●[特集]医薬品分析(4)2組の分子内ジスルフィド結合を有するペプチドの合成 [特集]医薬品分析 (4)2組の分子内 ジスルフィド結合を有する ペプチドの合成 生物科学研究部 森 龍真 1.はじめに ジスルフィド結合とは、システイン等に含まれるスル 図2 ジスルフィド結合異性体の生成 フヒドリル基2つが酸化されることにより形成する硫黄 原子間の共有結合のことである。ジスルフィド結合は多 くのタンパク質や生理活性ペプチドの立体構造の安定化 3.Apaminの合成 に大きく寄与しており、それらの持つ活性において重要 な役割を担っている。したがって、生理活性ペプチドを Apaminは18残基のペプチドであり、2組の分子内ジ 合成する上で、ジスルフィド結合形成法は重要なポイン スルフィド結合(Cys1-Cys11、Cys3-Cys15)を有してい る。この2組のジスルフィド結合を選択的に形成するた トである。 め、まずCys3とCys15のスルフヒドリル基がフリーで、 Cys1とCys11のスルフヒドリル基がt -Bu基で保護された 2.ジスルフィド結合の形成 Peptide-1を合成した。次にCys3-Cys15のジスルフィド結 合を形成させるためにDMSO酸化を行い、Peptide-2へ ジスルフィド結合の形成法には、₁)DMSO酸化法、 と導いた。最後に、Cys1-Cys11のジスルフィド結合を形 ₂)ヨウ素酸化法などの酸化法がある。これらの方法を 成するため、DMSO、anisole存在下、TFAを作用させる 用いることで、フリーか、もしくは保護されたスルフヒ ことで、t -Bu基の脱保護とジスルフィド結合の形成を一 ドリル基を有するペプチドから、分子内ジスルフィド結 挙に行い、Apamin(Synthetic)を合成した(図3) 。 合を有するペプチドを合成することができる(図1) 。 図1 ジスルフィド結合の形成法 しかし、分子内にジスルフィド結合を2組以上有する ペプチドを合成する際に、上記の方法で一挙にジスル フィド結合形成反応を行うと、目的物の他に複数のジス ルフィド結合異性体が生成する可能性がある(図2) 。そ のため、目的物の収率低下や、ジスルフィド結合異性体 の生成による分離精製の煩雑化といった問題が生じる。 図3 Apamin(Synthetic)の合成 これらの問題を回避するためには、複数のジスルフィド 結合を目的の位置で選択的に形成する必要がある。 弊社では、選択的かつ高収率なジスルフィド形成法の 4.ジスルフィド結合位置の検証 確立を目的に、酸化反応の検討を行ってきた。本稿で Apaminの合成を通して、選択的なジスルフィド結合の形 3項で合成したApamin(Synthetic)のジスルフィド 成法について紹介する。 結合が、正しい位置(天然物と同じ位置)で結合して 22・東レリサーチセンター The TRC News No.114(Nov.2011) ●[特集]医薬品分析(4)2組の分子内ジスルフィド結合を有するペプチドの合成 いるかを検証した。最初に、Apaminのジスルフィド結 完全に一致した(図6) 。以上のことから、本法で合成し 合異性体を合成した。Cys1-Cys15、Cys3-Cys11 でジスル たApamin(Synthetic)のジスルフィド結合は、天然物 フィド結合を形成した異性体Isomer-1を合成するため、 と同じ位置で結合していることが確認できた。 Cys3-Cys11 のスルフヒドリル基がフリーでCys1-Cys15 ス ルフヒドリル基がt -Bu基で保護されたペプチドを合成し た。続いて、3項と同様の方法で順次酸化反応を行い、 Isomer-1へ と 導 い た。 同 様 に し て、Cys1-Cys3、Cys11Cys15でジスルフィド結合を形成したもう一つの異性体 であるIsomer-2を合成した(図4) 。 図6 Apamin(Synthetic)、Apamin(Natural)の比較(逆相 HPLC 分析結果) 5.終わりに 図4 Isomer-1,Isomer-2 3項の方法を用いることで、2組の分子内ジスルフィド 次に、合成したApamin(Synthetic) 、Isomer-1、Isomer-2 結合を目的の位置で選択的に形成することができた。本 を逆相HPLCで重ね打ちしたところ、図5に示すように各 法とその他のジスルフィド結合形成反応を組み合わせる ピークの保持時間に違いが見られた(Apamin(Synthetic) : ことで、3組の分子内ジスルフィド結合を有するペプチ 9.35 min、Isomer-1:10.03 min、Isomer-2:10.10 min) 。逆 ドや、分子内、分子間ジスルフィド結合を合わせ持つペ 相HPLCによる分析で、Apamin(Synthetic)はIsomer-1、 プチドの合成も可能である。今後も技術開発を進め、様々 Isomer-2と区別できることが確認できた。 なペプチドの合成に対応していきたい。 6.参考文献 1)R. Soll, A. G. Beck-Sickinger, J. Pept. Sci., 6, 387397 (2000). 2)A. Schulz, E. Kluver, S. Schulz-Maronde, K. Adermann, Biopolymers., 80, 34-49 (2005) ■森 龍真(もり りゅうま) 生物科学研究部 生物科学第 1 研究室 図5 Apamin(Synthetic)、Isomer-1、Isomer-2 の比較(逆 相HPLC 分析結果) 専門:有機合成化学 趣味:フットサル、テニス 最後に、逆相HPLCにてApamin(Synthetic)と天然 のApamin(Natural)を重ね打ちしたところ、ピークは ・23 東レリサーチセンター The TRC News No.114(Nov.2011)
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