科 目 名 年 次 区 分 期 曜日・時限 担 当 教 員 少年法 3年次 選択必修科目1 後期 火曜・4時限 後藤弘子 【科目のねらい】 少年法を学ぶに当たっての最大の障害はその「不透明さ」にある。少年審判が非公開で行われ,さ らには,家庭裁判所が収集する少年の要保護性に関する情報が外部に明らかにされたりすることが少 ないことなどから,少年審判の実際を外から的確に理解することにはかなりの困難が伴う。加えて, 裁判官の裁量権の広さや条文の少なさがそれに拍車をかける。 しかし,それは同時に少年法を学ぶ魅力でもある。少年法は正に「生きている法」であり,実務が 法を形成していく。少年事件に関与することは,少年に対する支援を行うにとどまらず,少年法の形 成に関与していくことを意味する。 刑事特別法である少年法は,少年であることを理由として,非行少年に対して特別な取扱いを規定 している。その特別な取扱いは,捜査・裁判のみならず,処遇にも及んでいる。そのため,少年法は, 「なぜ少年を成人とは異なる取扱いを行うのか」という問を常に突きつけられるのである。この絶え ざる自問こそが,少年法を学ぶということなのである。 さらに,少年法の学習は,刑事司法の特徴を再確認するのに役立つだけではなく,犯罪検挙人員の 約半数を占めている少年非行への対応を検討することで,刑事政策のあるべき姿を模索することにも つながる。少年法を通じて刑事法の役割を総合的に検討することも,本授業の目的の一つである。 【授業の方法等】 授業は,大きく二つのパートに分かれる。まず,総論として,少年司法手続の前提となっている理 念や少年非行の現状についての理解を深める。少年法における子ども観や少年法の理念,非行少年の 現状,最近やっと注目されてきた少年法と被害者について理解する。その上で,少年司法手続に沿っ て,少年法を学んでいく。まず,大まかな手続の流れを刑事司法との対比の中で理解し,その後,具 体的な判例を取り上げながら,少年法とその実務を理解していく。 本授業では,テーマごとに文献や事例を指定し,それらを読んだ上で,問題点について議論する対 話形式で授業を行う。なお,少年法の理解には実務との交流も欠かせない。適宜家庭裁判所見学や少 年院参観を行うことやゲストスピーカーを呼ぶことで,で少年法の理解を深めることも予定している。 ゲストスピーカーを呼んだ場合,授業内容が変更されることがある。 【教材等】 教科書として,守山正・後藤弘子編『ビギナーズ少年法(改訂版第2版) 』 (成文堂・2009年)を使用 する。なお,教科書に準ずるものとして田宮裕・廣瀬健二編『注釈少年法(第3版)』(有斐閣・2009 年), 『少年法判例百選』 (有斐閣・1998年)を挙げておく。 【成績評価】 出席・発言(15%) ,毎週のコメント(20%) ,中間レポート(15%) ,学期末試験(人数が少ない場 合には期末レポート) (50%)で評価を行う。毎週のコメントは,授業やその週のニュースで考えたこ とを10行程度にまとめたものを次の授業までに提出する形で行う。 【備考】 少年法を学ぶためには, 「いまどきの子ども」の理解が欠かせない。子どもをめぐる様々な社会の言 説に興味をもってもらいたい。また,少年法が置かれている状況を理解するために,少年事件被害者 の手記(例えば,土師守『淳』(新潮社) )や少年被害者たちを取材した本(例えば,黒沼克史『少年 にわが子を殺された親たち』 (草思社) )を必ず読んでほしい。さらに,少年法や非行少年に関する新 書版をできれば2冊選んで,少年法に対するアプローチが人によって異なることを理解してほしい。 【各回の内容】 第1回 少年法入門 少年法は子どもであることを理由として特別扱いをしている。そのため少年法について考えるに当 たっては,少年法が「子ども」をどのような存在として措定しているのかが重要になってくる。子ど もについての基本法である子どもの権利条約をも参考としながら,少年法における子ども観を検証す る。さらには,少年法の法としての位置づけについても検討する。 第2回 非行少年とは誰か 少年法の対象となる非行少年とはどのような少年なのかを,官庁統計によって見ていくだけではな く,最高裁や日弁連の調査などから具体的な非行少年像を明らかにする。また,被害者としての非行 少年についても検討することで,より多角的に非行少年をとらえていく。さらには,不良行為少年と の違い,年齢による違いについても検討する。 第3回 少年司法手続の流れ 少年司法は,刑事司法(広義)の一部でありながら,その手続の各段階において教育・福祉的配慮 が不可欠とされている。少年司法の手続の流れを実際の少年事件に沿って追いながら,少年司法と刑 事司法(狭義)の違いについて,理念的な側面も含めて検討する。特に,付添人弁護士の役割につい て検討する。 第4回 少年法改正 少年法は,1947年の成立時から常に改正の圧力にさらされてきた。そして,その圧力が1970年代の 少年法改正の動きや2000年の改正少年法へとつながっていく。少年法改正の圧力の内容とその理由を 少年法改正の歴史から検討する。