2012.1.No.15 肺 癌 と の 鑑 別 を 要 し た 胸 部 Desmoid type fibromatosis の 1 例 図 1 図 図 22 図4 図 図 55 現病歴及び入院経過:50 歳代の女性.喫煙歴(−).昨年初め,左 肩に疼痛を覚え,近医を受診した.頚椎ヘルニアの診断の下に治 療を受けるも改善せず,本学呼吸器内科を受診した.胸部写真(図 1)と CT,MR にて左肺尖部に第 1,2 肋骨及び鎖骨下動脈(図 2,矢 印)に接する 4.5×3.8cm の腫瘤陰影を認めた(図 3). PET では 腫瘤部位に SUVmax:3.36 の軽度集積を認めた.肺癌を疑って気管 支鏡検査を施行するも確診に到らなかった.CEA,シフラ,NSE な どの腫瘍マーカーは正常範囲であった. 合同カンファレンスの検討:画像上, Pancoast 型肺癌が疑われた.患者は 比較的若年であり,他臓器転移を認 めないので,人工血管の置換を含め て手術適応ありと判断され,呼吸器 図3 外科に転科した. 手術所見及び術後経過:開胸すると肺尖部胸壁に広く基部を有する 可動性のない腫瘍を認めた(図 4).迅速病理診断は desmoid であっ た.第 1,2 肋骨を胸椎関節部位で離断して切除を試みたが,鎖骨 下動脈に強く関与した腫瘍は腕神経叢にも浸潤しており,完全切除 を断念した.術後に左肩から腕に疼痛が残ったが,リハビリにより 改善しつつある.術後療法としては当院の整形外科腫瘍チームと検 討した結果,COX-2 阻害薬を投与し,経過観察中である. 病理組織学的所見(図 5) :腫瘍組織は縦隔胸膜を被っており,縦隔 軟部組織から発生したと考えられる.紡錘形間葉系細胞と結合組織 が均一な割合で混在し desmoid type fibromatosis と診断された. 腕神経組織と左第 1 肋骨への浸潤も認めた. 考察:desmoid-type fibromatosis,デスモイド型線維腫症は線維芽細胞の増殖性疾患で,遠隔転 1) Desmoid-type fibromatoses involving the brachial plexus: treatment options and assessment of c-KIT mutational status 移はしないが,局所浸潤を特徴とする稀な疾患である .表在型,深在型や若年型などに分類さ れるが,腹腔内型−家族性大腸ポリポージスを合併する−と,特発性−身体のあらゆる部位に 発症する−に分類される事もあり,本例は特発性となる.境界は不明瞭なので局所再発を来た し易く,浸潤部位によっては全切除が困難となる.腫瘍死 2)もあるが,症例によっては自然退 縮も報告されており,対応が難しい 3).原因として一部にエストロゲンの関与が指摘されてい る.本例ではレセプターが陰性だったので抗エストロゲン製剤ではなく COX-2 阻害薬を選択し た. この様に臨床像は多彩で原因から予後に到るまで謎の多い疾患である.治癒には十分の margin を取った腫瘍の全切除が求められるが,over surgery には注意を要する.放射線治療 2) 9 や経過観察を含めて個々の症例に適した集学的な対応が求められよう. 1) Seinfeld J,et al, J Neurosurgery,2006; 5:749,2)Posner MC,et al, Arch Surg, 1989;24:191, 3)Nakayama T,J Orthop Sci, 2008;13:51 図5
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