統計熱力学講義 第12回 担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] プラズマ実験装置NSTX(プリンストン大学、米国) 1 本日の予定 • 前回、演習の答え • 第11章 二元混合物 – 相の平衡と各種の相図 (概説と見方の復習) 2 液体と固体の混合物 (復習) • 純粋な成分AとBからなる液体の混合物の温度を下げたときに、液 体から一部固体になる液体と固体の混合物を考えよう。 この時、 – 固体も液体も溶解度ギャップがない。 – 純粋な成分Aの融点TAは純粋なBのTBより低いとしよう。 • すると、混合物の自由エネルギー • f は、次のような図となる。 3 相の平衡 • • • • • • • • • • • 温度Tdは、TA<Td<TBの範囲 よって、右図のように自由エネ ルギーが描かれる。 温度の範囲から、 f AS f AL , fAS fAL f BS f BL 下はそのときの相図である。 すると、 x<xLではすべて液体 xL<x<xSでは、 組成xLの液体と組成xSの固体 xS<xではすべて固体 よって、 xLの線は液相曲線、 xSの線は固相曲線という T=Td fS fBL fBS fL fL fS T TB Td TA xL xS 4 相図 • • 成分比xを横軸にした自由エネルギー曲線とその共通接線との交点 は、温度Tに依存する。 そこで、温度Tを縦軸にして交点の位置を表した図に変えると、いわ ゆる相図となる(機械材料では、成分平衡状態図として習っているも のである)。 左のような図もあり 得る。 T 温度T、成分比x、 自由エネルギーfの 3次元の状態図の 見方を変えたと思え ばよい。 0 x 1 5 演習 • 今、AとBの混合物の相図が下図のようであったとする。 • この時、図中の点Cの組成の成分が、十分温度の低い い固体からゆっくり温度が上がっていき、最後に液体に なる場合の様子を述べよ。必要なら、T1,T2,T3を使用せ よ。 C TB T1 T3 TA 0 x T2 1 6 解答例 • • 題意より、温度TがT3より低い最 初の状態では、成分がxiの均質 な固体である。 次に、温度が上がっていき、T3に 達すると、固相と液相に分かれ始 める。 C TB T1 T3 TA 0 xL1 x xi L xs xs1 x T2 1 •溶融開始時の液相成分は図のxL1で、固相の成分はxiである。 •温度Tが上がって、T1とT3の間であるT=T2の時、 •固相の成分はxs、液相の成分はxLで、その量比は、てこの原理に従い、(xixL):(xs-xi)である。 •さらに温度が上がって、T1になると、固体成分がxS1(量はほとんど無い状 態)になり、 •温度TがT1以上では、すべてが組成xiの液相である。 7 相間の平衡 • • • • 1種類の粒子からなる物体(系)の状態は、二つの量、たとえば、pとT の値によって決まる。 自由度2 しかし、2成分以上を持った系(例:2元混合物)の状態を規定するの には、3つの量、たとえば、pとTと各要素の濃度xiを与えることが必 要となる。 自由度は増大するが、どれだけ増えるか? すなわち、 ある系の成分の数がnで、相の数がrである状態は、圧力、温度と各 相中のn-1個の濃度成分で決まる(最後のひとつは自動的に決まる)。 自由度 r ( n 1) 8 相間の平衡 続き • しかし、拘束条件もある。 • 系が平衡なら、各相関ですべての成分の化学ポテンシャルが合い 等しいはずである。 拘束条件=自由度が減る 相の数はrだから、各成分ごとにr-1個の等号 成分の数nであるから 自由度 n (r 1) よって、系の取りえる自由度fは • • • f r (n 1) 2 n(r 1) n r 2 9 平衡時の相同士の状態 • • • • 最も簡単な例の2成分(n=2)では、互いに接触している4つを超えない 相からなることができる。 – 自由度f=0が最低であり、 n+2=4だからrは4を超えない。 系の自由度は、 f n r 2 より – 2相の場合は2 – 3相の場合は1 – 4相の場合は0となる。 それゆえ、2つの相が互いに平衡にあるような状態では、p、T、濃度x の3次元座標系中で曲面を形成する(自由度2は面である)。 3相の存在する状態(3重点)は曲線(3重点線、3相線)上の点で、また、 4相の存在する状態は孤立した点となる。 10 平衡曲面 • • • • • 一成分系では、二つの相が平衡にあるような状態は、p-T図上の1つ の曲線で表されていた。 この曲面上の各点は、両相の圧力および温度を決定する。 そして、曲線の一方の側にある諸点は 物質の均一な状態を表していた。 混合物でも同様なことが起こる。 座標軸に、p、T、および、成分のひとつ の化学ポテンシャルμをとるなら、2相 の平衡はひとつの曲面で表され、その 上の各点は平衡にある両相のp、T、μ を決定する。 