本文その6

平成 24 年 9 月
田中 彰
Ⅳ 静止衛星の軌道保持
静止軌道に投入された衛星は、Ⅲ章で示したように、そのままにしておくと軌道の摂
動のために所定の範囲から逸脱してしまう。衛星を所定の範囲に留めておく(保持する)
ためには、定期的に軌道を制御し、摂動により変化した軌道を修正する必要がある。衛
星直下点の経度(東西)方向の保持制御は軌道面内の制御、緯度(南北)方向の保持制御は
軌道面の制御であり、それぞれ独立に扱えるので個別に示す。
Ⅳ.1 東西方向の軌道保持
基準時刻 t 0 でのドリフトレートを 0 とすると、任意の時刻 t でのドリフトレート  は、
Ⅲ.7 で示したドリフトレートの変化率  は狭い範囲では一定とみなせるから
  0   t  t0   0  t
(4.1.1)
である。基準時刻から任意の時刻までの間の平均(日周変化を除いた)直下点経度のドリ
フト  はこれを積分して
1
  0 t  t 2
2
(4.1.2)
となる。この2つの関係式が平均直下点経度の動きの基本であり、これを基に展開する。
 を常数とみなすと、(4.1.2)式で   t の関係は放物線であり、 t は(4.1.1)
式より  に比例するから、図Ⅳ.1.1 に示すように    の関係も放物線である。さら
に、  は(2.2.1)式より a に比例するから   a の関係も放物線である。
ドリフトレート(
)
東経 140 度(
<0)の場合
制
御
0
東
西
摂動による軌道の変化
(放物線)
図
東西方向軌道保持
47
経度(
)
 が負の場合、保持範囲の西端で、適当な軌道長半径(ドリフトレート)の軌道を保
持サイクルの初期状態とする。そうすると、保持サイクルの半分の期間は東向きにドリ
フトし、摂動により保持範囲の東端でドリフトレートがゼロになり、そこで折り返して
西向きにドリフトし、保持範囲の西端に戻ってくる。保持範囲の西端で軌道制御すると
次の保持制御サイクルに入る。図Ⅳ.1.1 に示すように、この繰り返しで衛星の位置を
所定の範囲に保持することができる。
静止状態(   0 )からドリフトレートが  になるまでの時間 t は(4.1.1)式より

t  

(4.1.3)
である。静止状態から t  の間の直下点のドリフト  は(4.1.2)、(4.1.3)式より
1
1  
2
  t     
2
2  
2
 2

  

2

(4.1.4)
となる。静止状態からドリフトレートが  になるまでの時間 tは(4.1.4)式より
t 
2

(4.1.5)
とも表せる。(4.1.4)式より次の関係も得られる。以上、図Ⅳ.1.2 参照。
  2
(  は  、  と同符号)
(4.1.6)
初期ドリフトレート 0 の微小変化 0 により、ドリフトレートがゼロになるまで
にドリフトする直下点経度の差   は、(4.1.4)式とはドリフトの方向が逆なので
(4.1.4)式の右辺に負号を付けて微分して

d   0 d0

→

    0 0

(4.1.7)
という関係が得られる。同様に、ドリフトレートがゼロになるまでの時間の差 t   は
(4.1.3)式を微分して
1
d t    d

→

t   

である。図Ⅳ.1.3 参照。
48
(4.1.8)
西
0
東
0
の場合
西
0
東
0
の場合
図Ⅳ.1.2 摂動による直下点経度のドリフト
0
西
0
東
の場合
図Ⅳ.1.3 初期ドリフトレートと直下点経度のドリフト
49
ドリフトレートを制御するのに必要な増速量は、
(1.4.1)、
(2.2.1)式より
v
a
2 v a
vGS    GS GS    GS 
(4.1.9)
2aGS
3 2aGS e
3e
であり、常数( vGS  3075m s  、 e  360.986deg day  )を代入すると
vm sec  2.839 deg day 
(4.1.10)
v 
と得られる。
以下に、静止位置が東経140度で保持範囲が±0.1度の場合の東西方向軌道保持
について例示する。
東経140度でのドリフトレートの変化率  140 E  は(3.7.2)式より
 140 E   1.357 103 (deg E / day 2 )

