P-020 中学生野球選手の投球フォームイメージ調査

P-020
中学生野球選手の投球フォームイメージ調査
*水谷 仁一 1), 竹中 裕人 1), 鈴木 達也 1), 大家 紫 2), 清水 俊介 2), 矢澤 浩成 3), 太田 和義 4), 花村 浩克 5),
筒井 求 5), 伊藤 岳史 5), 岩堀 裕介 6)
1)医療法人三仁会あさひ病院リハビリテーション科
2)医療法人三仁会師勝整形外科リハビリテーション科
3)中部大学生命健康学部理学療法学科
4)名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科
5)医療法人三仁会あさひ病院整形外科
6)愛知医科大学医学部整形外科教室
キーワード:投球障害, 投球フォーム, 投球イメージ
【緒言】
投球フォームと投球障害との関連についての報告は散見され,投球
障害の治療として投球フォームの修正は再発予防の観点から重要である.
球イメージで明らかに違いがあるものを違いありとして各位相でそれぞ
れ比較した.
(実験 2)実験 1 で分析対象とした位相に Acceleration phase(Ball
しかし不良な投球フォームの修正は簡単ではなく,中には難渋する症例
Release)を加えた実際の投球フォームの静止画を Adobe photoshop
を経験する.このような症例は機能的な問題が不良な投球フォームの原
CS4 でシルエット化し,印刷した側方,後方,前方の各位相の画像を
因となっているだけではなく,投球フォームのイメージ自体やその想起,
被検者の人数分提示し,自分の投球フォームがどれかを回答させ正答率
再現に問題がある可能性も考えられる.一般に脳内には運動プログラム
を算出した.
が内部モデルとして存在し,運動を行う際にはその運動プログラムをも
【結果】
とに運動が実行されている.つまり,投球フォームを修正するには機能
実際の投球フォームは WP での体幹後方傾斜が 7 名(70%)
,EC で
的な面からのみアプローチするだけではなく,投球フォームの内部モデ
の投球側肘下がりが 3 名(30%)
,LC での投球側肘下がりが 6 名
ルを投球イメージとして評価し修正する必要もあると思われる.しかし
(60%)であった.
投球フォームのイメージについての報告は少ない.
【目的】
本研究の目的は,中学生野球選手における投球フォームのイメージを
実験 1 では明らかな違いがあったものが,WP の体幹傾斜で 7 名
(70%)
,EC の肘関節位置で 5 名(50%)
,LC の肘関節位置では 5 名
(50%)であった.投球イメージが実際の投球フォームより良好であった
調査することである.
のは EC で 1 名のみで,他はすべて実際の投球フォームより不良なフ
【方法】
ォームとなっていた.
対象は中学生軟式野球チームに所属し,身体に愁訴がなく,本研究の
実験 2 では,シルエット化した投球フォームの正答率が側方 20%,
趣旨に賛同し同意の得られた 10 名で,平均年齢 13.6±0.52 歳,平均
後方 20%,前方 20%であった.全方向で正しく選択できたものは 0 人
野球歴 66±10.2 ヶ月であった.ポジションの内訳は,投手 1 名,捕手
で,2 方向で正しく選択できたものが 1 名という結果であった.
2 名,野手が 7 名で,全例右投げ右打ちである.
【考察】
方法は,十分なウォーミングアップのあと 18m 先の相手に対し全力投
本研究の結果から,実験 1 では投球イメージと実際の投球フォーム
球を 3 球行わせ Bushnell 社製スピードガンを用いて撮影と同時に球速
に明らかな違いがみられ,さらに投球イメージのほうが実際の投球フォ
を測定した.投球フォームの撮影は CASIO 社製デジタルカメラ EX-
ームよりも不良な投球フォームとなっている被検者が多くみられた.実
FH25 を用い,側方,後方,前方の 3 方向からハイスピードモードで同
験 2 においても全体的に正答率が低かった.これらのことから,本研
時に行った.frame rate は 240fps とし,最も球速の速かった 1 球を分
究の被検者はいわゆる良好な投球イメージを元々有していないか,投球
析対象とした.投球フォームは Jobe 分類を用いて 5 相に分類し,その
イメージを想起,再現する能力が十分でない可能性が考えられる.しか
うち(1)Wind-Up phase (WP)の体幹傾斜,(2)Early-Cocking phase
し個別で確認すると,実際の投球フォームに問題の見られなかった被検
(EC)の投球側肘関節位置,(3)Late-Cocking phase (LC)の投球側
者は,実験 1 で 2 つの投球フォームに違いが少なく,実験 2 において
肘関節位置を静止画にして評価した.それぞれの指標は(1)が地面から
も自分の投球フォームを 2 方向で正しく選択していた.このことから
の垂線を基準線とし体幹の傾斜を確認,(2)(3)は両肩峰と投球側肘頭を
投球フォームが良好なものと不良なものとの投球イメージに違いがある
結んだ線を基準線とした.
可能性があり,調査,比較する必要があると思われた.その他に本研究
運動イメージは,自分が運動を行っているような一人称的イメージと
に影響を与える因子として年齢や野球歴などが考えられるため,被検者
他者が運動を行っているのを見ているような三人称的イメージに大きく
数を増やすことや年代の幅を広げ調査する必要があると思われる.さら
分類される事から,本研究では 2 種類の投球イメージの調査を行った.
に投球フォームの分類はあくまで検者側に立ったものであり,選手自身
(実験 1)言語教示により被検者の持つ投球イメージを WP,EC,LC
の各位相で再現,静止させ,静止画で側方,後方,前方より同時に撮影
した.分析は,上記の投球フォーム評価項目が実際の投球フォームと投
が持っている投球イメージと異なっている可能性も考えられることから,
投球フォームの位相を細かくするなどの工夫も必要だと考えられた.