●パッシブ捕集−加熱脱離GC/MS法による密閉空間有機ガスの高感度分析 パッシブ捕集−加熱脱離 GC/MS法による密閉空間 有機ガスの高感度分析 有機分析化学研究部 矢野 寛子 くい場合や、保管・輸送の様な長時間を要する捕集には パッシブ捕集が向いている。ポンプなどの機材が不要 で、コンパクトかつ操作も簡単である。 2.3 オリジナルパッシブサンプラーの特徴 弊社で開発したパッシブサンプラーは、図1下段に示 した様にコイル内に吸着剤を挿入したものであり、比較 1.はじめに 的低沸点成分から捕集できる(アルカン換算C5~)、暴 露面積が大きいため捕集の効率がよい、捕集中・保管中 工業製品は製造、保管、輸送、使用、廃棄等の各段階 のコンタミが少ない、容器を移し替えることなく熱脱離 で色々なガスが発生する場面がある。発生したガスは、 装置に入れることができる、操作が容易&ロスが少な 臭気や有害性による人体・環境への悪影響、爆発性など い、焼き出しによって再利用できるなどの特徴がある。 による安全面での問題、着色などの製品不良、付着や腐 食により機器の動作不良などを引き起こすことがある。 そのため、発生ガス分析は、様々な製品トラブルの原因 解明に有効である。 ガス分析の際のガス捕集にあたって、弊社ではガス中 揮発性有機成分(VOC)をその拡散を利用して捕集する オリジナルのパッシブサンプラーを開発した。 本稿では、PP、PET、PFAの3種の樹脂製容器内ガス について、このパッシブサンプラーを用いた分析事例を 紹介する。 2.ガスの捕集方法とその特徴 図1 アクティブ捕集とパッシブ捕集 VOCの高感度分析方法の一つとして、吸着剤捕集熱脱 離GC/MS分析法がある。吸着剤には炭素系、無機系、ポー ラスポリマー系があり、これにガスを吸着させた後、熱 3.混合標準ガスの分析 脱離装置内で300℃程度に昇温して吸着成分を追い出し、 GC/MS分析を行う。GCに全量導入するため、ppm ~ ppb 開発したパッシブサンプラーの評価について、VOCの オーダーの極微量成分を分析できる。この手法は捕集方 混合標準ガスを用いて以下の通り評価した。 法によりアクティブ捕集とパッシブ捕集に分類される。 3.1 2.1 アクティブ捕集とパッシブ捕集 アクティブ捕集との比較 プラスチックバッグ内に標準ガスを入れ、図2に示す アクティブ捕集とは、吸着剤を充填した管(吸着管)に 条件でそれぞれ捕集し、熱脱離GC/MS分析を行った。 対象となるガスをポンプなどで通気し捕集する方法であ その結果、 保持時間(RT)15分程度までの低沸点成分(~ る。パッシブ捕集とは、サンプラーを対象ガス中に暴露し C10程度)は、 アクティブ捕集と同等の結果が得られた。 ガスの拡散を利用して捕集する方法である(図1参照) 。 パッシブ捕集4時間曝露条件では、RT15分以降の高沸点 2.2 集時間を24時間まで延ばすことでこれらの成分も検出さ 成分は検出されなかった。データは示していないが、捕 両捕集法の特徴 アクティブ捕集では、捕集空間の平均的なガス濃度を れた。高沸点成分をパッシブ捕集で検出するには捕集時 反映した結果が得られ、パッシブ捕集では捕集空間の局 間を十分に長くする必要がある。 所的なガスの分布状態を反映した結果が得られる。 環境エアや排ガスなどガスを吸着管に通気出来る場合 はアクティブ捕集が向いている。短時間(数分~1時間 程度)の捕集で微量成分まで検出でき、通気量からガス 濃度を算出可能である。 