(4.1.11)
である。(4.1.5)式より、保持サイクル(制御間隔) t EW は、保持範囲を  とすると
t EW  2 

2
2
 140 E 
2   0.2
 34.3(day )
 1.357 103
(4.1.12)

である。(4.1.5)式では  と  は同符号なので、  も負である。
保持サイクルの最後は(4.1.6)式より保持範囲の西端で西向きのドリフトレート
l   2 140 E   2   1.357  103   0.2(deg E / day)
 0.0233(deg E / day)
(4.1.13)

となり、保持サイクル開始時のドリフトレート i は以下となる。
i  l  0.0233deg E day 
(4.1.14)
また、ドリフトレートに相当する軌道長半径は(2.2.1)式より次式となる。
2

2

a   aGSP
   42166 
(km)  77.87 (4.1.15)
3
nGS
3
360.986
これより、(4.1.14)式に相当する軌道長半径の静止軌道長半径からのずれは以下となる。
ai  77.87  0.0233  1.81(km)
(4.1.16)
次に、この制御に必要な速度変化量を求める。毎回の制御での速度変化量(この場合
は減速)は (4.1.10)、(4.1.13)、(4.1.14)式より以下となる。
vEW  2.839  (i  l )  2.839  0.0233  0.0233  0.132(m / s)
(4.1.17)
50
この制御による公転周期の変化は(1.4.14)
、
(4.1.17)式より得られる。
Psec  84.07vEW m sec  84.07  (0.132)  11.1sec (4.1.18)
年間に必要な制御量は、1年を 365.24 日とすると以下となる。
vEW  year: 140 E   0.132 
365.24
(m / s)  1.41(m / s)
34
(4.1.19)
また、これは、年間のドリフトレートの変化量は(4.1.1)式より
 year   365.24
(4.1.20)
なので(4.1.10)式より年間に必要な制御量は次式でも得られる。
vEW  year  (m / s)  2.839 year   2.839  365.24  1037 (deg/ day 2 )
(4.1.21)
これからも(4.1.19)式の結果は以下のように得られる。


vEW  year: 140 E   1037   1.243 103  1.41m s 
(4.1.22)
以上は平均直下点経度の保持を考えた。次に、Ⅱ.2.ⅱに示したように、衛星の直
下点経度は離心率により東西方向に日周運動するため、離心率をできるだけ小さく保持
することを考える。
年間の東西方向軌道保持制御で離心率ベクトルは(1.4.14)式より
eEWc 
2  vEW  year 
3075

2  1.41
 9.2  10 4
3075
(4.1.23)
だけ変化する。
制御による離心率ベクトルの変化方向
衛星軌道
北極上空から見た図
18 時
0時
12 時
地球
太陽
摂動による離心率ベクトルの変化方向
6時
図Ⅳ.1.4 最適離心率制御
51
太陽輻射圧による離心率の長周期摂動を考慮し、摂動で離心率ベクトルが変化するの
を相殺するように制御時刻を選択する。具体的には、図Ⅳ.1.4 に示すように、太陽輻
射圧により、離心率ベクトルは太陽方向に対し 90 度進んだ(時計回り)方向に動くので、
その反対方向に離心率ベクトルが動くように制御する。離心率ベクトルは速度変化方向
から 90 度遅れた方向に変化するので、制御時刻は衛星直下点の地方時18時となる。
(  が正の地方では、衛星直下点の地方時6時となる。)
そうすると、図Ⅳ.1.5 に示すように、摂動では赤線のように離心率ベクトルが変化
するが、適切な制御時刻を選択することにより、緑色の線で示すように離心率ベクトル
が変化するので、離心率を小さく保持することができる。
制御による離心率ベクトルの変化(2→3)
3
2
太陽輻射圧による
離心率ベクトルの
4
ドリフト
e=0
制御がない場合の
太陽輻射圧による
1
離心率ベクトルの
ドリフト
(1→2)
(3→4)
制御による
離心率ベクトル
回転中心の移動
図Ⅳ.1.5 離心率ベクトルの保持
CR A / m  0.002 m2 kg の場合、太陽輻射圧による離心率ベクトル摂動の半径 RSP は表
Ⅲ.9.2 より 2×10-4 程度だから、摂動による離心率ベクトルの年間の変化は
eP  2RSP  1.3  103
(4.1.24)
である。東西方向軌道制御を適切な時刻に実施することにより、一年間(365.24 日)に
東西方向軌道制御で変化する離心率ベクトル eEWc ((4.1.23)式)を差し引くことが出
来る。その結果、離心率変化の半径を
REWk 
eP  eEWc 1.3 10 3  9.2 10 4

