青野運動公苑事件最高裁判決―公有地信託制度の再検証の必要性―

PPPニュース
PPPニュース 2011 No.17 (2011
2011 年 12 月 12 日)
青 野運 動公苑 事件 最高裁 判決 ―公有 地信 託制度 の再 検証の 必要 性―
地方自治体の金融機関との関わりにおける財務運営を巡る事件の最高裁判決が続いている。第
1 は、第三セクター等外郭団体の改革に関連した損失補償契約の有効性問題に関する長野県安曇
野菜園事件上告審最高裁判決破棄自判(2011.10.27、事件番号平成 22(行政ツ)463)であり、
第 2 は今回の PPP ニュースで取り上げる兵庫県青野運動公苑事件判決(2011.11.17、事件番号平
成 22(受)1584)である。本事件は、兵庫県が土地信託方式で公有地の活用を行った事業であ
り、信託先の三菱UFJ信託銀行と住友信託銀行が整備費として金融機関から借り入れ返済した
約 78 億円の支払いを兵庫県に求めた訴訟の上告審判決である。最高裁第1小法廷(宮川光治裁
判長)は 11 月 17 日、兵庫県の上告を棄却し信託銀行 2 行の請求を認めた大阪高等裁判所第 2 審
判決が確定した。これに従い、兵庫県は利息を含めた約 105 億円を 18 日に 2 行に支払うことを
表明している。本判決の理由は、公有地信託制度でも委託先が事業処理に伴い支出した費用の補
償を請求できるとする当時の旧信託法の規定が適用されるとした点にある。
青野運動公苑事業は、兵庫県と信託銀行2行が 1987 年に公有地信託契約を締結し、兵庫県加
西市にある県有地に公有地信託方式によりスポーツ施設を建設・運営するものであり、2015 年
に同施設を兵庫県に譲渡し信託契約を終了する内容となっている。しかし、本事業の業績悪化に
伴って兵庫県が損失補償を打ち切ったため信託銀行2行は 2006 年、自己資金で金融機関からの
借入金計約 78 億円を全額返済し翌 2007 年、兵庫県に当該支払い費用の補償を求めた事件である。
第 1 審の神戸地方裁判所は信託銀行側の費用補償請求を棄却する判決を行ったが、第 2 審の大阪
高等裁判所は委託する側は信託財産からの不利益をすべて負担すべきとして兵庫県に全額支払
いを命令している。最高裁判決でこの第 2 審が確定したものである。
土地信託制度は、委託者が所有する土地を受託者に対して所有権移転を伴う信託譲渡を行い、
受託者はその土地を信託財産として活用、収益事業を展開し、その収益を受益者(委託者が受益
者となる場合もある)に配分する方式である。この土地信託のうち公有地を対象とするのが公有
地信託(公有地信託の場合、受益者は委託者である当該地方公共団体に限られる)であり、1986
年の地方自治法改正により地方自治体が所有する土地を議会の議決を経て信託することが可能
となった。この改正を受け 1980 年代後半のバブル経済期に契約した公有地信託は、当初こそ収
益が生じた例があるものの、その事業のほとんどが構造的な収支悪化に陥り債務が拡大する傾向
を示してきた。本件、青野運動公苑事業も同様の時期にスタートし業績悪化に陥っている。今後、
信託期間満了を迎える事業が増加する中で債務を抱える信託契約を如何に処理するかは、地方財
政全体に影響する大きな課題のひとつとなっている。1980 年代以降、民間活用の公有地信託制
度をはじめとして官民連携のパートナーシップとして民間化政策が展開されてきた。パートナー
シップの仕組みの充実は不可欠である。しかし、パートナーシップの基本は官と民の補完にある。
公有地信託制度がその意味で民が官に如何なる機能を提供し補完する仕組みなのか再検証する
必要がある。公有地信託における信託銀行等の役割が単なる財務管理であるとすればそれを前提
とする政策判断が必要であり、事業展開への経営ノウハウ提供等の機能とそれに伴う責任の所在
を契約締結プロセスも含めて明らかにしていくことが必要となる。
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