論文要旨・審査の要旨

学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
論
文
題
目
中館
主
査
三浦
修
副
査
岸本
誠司、東田
Is
雅志
修二
18
F-FDG PET/CT useful for distinguishing between primary thyroid
lymphoma and chronic thyroiditis?
(論文内容の要旨)
<要旨>
甲状腺リンパ腫と慢性甲状腺炎はいずれも FDG-PET でびまん性集積を示し、類似した画像所見
を呈することが知られているが、本研究では両者の鑑別に有用な所見を検討した。びまん性に甲
状腺に集積を来している症例を後ろ向きに 196 例集め、確定診断を得た甲状腺リンパ腫 10 例と慢
性甲状腺炎 51 例を研究対象とした。甲状腺リンパ腫では DLBCL が 7 例、MALT リンパ腫が 3 例で
あった。SUVmax は甲状腺リンパ腫群が慢性甲状腺炎群よりも有意に高かった(25.3 ± 8.0 対 7.4
± 3.2, p < 0.001)。一方で、CT 値は甲状腺リンパ腫群が慢性甲状腺炎群よりも有意に低かった
(46.1 ± 7.0 HU 対 62.1 ± 6.9 HU, p < 0.001)。甲状腺リンパ腫群に限って言えば、DLBCL は
MALT リンパ腫よりも SUVmax が有意に高かった(29.0 ± 6.4 対 16.7 ± 2.3, p = 0.017)。この
結果から、甲状腺リンパ腫と慢性甲状腺炎の鑑別に FDG-PET/CT が有用である可能性が示唆され
た。
<緒言>
甲状腺リンパ腫は稀な疾患で、甲状腺腫瘍の約 5%、節外性悪性リンパ腫の 2-7%を占め、慢性
甲状腺炎を基礎とした発生が知られており、FDG-PET は悪性リンパ腫の診断、ステージング、治
療効果判定などに有用とされている。また、慢性甲状腺炎は FDG-PET においてびまん性の集積を
呈することが知られており、偶発的に発見された甲状腺の集積は、びまん性集積であればほとん
どの場合慢性甲状腺炎を考えるべきとされている。一方で、甲状腺原発の悪性リンパ腫に関して
はまとまった報告がほとんどなく、少数の症例報告がなされているのみであるが、これらのうち
いくつかの甲状腺リンパ腫はびまん性の高集積を呈しており、この類似した画像を呈しうる両疾
患の違いについては今まで議論されてこなかった。 加えて、FDG-PET/CT では FDG の集積だけで
はなく、CT 値も評価可能である。過去の報告では慢性甲状腺炎では CT 値が健常者に比べて減少
することが知られているが、甲状腺リンパ腫での報告は殆ど存在しない。
本研究の目的は、びまん性集積を有する甲状腺リンパ腫と慢性甲状腺炎において、FDG-PET/CT
の診断的有用性と鑑別点を明らかにすることである。
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<方法>
2005 年 1 月~2011 年 10 月までに行われた 7622 人の FDG-PET のデータから甲状腺への集積が指
摘されたものについて、後ろ向きに画像を評価し、甲状腺にびまん性の集積を認めた 197 症例を
対象とした。各症例に対して臨床情報を調査し、甲状腺機能および抗体検査、甲状腺エコーの結
果を記録した。
甲状腺リンパ腫群には、生検がなされ、悪性リンパ腫と診断された 10 例が含まれた。化学療法
や放射線療法が行われている、あるいは行われたものは除外した。組織型、SUVmax、CT 値、FDG
集積の分布パターンを調査した。
慢性甲状腺炎群は、日本甲状腺学会の診断ガイドラインに従い、甲状腺抗体陽性のもの、そし
てその他に原因のない甲状腺機能低下症や subclinical hypothyroidism、甲状腺エコーで実質粗
造を認めたもの、また生検や剖検で確定されたものを含めた、計 51 例を対象とした。
画像評価は 2 名以上の放射線科医の合議により判定した。最も集積の高い部位に直径 1-1.5cm
の ROI を描き、SUV max と CT 値を測定した。集積のパターンは視覚的に、びまん性、びまん性集