 0.6 10 4
2
2
と制御がない場合(2×10-4 程度)の約1/3に保持できる。
52
(4.1.25)
実際の東西方向軌道保持の運用においては、離心率がゼロでないことによる東西方向
の動き、制御誤差、制御タイミング(機会は毎日1回)の余裕を考慮(軌道傾斜角による
東西方向の動きは無視できる)する必要がある。
そこで、離心率がゼロでない(長周期摂動と前述の最適制御時刻を考慮して 10-4程
度)ことによる東西方向の動きを(2.2.3)式より 0.01 度( e )、制御誤差を 5%、制
御タイミング(機会は毎日1回)の余裕を(4.1.13)式より 0.02 度( m )として運用に
おける直下点経度の保持範囲 op を求める。制御に誤差があるということは、保持サ
イクル開始時のドリフトレートがずれることであり、これにより、保持範囲の東端でド
リフトレートがゼロになる直下点経度がずれる。このずれの大きさは、制御誤差を 5%
とすると(4.1.7)式より
c  i    

i
i  
 140 E 
0.0233
5 

  0.0233  2 

3
 1.357 10
100 

 0.04deg 
(4.1.26)
である。 e は保持範囲の両端、 m は保持範囲の西端、 c は保持範囲の東端で
考慮する必要があるので、運用における保持範囲は図Ⅳ.1.6 に示すようになる。
保持範囲(
)(140ºE ±0.1º)
経度(
0.01° 0.02°
運用における保持範囲(
(139.93°~140.05°)
)
)
0.04° 0.01°
図Ⅳ.1.6 運用における軌道保持範囲(例)
実際の運用においては、軌道制御の誤差により、次の制御までの期間が変わる。また毎
回の制御を評価し、その結果を制御に反映することにより誤差を小さくすることができ
るので、運用における保持範囲を広く( c を小さく)することができる。
この例では、衛星の直下点位置を常に保持範囲内に留めておくことを考えたが、衛星
のミッションによっては保持範囲の考え方(定義)が異なるので、実際の運用ではそれに
従った運用をすることになる。

東経 140 度で op  0.12 の場合の制御間隔 t EW 、初期ドリフトレート i 、制御量
(減速量) vEW 、公転周期の変化 P 、軌道長半径の静止軌道からのずれ ai はそれぞれ
(4.1.5)、
(4.1.1)
、
(4.1.10)、(1.4.14)、
(4.1.15)式より以下となる。ここで、制御
時刻は離心率保持から夕方6時と一定なので、t EW は小数点以下を切り捨てた。
53
t EW  2
2op
 26day 