p 水 氷 (p0,T0) 水蒸気 水の状態図 T 11 p、T、xの座標系 • • • • μを使うと不便なので、通常、濃度xを変数とし、p、T、xで状態図を 考える。 すると、2相の平衡は一つの曲面で表され、それと、p=const、あるい は、T=constとの交点は、そのpおよびTにおいて互いに接触する2 相の状態を表す(濃度が決定されるが、一般的に両相においては濃 度が異なる)。 この直線上の2つの交点の間にある点は、一様な物体としての存在 は不安定であり、そのために両側の交点で現される2相に分離する。 曲面は、2相の相互の平衡を表しているのであるから、明らかにそれ はx軸に平行な任意の直線との交点の数が偶数でなければならな い。 12 平衡曲線 • • • • 座標軸をpとx、または、Tとxにとった2次元図表を使い、この座標平 面上に、平衡曲面と温度一定、あるいは、圧力一定の平面との交線 を描くことができる。 この曲線を平衡曲線という。 以下で、個別に特別な点の付近での平衡曲線を考える。 両相で濃度の等しくなる平衡曲線上の点を考える。 – 1)この点で、両相はすべて等しくなる(同一相になる) 臨界点 – 2)この点で、二つの別々の相が相変わらず存在する 等濃度点 13 臨界点 • • • 臨界点付近の平衡曲線は右図のような形 (または、K点が極小点)になっている。 この曲線の内側(斜線を施した領域、ハッチ ング領域)にある点は、2相への分離が起 こっている状態の領域であって、これら2相 の濃度はこの曲線と対応する水平線の交 点によって与えられる。 K点において両相は融合する。 p,T K 0 x 1 •臨界点付近では、濃度xといくらでも近い濃度x+δxを持っている二つ の相が平衡している状態がある。 •平衡条件は ( p, T , x ) ( p, T , x x ) •よって、臨界点付近では、 0 x p ,T 14 等濃度点 • • • 等濃度点近傍は、右図に示した形 (または、等濃度点Kが極小点)に なっている。 二つの曲線は極大点(もしくは、極小 点)において接している。両曲線の 間の部分は2相への分離が起こる領 域をあらわす。 互いに平衡にある両相の濃度はK 点において等しくなるが、両相は 別々のものとして存在し続ける。 p,T K 0 x 1 15 一方の濃度が小さいとき • xが0または1に近い(すなわち、混合物中の 一方の濃度が他方より極めて少ない)場合 の平衡曲線を調べる。 • 濃度の小さい場合には、溶液相および純物 質相の平衡温度の差は(同じ圧力のもので は)両相の濃度の差に比例する。 • そればかりか、両相の濃度の比はpとTだけ に関係し、従って、x=0付近では、この比は 一定値と考えることができる(ここでは、証明 しない) p,T 0 x 1 •以上から、縦軸上で交わる2本の直線(または、直線が上向き)からなって いることが分かる。 •両直線の間は相分離の領域であり、両直線の上または下は一方または他 方の相の領域である。 16 2元混合物の相図 • • • • 2成分系では、互いに接触している3つの相 からなりえる。 3重点付近では平衡曲線は右図のようなも のとなる。 p,T 12 12 23 23 II 3つの相は、平衡にあるときにはすべて同じ 圧力および温度を持つ。それ故、それらの 濃度を決定する点A,B,Cは横軸に平行なひ とつの直線状にある I A 第1相の濃度を決定する点Aは第1相と第2 相および第1相と第3相との平衡曲線12、お よび、13の交点である。 0 C B III 13 13 x 1 17 2元混合物の相図 続き • • • 点Bは第1、2相と第2、3相の平衡曲線12と23の交点で、点Cは第1、3相 と第2、3相の平衡曲線13と23の交点 結局、A,B,Cはp=constまたはT=constと平衡曲面上の3つの曲線との交 点である。 点Bに対応する曲線は3相線と呼ぶ •領域I,II,IIIは個々の相すなわち第1、第2、 第3相の状態を表す。 p,T 12 12 23 23 II •2本の曲線13の間の直線ABCの下にある領 域は第1、第3相に分離する領域であり、2曲 線12および2曲線23の間(ABCの上)の部分は それぞれ第1と第2および第2と第3相に分離す る領域である。 I A C B 13 13 0 III x 1 18 その他の例 • 一定組成の相が純粋 物質の場合 p,T 相の一つが一定組成 の化合物 • • 相の一つが一定組成 の化合物 p,T p,T 12 K I A 12 II 23 23 C B 13 13 0 x 1 0 x 1 0 III x 1 19 相図 状態図の実例 (基本形1) • • 二つの相が存在し、任意の割合で混合する場 合 – 気体ー液体(または,液体ー固体)の場合に 現れる 例、一定組成の液体混合物(点A)を加熱すると、 点Bで沸騰を始める。 p,T 気体、または、液体 J G • 沸騰開始の上記の組成は点Cで与えられる。 