霞ケ浦への招待 ファイル3 §1 霞ヶ浦の輪郭(つづき) 1.3 湖内の工作物など 常陸川水門 本川からの逆流を防ぐため支川に設ける水門を逆水門といいます。常陸川水門は逆水 門で、利根川洪水の逆流を防ぐために計画されましたが、霞ケ浦の排水能力を高めようと常陸利根川を 浚渫拡幅したところ、利根川からの塩水遡上が増して霞ケ浦沿岸に塩害が多発しました。このため塩害 を防止しようと水門の建設を急ぎ、水門は 1963 年に完成しました。1980 年代に「霞ケ浦総合開発」に ともなう「湖沼水位調節施設」に改修されて現在に至っています。 左岸下流側から見た常陸川水門 (広報広聴課資料) 常陸川水門は幅 28.5m の水門を8門並べ、上下可動式の鋼製門扉(一枚板で下端に水密ゴムを張る) で川を堰き止めています(門扉は敷高(下端)YP-3.35m、天端高(上端)Y.P.+3.35m)。門扉は両端の 巻き上げ機で毎分 0.15m の速度で上下し、開・閉には約 30 分を要します。巻き上げ機のモーターは 1 台 15kW、万一に備えて予備発電機を装備し、水門の上流側壁と下流側壁に塩分計が設置されています。常 陸川水門・利根川河口堰・黒部川河口堰は一直線に並んで上は一般道に利用されています。 常陸川閘門 閘門は水位差の大きい河川に航路を確保するための施設で、水路を上下ふたつのゲートで 仕切り、その間を閘室とします。水の出し入れで閘室内の水位を上下させ、船の行先に水位を合わせるのです。 常陸川水門は常陸川水門に併設されて、利根川(潮汐の影響で水位が上下する)と霞ケ浦(水位はほぼ一定に 管理されている)とを繋ぐ航路を確保しています。閘門の上流側には、船とともに閘室内に進入した塩水が霞ケ 浦側に流れでないよう、貯塩水槽が付属しています。流入した塩水を一時貯留し、船の通過後にポンプで下流 に排水するのです。小さな舟の通過に大容量の水を動かす必要はないこともあって、大小ふたつの閘門が並列 しており、小閘門の閘室は長さ 15m、大閘門は 50m です。貯塩水槽の長さは小で 115m、大で 80m で、閘室と貯 塩水槽の長さの合計は大小ともに 130m です。水門は通常閉鎖されて塩水の遡上を防ぐと同時に霞ケ浦に貯水 する湖水の流出を防いでいるわけですが、船が頻繁に閘門を通過すると、水門が閉まっていても、いくらかの湖 水が利根川に流れ出ることになります。 下流側から見た常陸川閘門 (水機構資料) 閘室と貯塩水槽 (水機構資料) 常陸川魚道 常陸川水門に魚道はありませんでしたが、2010 年、海と湖の連続性を確保しようと水 門の西岸に常陸川魚道が敷設されました(付帯設備は一部未完成)。魚道は緩傾斜式(長さ 135m、断面 幅 2m、勾配 1/90)で、ところどころに淀みが設けてあります(泳ぎの遅いウグイへの対応)。魚道は開 渠で、水門をくぐる暗渠部分には光ファイバーを用いた自然採光装置があります。上流側の出口は高さ が異なる 3 本に分かれて湖水位の変化に対応していますが、緊急時には 2 本の出口ゲートを閉じます。 魚道に平行して「呼び水水路」があり、つねに少量の湖水を利根川に注いでいます。この魚道の対象は 遡河性、回遊性の魚種 9 種類(ウナギ・モクズガニ・テナガエビ・マハゼ・ウグイ・ヌマチチブ・シラ ウオ・アユ・ワカサギ)です。 堤防 堤防は、堤内地(田畑や人家のある土地)に湖水があふれ出ないよう、土などを盛り上げて築 造した湖内工作物です。堤防の頂部を天端(でんば)、湖側の斜面を表法(おもてのり)、人家側の斜 面を裏法(うらのり)、裏法に続く堤防の付け根を堤脚といいます。堤脚には堤防に降る雨を排水する 堤脚水路があります。天端高は湖でおよそ Y.P.+3.5m、常陸利根川でおよそ Y.P.+4.1m です。天端はほ とんど舗装されて道路に使われ、肩や法面には雨水が抵抗なく流れるよう芝を張っています。表法(霞 ケ浦の護岸は Y.P.+2.85m まで)には浸食や吸出しを防ぐためコンクリート・ブロックなどを張り、これ を護岸と呼びます。 護岸 平場 平場を持つ標準型の堤防 (広報広聴課資料) 突っ込み護岸 (原図) 樋管 堤内地 天端 裏法 表法 平場 堤外地 湖岸堤とその基準断面 離岸堤(消波工) H.W.L=計画高水位(Y.P.+2.85m) 平場の高さ=Y.P.+1.50m=海抜 0.66m (水機構・霞河川資料) 堤防は水ぎわ近くに鋼矢板を列状に打ち込み、これを足がかりに土盛りして築きます。