一方、薬瓶やマスクケース、センサやウエハの保管・ 搬出用途の密閉容器や減圧装置内など、ガスを通気しに パッシブ捕集 サンプラーを 25℃、4h曝露 アクティブ捕集 吸着管に 1L通気 図2 両捕集法でのGC/MS トータルイオンクロマトグラムの比較 ・25 東レリサーチセンター The TRC News No.116(Mar.2013) ●パッシブ捕集−加熱脱離GC/MS法による密閉空間有機ガスの高感度分析 3.2 パッシブ捕集の吸着特性 各樹脂容器内のガスについて25℃で比較すると、PFA プラスチックバッグ内に標準ガスを入れ、パッシブサンプ ではガス発生量が非常に少なくPP比1/30、PET比1/600 ラーを25℃にて1~4時間暴露し、捕集時間と吸着量の関係に 程度であった。また、50℃ではいずれの容器についても ついて調べた結果を図3に示す。その結果、捕集時間が増える ガス発生量が増えていることが確認された。 と吸着量が増大する傾向があった。 ガス成分間で比較すると、 ガス濃度の大小と吸着量の大小は一致しなかった。パッシブ 捕集では、ガス成分毎に異なる拡散性に応じたガスの分布状 態を反映していると考えられる。ガスの分布状態は温度、湿 度、風量、気圧などの条件によっても変化するため、パッシ ブ捕集はこれらの変化を敏感に反映する捕集方法と考えらる。 図4 パッシブ捕集のモデル図 5.おわりに 弊社で開発したパッシブサンプラーは、VOCについて 低沸点成分から捕集可能で、汚染が少なく、操作が容易 で、高感度に分析可能である。本稿では、このサンプラー を用いた分析事例として、アクティブ捕集が困難な密閉 容器内のガス分析を紹介した。この他減圧装置内でのガ 図3 パッシブ捕集時間と吸着量の関係 ス捕集、 数日を要する長時間の捕集も可能と考えられる。 パッシブ捕集では捕集空間での局所的なガス分布状態 を反映した結果が吸着量として得られるため、実際の捕 4.密閉容器内ガスの分析 集空間の平均的なガス濃度と必ずしも一致しない。吸着 量とガス濃度や捕集条件についての関係について今後検 マスクケース、センサやウエハの搬送容器などのプラス 討を進めたいと考えている。 チック製密閉容器内で、保管や輸送中に内容物がどの様な ■矢野 寛子(やの ひろこ) ガスに曝されているのかをパッシブ捕集で分析できる。 有機分析化学研究部 有機分析化学第2研究室 そのモデル試験として、図4に示す様にPP、PET、 趣味:アウトドア、インテリア鑑賞 PFA製の樹脂容器内にパッシブサンプラーを入れ、室温 (25℃)とオーブン内(50℃)にて24時間暴露した。分 析結果を図5に示す。 室温( 25℃):温調された場所での保管、輸送を想定 O 10 O n Intensity 20 30 0 RT(min) C11~14の 脂肪族炭化水素 C1 1 H2 4 C1 3 H2 8 C1 1 H2 4 C11 H2 4 C9 H20 Intensity 0 10 20 PFA容器 O O n 30 0 RT(min) CF2 CF2 CF2 n CF OCF3 m アセトン PET容器 CH3 Intensity(10倍拡大) PP容器 10 20 30 RT(min) 加熱( 50℃):温調のない場所での保管、輸送を想定 PET容器 0 10 20 30 RT(min) 0 10 20 30 RT(min) 0 C1 4 H3 0 20 図5 樹脂容器内ガスをパッシブ捕集にて分析したGC/MSトータルイオンクロマトグラム 26・東レリサーチセンター The TRC News No.116(Mar.2013) フタル酸エステル C1 2 H2 6 C1 0 H2 2 10 ベン ズアルデヒド C2HF7 アセトン Intensity(10倍拡大) PFA容器 Intensity C1 5 H3 2 C9 H20 Intensity PP容器 30 RT(min)
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