Microsoft PowerPoint - \215u\213`\216\374\216Y\212\3722011-2.ppt

「周産期病とその予防②
ー乳熱とその予防」
京都大学大学院農学研究科
久米新一
乳熱発生のメカニズム
・生物は海から生まれた(血液成分は海水
の成分(ミネラル)と類似している)
・ミネラルによる動物の恒常性維持
体
内
の
恒
常
性
維
持
細胞内液と外液のイオン組成(mM)
陽・陰イオン 細胞内液
細胞外液
Na+
5-15
145
K+
140
5
Ca2+
10-4
1-2
Mg2+
0.5
1-2
H+
7x10-5
4x10-5
(pH)
(7.2)
(7.4)
Cl5-30
110
HCO310
30
血漿の浸透圧は約280mOsm/kgH2O
カルシウムの働き
• Caは骨の主要成分で、骨に局在している
(99%)が、血漿中のCa濃度は非常に狭い範
囲内(9-10mg/dl)に維持されている
• Caは細胞と血液間の濃度差が大きく(1万分
の1)、この濃度差を利用してさまざまな働き
をしている
1.細胞間の情報伝達、細胞の接着
2.神経の興奮伝達、内・外分泌線の機能調節
3.筋肉の収縮
4.血液凝固
リンの働き
PはCaとともに骨の主要成分で、骨に局在し
ている(85%)が、恒常性維持のために体内で
非常に重要な働きをしている
↓
1.体内のエネルギー源(ATP,GTPなど)
2.遺伝子(核酸)の成分
3.体内の情報伝達系の働き
4.生体膜(リン脂質)の成分
Kinaseカスケード
キナーゼ:タンパク質をリン酸化する酵素
カ スケード 反応
環状A MP
AA キナーゼ
kinase
リン
タ ン パクkinase
キナーゼ
Protein
活性型
A TP
↓
A DP
活性型
Protein
A TP → A DP
kinase
タ ン パク キナーゼ
活性型
ATPなどのリン酸を利用して、細胞内に情報を伝
達する:細胞内の代謝を促進
血漿中Ca濃度の調節因子
ー厳密な制御
1.副甲状腺ホルモン(PTH)
2.活性型ビタミンD(1,25(OH)2D3)
3.カルシトニン(CT)
4.その他の因子(成長ホルモン、エストロ
ゲン、アンドロゲン、副腎皮質ホルモン、
甲状腺ホルモンなど)
図、アルファルファ給与区 (◆) とコーン+アル
ファルファ給与区(▲)の血漿CaとPi濃度
血漿 Pi (mg/dl)
血漿中
血漿中Ca
Ca (mg/dl)
11
10
9
6
4
8
2
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
血漿CaとPi濃度を正常に維持して、乳熱を予防する
7
血漿 1,25(OH)2D (pg/ml)
図、アルファルファ給与区 (◆) とコーン+アルファル
ファ給与区(▲)の血漿PTHと活性型ビタミンD濃度
血漿中
血漿中PTH
PTH (pg/ml)
1000
500
150
100
50
0
0
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
血漿中副甲状腺ホルモンと活性型ビタミンDは分娩
直後に急増して、乳熱を予防する
7
乳牛の分娩前後のCa代謝
(乳熱予防に対する適応反応)
副甲状腺ホルモン分泌→ 腎臓:Ca再吸収
(PTH)
↓
骨吸収の増加
(PTH受容体)
↓
活性型VD分泌
↓
小腸のCa吸収増加
(ビタミンD受容体)
↓
分娩時におけるCa代謝の正常化
NRC2001の乳熱発生要因
1)KあるいはNa過剰摂取による代謝性アルカローシス
↓
副甲状腺ホルモン(PTH)受容体の機能低下
↓
活性型ビタミンD低下によるCa吸収量減少・
骨吸収減少
2)妊娠牛の低Mg血症
↓
PTH分泌量減少とPTH受容体の機能低下
表、乳牛のK摂取量と乳熱発生、低Ca血症
(7.5mg/dl以下)の関係(Goff,1997)
飼料中K
1.1%
2.1%
3.1%
全Ca
Ca, 0.5%(発生頭数/供試頭数)
乳熱発生 0/10
4/11
8/10
12/31
低Ca血症 9/10 11/11 10/10
30/31
Ca, 1.5%
乳熱発生 2/10
6/9
3/13
11/32