点Cは液体の濃度(点B)より低いので、残りの 液体の濃度は上昇し、同時に沸点も上昇する。 D C H E F B A • さらに加熱を続けると(直線DEF)、液相を表す 点は下側の線に沿って上のほうに移動し(点F)、 沸騰して出てくる蒸気を表す点も上側の線に 沿って、上のほうに移動する(点D) 液体、または、固体 0 x 1 20 沸騰が完了する温度 • 沸騰が完了する温度は、過程により変化する。 • 1.沸騰が密閉容器で進行する場合 – 沸騰して出てくる蒸気は常に、液体に接 触しているので、液体が全部沸騰する温 度は明らかにはじめの濃度と同じ濃度を 持つ点Gである。 • • 2.沸騰が開放容器で起こる場合 – 各瞬間に液体と平衡にあるのは沸騰して 出てきたばかりの蒸気だけであるから、沸 騰が完了するのは、明らかに液体と上記 が同じ組成になる点Jにおいてである。 二つの相が液体と固体の場合も同様 T 気体、または、液体 J G D C H E F B A 液体、または、固体 0 x 1 21 等濃度点が存在する場合 基本形2 • 両相において両成分は任意の割合で混合 するが、等濃度点が存在する • 例を右図(極小点を持つ同様な図もありう る)に示す。 T 気体、または、液体 • 等濃度点で両極線は極大または、極小をも ち、互いに接する。 K • 前回との相違点 – 沸騰を例に取ると、開放系においては、 純物質点ばかりでなく、等濃度点におい ても完了しうる。 液体、または、固体 0 x 1 22 臨界点が存在する場合 基本形3 • 両相において両成分は任意の割合で混合する が、臨界点が存在する • 例を右図に示す。 • 曲線の右側の領域は液体の領域で左側は気 体に対応する – (液相と気相の区別は両者が互いに平衡 共存する場合のみである) T K 気体 C B • • 特別な状況 密閉容器中で直線AC(K点の右側)によって表 される組成を持った液体を加熱した場合、点B で一旦沸騰が始まるが、さらに加熱すると、蒸 気の量が次第に増加するが、ある瞬間から再 び減少し、点Cで蒸気はなくなる(逆行凝縮)。 液体 A 0 x 1 23 任意の割合では混合しない 基本形4 • • 2つの液体が任意の割合では混合しない 臨界点Kの温度より高い温度では、任意の割 合で混合する。 B,C組成の量比は てこの原理に従う T • • この温度以下では、両成分は斜線を施した領 域の内部の点Aでは二つの液体混合物への分 離が起こり、その濃度は対応する水平線と平 衡曲線との交点B,Cで与えられる。 臨界点Kが極小の場合や、二つの臨界点(上 下)を持つ場合(平衡曲線が閉曲線になる)こと も可能である。 液体 K C 0 A B x 1 24 制限混和性 基本形5 • • 液体(気体)の状態のときには、任意の比率で混合するが、固体(液体) ではそうではない場合 – 制限混和性 3重点Bが存在する。3重点の温度が純成分相の平衡温度A,Cより低い か、または、それらの中間にあるかによって状態図は変わる T C 気体、または、液体 T 気体、または、液体 C A D B A E D 液体、 または、 固体 液体、または、固体 0 F x B G 1 0 F E 液体、 または、 固体 x G 1 25 共融(共晶)形 • • • • • 例として、液相では無制限混和性で、固相で制限混和性の場合 曲線ABCより上は液相で、任意の割合で混合する。 曲線ADFおよびCEGの外側の領域では均質な固体(固溶体)の領域 3重点B(その温度は直線DBE)では液体と濃度が異なる2つの固溶体(点 D,E)が平衡にある。 C T 点Bを共融点(共晶点)という。 液体 •この濃度の液体はそのままこの濃度で固化 するが、他方、これとは違った濃度の場合に は、液体の濃度とは違う濃度を持った固溶体 に分離する •領域ADBとCBEは液相と固相の一方への分 離が起こる領域で、領域DEGFは2つの固相 への分離が起こる領域である。 A 固体 D 0 F 固体 B E x G 1 26 包晶型 • • • • 同じく、液相では無制限混和性で、固相で制限混和性の場合 曲線ADCより上は液相で、任意の割合で混合する。 曲線ABFおよびCEGの外側の領域では均質な固体(固溶体)の領域 3重点B(その温度は直線DBE)では液体Dと濃度が異なる固溶体(点E)が 平衡にある。 T 液体 D B A C E 固体 固体 F G •領域ADBとCDEは液相と固相の一方への分離が起こる領域で、領域 BEGFは2つの固相への分離が起こる領域である。 27 演習 2成分系平衡状態図の間違い探し 以下の図で間違っている部分を指摘し、その理由も述べよ。 T D 液体 T 12 12 23 23 II A 固体 B 固体 GH I A III C B E 13 13 0 C x 図1 F 1 0 x 1 図2 28
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