1 記者会見要旨 日 時:平成22年3月23日(火) 午後1 - 東京証券取引所

記者会見要旨
日
場
会
見
斉
時:平成22年3月23日(火) 午後1時30分~午後2時20分
所:東証 ARROWS プレゼンテーション・ステージ
者:代表執行役社長 斉 藤 惇
藤
本日はまず、来年度、2010 年度における当取引所の事業計画につい
て説明します。
来年度は、2008 年度に策定した3ヵ年の中期経営計画の最終年度と
いうことになります。当時、中期経営計画を策定するに当たっては、
3年間の固定計画とし、原則として期間途中での見直しは行わないと
いう基本方針を立てましたので、2010 年度の事業計画についても、基
本的には現在の中期経営計画をベースに作成しています。したがいま
して、内容的にはあまり目新しいものはありません。
ただ、中期経営計画を策定した時点と現在とを比べますと、当取引
所の経営環境は明らかに異なっています。リーマン・ショック後の世
界的な景気停滞や各国の財政悪化・破綻などが露呈する中で、エクイ
ティ投資に向かう資金は大きく減少していますし、中でも日本株投資
への関心は、かなり薄らいでしまっているのが現状です。
また、市場構造としても、欧米では、いわゆるPTS、あるいはM
TFなど代替システムの台頭が目覚ましく、流動性の分裂化とか、規
制のフリーライドなどの問題が現実に発生しており、これは多分遠く
なく我が国にも波及すると見ています。
こうしたマクロ・ミクロ両面での経営環境の悪化といいますか、厳
しい状況については、東証も十分に考慮していかなければいけない問
題です。来年度は、現行の中期経営計画を引き継ぎながらも、社内全
体で危機感を共有しつつ、収益基盤を盤石なものにするための 1 年と
して位置づけていきたいと考えています。
とりわけ、300 億円を投資したアローヘッドについては、投下資金
を回収することはもちろんですが、多方面からの収益にも貢献できる
有用な武器でもありますので、今後、これを大いに活用していきたい
と考えています。
次のテーマは、配当指数先物取引という新たな先物商品の上場につ
いてです。
あまり聞き慣れないと思いますが、配当指数とは、ある株価指数を
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構成する銘柄を特定の期間保有している場合に受け取ることができ
る配当額を指数として表したものです。
具体的には、TOPIXの場合、構成銘柄は市場第1部銘柄ですか
ら、市場第1部に属する各銘柄に配当が行われる都度、実際には配当
を獲得できる権利が確定するたびに指数を更新していきます。理論的
には1月1日にゼロから始まり、1月から 12 月までの1年間を保有
期間の区切りとして考えますので、年末にかけて配当が確定するたび
に数値が加算されます。基本的には右肩上がりの指数となり、1年た
ったら、またゼロに戻すわけです。
また、こうした配当指数と先物価格との関係についてですが、お手
元の資料の後ろの方にグラフをつけていますので、ご覧いただければ
と思います。
これはドイツの例ですが、先物は期間の最後の配当指数の値がいく
らになるかをめぐって取引が行われますので、最初から最後まで価格
がそう大きく振れることはありません。一方、配当指数は期間の始ま
りからの配当の積み上げとして推移しますので、期中においては、こ
の両者は全く違った動き方を示すことになります。
今回、この先物取引の対象となる配当指数としましては、TOPI
X及びTOPIXコア 30 に係る配当指数のほか、日経新聞社さんか
らもライセンスを頂戴し、日経平均に係る配当指数も対象にしたいと
考えています。
ちなみに、現在の我が国の配当率は、平均で 1.5%から 2.0%程度
ですので、TOPIX配当指数の最終値は、15 から 20 ポイント程度
ではないかと試算されます。
この先物取引は、受け取る配当額が変動するリスクをカバーしたい
と考える国内外の機関投資家を中心に利用されることを見込んでい
ます。すでにOTCでは、このタイプの取引が相当な規模で行われて
いるようですので、当取引所に上場すれば、ある程度の取引量は期待
できるだろうと思います。
なお、取引の仔細については割愛しますが、本年の7月下旬を目途
に取引が開始できるように、準備を進めていきたいと考えています。
本日のご説明は、この2件です。
記
者 まず、3月末が締め切りとなっています独立役員の登録状況ですが、
これについて現状をお尋ねしたいのと、改めてこの独立役員というもの
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がコーポレート・ガバナンスで、どういう役割を果たしていくべきなの
かということについて、期待感をお聞かせください。
