「周産期病とその予防①」

「周産期病とその予防①」
京都大学大学院農学研究科
久米新一
周産期病の発生要因は?
・動物は分娩時にさまざまなリスクが発生する
が、体内代謝などを適応させてリスクを回避す
るしくみがある
・高泌乳牛では遺伝的能力が向上したため、
分娩時のリスクが高まっている(NEFA増加、
低Ca血症など)
・不適切な栄養管理などが加わると代謝機能
が阻害され、周産期病が多発する
周産期病の予防は?
・周産期病の発生にはさまざまな要因が複雑
に関与している
・高泌乳牛の体内代謝を正常化する栄養管理
を実践し、周産期病を予防する
・周産期病の予防(優先順位):エネルギー不
足と低Ca血症を改善することが重要
ビタミン・微量ミネラル
・抗酸化物質の不足
分娩前後の
DMI減少
負のエネルギー・
タンパク質バランス
NEFA増加
跛行
免疫能低下
ケトーシス・
脂肪肝
乳房炎
高DCAD・
低Mg飼料
飼料
低Ca血症
血症
筋収縮減退
乳熱
胎盤停滞
・子宮炎
ルーメン
アシドーシス
周産期病の発生要因
飼料中有効繊維の不足
第四胃変位
Goff(2006)
)
乳牛の除籍理由(牛群検定成績:平成22年)
25
20
15
%
北海道
10
都府県
5
0
乳用売却 低能力 繁殖障害
肢蹄故障
消化器病
起立不能
乳房炎
疾病 乳器障害 死亡
北海道 都府県
12.7
4.7
2.2
1.9
5.0
2.7
16.4
6.2
図、乳量増加と乳牛の生体機能
(牛群検定:北海道(◆)と都府県(■))
10000
乳量
乳量(kg)
(kg)
9000
8000
7000
6000
5000
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
年
乳牛:摂取した栄養素を
乳生産に優先的に利用する
• 乳牛の乳量が急増したが、
遺伝子・細胞・組織・器官
の何が変わったか?(体内
の何が変わったか?(体内
代謝が活発になり、酸素消
費量・血流量が増加)
• 動物の細胞(約60兆)は1
動物の細胞(約 兆)は1
年で90%以上入れ替わる
年で %以上入れ替わる
が、生体機能に変化は生じ
るか?
↓
• 後継牛の遺伝的能力は母
牛より高い(栄養管理の改
善が常に必要)
50
24
乳量(kg/日)
乾物摂取量(kg/日)
図、分娩直後の乳牛の特徴:乳量の急増
と不十分な乾物摂取量による栄養不足
20
16
12
8
40
30
20
-14
0
14
分娩前後(日)
28
42
0
14
血漿中遊離脂肪酸(mEq/l)
体重(kg)
600
500
-14
0
14
分娩前後(日)
28
42
42
分娩後(日)
800
700
28
1.2
0.8
0.4
0
-14
0
14
28
分娩前後(日)
42
56
移行期(周産期)の栄養管理の重要性
--乳牛の栄養管理のFinal Frontier
移行期(Transition Period)とは
分娩前3週間と分娩後3週間の期間:
栄養管理の最も難しい時期(1995年の
J.Animal Scienceの3編の論文を契機)
↓
移行期の栄養管理が不十分だと
--代謝障害の増加、乳生産・繁殖成
績の低下
高泌乳牛の代謝特性と周産期病
・体内代謝の急激な変動:リスク要因
・栄養管理などの不備:周産期病の増加
・周産期の免疫機能の低下
表,分娩1週間前(3日間)と分娩2ー4
日後(3日間)の乾物摂取量(n=4)
分娩前
グラス アルファルファ
体重, kg
754
増体, kg/日
0.15
DMI,kg/日
10.0
乳量, kg/日
乾物消化率, % 74.1
CP消化率,% 71.8
N蓄積量, g/日 49
733
0.65
11.0
70.8
70.8
64
分娩後
グラス アルファルファ
711
-4.79
13.3
29.5
71.6
70.5
-93
643
-6.50
13.3
31.9
73.1
72.5
-72
分娩直後:消化率は高いが、DMIが極度に少ない
