レポート : マンションの性能向上のための改修事例 〈その 10〉 駐車場の整備・改善 ー機械式を廃止したり、 不用な受水槽跡地を活用して増設した事例などー 大阪市立大学名誉教授・NPO法人集合住宅維持管理機構 理事長 梶浦 恒男 NPO法人集合住宅維持管理機構 常務理事 主任専門委員 小薄 和男 NPO法人集合住宅維持管理機構 主任専門委員 北村 順一 NPO法人集合住宅維持管理機構 主任専門委員 大槻 博司 1.はじめに 駐車場を巡る話題はマンションに大変多い。マンショ ンが生れた初期の頃は、車を持った人と持たない人の間 で、皆の共有の敷地を駐車場として専用使用することを 巡り問題が起ったりした。やがて1戸に1台車を所有す る時代となってくると、その駐車スペースを確保するこ とが難しくなって、管理組合にとって頭の痛いことと なってきた。特に古いマンションでは駐車スペースを 100%確保していなかったことから、増えてくる車の停 め場所に悩まされた。その後、新築されるマンションに 写真 1 機械式駐車場の上段 対して、100%の駐車場を確保するように行政指導する 自治体が出てきたりした。一方、既存のマンションでは 不足する駐車スペースの確保に様々な対策を考えること 機械式駐車場を廃止して、2階建ての自走式駐車場に になる。 変更ができないかなど駐車場の再整備を検討する管理組 以下に紹介するのは、そのような駐車スペースの不足 合もある。 に悩んだマンションで、いろいろな工夫をして駐車場の 整備を行った事例である。 ある小規模マンションでの悩み 以下に紹介するマンションは都市近郊の狭小敷地に建 2.<事例1>機械式駐車場を廃止して 新しく駐車場を整備 つ6階建てのマンションである。建物の1階は全てピロ ティで駐車場になっている。住戸数32戸に対して駐車場 率は100%、このうちの8台分が機械式駐車場(写真1) 2. 1 機械式駐車場の問題点と管理組合の悩み で、残り24台は平面駐車場である。平面駐車場の稼働率 マンションの駐車場が全ての住戸に行きわたる100% は100%であるのに対して、2段式タイプの機械式駐車 の収容台数の確保を目指すと、平面駐車だけでは難しく、 場は下段の4台分が慢性的に空き状態となっていた。そ 2段、3段と積み重ねる機械式駐車場を採りいれるマン の理由は出し入れがしづらいことに加え、駐車できる車 ションが多くなってきた。しかし、機械式駐車場は維持 両の高さに制限があること、駐車場の床のレベルが周辺 管理や運営面での問題が多い。保守点検費や設備の更新 より低いためにピット内に雨水が流れ込み湿気がひどい にかかる費用が従来の平面駐車場に比べてかなり多い こと、マンション周辺の民営の駐車場の方が駐車料金が し、出費に合わせて駐車料金を設定すると周辺の民間駐 安く快適に使えるといったことなどである。 車場の方が安い駐車料となり借りる人が減るということ 管理組合が使用料を周辺駐車場並に安く設定し直して が起ったりする。また、車の出し入れがしづらいといっ も、下段部分は常時1台程度の稼働率で収支が計画どお た利用者の不満も聞かれる。 りいかない。何とか収支を合わせるために管理組合では 56 Vol.39 No.467 2014-6 マンションの性能向上のための改修事例〈その 10〉 とバイク置場を増設する。機械式駐車場8台を廃止して 平面駐車場4台に変更し、不足する4台分を跡地に作る 駐車場で補う。このような再整備を行えばこれまでの問 題が改善できる。まとまった土地購入費が必要になるが、 将来に必要な機械式駐車場の設備更新費と保守点検費な どの経費を考えれば、少々、土地の購入費が高くついて も、何れは全ての駐車場が埋まり、使用料が管理組合の 収入となってマンションの維持管理に生かせるとの考え である。 大規模改修工事が完了し、隣地の借用期限が切れて、 返却手続きをする際に管理組合から隣地購入の意向を電 写真 2 マンション上階から見た隣地の電力会社鉄塔跡地 力会社に伝えて仮交渉を進めた。その結果、電力会社か らは時期は未定ではあるが近い将来に売却の予定があ り、管理組合との交渉を優先的に考えても良いとの返答 月1回の保守点検を3ヶ月に1回程度に改めるなど工夫 を得た。 をしてみたが、定期的な塗装や将来の設備の更新の費用 などを考えると赤字状態を改善できそうにない。管理組 隣地購入のための準備と整備計画 合内には、いっその事、機械式駐車場を廃止して平面駐 管理組合では組合内部の合意形成のために整備計画の 車場に変更した方が良いのではないかという意見も生ま 説明を組合員に行った。その内容は、機械式駐車場の問 れてきた。 題を改善するために、隣地を管理組合で購入し、平面駐 車場や自転車バイク置場として利用すること、機械式駐 2.2 駐車場問題の解決へ一歩前進 車場は平面駐車場に変更することなどで、この提案は多 隣地が使えそうだという情報 くの賛同を得て具体的な準備が進められることになっ そうこうするうちにこのマンションは入居後10年が経 た。また、隣地を購入するに当たり、管理組合を管理組 過し、建物の外壁や防水の改修のための大規模改修工事 合法人に変更することが必要で、土地購入に先立ち手続 が必要な時期を迎えた。狭小な敷地に建つマンションの きが進められた。 ため現場事務所を建てたり、工事の足場を組むためには、 1階に駐車している車両と数多い自転車やバイクなどを 2.3 駐車場整備で合意形成 一時的に移動することを考えねばならなくなった。マン 整備計画の立案 ション周辺に臨時の駐車場を確保するためにマンション 土地購入後の具体的な駐車場等の整備計画づくりは専 周辺の空き駐車場の情報を集めていた折、幸運なことに 門家に依頼して進めることとした。 マンションに隣接する電力会社の送電線の鉄塔が撤去さ 当初から考えてきた整備構想は、隣地を購入して機械 れるとの情報を得、跡地を借用できる可能性が生まれた。 式駐車場を廃止し、購入する隣地に新しい駐車スペース 跡地の広さは約10m×10m程度で現場事務所の設置や自 や屋根付きの自転車やバイクの置き場を作るというもの 転車置場の移設場所に十分利用できることがわかった であったが、専門家からの指摘で問題があることが分っ (写真2)。早速、管理組合では電力会社に交渉して工事 期間中の土地の借用について了解を得た。 た。 屋根付き自転車置場やバイク置場を建設しようとして いる隣地は、接道している道路が建築基準法上の前面道 隣地を購入し、機械式駐車場を廃止する案を構想 路としての要件を満たしておらず、屋根つきの自転車置 管理組合では電力会社が近い将来に跡地を処分する可 き場の建築確認申請が認められないことが分った。そこ 能性もあるのではないかと考え、駐車場などの整備につ で、購入した隣地をマンションの敷地と一体化し、マン いて修繕委員会で構想を練ることにした。跡地が購入で ション住棟の増築扱いで自転車置場やバイク置場の建築 きれば、マンション敷地とつなげて平面駐車場と自転車 確認申請の手続きをすることを検討したが、マンション Vol.39 No.467 2014-6 57
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