霞ケ浦の堤防 には県施工 1 号堤(波返しがある)・2 号堤(護岸は水中に突っ込む)・農林堤(突っこみ型など)・ 開発工事初期型(突っ込み型)・後期型(YP1.5m に幅 3m の平場がある)など異なる型があり、護岸も 場所により異なっています。盛り土の余裕がない狭い土地や景観に配慮する箇所では特殊堤がつくられ ています。潮来港、土浦港、潮来徳島などは狭い土地に作られたコンクリート塀の特殊堤、天王崎は景 観に配慮した親水型の特殊堤です。堤防の脚を波から守るため沖側に副堤防を設置する箇所があり、こ れを離岸堤(りがんてい)と呼びます。霞ケ浦にはさまざまな形の消波工が設置されています。 堤防に小さな穴があると、それが水みちとなって破損する恐れがあるので、ネズミやモグラ、アブラ ナ類のような直根の草は堤防の敵です。堤防では大きな雑草がはびこらぬよう、また小動物が住みつか ぬよう草刈りが続けられています。 水門・樋門・樋管 湖岸堤は川や水路で途切れ、また揚排水路が堤防を暗渠で横切ります。こうし た箇所には必要に応じ門扉を付けて出水に備えます。幅広い開渠の水路に設ける門扉が水門です。霞ケ 浦では備前川・新利根川・田中川・麻生大川などの河口に水門を設けています。暗渠で堤防を横切る水 路の湖側出口に設ける門扉を「樋門」(ひもん)、その小規模のものを樋管(ひかん)といいます。霞 ケ浦には 400 以上の揚水排水樋管があり、うち揚水樋管は約 270 です。 樋管の構造 (霞河川資料) 大口の取水口(最大取水量 1m3/s 以上) 国営鹿島南部農業水利事業(農)・神の池揚水機場(農)・大洲及び拾番揚水機場(農)・香北地区用水(農)・ 鹿島工業用水道(工・雑)・石岡台地農業水利事業(農)・新利根川農業水利事業(農)・新利根用水取入樋 管(農)・長竿揚水機場(農)・羽子騎揚水機場(農)・早井揚水機場(農)・半田揚水機場(農)・余郷入 1 号、2 号樋管(農)・桜川第一揚水機場(農)・霞ヶ浦用水(農) 湖内に取水塔を立てて取水するもの: 県南広域水道用水供給事業(西浦)・鹿行広域水道用水供給事業(北浦、鰐川) 横利根水門・機場と 樋管(原図) 霞ケ浦には水位調節のため水門を常時締め切る箇所があり、舟運のある場所には閘門を付設していま す(新附洲閘門・新横利根閘門・新利根河口閘門)。また、水門を締め切ると内水(人家側の過剰な水) が吐けない箇所には排水機場があります。おもな排水機場は新横利根川機場(横利根川⇔北利根川)・ 新附洲閘門機場(与田浦川⇔外浪逆浦)・新利根川河口水門機場(新利根川⇔西浦)・備前川排水機場 (備前川→西浦)・利根川連絡水路(西浦⇔利根川)で、⇔印で示す機場は堤内外の水位調節の役目も 果たしています。 港など 防波堤を築いたりして一般の船を安全に出入りさせ停泊させる施設が港湾です。霞ケ浦には 土浦港(西浦)・潮来港(北利根川)・軽野港(常陸川)の3地方港湾(茨城県管理)があります。漁 船の係留施設、灯台、荷揚げ施設、製氷設備や倉庫などの漁業施設を持つのが漁港で、霞ケ浦には 11 の 漁港(北浦白浜、西浦麻生・小高・五町田・荒宿・志戸崎・牛渡・沖宿・木原・安中・手賀)があり、 ほかに約 160 の舟溜施設(堤外または堤内掘り込み)があります。 舟溜まり施設(北浦) (広報広聴課資料) 観測施設 霞ケ浦には水位、流量、波高、気象(気温・雨量・風向風力)、水質(水温・塩分・ 酸素・COD・窒素とリンなど)を観測する施設があります。湖内に立つ水質自動観測所は西浦の湖心、 掛馬沖、麻生沖(休止中)と北浦の釜谷沖にあって、国交省または水資源機構が管理しています。こ のほか、主な流入河川には水位流量観測所が、周辺各地に雨量観測所が設置されており、観測データ は自動で霞河川本部に送信されます。霞センターでは自動観測データをリアルタイムで表示するパネ ル(本部と光ファイバーで連結)を公開しています。 掛馬自動観測所 (霞河川資料) 環境基準点 湖の水質を監視するため、湖内に8点の環境基準点(掛馬沖・玉造沖・湖心・麻生沖・ 釜谷沖・神宮橋・外浪逆浦・息栖)が設定されており、そこでは毎月 1 回ずつ、定められた方法で定め られた水質項目を定期的に観測しています。ほかに補助観測点があって、必要に応じ基準点での監視を 補完しています。ただし、環境基準点に行っても何の印もありません。 