エネルギー摂取
(炭水化物・脂肪・蛋白質)
糞
肺
O2 CO2
尿・糞
(VFA)
エネルギー基質+O2
CO2+H2O+N化合物
乳成分
貯蔵(グリコーゲン・
体脂肪・アミノ酸)
61
ATP :39
熱
(エネルギー源)
体内代謝
(乳生産)
(乳生産)
図、分娩直後の乳牛のエネルギー代謝
乳牛のエネルギー利用
ルーメン 粘膜 肝臓 末梢血 末梢組織
酢酸
酢酸
プロピオン酸
糖新生 グルコース グルコース
酪酸
β-ヒドロ
β-ヒドロ
オキシ酪酸
オキシ酪酸
・酢酸の78%は骨格筋、心筋、乳腺などで消費
(末梢血VFAの95%は酢酸:エネルギー源)
・分娩前後には筋肉のアミノ酸などから、糖新生
でグルコースを産生することが必要になる
(タンパク質をエネルギーとして使いたくない)
図、乳牛の乳量と乳糖の関係
(グルコースの必要性)
45
5
40
4.5
乳成分(%)
乳 量 (k g / 日 )
脂肪率
蛋白質
乳糖
35
30
25
20
4
3.5
3
2.5
0
2
4
6
泌乳期(月)
8
10
0
2
4
6
泌乳期(月)
8
乳量増加は乳糖(グルコース)の増加が重要:浸透圧
の関係(乳糖が多いと乳腺に水の移行が増加する)
10
ケトーシス・脂肪肝の発生
ケトーシス:分娩直後の体脂肪の大量動員によ
り血中遊離脂肪酸が急増して脂肪酸代謝障
害が生じると,体内にアセト酢酸などのケトン
体が増加し,痙攣,麻痺などの脳・神経障害
を起こす(糖質不足:血漿グルコースの低下)
脂肪肝:肝臓に大量に動員された脂肪を処理で
きなくなると大量のケトン体の生成による重度
の中毒症状と肝機能の減退を示す
↓
分娩直後~10日頃までのエネルギー代謝異常
(不足)によるケトーシス・脂肪肝が問題(1980
年代:分娩2~4週後に多発)
図、初乳中への免疫・栄養成分の分泌
--子牛の健康維持と乳房炎の予防
タンパク質
脂肪
乳糖
乳成分(
乳成分(mg/dl
mg/dl
mg/dl)
)
乳成分(%)
15
Ca
P
K
250
10
5
200
150
100
0
0
1
2
分娩後(日)
3
4
0
1
2
3
分娩後(日)
・初乳量の急増による乳中への栄養素の多量分泌が
周産期病の一因になる:カルシウムとリン
4
乳牛の分娩直後のCa出納(g/日)
飼料
腸
細胞外液Ca貯蔵量
(8-10g)
血漿中Ca貯蔵量
(2.5-3.0g)
乳
尿
(0.2-1.0g) (20-30g)
骨
(Caの99%)
糞
胎児
(0)
・初乳中への急激なCa分泌量への対応が遅れる
表,分娩1週間前(3日間)と分娩2ー4日
後(3日間)のミネラル出納(n=4)
分娩前
グラス アルファルファ
DCAD, meq/kg 178
186
尿量, kg/日
11.3
12.6
尿中pH
8.20
8.31
Ca摂取量,g/日 46.6
81.3
蓄積量
11.7
18.9
K摂取量,g/日 194.8 203.7
蓄積量
0.1
2.9
分娩後
グラス アルファルファ
134
152
15.5
22.9
8.19
7.75
69.5 111.0
-20.3
-1.4
218.9 192.5
-50.2 -18.9
分娩直後はミネラルの蓄積もマイナスになる
NRC2001の乳熱発生要因
1)KあるいはNa過剰摂取による代謝性アルカローシス
↓
副甲状腺ホルモン(PTH)受容体の機能低下
↓
活性型ビタミンD低下によるCa吸収量減少・
骨吸収減少
2)妊娠牛の低Mg血症
↓
PTH分泌量減少とPTH受容体の機能低下
表、飼料のミネラル含量(乾物当たり%)と
イオンバランス(DCAD)
Na
K
Cl
S DCAD
配合飼料
0.10 0.81 0.20 0.22
59
大豆粕
0.02 2.33 0.02 0.40 350
イタリアンライグラス 0.08 3.13 1.79 0.24 184
アルファルファ
0.05 3.23 1.02 0.29 379
オーチャードグラス 0.27 2.11 1.17 0.21 200