2つ目は、富士通について、今月上旬に社長交代の理由を変更した
ということで、東証のほうからは厳重注意ということを出されたので
すが、情報開示にどういう問題があったのか、社長としての見解をお
聞かせください。
以上、2点お願いします。
斉
藤 会社法にも社外役員の重要性はうたわれていて、社外役員を求めて
いますが、その資格などが必ずしも明確になっていないために、経営
者の親族や親会社から役員が派遣されていて、会社と直接の雇用関係
などがないというだけで、社外役員と定義されている。こうした実態
は本来、会社法が求めたものと違うと思うのです。
そこで、本当に経営陣から独立している、つまり社長さんから任命
されるより株主から選ばれるのが理想ですが、一般株主の利益を代表
する、そういう人が害されないよう、経営を監視する仕組みが必要だ
と考えて、今回、東証のルールとして独立役員の制度を設けることに
したわけです。経産省や金融庁からも、法律より東証で制度をつくっ
てほしいとの要請もあったので、それを受けた面もあります。
現時点では、424 社に登録いただいています。3月末までに、独立役
員を選定していない会社にも、一旦、現状を報告していただくことに
しています。株主総会は6月ごろが多いでしょうが、その翌日までに
は最低1名の方を選んでいただくという方針です。今のところ、延べ
で 705 人の独立役員が選ばれている。1社当たり 1.7 人程度になりま
す。
富士通の問題は、9月に代表取締役の異動をなさったわけですが、
4~5カ月たってその理由を修正されるという、あまり経験のないこ
とをやられた。
ただ、この理由によって、投資家の投資判断が大幅に誤らされるこ
とになるのかどうか、これはなかなか難しい問題ですが、今回は、そ
うとも言えないということで、改善報告書のような厳しい措置はとら
ず、厳重に注意した上で、十分に説明を尽くすように要請した次第で
す。
皆さんからは、まだ説明が足りないという声を聞きますので、富士
通さんという世界にも名前の通った上場会社として一流の会社ですし、
世界に株主がおられることだと思いますので、きちんと事情説明をさ
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れてしかるべきだと思うし、そうされるだろうと期待しています。
記
者 東証自身の上場計画についてお伺いします。2010 年度の事業計画が
策定されたということで、2010 年度以降の早い時期という当初の計画
について、変更があるのか、ないのかということと、時期的なめどや、
今後、焦点になる条件というのはどういうものになるのか、お考えを
お願いいたします。
斉
藤 前から申しますように、2010 年度以降、可及的速やかな時期におい
て、条件が整えば、上場手続に入りたいという考え方は全然変わって
いません。
今の状況で上場申請ができないのかどうか、いろんな意見があると
思います。特殊要因のため最終利益がプラスではないが、税前とか、
営業利益で見れば、それなりの成績を残している。そういう意味では、
ルール的に全く不可能であるかというと、そうでもないと思います。
ただ、我々は一方で上場審査をする立場にもありますので、自分の会
社には甘くするというようなことはできません。
実際、今年度も前年度も、通常の業務とは関係ないところで発生し
た処理、評価の問題により出ている赤字なので、それをどう考えるか
という問題もありますし、逆に、今期も、経常利益や営業利益では、
かなりいい数字が出ていますが、多くの増資が行われた結果の利益で
もありますので、これもならして考えなければいけないかもしれない。
上場するのかしないのか、いらいらしておられるかもしれませんが、
そうした点がきれいに説明できるようにならないと強行してはいけな
いのではないかと思っています。とはいえ、いろいろ事業計画を作っ
ていると、ある程度の資金ニーズもありますので、上場しないという
決定はしていません。
記
者
斉
藤 市場の出来高は世界的に減っています。東証だけではなく、特に伝
統的な大型市場、ロンドン、ニューヨークも減っています。それは、
最近、市場の出来高、売買代金でもかなり低迷しているのですが、
現状についてどういう要因があるのかという現状認識と、あと来期に
ついては、1兆 7000 億円という前提を置いていたかと思うのですが、
これについてどのような見通しを持たれているか。その2点をお願い
します。
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いくつかの不安要因が世界の投資家の中にあるからではないかと思い
ます。
1つはギリシャの問題。EUの問題がヘッジファンドなどを運用な
さっている方々にとっては、かなりセンシティブな問題だと思います。
