PowerPoint プレゼンテーション

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胃癌におけるCOX-2遺伝子の異常メチル化と
ヒストンの脱アセチル化
Aberrant methylation and histone deacetylation of
cyclooxygenase 2 in gastric cancer.
International Journal of Cancer 2002, 97: 272-277
内科学第一講座
菊地 剛史
2
研究の背景
COX-2遺伝子は胃癌の約80%において発現上昇が報告され
ており、癌化に重要な役割を果たしていると考えられる
NSAIDsやCOX-2選択的阻害薬により、胃癌の発生が 40 % 減少す
る報告もあり、細胞株においてアポトーシスの誘導がおきることから、
過剰発現が発癌に関与している可能性が示唆される
細胞
増殖
増殖因子
発現誘導
血管新生因子
発現誘導
COX-2
発現上昇
PGE2
上昇
MMP-2
活性上昇
E-cadherin
発現低下
浸潤能
獲得
COX-2 遺伝子の発現制御機構
EGF -R
RAS
p53
転写抑制
MAPK
転写活性化
COX-2
COX-2 の遺伝子発現はgrowth factor など oncogenic な signal により
正に、p53 などの anti-oncogenic な signal により負に制御されている
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研究の目的
COX-2遺伝子の発現制御は不明な部分が多く、その解明は発癌
機序の解明につながるものとして期待される
COX-2遺伝子の上流領域に位置するCpG アイランドにおける、
COX-2遺伝子の発現制御と異常CpGメチル化について検討を
行った
メチル化による遺伝子発現抑制において関連が指摘されているヒ
ストンの脱アセチル化について検討を加え、胃癌におけるCOX-2遺
伝子のエピジェネティックな発現制御機構について明らかにする
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COBRA (COmbined Bisulfite Restriction Analysis ) 法の概略
5
5m
TCACAGAG CGG
sodium bisulfite
bisulfite&
PCR
Restriction&
electrophoresis
5m
GCA C
TUAUAGAGCGG
PCR
GTAC
Afa I site
0% 50% 100%
Methylation
TTATAGAGCGG
今回の検討で用いた COBRA 法は、DNAをBisulfiteで処理することにより、メチル化しているシト
シンはシトシンのまま、メチル化していないシトシンはウラシルに変換される。Bisulfite処理した
DNAをPCR後、メチル化アレルのみを切断する制限酵素で切断することにより、メチル化を定量
的に検出出来る。
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胃癌細胞株における COX-2 遺伝子の異常メチル化
CpG
Exon 1
U TaiI
M
<1 <1 <1 <1 <1 <1 100 32 86 (%)
RKO
KatoIII
JRST
MKN28
RKO
KatoIII
MKN28
JRST
NUGC3
AZ521
MKN74
MKN45
MKN7
23+164 bp
23+50+114 bp
MKN7
MKN45
MKN74
AZ521
NUGC3
AfaI
TaiI
COBRA
AfaI
100 bp
U
M
M
<1 <1 <1 <1 <1 <1 100 34 86 (%)
COBRA 法により検出されたメチル化アレルを M で、非メチル化アレルを U で示して
いる。Afa I , Tai I いずれの制限酵素処理においても、MKN28、KatoIII についてメチ
ル化を認め、胃癌細胞株 8 株中 2 株 ( 25% )において異常メチル化を検出した。
RKO は Positive control として用いた。
胃癌細胞株における COX-2 遺伝子の異常メチル化
Bisulfite-Sequence
A
CpG
A/T
A
A/T
CpG
Unmethylated CpG
Methylated CpG
A : Afa I 認識CpG
T : Tai I 認識CpG
MKN 7
MKN 28
MKN 45
KATO III
Bisulfite – Sequenceの結果を示す。COBRA法、Bisulfite-SSCP法によりメチル化を
検出したMKN28,KatoIIIにおいて、メチル化はプロモーター領域全体に密におこって
いることが明らかとなった。