コーンサイレージ
0.03 1.00 0.27 0.09 139
注)DCAD=((Na/23.0+K/39.1)-(Cl/35.5+S/16.0))
×10,000(㍉当量/kg)
・わが国では牧草のカリウム含量が非常に高い
血漿中PTH (pg/ml)
血漿中Ca (mg/dl)
図、グラス区(◆)、アルファルファ-正常
(▲)、アルファファ-乳熱(■)の血液成分
10
8
6
4
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
1500
1000
500
0
-14
-7
0
分娩前後(日)
アルファルファ給与による乳熱発生:K含量の高いこ
と(3.4%)が一因である
7
図、DCAD((Na+K)-(Cl+0.6S))給与
による乾物摂取量の減少(人為的)
(Charbonneauら、2006)
• 乳牛の妊娠期間
の血漿・乳中エス
トロゲンの上昇
(乳腺の発達など
に必須)(PapeZembitoら、2008)
• 分娩前のDMIの
減少と免疫機能
の低下:妊娠末期
の血漿中エストロ
ン(E1)とエストラジ
オール(E2)の上
昇が影響する
骨粗鬆症とエストロゲン(閉経後)
エストロゲン受容体:骨芽細胞と破骨細胞
↓
卵巣機能低下によるエストロゲン不足
(エストロゲンは骨のCaの保持に重要)
↓
骨吸収が増加して、骨からCaが損失する
ー乳牛の分娩前の高エストロゲンは骨
吸収を抑制する
乳腺と免疫機能
• 乳牛の分娩前後は免疫能が低下する
1)乳腺には栄養素が豊富に含まれているこ
と、2)泌乳開始で乳頭口が開くことなどによ
り、有害病原菌が乳房に侵入しやすい
• 乳腺の分娩前後の免疫機能
1)子牛の受動免疫を高めるために免疫成分
(IgG、IgAなど)を乳腺で多量生成
2)乳線の免疫成分の生成が高まることは、
乳腺への細菌感染(乳房炎)も予防する
表、牛とヒトの血清・乳の免疫グロブリン濃度
初乳
常乳
血清
46.40
0.58 11.20
ウシ IgG1
IgG2
2.87
0.06
9.20
IgA
5.36
0.08
0.37
IgM
6.77
0.09
3.05
ヒト IgG
0.43
0.04 12.10
IgA
17.35
1.00
2.50
IgM
1.59
0.10
0.90
(mg/ml)
(Weeler、2007)
・牛は妊娠中に胎盤を介してIgGが子牛に移行しない
周産期病発生のリスク要因
1.分娩前後の体内代謝・内分泌機能の急激
な変動(乳生産の増加が影響)
--代謝障害・繁殖障害の増加
2.分娩前後の免疫機能の低下
--病原菌の体内侵入による乳房炎などの
疾病増加(乳腺にIgGが多いことは細菌感染
から乳腺を保護している)
↓
高泌乳牛は分娩に伴うリスクが高く、精密な
栄養管理による周産期病の予防が必要
移行期の課題と飼料給与
・栄養管理の改善が乳量増加に追いつかない
・粗飼料(イネ科)の品質が改善されない
↓
1)分娩直後の乾物摂取量の早期増加を図る
2)飼料から栄養素を過不足なく摂取する
3)ルーメン環境の適正維持と絨毛の発達促進
↓
良質粗飼料を活用して、TMRで給与する
・分娩前の濃厚飼料の給与比率を3割程度
・移行期はほぼ同じ粗飼料構成にする
栄養管理による周産期病の予防
・周産期病が予防できると、酪農家の収益が
増加する:周産期病が発生すると、治療の経
費、乳量減少、淘汰などによる減収が大きい
・生理機能に基づいた栄養管理の改善
・乾物摂取量と飲水量の増加による栄養生理
機能の改善
動物の恒常性と適応
1)動物の恒常性維持機能:
動物は常に変動する体外からの情報を
受け取り、それに適切に対応しながら、体
内の生理機能を常に一定の範囲内に維
持して、健康を保っている。
2)適応の重要性:
外部環境あるいは体内の変化に対し
て、神経系・内分泌系・免疫系などの機能
を高めて、体内の変化を最小限にする
図、環境の変化に対する動物の適応
--分娩時の生理的適応は?