この辺りの見通しが明確にならないと、という投資家もおられるでし
ょう。
もう1つは、これはほとんどそのとおり実現するとは思いませんが、
ボルカー・ルールのような極端な規制論が出てきた。今は、世界中ど
こも選挙を控えている。イギリスでも共和党、保守党ともに金融界に
対して厳しいルールをぶっている。これは、選挙を有利に導くためで
す。アメリカでは、昨日、健康保険関連の法案が通りましたが、11 月
の選挙に向けて、金融機関を救済するために、国が大量の債務を発行
して、子孫に債務を負担させるのはひどい話だとなっているわけです。
2008 年から 2009 年初期にかけては、何とかこの問題に対処しなけ
ればいけなかったので、オバマさんやガイトナーさんたちが国のカネ
を使って、民間金融機関の救済――救済だったかどうは別として――
を行ったことは、その時点ではあまり批判されませんでしたが、やは
りよく考えてみると、おかしいことをやったのではないか、民間金融
機関の自業自得であって、その救済のために、なぜ何十年にもわたっ
て国民が債務を負担しなければいけないのか、孫の代まで及ぶような
負担までして民間金融機関を救済する必要があるのか、そういう金融
機関は倒すべきだったのではないかという意見が今非常に力を持って
きました。
特に共和党のオピニオンリーダーたちが、金融市場に対する国家介
入はおかしい、もう少し自由市場でやるべきだったという論調にアメ
リカは戻ってきたわけです。ある意味では、アメリカのたくましさと
いいますか。したがって、連銀を中心にこの債務は早く解消するとい
う動きが出てきています。住宅不良債権の買入れも止めることになり
ます。
そういうことで、金融市場にはかなりの逆風が吹いていると投資家
は考えておられると思います。ですから、全体的に取引量が縮小して
いると理解しています。もうしばらくして見通しが立ってくれば情勢
も変わるでしょうし、それぞれの国で選挙が終われば、状況も少し変
わったものになるのではないかと思います。
1兆 7000 億円の前提は、来期も大きく変わっていないと考えてくだ
さい。その手のお話は、ここであまり申し上げられないのです。我々
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には上場する意思がありますので、事前の勧誘行為に当たってはいけ
ないということで、以前も申し上げましたが、上場が現実味を帯びて
きますと予想の話をしてはいけないことになります。したがいまして、
あまり細かいことは言えませんが、1兆 6000 億円、1兆 7000 億円と
いう数字は、大体そういう水準で考えています。
記
者 先ほどの質問と若干関連するとは思うのですが、日本株離れがかな
り顕著になっていることは事実だと思います。世界的なマクロ環境な
り、政治環境というのは、もちろんあると思いますが、日本株離れに
ついては、社長ご自身はどのように見ていらっしゃいますか。
斉
藤
投資家は、リターンがないものには投資しない。過去 20 年間で日本
株は 73%くらい下がっています。600 兆円以上あった時価総額が今は
300 兆円程度です。ちょうど 20 年前、中国の上海、香港、深センの3
市場を足した時価総額は 8 兆円くらいでした。しかし、今この3市場
を足しますと、530 兆円くらいになります。上海は香港を抜いて、確か
270~280 兆円で、東証のすぐそばまで来ています。
時価がそれだけ伸びたということは、株数も増えたということでし
ょうが、株価も上がっているということで、投資リターンの高いとこ
ろにお金がシフトしていく。何が投資リターンを高くするかというこ
とですが、やはりこれは資本を効率よく使っている国と使っていない
国の差です。
日本の今の株価は高いとは思いませんが、それでもPERでは 30 倍
もある。アメリカでもPERは 18 倍。上海も大体同じで、20 倍くら
い。日本のように資本を非効率に使っている国はないわけです。金融
資産は 1400 兆円あるということですが、一方で 800 兆円くらいの国債
残高があって、ほとんどの国民から国が借金をしていることになる。
自分が1回所得税を納めたそのカネで国債に投資して、それでその利
息からも税金をとられる。つまり国民は国に税金を2度納めているわ
けです。
そこまでしているのに、この国は過去 15 年くらいの間、GDPの実
質成長は1%に満たない。資本の無駄遣いが非常に多いということで
す。
ちなみに 800 兆円をアメリカの財務省債券、平均3%ですが、それ
で回しておけば、単純計算では 20 年間で 1200 兆円になる。あれだけ
下がったアメリカの株でも年間では平均 7.8%のリターンがある。これ
