さらなる安定通水を目指して-利根川・荒川水系3地区で新規事業着工

特集
さらなる安定通水を目指して
-利根川・荒川水系3地区で新規事業着工-
水資源機構が管理する水路施設の多くが日本の経済成長に合わせて建設され、産業や生活を支えてきまし
た。しかし、建設後 40 年近く経過する中で、老朽化による送水機能の低下などが大きな課題となっています。
また、関東地方でも大規模地震の発生が危惧されており、3,000 万人を超える人々が暮らし、日本の
経済産業の中心である首都圏での震災に備えて、ライフラインである水路施設の地震対策も急務と
なっています。
2020 年の東京オリンピックも間近に控えて、首都圏における水の重要性がますます高まりつつあ
る今、利根川・荒川水系において 3 つの事業を開始しました。
片品川
中禅寺湖
宇都宮
栃木県
沼
牛久
長野県
浦
北 つくば市
荒川
灘
島
鹿 小山
足利
太田
鏑川
那珂川
水戸
川
群馬県
平 洋
前橋
思
高崎
太
川
鬼怒川
渡 桐
良 生
瀬 川
川
吾妻
烏川
日立
茨城県
埼玉県
さいたま
川口
所沢
中川
印旛沼
船橋
里
九
十
浜
千葉
東
多摩川
九
荒川
町田
川
戸
江
八王子
沼
隅田川
東京都
東京
山口村山
貯水池
手賀
松戸
利根川
入間川
京
湾
神奈川県
千葉県
相 模 湾
位置図
事業概要表
事業名
工期(年度)
事業費
H26 〜 H30
約 30 億円
大規模地震対策
利根導水路大規模地震対策事業 (利根大堰、埼玉合口二期施設、秋ヶ瀬取水堰及び H26 〜 H33
朝霞水路)
約 206 億円
大規模地震対策及び老朽化対策
H26 〜 H32
(電気機械設備、サイホン、水路トンネル、水管橋等)
約 150 億円
群馬用水緊急改築事業
房総導水路施設緊急改築事業
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水とともに 水がささえる豊かな社会
主要工事
老朽化対策
(水路トンネル及び併設水路設置)
-利根川・荒川水系3地区で新規事業着工-
ぐんまようすい
群馬用水緊急改築事業
この状態を放置すればトンネルの崩落も予想さ
れる深刻な状況であることから、緊急的に対策を
行うこととしました。
【事業概要】
群馬用水施設は、群馬県の中央部に位置し、現
在は県央地域の約 6,000ha の水田、畑地帯に農
業用水を供給するとともに、8 市町村の水道用水
【事業のここに注目!】
くうすい
対策工事は、送水を停止し、トンネル内を空水
(給水人口約 100 万人)を供給する施設として、
状態にする必要がありますが、年間を通じて用水
昭和 45 年の管理開始以来、群馬県の農業と生活
供給を行っているため、送水を停止することは、
を支え続けています。
地域の農業・生活に大きな影響が生じることに
水資源機構は、施設の長寿命化を図るため、機
能診断調査をはじめとするストックマネジメント
なります。また、送水を停止した場合の代替えと
なる調整池などの水源もありません。
の取組を本格的に進めていますが、群馬用水は年
そこで、はじめにトンネルの隣に水路を設置
間通じて用水供給を行っていることから、長時間
(「併設水路」という)し、併設水路に送水を切り
の断水を伴う水路トンネルの調査は困難でした。
替えることにより用水の供給を止めることなく
しかし、将来にわたり用水の安定供給を継続する
工事を行います。工事の完了後も併設水路により
ためには、トンネル調査は不可欠であることから、
送水を停止することなく、水路の保守点検が実施
利水者と入念な調整を図り、送水の一時的な中断
できることになることから、将来にわたって確実
を複数回行っ
な施設管理が期待できます。
て調査を実施
しました。その
と ね ど う す い ろ
利根導水路大規模地震対策事業
結果、トンネル
の一部において
老朽化の進行
【事業概要】
による、ひび割
利根導水路は、群馬県及び埼玉県の約 24,000ha
れ、空洞や大量
におよぶ水田へ農業用水を供給するとともに、群
の浸入水が確
認されました。
トンネル断面(老朽化進行図)
馬県、埼玉県及び東京都への水道用水(給水人口
約 1,200 万人)並びに工業用水(約 700 事業者)
を供給する施設として昭和 43 年の管理開始以