環境ー動物
環境の
変化
体内平衡
の乱れ
センサー
神経系など
中枢神経系
体内の
変化
体内平衡
の回復
神経・内分泌・
免疫系
体内代謝
の反応
適応
栄養素
図、アルファルファ区(◆)とグラス区(■)の血漿中Ca
濃度と副甲状腺ホルモン(PTH)
Alfalfa
11
1000
血漿中PTH(pg/ml)
血漿中 Ca(mg/dl)
Grass
10
9
Alfalfa
Grass
800
600
400
200
0
8
-14
0
14
28
42
分娩前後(日)
56
-14
-7
0
分娩前後(日)
乳牛は分娩前後の生理的危機を常に正常化するよう
に機能する(栄養管理はそれを助けることが重要)
7
良質粗飼料を活用した
エネルギー代謝の改善
・良質粗飼料は消化率が高く、乾物摂取
量が増加する
・高泌乳牛は飼料の利用効率(吸収率・代
謝率)が向上--乳量増加につながる
給与飼料(サイレージ)の成分含量(DM%)
:トウモロコシサイレージは大豆粕を添加
CP
NDF
ADF
NDICP
ADICP
ADL
EE
Ash
イネ科牧草
アルファルファ
トウモロコシ
11.9
61.9
37.2
2.6
0.6
4.6
4.2
6.9
18.3
44.9
35.3
2.4
1.1
7.0
4.3
10.5
11.1
37.8
23.3
0.7
0.5
3.2
3.2
5.3
図、サイレージのTDNと飼料中
ADF・ADL含量の関係
80
75
70
65
70
65
60
60
55
55
50
50
20
25
30
35
ADF(%)
40
45
y = -2.61x + 80.93
R² = 0.85
75
TD%(%)
TD%(%)
80
y = -0.76x + 92.13
R² = 0.57
2
4
良質粗飼料はTDNが高い(70%以上)
6
8
ADL(%)
10
図、乾乳牛と泌乳牛(粗濃比:60:40、乳量:
30.1kg)のエネルギー代謝(HP;熱発生量)
蓄積
HP
メタン
尿
糞
120
80
40
0
400
エネルギー(
エネルギー(MJ/
MJ/
MJ/日)
日)
エネルギー(MJ/日)
160
蓄積
乳
HP
メタン
尿
糞
300
200
100
0
オーチャードグラス
TDN(%)
67.8
TDN(%)
代謝率(%)
52.8
HP(MJ/
HP(MJ/日)
MJ/日) 85.2
アルファルファ
62.7
51.7
71.6
コーン
74.5
59.6
76.0
泌乳牛
69.7
59.8
113.0
図、アルファルファ給与区
アルファルファ給与区 (◆
◆;n=4) とコーン+ア
の乾物摂取量と乳量
ルファルファ給与区(▲
ルファルファ給与区 ▲;n=4)の乾物摂取量と乳量
50
20
乳量
乳量(kg/
(kg/
(kg/日
日)
乾物摂取量
乾物摂取量((kg/
kg/日
日)
25
15
40
30
10
20
5
-14
-7
0
7
分娩前後(日)
14
0
7
分娩前後(日)
高泌乳牛:分娩直後の乳量の急増が特徴
14
100
80
60
40
-14
-7
0
7
分娩前後(日)
14
血漿NEFA (mEq/l)
血漿グルコース (mg/dl)
図、アルファルファ給与区
アルファルファ給与区 (◆
◆:n=4) とコーン+
アルファルファ給与区(▲
の血液成分
アルファルファ給与区 ▲:n=4)の血液成分
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-14
-7
0
7
14
分娩前後(日)
分娩後の血漿中遊離脂肪酸の急増とその後の回復
周産期の乳牛の飼養管理:
グラス区は遺伝的能力を満たしていない飼い方
50
25
乳 量 ( kg/日 )
DMI (kg/日)
30
20
15
10
5
40
30
-4 -2
0
2 4 6
分娩後(週)
8
10
0
2
4
6
分娩後(週)
8
10
図、アルファルファ給与区 (◆
◆;n=7) 、グラス給与区 (■
■;n=6)、
、
の乾物摂取量と乳量
コーン+アルファルファ給与区(▲
コーン+アルファルファ給与区 ▲;n=4)の乾物摂取量と乳量
分娩後の粗濃比: 50:50(グラス、アルファルファ
グラス、アルファルファ)、
コーン).