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で運用しておけば、800 兆円が 20 年間で 3200 兆円になっています。
つまり、日本でもリスク・リターン理論をきちんと展開しながら、
資本効率がいかに重要かということを真剣に考えていれば、本来は年
金問題も医療保険問題も起こらなかったはずです。家計勘定に 1400 兆
円もの金融資産がある。日本のGDP500 兆円に比べても、非常に大き
な家計勘定を持っている。そのカネを国や社会、あるいは事業会社が
世界の平均以上に回し切らない。これがこの 20 年間の悲劇です。
もちろん、個々の政策の問題もありますが、私はやはりプラザ合意
とか日米構造協議というものが非常に効いていると思います。30 年く
らいずっと成長していって、85 年のプラザ合意、90 年の日米構造協議
をピークにして、20 年以上ずっと富士山の裾野のように下がってきて
いる。ROEが低くては、株主は投資の対象として選ばない。
よくアメリカの成長は止まっているようなことを言いますが、個別
銘柄を見ますと、すごい実績を挙げている会社がたくさん上場してい
ます。20 年か 30 年単位でトップ 150 くらいの企業を並べてご覧にな
ると、日本はほとんど変わっていません。アメリカは、GMも消えま
したし、IBMも下の方へ行っています。グーグルのように、ついこ
の前まで存在すらしなかった会社が上から3番目か4番目に出てきて
いるというように、イノベーションや競争を通して強い企業が出てく
る。社会がダイナミックに動いているわけです。やはり日本はリスク
を回避しすぎると思います。
リスクをとらないでリターンを得ることはできません。リスクをと
れるような社会を作らないと、強引に日本株にお金を持ってくること
などできないわけです。日本人ですら、日本株を買わないで、成長し
ているところに投資している。私は個人的にそうした投資には少し疑
義があります。それならETFなどを買う方ほうがいいのではないか
と思います。あまり情報も得られない、どのくらいの正確な情報があ
るかもわからないような市場に行くのは、どうなのでしょうか。それ
を勧誘する証券会社の姿勢にもいささか問題があるかもしれない。利
益にさえなればよいと、情報があまりない個人投資家をそういう市場
に勧誘するのはいかがなものかと私は思っています。
そういう点で言えば、東証は情報も十分に公開している。今年だけ
見れば、TOPIXのパフォーマンスは世界的にも非常によろしいわ
けでして、できるだけ早い時点で日本経済が回復して、再び皆さんの
投資対象になることを願っています。
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先ほど大阪証券取引所が日経 225 先物とかのデリバティブ取引で、
昼休みを廃止するというような方向性を打ち出したのですが、昼休み
があるのは、香港など一部を除きまして、グローバル・スタンダード
で見るとあまりないと思います。東証も今後グローバル・スタンダー
ドを目指す上で、どのような方向性でこの昼休みの問題に当たってい
かれるのか。その辺、社長の現在のご見解をお伺いできればと思いま
す。
記
者
斉
藤 よくグローバル・スタンダードでという話になるのですが、我々は
これまでも、昼休みや夜間取引の問題を検討すべく、利用者向けの調
査を何度も繰り返していますが、いつも昼休みは残しておいてほしい、
24 時間、夜中の取引はあまり意味がないという答えなのです。
お昼に大阪で先物を取引しているときに、現物を中断するのはいか
がなものかという話が出るかもしれませんが、今でも日経 225 はシン
ガポールやシカゴで東証が開いていない時間帯でも取引されています。
だから東証が大阪に合わせないといけないとか、そういうことにはな
らない。
大事なことは、投資家の方々の利便性です。納得いただける制度を
提供するのが取引所の役割です。グローバル・スタンダードという言
葉はありますが、それは具体的、学問的にあるわけではない。それが
一番便利だと思って、ウォール街で導入されただけです。その辺は客
観的に考えたらいいと思います。
ただ、利用される方が、大阪の先物は昼休みもなくなったのだし、
東証も昼休みをなくせとおっしゃるのであれば、それはなくさざるを
得ないかもしれません。そこは臨機応変にやります。あくまでもマー
ケットに聞くということです。
記
者
よろしくお願いします。
まもなく多くの会社が年度末を迎えます。一般的な質問ですが、株
主還元について斉藤社長の考えを聞きたいと思います。
今年度従業員のお給料というのは減ったり、伸びていないところも
多いですし、設備投資も我慢しているところも多いと思います。そう
いうこともあって、企業の利益は回復しているわけで、その中での株
主還元ということですが、株主も三方一両損ではありませんが、ちょ