来、重要なライフラインとして首都圏を支えてい
とねおおぜき
ます。利根川に位置する利 根大堰や荒川に位置
あきがせしゅすいぜき
みぬまだいようすいろ
する秋ヶ瀬取水堰により取水し、見沼代用水路や
むさしすいろ
武蔵水路などの長大な水路により農地や浄水場へ
の送水を行っています。
関東地方での大規模地震の発生が危惧されて
いる中、利根導水路施設が地震により損傷する
と、その復旧には長期間を要し、農業や首都圏の
生活、産業に大きな影響を及ぼすこととなりま
老朽化進行による事象例(トンネル内への侵入水)
す。また、施設の損傷により第三者被害発生の恐
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特集
に訪れ、利根大堰では例年 11 月上旬に「サケ遡
上・採卵観察会」、2 月末には「サケ稚魚放流会」、
秋ヶ瀬取水堰では 4 月末に「アユ遡上見学会」と、
各種イベントが開催されるなど、地域に愛される
施設となっています。
工事の際には、サケや稚アユが遡上する自然豊
かな河川を維持できるよう、魚の通り道や水質等
に配慮して工事を進めていきます。
利根大堰(小学生の見学)
利根大堰におけるサケの遡上
秋ヶ瀬取水堰
れもあります。
このため、本事業により大規模地震に対する
耐震性能が不足する利根大堰や秋ヶ瀬取水堰と
いった重要施設の耐震化を行い、水の安定供給と
安全な施設管理の確保を図るものです。
ぼうそうどうすいろ
房総導水路施設緊急改築事業
【事業概要】
房総導水路施設は、水道用水(給水人口約 57 万
【事業のここに注目!】
利根大堰では、毎年 5 月になると稚アユ、10 月
そじょう
になるとサケが遡上してきます。また、秋ヶ瀬取
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として昭和 52 年の通水開始以来、千葉県の生活
と産業を支え続けています。
くりやまがわ
水堰でも毎年 4 月になると稚アユがたくさん遡上
利根川から取水した用水は、栗山川を経由し房
してきます。年間約 3 万人もの小学生が社会見学
総導水基幹施設や長柄ダムを経て、京葉臨海工業
房総導水路縦断図
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人)及び工業用水(約 70 事業者)を供給する施設
水とともに 水がささえる豊かな社会
ながら
けいようりんかい
-利根川・荒川水系3地区で新規事業着工-
京葉臨海工業地帯(写真 千葉県企業庁提供)
くじゅうくり
みなみぼうそう
地帯、九十九里地域及び南房総地域にまで届けら
ようすい
れています。地形的に何度もポンプによる揚水が
行われていることから、大型の電気機械設備が多
いことが特徴です。
完成後 35 年以上が経過し、施設の老朽化による
故障が多発し、導水管理、施設管理に支障が出てき
ました。また、大規模地震に対して、第三者被害な
どの二次災害の防止と水道用水、工業用水の安定
供給を確保するために対策が必要となっています。
これら課題の解決のために、電気機械設備を更
新するとともに施設の耐震対策等を行い、水の安
横芝揚水機場 ポンプ設備の老朽化
定供給と安全な施設管理の確保を図るものです。
おわりに
【事業のここに注目!】
房総導水路施設も、千葉県のライフラインであ
今年度新規に着工した 3 事業は、平成 27 年度か
り、工事期間中も用水供給を停止することはでき
ら本格的な工事を開始します。関係者や施設近傍
ません。
の皆様のご理解とご協力をいただきながら工事を
そこで、ポンプ及び電気設備の工事に際して
は、送水機能を維持しながら順次設備を更新する
進めて参りますので、何卒よろしくお願いいたし
ます。
計画としています。また、水路トンネルやサイホ
事業化にあたっては、利水者をはじめ、関係行政
ンの工事の際には、施工区間を空水にする必要が
機関及びご指導いただいた学識者の皆様からご理
ありますが、長柄ダム及び東金ダムの貯留水を運
解とご協力、そして非常に多くの力添えをいただ
用することにより、用水供給に支障が生じないよ
きました。厚く御礼申し上げます。
とうがね
うに工事を行う計画としています。
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