グラス、アルファルファ 、60:40(コーン
コーン
分娩前の粗濃比:70:30(各給与区とも)
(各給与区とも)
分娩前の粗濃比:
泌乳牛の体重とDMI/体重:
目標:泌乳前期のDMI/体重を4%以上
4
DMI/
DMI/体重(%)
体重(%)
体重(
体重(kg
kg
kg)
)
800
750
700
3
2
650
1
600
-4
-2
0
2
4
6
分娩前後(週)
8
10
-4
-2
0
2
4
6
分娩前
分娩前後(週)
図、グラス給与区 (■)、アルファルファ給与区
(◆) 、コーン+アルファルファ給与区(▲)
8
10
アルファルファとグラスサイレージ給与牛の乾物摂
取量と反芻胃内滞留時間の関係(上田ら、2004
取量と反芻胃内滞留時間の関係(上田ら、
2004)
)
50
OG
AL
反芻胃内滞留時間 (h)
45
40
35
サイレージ
30
25
大飼料片
20
小飼料片
15
16
18
20
22
24
乾物摂取量(kg/day)
26
28
アルファルファは消化管通過速度が速い:DMIが多い
サイレージ(約2cm),大飼料片(5mm),小飼料片(1mm)
C P 充 足 率 (% )
TD N 充 足 率 (% )
泌乳牛のエネルギーとタンパク質
の充足率(日本飼養標準)
100
80
60
0
2
4
6
分娩後(週)
8
10
120
100
80
60
0
2
4
6
分娩後(週)
8
10
図、アルファルファ給与区 (◆
◆;n=7) 、グラス給与区 (■
■;n=6)、
、
コーン+アルファルファ給与区(▲
コーン+アルファルファ給与区 ▲;n=4) のTDNとCP充足率
グラス給与区では乳量が少なく、TDNの充足率も低い
:周産期の栄養管理でもっとも問題の多い飼養法
140
120
100
P 充 足 率 (% )
C a 充 足 率 (% )
泌乳牛のCaとPの充足率
(日本飼養標準)
80
60
40
100
80
60
0
2
4
6
分娩後(週)
8
10
0
2
4
6
分娩後(週)
8
10
図、アルファルファ区 (◆
◆;n=7) 、グラス区 (■
■;n=6)、コーン+ア
、コーン+ア
ルファルファ区(▲
のTDNとCP充足率
ルファルファ区 ▲;n=4)のTDNとCP充足率
ミネラルではPの充足率が低い
表,アルファルファ給与牛の
繁殖成績(山田ら)
グラス区 アルファルファ区
例数
14
13
初回排卵、日
35±18
37±19
受胎までの日数 94±33 102±30
受精回数、回
1.4±0.7 2.0±0.9
受胎頭数
13/14
12/13
図、乾乳牛と泌乳牛(乳量:29.5kg)
の水摂取量と水損失量
120
100
120
代謝水
飼料水
100
水損失
水損失(kg/
(kg/
(kg/日
日)
水摂取
水摂取(kg/
(kg/
(kg/日
日)
飲料水
80
60
40
糞
60
蒸発
40
20
0
0
泌乳牛
尿
80
20
乾乳牛
乳
乾乳牛
泌乳牛
乳牛は分娩直後に大量の飲料水を必要とする
表、乾物摂取量(DMI)、水摂取量(TWI)と
飲水量(DWI)の比較 (kg/日)
乾乳牛 泌乳牛 泌乳牛/乾乳牛
DMI
TWI
DWI
7.7
30.3
16.0
20.7
98.4
77.6
2.69
3.25
4.85
分娩前と比較して、泌乳牛では乾物摂取
量の増加率よりも飲水量の増加率が高
い:水が飲めないと代謝異常になる
ミネラル栄養の改善による
乳熱の予防
・カリウム摂取量の低減による乳熱予防
・イオンバランスによる乳熱予防
NRC2001の乳熱予防法
1)飼料中のKあるいはNaの低減
