビューを行いまし オーダリングについての検討を紹介しました. た.また,その翌日,I. Abel がエントロピー保存をベース 基礎実験については,UCLA の LAPD 装置での径電場と に,局所フラックスチューブモデルとグローバルな輸送方 乱流揺動計測との比較からコードの validation を行うため 程式を結合させるための定式化への取り組みを紹介しまし の研究が始められつつあり,関連した実験およびシミュ た.これは1997年に Sugama-Horton により導出された理論 レーションの発表がなされました.また,PPPL の磁気リ の再検討として位置づけられ,M. Barnes による TRINITY コネクション実験 MRX を対象とした粒子シミュレーショ を用いたアプローチへの理論的背景を与えるものとして動 ンの結果も紹介されました. 機づけられています.こうした一連の発表からは,乱流生 第3週目からは,A. Brizard や T. Antonsen も参加し, 成とゾーナルフロー,異常輸送から新古典輸送を含めた輸 Hamiltonian gyrokineticsやEntropy flowについての議論が 送現象の全体像を,局所および全体系のエントロピー生成 行われました.A. Brizard は,Lagrangian formulation での と流出入,およびその輸送・散逸過程として捉えることの ジャイロ運動論的方程式の導出についてのレビューから, 重要性が見て取れます. 保存則の導出を経て得られる,Truncated(delta-f)gyroki- また,このプログラムの中心テーマであるジャイロ運動 netic Vlasov 方程式を紹介しました.そこでは通常は高次 論との直接的な関連は薄いですが,天体プラズマにおける 項として落とされる磁力線に平行方向の加速項を含む形式 磁気回転不安定性や磁気熱的不安定性などについて,高名 を扱っており,その重要性・必要性について参加者と議論 な天文学者である S. Balbus による2回の講演があり,注目 が交わされました. を集めていました.核融合プラズマの理論・シミュレー Gyrokinetic phase-space turbulence and energy flows に ション研究からはじまる分野間連携の裾野を広げる上で ついて,半日のワークショップ形式で会合がもたれ,渡邉 も,天体・宇宙プラズマ分野との交流の意義を感じまし と G. Plunk が招待講演を行いました.ジャイロ運動論で記 た. 述されるプラズマ乱流現象において,分布関数揺動がもつ 本プログラムの参加には,自然科学研究機構連携事業 「エントロピー変数」は,基本的かつ重要な物理量・指標で 「国際共同研究拠点ネットワーク活動の推進」およびアイ あることが認識されてきています.渡邉は,乱流輸送に ザック・ニュートン数理科学研究所から援助をいただきま よって生成されたエントロピー変数がどのように位相空間 した.ここに深く感謝いたします. 中を運ばれ衝突スケールで散逸するか,その一連のプロセ (原稿受付:2010年8月26日) ス,およびゾーナルフローと乱流間のエントロピー伝達に 626
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