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胃癌細胞株における COX-2 遺伝子の発現
KatoIII
MKN28
NUGC3
AZ521
MKN74
MKN45
MKN7
RT-PCR
COX-2
GAPDH
異常メチル化を呈した MKN28 , KatoIII においては遺伝子の発現を
認めず、メチル化と発現低下が相関することが明らかとなった。
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胃癌手術摘出標本におけるメチル化の検出
N : Normal tissue
T : Tumor tissue
N124
Y-16
Y-1
N115
N114
N112
COBRA
N T N T N T N T N T N T
U
M
0 37
0 46
0
0
0
0
0
40
0
0
(%)
手術摘出標本
メチル化
93例中
11例(12%)
正常胃組織
メチル化
18例中
0例
93例中11例(12%)においてメチル化が認められる一方、正常胃組織
についてはメチル化を認めなかった。
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免疫染色による COX-2 遺伝子の発現の検討
正常胃粘膜
胃癌
異常メチル化(+)
手術摘出標本
発現陽性
発現陰性
胃癌
異常メチル化(ー)
27例中
発現陰性
19例 (70%) メチル化
8例 (30%)
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胃癌
異常メチル化(ー)
8例中
6例
抗COX-2モノクローナル抗体を用いて、発現の検討を免疫染色により行った。
検討では、27例に対し行い、19例においては発現を認め、8例において発現を認めなかった 。
発現を認めなかった8例中6例はDNAの異常メチル化を認め、異常メチル化と発現低下に相
関を認めた。
Chromatin Immunoprecipitation ( ChIP )
クロマチン免疫沈降法の概略
Ac
Transcription
factor
Ac
DNA
M
M
Ac
Ac
Ac
M
ヒストンの
アセチル化状態
の変化
ヒストン
アセチル化
M
?
Ac
Ac
Ac
Ac
Purify DNA
HDAC
DNA
MeCP2
M
M
PCR
M
M
+
ヒストン
M
脱アセチル化
M
M
M
Ac
Immunoprecipitation by
Anti-Ac histone H3
Ac
M
M
M
M
Ac
Acetylation
Target gene
DNAメチル化によるCOX-2遺伝子発現抑制の分子機構に関して、クロマチンレベルで解析する目的
で、クロマチン免疫沈降法により、ヒストンのアセチル化の状態を解析した。抗アセチル化ヒストンH3
抗体を用いて免疫沈降を行って得られたDNAを用いてPCRを行い、アセチル化の程度を定量した。
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MKN45
MKN74
AZ521
JRST
MKN7
NUGC3
MKN28
KatoIII
半定量 PCR による胃癌細胞株における
クロマチン免疫沈降法の結果
COX-2
Anti
Ac-H3
GAPDH
No Ab
Expression
Methylation
COX-2
+ + + + + +
2.5
2
1.5
1
0.5
0
MKN45
MKN74
AZ521
JRST
MKN7
NUGC3
MKN28
KatoIII
COX-2
COX-2/GAPDH
Input
3
+ +
Input は免疫沈降を行う前のDNA、No Abは免疫沈降の際に抗体を使用しない場合のコントロール
として用いた.。メチル化を認め、発現の低下を認めた MKN28 , KATOIII においてアセチル化ヒスト
ンに付着したDNAが認めないことから、ヒストンの脱アセチル化が起きていることが明らかとなった。
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胃癌細胞株における脱メチル化剤、
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ヒストン脱アセチル化阻害剤による遺伝子再発現の検討
ヒストン脱アセチル化阻害剤(TSA)
脱メチル化剤(5-Aza-dC )
Aza+TSA
TSA
10 (mM )
Aza-dC
(-) 0.1 1
MKN28
MKN28
MKN45
MKN45
MKN28
COX-2
COX-2
GAPDH
GAPDH
5-Aza-dC : 0.1mM
RT-PCR により脱メチル化剤 5-Aza-dC 並びに、ヒストン脱アセチル化阻害剤 TSA 投与時における COX-2 遺伝子の再発