 140 E 
i   140 E 
t EW
 0.0176deg E day 
2
(4.1.27)
vEW  2.839  2i  0.100m sec
P  80.07vEW  8.0sec
ai  77.87i  77.87  0.0176  1.37km
Ⅳ.2 南北方向の軌道保持
軌道傾斜角がゼロでない場合、Ⅱ.2.ⅲで示したように、衛星の直下点は(東西)南北
に運動する。そのため、衛星の直下点を決められた保持範囲に留めておくためには、軌
道面を制御し、軌道傾斜角を所定の範囲に保持しなければならない。(軌道傾斜角が小
さい場合には東西方向の運動は無視できる。)
摂動のため、図Ⅲ.8.1 で示したように、軌道傾斜角0度付近では、軌道傾斜角ベク
トルは、♈+90 度軸に沿ってマイナス方向からプラス方向に変動する。従って、軌道
傾斜角を所定の範囲に保持するためには、図Ⅳ.2.1 左に示すように、定期的に軌道傾
斜角ベクトルを♈+90 度軸に沿ってプラス方向からマイナス方向に制御すれば良い。
これは、図Ⅳ.2.1 右に示すように、昇交点で南向きの、降交点で北向きの制御するこ
とである。
そして、制御時刻は春分、秋分では衛星直下点の地方時で 6 時あるいは 18 時、
冬至、夏至では 0 時あるいは 12 時となり、表Ⅳ.2.1 のように、地球の公転に従って最
適な制御時刻が変化する。東西方向の軌道保持のように一定の時刻が最適ではない。
さらに、
「軌道面摂動の補足」で示したように、軌道面の変化方向は18.6年周期で
変化(最大8.7度)するので、制御目標の軌道面もそれに合わせて決めることになり制
御時刻もそれに従って表Ⅳ.2.1 から最大35分(1440 分×8.7 度/360 度)程度前後する。
春分
~
夏至
~
秋分
~
冬至
降交点で北向き v
6時
~
0時
~
18時
~
12時
昇交点で南向き v
18時
~
12時
~
6時
~
0時
表Ⅳ.2.1 南北方向軌道保持制御の最適時刻
54
制御前の昇交点
(
)
(
ド
リ
フ
ト
♈(
O
)
赤
道
面
)
♈(
)
地球
制
御
制御前
制御後
制御後の昇交点
(
(制御サイクル)
)
(制御による軌道面の変化 )
図Ⅳ.2.1 南北方向軌道保持
以下に、軌道面の摂動が最大時期で直下点緯度の許容範囲が±0.1度の場合の南北
方向軌道保持に必要な制御量と制御間隔を示す。
摂動による軌道面変化の最大値は(3.8.2)式より次式で与えられる。

i
 0.949(deg/ year )
(4.2.1)
許容範囲を i とすると、この時期(軌道面変化最大)の制御間隔 t NS は
MAX / year
t NS  
i
2 i
 365.24(day) 
2  0.1
 365.24(day)  77(day)
0.949
(4.2.2)
MAX / year
となる。また、この場合の制御量(増速量 vNS )は(1.4.15)式より

vNS m sec  53.66 i deg   53.66  0.2  10.73m sec (4.2.3)
であり、軌道面の摂動が最大時の年間制御量 vNS ( year ) は以下となる。

vNS ( year)  53.66 i
 53.66  0.949  50.92m sec
(4.2.4)
MAX / year
このことより、静止衛星の軌道保持のための推進薬のほとんどは南北方向の軌道保持
に使用されることがわかる。
55
南北方向の軌道保持制御も東西方向と同様に、制御誤差を考慮しなければならない。
制御誤差を 5%考慮すると、制御による軌道傾斜角ベクトルの変化も 5%の誤差を考慮
する。制御前の軌道面は i =0.1°、Ω=90°付近であり、目標は制御量が 0.2 度なので
その 5%を差し引いた i =0.09°、Ω=270°(白道面の位置により 270°±8.7°)とすれ
ば良い。これは、東西方向軌道保持制御で c を考慮するのと同じである。この場合の
制御間隔 t NS と制御量 vNS は
t NS 
0.19
 365.24  73day 
0.949
vNS  53.66  0.19  10.20m sec
(4.2.5)
である。
以上が南北方向軌道保持の概要である。以下に、「軌道面摂動の補足」で示した内容
を考慮した、制御目標と制御時刻を考える。
制御間隔最長が最適な保持制御であるとすると、制御後の軌道面が保持範囲に留まっ
ている期間を最長にすることである。そうすると制御目標は、軌道面の摂動による動き
の方向を考慮し、誤差を考慮した制御目標の軌道傾斜角、昇交点赤経を 、 とすると
ia  i  ic
、
a  270  
(4.2.6)
である。ここで、 は保持範囲、 は考慮する制御誤差、αは「軌道面摂動の補足」の
(5)式で与えられる。また、αは制御後の保持サイクル期間の中間での値とする。
制御前の軌道傾斜角、昇交点赤経を
変化
、 とすると制御による軌道傾斜角ベクトルの
は