低Ca血症 9/10
9/9
12/13
30/32
全K
乳熱発生 2/20
10/20 11/23
低Ca血症 18/20 20/20 22/23
血漿中PTH (pg/ml)
血漿中Ca (mg/dl)
図、グラス区(◆)、アルファルファ-正常
(▲)、アルファファ-乳熱(■)の血液成分
10
8
6
4
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
1500
1000
500
0
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
アルファルファ給与による乳熱発生:PTHの分泌は正
常なため、発生要因は多い
図、グラス区(◆)、アルファルファ-正常
(▲)、アルファファ-乳熱(■)の血液成分
血漿
血漿Mg
Mg (mg/dl)
血漿中
血漿中Pi
Pi (mg/dl)
8
6
4
2
2.5
2
1.5
1
0
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
血漿Pi濃度は低下するが、血漿Mg濃度は正常
7
図、乳牛のCa、PとMg出納
牛乳
P出納(g/
g/日)
Ca出納(g/
g/日)
150
糞
蓄積
60
糞
40
20
0
0
泌乳牛
40
蓄積
50
乾乳牛
牛乳
尿
尿
100
50
牛乳
Mg出納(g/
g/日)
200
80
30
尿
糞
蓄積
20
10
0
乾乳牛
泌乳牛
乾乳牛
泌乳牛
CaとPと比べて、Mgは乳中への分泌量が非常に少ない
マグネシウムの働き
• 乳牛体内に含まれているMgの約60%は骨
格に存在し、Mgは体内で酵素の活性化、神
経伝達、骨の形成などの働きをしている
• 乳牛のMgの主な吸収部位はルーメンである
が、ルーメンpHが6.5を超えるとMgの溶解性
が低下し、Mgの吸収率も低下する
• 飼料中のK含量が高いとルーメンpHが上昇
し、KはMgの吸収に対して拮抗的に作用す
るため、乾乳後期には乳熱予防のためにMg
の給与量を増やすことが推奨されている
図、乾草給与後の羊のルーメン液中
ミネラル濃度の変動:
ミネ ラル 濃 度 (% )
K
Na
0.15
0.1
ミ ネ ラ ル 濃 度 ( pp m )
100
0.2
Ca
Mg
80
60
40
20
-2
0
2 4
6 8
乾草給与後(時間)
10
12
-2
0
2
4
6
8
乾草給与後(時間)
10
Mgの吸収部位はルーメン:Kによる阻害
12
ミネラル栄養の改善による
乳熱の予防
・乳熱発生要因を除くことが重要
・イオンバランスとカリウム
カチオン・アニオンバランス(DCAD)
の利用(NRC2001)
飼料中のカチオンとアニオンの差(ミリ当量表示)
1)Enderの式:乳熱予防で一般的に使われる式
(Na+K)-(Cl+S)---負(-)にすることがよい
↓
乳熱予防で利用(ノルウエーの研究成果(1984
年)の再評価(低Ca給与ではなく))
2)Monginの式:暑熱ストレスでよく利用される式
(Na+K)-Cl---正(+)にすることがよい
(1970-1980年代に研究が進展)
100
60
80
50
NDF (%)
草丈(cm)
図、アルファルファの一番草(◆)、2番
草(■)、3番草(▲)の草丈とNDF
60
40
40
30
20
20
10
20
CP (%)
30
10
20
CP (%)
30
図、アルファルファの1番草(◆)、2番草
(■)、3番草(▲)のミネラル成分
4
K (%)
Ca (%)
1.5
1
3
2
1
0.5
10
20
CP (%)
30
10
20
CP (%)
アルファルファのカルシウム含量はほぼ一定であるが、
カリウム含量は生育初期に高濃度になる
30
図、アルファルファの葉と茎のCP含量
葉
茎
比 率 (% )
60
50
40
30
葉
茎
全体
40
タ ン パ ク 質 (% )
70
30
20
10
0
5
6
7
8
月
9
10
5
6
7
8
月
葉に栄養素が多い:茎はリグニンなど
9
10
図、アルファルファの葉と茎のCaとK含量
葉
3
2
K(% )
C a (% )
茎
1
5
葉
4