それを前提として,2000年,2007年及び2008年の改正少年法の成立 の経緯と内容について確認する。 第5回 少年法における被害者の地位 刑事司法において,被害者は「忘れられた存在」であったと言われるが,審判が非公開であり,少 年の再教育に焦点を当てた少年司法はその傾向がより顕著であった。2000年にやっと発見された被害 者を少年司法の中にどのように位置付けるのかが現在の少年法の最大の課題である。2008年12月15日 から実施されている被害者傍聴制度についても触れながら,少年法における被害者への配慮を確認す ることで,少年法における被害者の保護と支援について検討する。 第6回 少年法の理念と少年司法手続 少年法は,保護主義を前提とし,非行少年の健全育成を目的としている。この目的は達成目標とし て存在するだけではなく,少年司法手続の各段階における行動基準として常に参照されなければなら ない。しかし, 「少年の健全育成」という内容は必ずしも明確ではない。 「保護主義」 「少年の健全育成」 という少年法において重要な概念を検討することで,少年法の指導理念を明らかにする。 第7回 犯罪少年の捜査と身柄 少年法において中心としているのは犯罪少年に対する対応である。したがって,犯罪少年の発見は 主に警察によって行われる。犯罪少年に対する捜査については,基本的には刑事訴訟法が適用される が,少年に対する特別な取扱い指針としては,犯罪捜査規範のほか,2003年の少年警察活動規則が存 在する。警察における少年非行の予防活動と犯罪捜査活動について学ぶ。さらには,少年の身柄につ いても検討する。 第8回 触法少年・虞犯少年に対する処遇 少年法は,犯罪を行った少年だけを対象とするのではなく,刑事責任能力のない14歳未満の触法少 年や犯罪を行っていない虞犯少年をも対象としていることにその特徴がある。犯罪少年以外の少年を 少年法がどのように考えているのか。2007年改正や隣接領域である児童福祉法との関連にも注目しな がら検討する。 第9回 少年審判と非行事実の認定 全件送致主義の下,すべての少年事件は家庭裁判所に送られる。しかし,すべての少年事件に対し て審判が開かれるわけではない。少年審判における少年であることの配慮と刑事手続としての適正手 続の保障の要請がどのように考慮されているのか,具体的な判例を検討することにより確認する。審 判が開かれる基準,審判対象,審判における証拠法則,審判における少年の権利,審判における事実 認定,検察官関与などについても触れ,審判について総合的に検討する。 第10回 調査と家庭裁判所調査官の役割 少年事件において重要な役割を果たすのが家庭裁判所調査官である。少年の抱えている問題を多角 的に調査し,検討する調査官は少年事件におけるキーパーソンである。さらには少年鑑別所の技官も, 調査官と同様に重要な役割を果たす。家庭裁判所調査官による要保護性についての調査の実際を学ぶ ことにより,少年法の指導理念を確認する。 第11回 終局処分 家庭裁判所は少年に対して保護処分を言い渡す。家庭裁判所が少年に対してのみ言い渡すことがで きる保護処分について,その実際も含めてそれぞれの保護処分の内容について理解する。保護処分と 検察官送致以外にどのような終局決定が可能なのか,また終局決定や家庭裁判所が行った決定に対し てどのような不服申立が可能かかについて検討する。さらに,少年の再審請求や少年補償法について も触れる。 第12回 保護処分としての少年院送致 少年院送致は,保護処分としてのみ可能である。このことは,少年院が少年法の理念を実現する場 所であることを意味する。2009年の広島少年院事件以降,少年院における教育,少年の人権について, 議論されるようになってきた。さらには少年院法の改正作業も行われつつある。少年院のあるべき処 遇について検討する。 第13回 検察官送致(逆送)決定とその問題点 家庭裁判所は,終局決定の1つとして,検察官送致決定を行うことができる。2000年の改正少年法 においては,検察官送致年齢の引き下げとは原則逆送制度が導入された。原則逆送制度導入がもたら した波紋と実務の変化について確認するとともに,少年司法における逆送制度について検討する。 第14回 少年の刑事事件・死刑 2000年の少年法改正において,検察官送致に関する改正が行われたことで,刑事手続に送られる少 年の数が増大した。これまで数の少なさからあまり問題とされてこなかった逆送後の刑事手続におい て,少年であることの配慮がどのような形で行われるべきなのか,現在の対応も含めて検討する。さ らには,裁判員制度や被害者参加人制度との関係,2012年度に相次いだ少年の死刑判決の確定につい ても触れる。 第15回 少年事件報道 少年の事件報道については,推知報道を禁止する61条が存在する。しかし,メディアにおいては顔 写真・実名報道を行うことによって,61条に違反する報道が行われている。推知報道をめぐる判例を 検討することにより,少年事件報道のあり方を検討する。さらには,最近問題となった前歴報道,死 刑確定後の報道の在り方についても触れる。
© Copyright 2024 ExpyDoc