なぜ私たちがいま代官山に着目したのか

代官山大学 2015
なぜ私たちがいま代官山に着目したのか
髙橋一平/建築家, 横浜国立大学都市イノベーション研究院
2015.3.20
0. はじめに
2014 年度横浜国立大学建築学科では、2年生演習課題に「フィールドサーベイ」と題して代官山ヒルサイドテラスとそ
の周辺を扱った。今回の「代官山大学」ではその意義ならびに活動内容を紹介させていただく。
1. 概要・目的
横浜国立大学の建築学教室では、視点を建築だけでなく都市や環境に向けている。また同様の視点を持つ建築家が大学に
所属し設計をもって研究活動を行い教育も行う。その一環として、この課題は建築学を学びたての学生へ向けた導入的意
味合いが込められている。この課題では、建築物が集合して生まれる街並みがどのようにつくられているか、実際に体験
し、記録し、分析するものである。町には建築物以外にもたくさんの事物があり、それらは市販の地形図や住宅地図、グ
ーグルマップには描かれない。
目に見えない情報もあるため実際に歩いてみないとわからないことがたくさんある。
また、
都市には歴史という概念がある。どのような経緯で建築物がその場所に建ち、集まり、町を形成しているのか、過程を理
解することは意義深いことであると考える。
そこで、2014 年度は、日本を代表する建築家・槇文彦がおよそ 50 年前から構想を続けた「代官山ヒルサイドテラス」
を扱った。代官山ヒルサイドテラスは東京オリンピックが行われた 3 年後、1967 年から段階的に建設が続き、やがて代
官山の町の景観として重要なコンテクストを形成する。
初めは屋敷と森しかなかった場所が都市に変わりゆく事例として
貴重な存在となっている。さらに、近代的資本主義が誘導した盛んな乱開発・建設とその表象としての建築が集団として
の統制無く建ち並ぶ日本の都市の中で、代官山ほど良好な都市環境が形成された例はない。特にここ 20 年では代官山駅
からヒルサイドテラスまでの住宅街が小売店やカフェなどに変遷し、
当初のコンテクストが踏襲されたヒューマンスケー
ルの魅力的な町が出来つつあると同時に、2012 年には蔦屋書店による大規模店舗が登場するなど、今も町は変わり続け
ている。この課題では、都市の構成するもの全てに着目し、それらの関係性を理解すること、歴史的な視点に基づく建築
や都市の評価、それを支える倫理感を育てることが目的である。
2. 具体的な演習内容
・代官山ヒルサイドテラスの歴史・形成過程を理解すること(文献調査・レクチャー等)
・代官山ヒルサイドテラスの建築、外部空間の設計意図を理解すること(図面トレース、分析)
・街を歩いて体験すること(見学・体験)
・周辺環境とヒルサイドテラスの関係を理解すること(見学・体験)
・広場や通路などの外部空間を実測し、スケールがもたらす身体感覚を身につけ、効果を分析すること(実測・調査)
・時代に応じたニーズが反映された集合住宅プランの変遷を理解すること(分析)
・分析結果を発表すること(考察、プレゼンテーション)
・ヒルサイドテラスとその周辺環境の特徴を捉えその成果を模型で表現すること(分析・考察)
3. 作業内容・スケジュール(課題書からの一部抜粋)
phase 1 予備知識の収集
6月 2日 月 出題
・資料を入手し町の全体を把握するほか、歴史、形成プロセスを知り、レポートにまとめる
①文献調査、②地図の入手、③郷土資料の調査等、④インターネット等
6月 5日 木 出題レクチャー「世界の集落と代官山ヒルサイドテラス」
(髙橋)
・休日(6/7,8,14,15)を利用して1度は必ず代官山の町を歩くこと
phase 2 図面研究+現地調査(フィールドワーク)
6月 9日 月 レポート提出+図面トレース
・全体配置図・アクソメを必ず入れる
・第一期∼第六期、ヒルサイドウエスト、各エリアから一つ選択(希望調査+グループ分け)し、
平面図・断面図・立面図をトレースし外観パースなどを加え、レイアウトして A1x 2 枚にまとめる
・建築群の連続して都市を形成していくさまがわかるよう、周辺環境(街路樹、隣家など)と隣接する
別棟を必ず含め、都市をトリミングするように描くこと
・図面は 1 枚の絵画のように美しく描くこと
12日 木 フィールドワーク説明会+図面トレース
16日 月 フィールドワーク+代官山ヒルサイドテラスレクチャー(元倉眞琴氏)
・図面トレースしている棟の他、
・周辺環境との関連(隣地との距離の取り方など)
・外部空間(1階の屋外共用スペース、サンクンガーデン等)
・ストリートファニチュア(ベンチ、街灯、車止め、街路樹の柵、プランター等)
などの寸法等を実測、カメラで撮影するなど
・周辺の住宅街に混ざる商業施設と、ヒルサイドテラスの身体感覚、都市体験上の連続性に着目
19日 木 図面トレース
∼ 26日 木 提出+プレゼンテーション+模型制作レクチャー(16:15∼19:20)
・講評会には、霜田亮祐氏(ランドスケープデザイナー)が参加
phase 3 代官山の都市+建築模型をつくる
6月30日 月 都市+建築模型制作(グループ作業)
∼ 7月24日 木 模型合体+完成お披露目会+講評会
課題の総仕上げとして、代官山ヒルサイドテラスを含む周辺環境の模型(縮尺1:100)を制作した。特に、
「ヒルサ
イドテラス」の名称に由来する代官山∼中目黒エリアの地形の理解を深めた。講評会には、ヒルサイドテラスの設計を行
った元倉眞琴氏のほか、朝倉健吾氏(朝倉不動産)
、岩橋謹次氏(代官山ステキ総合研究所)にも参加頂き、意義の高い
時間を過ごした。
4. 主要参考文献等
■「ヒルサイドテラス白書(住まい学大系)
」槇文彦・アトリエヒルサイド著、住まいの図書館出版局、1995
■「ヒルサイドテラスで学ぶ建築設計製図」勝又英明著、学芸出版社、2013
■「新建築 1992 年 6 月号」新建築社、1992
*論文:
「時と風景−東京へのオマージュ」/槇文彦
*記事:
「1967-92−ヒルサイドテラス 25 年間の変遷」
■「集落の教え」原広司著、彰国社、1998
■「集合住居論Ⅰ・Ⅱ」東京大学生産技術研究所原研究室、鹿島出版会、2006