茎
3
2
1
0
0
5
6
7
8
月
9
10
5
6
7
8
9
10
月
カリウムは葉よりも茎に多いことから、収穫などで葉が脱
落するとカリウム含量はさらに増加する(輸入も同様)
放牧草(忠類:3戸)のCPとカリウム含
量--メドウフェスク草地(◆)と対照草地(◆)
4
3.5
K(%)
CP(%)
30
20
3
2.5
10
4
6
8
10
4
6
月
放牧草は高CP・高K飼料
8
月
10
飼料のイオンバランス(DCAD)
Na
K
Cl
S DCAD
配合飼料
0.10 0.81 0.20 0.22
59
大豆粕
0.02 2.33 0.02 0.40 350
イタリアンライグラス 0.08 3.13 1.79 0.24 184
アルファルファ
0.05 3.23 1.02 0.29 379
オーチャードグラス 0.27 2.11 1.17 0.21 200
コーンサイレージ
0.03 1.00 0.27 0.09 139
注)DCAD=((Na/23.0+K/39.1)-(Cl/35.5+S/16.0))
×10,000(㍉当量/kg)
飼料は乾物当たり%
図、乳牛のカリウム摂取量と尿量の関係
乳
400
30
糞
蓄積
尿量(kg/
(kg/日)
K出納 (g/日
日)
300
y = 0.0688x + 2.4733
R² = 0.943
尿
200
20
10
100
0
0
乾乳牛
泌乳牛
0
100
200
300
400
尿中K排泄量(g/日)
500
カリウム排泄のために大量の飲料水が必要になる:
水が不足するとカリウムを排泄できない
乳牛の尿中pH:尿中K含量の関係
8.6
尿中pH
尿中pH
8.6
8.2
7.8
y = 0.64 x + 7.32
R 2 = 0.45
7.4
8.2
7.8
y = 0.004 x + 7.399
R 2 = 0.270
7.4
7
7
0.0
0.5
1.0
尿中K(%)
1.5
2.0
100
150
200
K摂取量(g/日)
250
カリウム摂取量の増加によって尿中カリウム含量が上昇
し、最終的に尿中pHが増加(アルカリ尿)
表.乾乳牛のK出納
牧草 牧草+トウモロコシ トウモロコシ
(n=24)
(n=4)
(n=6)
DMI、kg/日
7.9a
水摂取量、kg/日34.0a
尿量、kg/日
13.7a
飼料中K、%
2.7a
K摂取量、g/日 210a
K尿中排泄量 165a
K蓄積量
14
a,b P<0.05
7.2
24.8b
9.4
1.8b
132b
113
-7
6.8b
18.1b
7.5b
1.3b
86b
65b
2
表、分娩前のDCADと乳熱(n=45)
の関係(Joyceら、1997)
+30G
+30A
-7AD
DCAD、ミリ当量/kg
300
350
-70
K含量、%
1.72
2.40
2.51
疾病発生率(頭数当たり)
乳熱
3/15
3/15
2/15
非臨床性乳熱
3/15
8/15
4/15
第4胃変位
3/15
2/15
1/15
非臨床性ケトーシス
3/15
2/15
0/15
G:グラス主体給与区、A:アルファルファ主体給与区
AD:アルファルファ主体給与+DCAD区
(Charbonneauら、2006)
図、DCAD(5種類の式)給与と乳熱の関係
NRC2001の乳熱予防法
1)飼料中のKあるいはNaの低減
・飼料配合、コーンサイレージ利用によるK低減
2)陰イオン塩の給与
・ (Na+K)-(Cl+S) の式で0ミリ当量/kg程度
3)Mg剤の給与
・分娩前の飼料中Mg含量:0.35-0.40%
4)CaとPの給与
・適正なCa給与量は未定、P給与量は40-50g
乳熱予防に適した移行期の
栄養管理
1.TMR給与により、分娩直後の乾物摂取量の早
期増加と飼料中ミネラル含量の適正化(要求量を
満たす)を図る
2.分娩前はK給与量を低減し(2%以下)、陰イオ
ン塩飼料の利用は必要最低限にする
3.分娩後は飼料中のCaとP含量を高め、CaとP摂
取量の早期増加を図る
↓
乳熱予防と乾物摂取量・乳量増加
初産牛と経産牛の栄養管理と
周産期病の予防
初産月齢の早期化:1980年(■)と2004
年(▲)米国のホルスタイン種乳牛