積かつ一部限局性集積を呈するものに分類した。
統計解析は、CT 値および SUVmax を平均値±標準偏差として算出し、甲状腺リンパ腫群と慢性
甲状腺炎群をそれぞれ t 検定を使用して比較した。DLBCL と MALT リンパ腫の比較はノンパラメト
リック Mann-Whitney U test を用いた。P 値 0.05 未満を統計学的有意とした。
<結果>
SUV max は甲状腺リンパ腫群 25.3 ± 8.0、慢性甲状腺炎群 7.3 ± 3.1 で、有意差を持って甲状
腺リンパ腫群の方が慢性甲状腺炎群よりも高かった(p<0.001)。
CT 値は甲状腺リンパ腫群 46.1 ± 7.0 HU、慢性甲状腺炎 61.7 ± 6.4 HU で、有意差を持って甲
状腺リンパ腫群の方が慢性甲状腺炎群よりも低かった。(p<0.001)。
甲状腺リンパ腫群の組織型間で SUVmax を比較したところ、DLBCL 29.0±6.4、MALT 16.7±2.3 で
あり、DLBCL のほうが MALT よりも集積が高かった(p=0.017)。
<考察>
本研究から、びまん性の集積を有する甲状腺リンパ腫と慢性甲状腺炎において、FDG-PET/CT が
鑑別に有用であったと考えられる。私たちの知る限り、これまでにこの両者の違いについて研究
した報告は見られない。
ROC 曲線による解析では、SUVmax のカットオフ値を 14.1 とすると、感度 100%、特異度 94.1%
と高い識別能を有していた。また CT 値のカットオフ値を 51HU とすると、感度 94.1%、特異度 80%
であった。
これまでの研究では、甲状腺リンパ腫の SUVmax についてのまとまった報告はなく、症例報告で
の集積程度は SUVmax 7.4~39.6 と様々である。組織型と SUVmax をともに記載している症例報告
では、MALT で 12.2、DLBCL で 9 と 39.4 のみである。一般的に悪性リンパ腫は組織型によって悪
性度および集積程度が異なることが知られているが、甲状腺リンパ腫に限った検討はされていな
い。本研究では症例数は少ないが、同一撮影条件下でオーバーラップなく DLBCL の方が MALT より
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も集積が高く、一般的な悪性リンパ腫での結果と合致する。我々の症例の MALT3 例は SUVmax が
14.1 以上であり、一般的に考えられる indolent MALT よりも高いように思われるが、これらは FDG
集積の点からも臨床的にも transformed type 見ている可能性が考えられる。
また、慢性甲状腺炎に関してはこれまで多くの FDG 集積の報告がなされており、その集積程度
も平均 SUVmax 2.8 - 8.2 と様々である。報告されたデータのなかで最大の集積程度を示すものは
SUVmax 16.8 であった。この値は我々の結果よりもわずかに高いものの、大きな差はないものと
考えられる。今までの報告と今回の結果を併せて考えると、「集積程度の低い甲状腺リンパ腫」
と「集積程度の高い慢性甲状腺炎」にはオーバーラップが認められ、両者の鑑別は困難と思われ
る。しかしこれまでの報告ではびまん性の集積は良性を意味する、という報告がほとんどであり、
その集積程度の検討は行われていない。本研究の結果からは、びまん性集積が常に良性を意味す
るものではなく、集積が高ければ悪性リンパ腫の可能性もあり、さらに SUVmax が 17 を超えるよ
うな集積程度の高いものに関しては悪性リンパ腫の可能性を念頭に、積極的な介入が必要ではな
いかと推察される。
これまでの研究をみると、各疾患の CT 値の報告は甲状腺リンパ腫で 51HU 程度、慢性甲状腺炎
で 61.4~86.2HU 程度で、我々の研究結果とも類似している。甲状腺は健常者では非造影 CT にて
高吸収を示すが、それは甲状腺に含まれる甲状腺ろ胞が多くのヨードを含有しているからである。
慢性甲状腺炎では反応性の胚中心を有するリンパ濾胞が増生し、甲状腺ろ胞が種々の程度に破壊