っと我慢してもらうというほうがいいのか。また、利益は出ているの
だから、きちんと還元したほうがいいのか。配当とか、優待とかいろ
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いろなことがありますが、この辺、難しいバランスだと思いますが、
斉藤さんとしてはどのような考えをお持ちかお聞かせください。
斉
藤 なかなか難しい話です。アメリカの上場企業で配当している会社と
配当していない会社はかなり拮抗しているのではないかと思います。
配当するということは、そのお金を事業に再投資して、市場金利より
もさらに高いリターン、財務会計ではIRRと言いますが、IRRが
市場金利を上回るときには、株主は必ずしも配当をよこせとは言わな
いというのが理論です。
例えば、配当をもらっても、1%程度でしか運用できない場合に、企
業にそのお金を置いておけば、その企業が事業に再投資して、例えば
3%とか7%の価値を生むのであれば、配当などしないほうがいい。そ
の結果、株が上がる。
配当をどんどん出す会社が必ずしも優秀な会社というわけでもない。
自分の中で成長事業がないため現金が余ってしまう、だから、株主へ返
しましょうという会社もある。
そういう意味では、社員の給料をカットし現金を確保して、それを
株主に配当するのは、少しおかしいです。株主がカネをもらって、従
業員が犠牲になっているという状況は、財務分析論的には、そういう
ことにはならないはずです。現実はそうかもしれませんが、株主が異
常に高い配当を求めるのは、あまり健全な姿とは思いません。
新商品開発などによって利益が出て配当も高くなるのはいいと思い
ますが、そうではなくて、従業員にボーナスも払わないとか、将来に
向かって採用すべき人材も採らないで、株主配当を優先するという論
理は、本来はないと思います。
記
者 1つだけ。新規公開についてですが、第一生命が今度上場しますし、
東京メトロとか、大型上場が控えているのですが、それ以上にベンチャ
ー企業に対して、1つは、雪解けの状態になり始めてきているのか。ま
た、そういう状態があるなしにかかわらず、成長分野としてどういう分
野、どういう企業が出てくることを期待するというのがあったら教えて
ください。
斉
藤
ベンチャー、新興企業というものに対しては多いに期待しています。
オーバーな言い方をすると、取引所というのは、本来はそのためにあ
るのではないかと思っているくらいです。先ほど言いましたように、
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成熟した会社だけだと国家や社会は成長しない。やっぱりダイナミッ
クなリスクをとることが必要です。リスクをとるという意味は、チャ
レンジをするということです。
堅い話になりますが、昔、シカゴ大学のマルコヴィッツが投資理論
を開発し、ノーベル賞をもらいました。どういう業種だとか、どう組
み合わせたときに、リスクリターン・カーブが一番効果的になるかと
いう分散理論を開発したわけです。
その後、ベンチャー企業と成熟企業を組み合わせたら、どういうリ
ターンが出るかとかが研究されてきた。今日、ウォール街の数学のゲ
ームのように見えてしまうのですが、レバレッジをかけるのも、実は
理論的な背景があってのことです。リスクをどの程度とるのかも全部
数理的に計算できている。そういう意味ではベンチャー企業、新興企
業というのは非常に大事なのです。私はマザーズと TOKYO AIM に期
待しています。
金融機関ではお金を貸せないが、将来大きな利益が出るかもしれな
い、技術開発力があるかもしれない、という会社にリスクマネーを供
給するのが取引所の仕事です。我々は銀行ではありません。ですから、
大いに資金ニーズのあるベンチャー的な会社に来ていただきたい。
期待する業種は何かというと、デフレの一番の原因は過剰生産です
から、大量生産、大量消費というビジネスモデルは、もはや日本の場
合は当てはまらないのだと思います。物を作れば作るほど、ますます
値下げ競争に入っていくだけで、一部の会社が利益を出しても、ほと
んどの会社が倒れていく。下へ向かった競争ではどうしょうもない。
したがって、需要はあるけれど物の量ではない業種。テレビを買っ
たとしても、1軒に 10 台も買うことはおそらくないでしょう。だから、
物の量ではなくて、ニーズはものすごくあるもの、例えば医療とか、
環境関連とか。また、制度上いろいろ難しい面はありますが、私は農
業についても本来はすごく需要があるものだと思います。食料や環境
に関連したベンチャー企業が来て、どんどんファイナンスして伸びて
くれたらと思います。
以 上
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