(Hareら、2006)
表、初産月齢の違いによる乳生産
月齢
24.5 22.0 21.3
頭数
84
65
85
増体率, kg/日
0.68 0.83 0.94
分娩時体重, kg
550
529
520
初産乳量,kg/日 9873 9620 9387
頭数(2産)
50
40
63
2産乳量,kg/日 11030 10940 11116
(Van Amburghら、1998)
初産月齢早期化(21ヶ月齢):乳生産、繁殖などに
問題なければ、コスト低減の効果が大きい
高タンパク質・低脂肪の人工乳給与:体高に効果
育成牛の体重、体高の変動
(北農研、1994-1997年:
: n=40)
140
600
体 高 (c m )
体 重 (k g)
500
400
300
200
120
100
80
100
0
60
0
4
8
12
月齢
16
20
24
0
4
8
12
月齢
16
20
12ヶ月齢:体重(366kg)、体高(127cm)
受精開始時の目安:体重(350kg)、体高(125cm)
24
45
40
35
30
25
20
700
体 重 (kg)
乳 量 (k g / 日 )
乳量と体重の産次による変動
600
500
0
2
4
6
泌乳期(月)
8
10
0
2
4
6
泌乳期 (月)
8
図. 初産 (◆
◆), 2産 (▲
▲), 3産 (●
●), 4産 (■
■), 5産以上 (◆
◆)
の乳牛(n=125)
の乳量と体重(1994-1997年:北農研)
の乳牛
初産牛は泌乳前期に増体も必要
10
表、乳牛と子牛の分娩直後の体重
初産
例数
27
月齢
25.5
妊娠期間, 日 282
体重, kg
602c
生時体重, kg 43.3b
2産
14
38.2
282
648b
47.0a
3産 4産以上
8
14
49.1
76.0
281
284
666b
762a
47.9a 47.7a
a,b,c P<0.05
栄養管理が良ければ、1年1産も可能
図1、初産(◆)、2産(■)、3産(●)および
4産以上(▲)の牛の乳量と体重(n=65)
40
体重 (kg/日)
乳量(kg/日)
800
30
20
10
700
600
500
0
2
4
分娩後(日)
6
-14
-7
0
分娩前後(日)
3産以上の分娩後の体重減少(5.4kg/日)が著しい
7
遊離脂肪酸 (mEq/l)
グルコース (mg/dl)
図2、初産(◆)、2産(■)、3産(●)および
4産以上(▲)の牛の血漿中グルコースと
遊離脂肪酸濃度(n=65)
100
80
60
40
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-14
-7
0
分娩前後(日)
老齢牛になると、脂肪肝・ケトーシスになりやすい
7
図3、初産(◆)、2産(■)、3産(●)および
4産以上(▲)の牛の血漿中CaとPi濃度
6
血漿中Pi (mg/dl)
血漿中Ca (mg/dl)
10
9
8
5
4
3
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
3産以上になると、乳熱になりやすい
7
表3、乳牛の分娩直後の血液成分 (a,b,c <0.05)
初産 2産 3産 4産以上
グルコース,mg/dl 91.7a 76.8b 86.1ab 81.4b
NEFA,mEq/l
566b 479b 520b 793a
インシュリン, µU/ml 9.2 6.9 5.5
5.7
Ca,mg/dl
8.8a 8.6ab 8.1bc 7.5c
Pi,mg/dl
4.8a 4.7ab 3.9bc 3.7c
ALP,IU/l
219a 152b 125bc 102c
PTH,pg/ml
166b 425b 385b 1012a
老齢牛ではPTHの分泌量が多くても低Caになる
分娩前後の初産牛と経産牛の栄養管理
・初産牛:成長段階にあることと初産乳量の増加
が顕著なため、受胎しない牛が増加傾向
↓
分娩直後のエネルギーの早期回復が重要
・経産牛:乳量増加による移行期の疾病増加、
繁殖成績の低下が顕著
↓
乳熱、ケトーシス、脂肪肝などの疾病予防を考
慮した栄養管理改善による効果が大きい