国定公園区域 北浦を除く霞ケ浦の全域と与田浦、横利根川、利根川(横利根閘門より下流)の水 辺は「水郷筑波国定公園」に指定されています。この公園区域には広告物の掲出や土地改変などについ て「自然公園法」に基づく規制があり、湖面は特別地域に指定されています。 漁場と漁業禁止区域など 漁業法上の霞ケ浦(常陸川を除く)は「霞ヶ浦北浦海区」という海面 で、海と同じ漁業制度が採用されています(漁業法は漁場を海面と内水面に分ける)。海から独立して 海区となる湖沼は霞ヶ浦北浦(外浪逆浦・鰐川・北利根川を含む)と琵琶湖です(海面として扱われる 湖沼に浜名湖・中海・加茂湖・サロマ湖・風連湖・厚岸湖があります)。 漁業権は定められた水域で定められた漁業を排他的に営む権利(知事免許)です。霞ヶ浦北浦海区に は「第 2 種共同漁業権」(雑魚張網漁業)と「第 1 種区画漁業権」(網生簀養魚、真珠養殖)が免許さ れています。張網の漁業権設定区域は湖岸沿い(陸岸から 200m~500m ほど沖まで)のほぼ全域(漁業禁 止区域・保護水面・港湾区域等を除く)です。網生簀は各所にあり、真珠養殖は小野川と新利根川の河 口付近に集中しています。漁業権が設定されていない沖部でも知事の許可を受けた者以外の漁業は認め られません。霞ケ浦で一般人に許される漁法は釣り(まき餌は禁止)と舟を用いない投網、タモ網・サ デ網・ヤス・把具・手掴みです。 水産資源の保護培養を目的とする「保護水面」では一切の水産動植物の採取が禁止されており、西浦 に 2 箇所(出島半島坂地先、美浦村馬掛地先)、北浦に 2 箇所(麻生天掛地先、津賀高崎地先)があり ます。「漁業禁止区域」は西浦に7箇所(戸崎・安食・羽生・麻生新田・浮島下り松・妙岐の鼻・大須 賀津)、北浦に 2 箇所(大生・大須賀津)があります。漁業禁止区域や保護水面は、陸岸に立てられた 白い標柱、堤防の平場に書かれた文字、水面に浮くブイなどによって現地に表示されています。 雨量・水位の観測所配置図 鳥獣保護区 (水機構資料) 鳥獣保護区は北浦に 2 区域(およその範囲は①旧北浦町・大洋村地先の湖岸と水面; ②水原州吠崎と爪木ノ鼻を結ぶ線と鹿島線鉄橋とに挟まれる区域)、西浦に 4 区域(およその範囲は①高 浜入りの平山より奥;②高浜入り口部の柏崎―浜―高須崎と志戸崎を結ぶ線と湖岸線が囲む区域;③土 浦入りの全域;④古渡入りの全域と浮島湖岸・妙岐ノ鼻周辺を除いた和田岬と天王崎を結ぶ線から北利根 橋まで)があり、ここでは鳥獣の捕獲が禁止されています。 植生保全区域 霞ケ浦の湖岸には国交省、水資源機構が湖岸植生の回復を図る区域、県と漁業協同 組合が湖岸ヨシ帯等を造成する区域、自然再生法に基づく自然再生事業を実施する地区などがあって、 その多くにはロープが張られています。湖岸は原則として自由使用ですが、これらの区域は植生の復元 や漁業資源の育成を目指す場所なので、釣りや散策などで立ち入ることは遠慮すべきでしょう。 占用区域 霞ケ浦の全域は国(国交省)の一括管理ですが、特定の公共目的のため河川管理者の許 可を得て他の公共機関等が使用管理する区域があります。その多くは道路、公園、水生植物帯造成施設 ですが、なかには試作品の技術試験のための占用水面(防衛庁)、離着水および災害救助訓練水域(陸 上自衛隊)などもあります。霞ヶ浦を一周する広域サイクリングロードが計画されていますが、完成は 部分的です。 付 霞ケ浦の理解に役立つ施設 湖岸の周辺には、霞ケ浦とその利用、湖岸地域の生活や民俗、 歴史などの理解に役立つ施設があります。おもなものを順不同で挙げておきます。 ・土浦市立上高津貝塚ふるさと歴史の広場 ・土浦市立博物館 (土浦市上高津、縄文時代の霞ケ浦) (土浦市大手町、生活・産業・文化) ・茨城県霞ケ浦環境科学センター (土浦市沖宿、霞ケ浦の概要、自然と水質) ・かすみがうら市郷土資料館・水族館 ・霞ヶ浦ふれあいランド水の科学館 ・神栖市歴史民俗資料館 ・予科練平和記念館 (霞ヶ浦大橋北詰、水資源機構設置、霞ケ浦全般) (神栖市大野原、水郷道路東端付近、地域民俗) ・千葉県立中央博物館大利根分館 ・稲敷市歴史民俗資料館 (かすみがうら市坂、民俗、農業、魚類) (水郷佐原水生植物園となり、水郷地帯資料) (稲敷市八千石、郷土ジオラマ) (阿見町廻戸、予科練関係) ■ 霞ケ浦環境科学センター夏祭り(原図)
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