 cos  a 
 cos b   ia cos  a  ib cos b 
  ib 
  

ik  ia 
 sin  a 
 sin b   ia cos  a  ib cos b 
であり、制御時の平均経度を
(4.2.7)
とすると(1.4.8)式より
 v  cos c 

ik  NS 
vGS  sin c 
( vNS :北向きが正)
(4.2.8)
だから
c  tan 1
ia sin  a  ib sin b
ia cos  a  ib cos b
( vNS が負(南向き)の場合+180º)
(4.2.9)
である。
これらを図Ⅳ.2.2 に示す。この図では vNS は南向きである。図Ⅰ.4.6 参照。
56
(♈+90º)
● (制御前の軌道傾斜角ベクトル)
α
制御後の
摂動による
軌道面の
ドリフト
(♈)
0
:制御による軌道面の変化
● (制御目標の軌道傾斜角ベクトル)
図 Ⅳ.2.2 南北方向軌道保持制御目標
このことから制御時刻を考える。制御時の衛星直下点の地方時を LT とすると、平均
太陽の赤経α☉、LT、 の関係は図Ⅳ.2.3 のようになる。
衛星
太陽
12 時
:制御時の平均経度
LT:衛星直下点の地方時
α☉:平均太陽の赤経
LT=
+180º(12h)-α☉
α☉
LT
地球
180º(12h)-α☉
0時
図
Ⅳ.2.3
南北方向軌道保持制御時刻
57
♈
この図より、制御時の衛星直下点の地方時 LT は
LT  c  180º(12h)-α☉
(4.2.10)
である。ここで、時刻 t での平均太陽の赤経α☉は、地球から見た太陽の平均運動を
n☉として
α☉=n☉(t-tVE)
tVE:平均太陽の春分点通過時刻 (4.2.11)
n☉=0.9856º/day
である。ここでは角度と時間を同一視(24h=360º)している。
昇交点で南向き vNS の場合、c ≒90º(6h)なので、(4.2.9)式で得られる c を
h
c =90º(6 )+βº とおき、制御時の平均太陽の春分点通過時刻からの時間を春分の
日からの日数 d で近似すると、衛星直下点での制御時刻 LT は(4.2.10)式より
24 h
24 h
0.9856d  =18h+      0.9856d 
  +12h-
360
360
 15   15 
h
LT≒6h+
h
(4.2.12)
と近似できる。同様に、降交点で北向き vNS の場合、c ≒270º(18 )なので
h
c =270º(18h)+βº とおくと
    0.9856d 
LT≒6 +    

 15   15 
h
h
h
(4.2.13)
である。これで、軌道面が動く方向の変化も考慮した、南北方向軌道保持の制御目標と
制御時刻を(4.2.6)式と(4.2.12)、(4.2.13)式で表せた。
軌道面の摂動では、短周期摂動は無視できる。長周期摂動は表Ⅲ.9.2 に示すように、
月の引力による摂動(半月周期)はかなり小さいが、太陽の引力による摂動(半年周期)
はそれに比較すると大きい。そこで、南北方向の軌道保持では太陽引力による摂動を考
慮し、月の引力による摂動を平均化した、月平均軌道要素で考えるのが適当である。
東西方向軌道保持制御では日周変化と制御時期の余裕を考慮したが、南北方向軌道保
持制御では無視できる程小さいので考慮する必要はない。次回の制御時期が制御の誤差
により変わること、制御の評価を反映することで保持範囲を広げる( ic を小さくする)
ことができることは東西方向軌道保持制御と同じである。
運用の現場においては、ここで示した内容以上に高精度で計画できるシステムが存在
するであろうが、この章では、軌道保持の内容が理解できるように、少し噛み砕いて解
説した。
58