・飼料配合、コーンサイレージ利用によるK低減
2)陰イオン塩の給与
・ (Na+K)-(Cl+S) の式で0ミリ当量/kg程度
3)Mg剤の給与
・分娩前の飼料中Mg含量:0.35-0.40%
4)CaとPの給与
・適正なCa給与量は未定、P給与量は40-50g
(分娩前のDMIが増加したため、Caの低減は
ほとんど不可能)
図、アルファルファ給与区 (◆) とコーン+アル
ファルファ給与区(▲)の血漿CaとPi濃度
血漿 Pi (mg/dl)
血漿中
血漿中Ca
Ca (mg/dl)
11
10
9
6
4
8
2
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
血漿CaとPi濃度を正常に維持して、乳熱を予防する
7
血漿 1,25(OH)2D (pg/ml)
図、アルファルファ給与区 (◆) とコーン+アルファル
ファ給与区(▲)の血漿PTHと活性型ビタミンD濃度
血漿中
血漿中PTH
PTH (pg/ml)
1000
500
150
100
50
0
0
-14
-7
0
分娩前後(日)
7
-14
-7
0
分娩前後(日)
血漿中副甲状腺ホルモンと活性型ビタミンDは分娩
直後に急増して、乳熱を予防する
7
乳牛の分娩前後のCa代謝
(乳熱予防に対する適応反応)
副甲状腺ホルモン分泌→ 腎臓:Ca再吸収
(PTH)
↓
骨吸収の増加
(PTH受容体)
↓
活性型VD分泌
↓
小腸のCa吸収増加
(ビタミンD受容体)
↓
分娩時におけるCa代謝の正常化
表、乳牛のCa・K摂取量と乳熱発生、低Ca血症
(7.5mg/dl以下)の関係(Goff,1997)
飼料中K
1.1%
2.1%
3.1%
Caの影響
Ca, 0.5%(発生頭数/供試頭数)
乳熱発生 0/10
4/11
8/10
12/31
低Ca血症 9/10 11/11 10/10
30/31
Ca, 1.5%
乳熱発生 2/10
6/9
3/13
11/32
低Ca血症 9/10
9/9
12/13
30/32
Kの影響(K含量が2.1%以上で乳熱増加)
乳熱発生 2/20
10/20 11/23
低Ca血症 18/20 20/20 22/23
図、乳牛のカリウム摂取量と尿量の関係
乳
400
30
糞
蓄積
尿量
尿量(kg/
(kg/
(kg/日)
日)
K出納 (g/
(g/日
日)
300
y = 0.0688x + 2.4733
R² = 0.943
尿
200
20
10
100
0
0
乾乳牛
泌乳牛
0
100
200
300
400
尿中K
尿中K排泄量(g/
排泄量(g/日)
(g/日)
500
カリウム排泄のために大量の飲料水が必要になる:
水が不足するとカリウムを排泄できない
表.乾乳牛のK出納
牧草 牧草+トウモロコシ トウモロコシ
(n=24)
(n=4)
(n=6)
DMI、kg/日
7.9a
水摂取量、kg/日34.0a
尿量、kg/日
13.7a
飼料中K、%
2.7a
K摂取量、g/日 210a
K尿中排泄量 165a
K蓄積量
14
a,b P<0.05
7.2
24.8b
9.4
1.8b
132b
113
-7
6.8b
18.1b
7.5b
1.3b
86b
65b
2
(Charbonneauら、2006)
図、DCAD(5種類の式)給与と乳熱の関係
移行期の栄養管理のポイント
1.分娩後の乾物摂取量を早期に高め
て、エネルギーや栄養素の充足を早め
るための精密な栄養管理(飼料設計)
2.乳牛の健康を維持し、分娩前後の代
謝障害・繁殖障害を減らすための適切
な栄養管理(イオンバランスなど)
↓
高品質粗飼料を活用した乳量増加、疾
病予防、繁殖成績改善