現の検討を 行った。 異常メチル化を呈した胃癌細胞株 MKN28 に対する 5-Aza-dC の投与は濃度依存的に遺伝子の再発
現を認めた。一方、TSA のみの投与では再発現を認めなかった。5-Aza-dC との組み合わせのTSA の追加投与により 5Aza-dC 単独投与より、発現の増強が認められた。
胃癌細胞株における脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化
阻害剤によるヒストンのアセチル化の検討
No Ab
Expression
Methylation +
COX-2
+ +
+
+
0.2
0
Aza+TSA
GAPDH
0.4
TSA
COX-2
0.6
Aza-dC
Anti
Ac-H3
0.8
MKN28
COX-2
1
MKN45
Input
COX-2/GAPDH
1.2
Aza+TSA
TSA
Aza-dC
MKN28
MKN45
MKN28
MKN28
TSAの投与でヒストンの再アセチル化が確認されたが、5-Aza-dC投与のみでは遺伝子の再発現を認め
るもののヒストンの再アセチル化は弱く、遺伝子の発現にはDNAの異常メチル化が優位に関与するも
のと考えられた。
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まとめ
胃癌細胞株 8例中2例(25%)、胃癌症例93例中11例(12%)に
COX-2遺伝子の異常メチル化を認めた。
COX-2遺伝子の異常メチル化と遺伝子発現の抑制はよく
相関していた。
クロマチン免疫沈降法により、 COX-2の遺伝子のプロモーターが
メチル化している例では、ヒストンの脱アセチル化を認めた。
以上の結果から、 COX-2遺伝子の発現調節において、
プロモーターのメチル化とヒストンアセチル化が重要であ
ると考えられた。
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異常メチル化とヒストン構造の変化による遺伝子発現抑制
Transcription
factor
Ac
M
M
M
: CH3
異常な遺伝子のメチル化
Ac
M
M
Spreading of methylation
Ac
Ac
M
M
M
遺伝子が発現している状態
MeCP2
M
脱メチル化
ヒストンのアセチル化
M
MeCP2
M
M
M
M
16
M
M
M
M
M
M
M
M
M
M
ヒストンの脱アセチル化
クロマチンの凝縮
遺伝子の発現抑制
通常遺伝子のプロモーター領域はメチル化されておらず、転写因子がアクセスしやすいようにクロマチンは開い
た構造になっている。(上段)メチル化が起きると、MeCP2などのメチルCpG結合タンパクがDNAに結合し(中段
右側)、ヒストン脱アセチル化酵素をリクルートする。その結果クロマチンは閉じた状態になり、遺伝子の発現は
抑制される。(下段)
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胃癌における異常メチル化の発癌への関与
CIMP in gastric cancer cell lines
Gene
methylated
unmethylated
MKN7
CIMP:
CpG island
methylator
phenotype
CIMP(-)
KatoIII
MKN28
CIMP(+)
MKN45
Methylation profile in gastric cancer
COX-2
U
M
U
M
E-cad
U
M
U
M
p57
U
M
U
M
Case
Distinct methylation pattern and
microsatellite instability in sporadic
gastric cancer. Int J Cancer. 1999
左図に示したように、胃癌の一部はゲノムワイドなメチル化の異常が癌化に関与すると考えられる。そのような
腫瘍においては、p16INK4A、E-cadherin、hMLH1 のメチル化が高頻度で認められる ( Suzuki et al, Int. J.
Cancer, 1999)。右側に CIMP+ 細胞株、MKN28、Kato III およびCIMP - 細胞株 MKN7、MKN45 における各
種遺伝子のメチル化検出例を示す。
COX-2 の発現と癌関連遺伝子異常の関連
COX-2
K-ras
p53
CIMP -
?
APC
COX-2阻害剤
COX-2
CIMP +
Methylation
E-CAD
Pro-apototic
gene?
p16
メチル化阻害剤
一部のCIMP+ 腫瘍では、COX-2 は異常メチル化により発現ぜず、
COX-2 非依存性の発癌経路をたどる。このような腫瘍にはメチル化
阻害剤が有効と考えられる.
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