されるため、単位体積あたりのヨード量の低下から CT 値が低下すると考えられている。一方、甲
状腺リンパ腫での CT 値低下については、腫瘍細胞の密な増生によってほとんど甲状腺ろ胞が存在
しなくなることで起きていると考えられ、慢性甲状腺炎よりもさらにヨード存在率が低くなった
ため、CT 値にも差が生じたのではないかと推察する。
本研究では慢性甲状腺炎群は全てが組織を得て診断したわけではないため、以下の 2 点におい
て限界がある。一つは、慢性甲状腺炎の中のごく一部しか反映されていない点で、選択バイアス
が含まれていると考えられる。Rothman らは甲状腺機能低下の症例のうち 9.5%しか FDG 集積が見
られなかったと報告しており、選び方次第で慢性甲状腺炎の平均 SUVmax 値は変化すると考えられ
る。本研究において診断確定に至らなかった 131 例と、診断された 51 例を比較してみたところ、
診断された症例の方が SUVmax が高く、CT 値が低い傾向にあった。これは、びまん性集積を来し
た症例に限っている本研究では、慢性甲状腺炎と確定された人たちは実際の慢性甲状腺炎の中で
も集積の高い一部が集まっている可能性があるという結果であり、この原因としては集積の高い
ものがより甲状腺の精査を受ける傾向にあった、または除外されたグループに慢性甲状腺炎より
も集積の低いものが混じっていた可能性が考えられる。そういった状況でも、甲状腺リンパ腫群
と慢性甲状腺炎群に有意差が見られた点では、我々の研究の目的からはこの選択バイアスは不利
には働いていないと思われる。
もう一つは、慢性甲状腺炎群の中に集積の低い低悪性度リンパ腫が紛れている可能性が考えら
れる。これについては否定出来ないが、我々の研究の結果と併せて考えると、高悪性度リンパ腫
と、慢性甲状腺炎または低悪性度リンパ腫の違いとも言い換えることが出来るかもしれない。高
悪性度リンパ腫の検出はその後の治療において有益な情報であり、加えて、本研究は単施設のび
まん性集積を示した連続症例であり、日常診療に有用な研究と考えられる。その他の限界点とし
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ては、症例数が少なく、後向き研究であり、診断精度の向上にはより多くの症例での検討が必要
である。
<結論>
甲状腺リンパ腫は慢性甲状腺炎よりも有意に FDG 集積が高く、CT 値が低かった。加えて、甲状
腺リンパ腫群の中では、
DLBCL が MALT よりも FDG 集積が高かった。びまん性甲状腺集積でも SUVmax
の高いものはリンパ腫の可能性があり、FDG-PET/CT は SUVmax と CT 値の両者の観点から、両者の
鑑別に有用である可能性が考えられる。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号 甲 第
論文審査担当者
中館
4 6 1 8 号
主
査
三浦
修
副
査
岸本
誠司、東田
雅志
修二
(論文審査の要旨)
原発性甲状腺リンパ腫は慢性甲状腺炎を基礎として発症することも多く、び漫性甲状腺腫をき
たす両者の鑑別診断は非侵襲的な検査では困難な場合が多い。申請者は、FDG-PET/CT 検査にてび
漫性集積を示す甲状腺リンパ腫と慢性甲状腺炎に関して、鑑別診断に有用な画像所見を検討した。
生検にて確定診断された甲状腺リンパ腫 10 例(び漫性大細胞型 B 細胞リンパ腫 7 例、MALT リン
パ腫 3 例)と慢性甲状腺炎 51 例との FDG-PET/CT 所見を後方視的に検討したところ、前者では後
者に比して有意に FDG-PET 上の SUVmax 値は高く、一方、CT 値は有意に低いという結果が得られ
た。また、甲状腺リンパ腫の病型別の比較ではび漫性大細胞型 B 細胞リンパ腫が MALT リンパ腫よ
りも SUVmax 値が有意に高いという結果が得られた。本研究は、診断が困難な原発性甲状腺リンパ
腫と慢性甲状腺炎との鑑別に、FDG-PET/CT 検査が役立ちうることを示唆する臨床的に価値のある
研究と評価出来る。
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